受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

茜琉ぴーたん

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「失礼します」
「また、何かあれば」
真澄はホールまで出て、普段はしないお見送りをする。
 少し深まったからこれで良し、明るいだろう未来に心は満たされていた。

 そして菫が従業員出入り口へと一歩踏み出した時、
「おーいマギー、いやー、ごめんね、さっきの店間……あ、本店の方⁉︎」
大牟田おおむたフロア長が2階から降りて騒ぎ立てた。
 何を隠そう、この人は本店との商品店舗間移動を真澄に知らせずき止めていた張本人である。
「お疲れさまです、本店の二宮です。貴重な商材をありがとうございました」
 菫が礼を言うと、大牟田はヒラヒラ手の平を振る。
「良いって、こんな時の助け合いよ…ねぇ、本店といえばさ、このマギーってば、」
「ぐえ」
真澄は巨漢大牟田に肩を抱かれ、その馬鹿力で胴が圧迫されて変な声が漏れた。
「電話で声しか聞いたことない女の人に惚れちゃったらしくてさ。本店に感じの良い声の人って居る?」
「フロア長、そこまでは言ってない、」
「店間移動の電話で話すんだから商品管理の人か、テレオペかな」
「あの、やめて、」
真澄は身動き取れないまま赤面する。
 大牟田には「気になる」で留めていたのに、勝手に妄想を膨らませているらしい。幸いにも目の前の菫がその相手だとは察していない様子、上手く誤魔化せば切り抜けられるだろうが大牟田のターンは終わらない。
「その人に会うために商材取りに行ったりさ、甲斐甲斐しいんだよ、こいつ…でもお相手が既婚者かもしれないし、フリーかどうか調べてからじゃないとアタックできないってさ、真面目で良い奴なんだよ」
「……」
「あれ、もしかして」
大牟田は空気を読まない鈍感屋だが、さすがに真澄と菫の妙な雰囲気には気付いた。
 なんせ腕の中の真澄は恥ずかしさに真っ赤になっており、シェーバーを抱えた菫もその頬を紅潮させていたのだから。

「…フロア長、とりあえず離して下さい」
「うん……え、二人、そうなの?」
「フロア長、そういうのじゃないですから」
「違うの?えーっと…こちらの二宮さんの声が気になるって話じゃないの?」
「それはそうなんですけど、……お願いだから黙って下さい…」
 菫を傷付けるから「違います」と否定も出来ず、真澄は頭をフル回転させて大牟田を穏便に撤退させる方法を模索した。
 けれど大牟田は呑気に、
「二宮さん、嫌じゃなければ牧野と連絡先交換してやってよ」
と大きな体をずいと乗り出す。
 他店とはいえ管理職に請われれば菫も「イヤ」とは言えず、
「あ、はい」
とポケットからスマートフォンを取り出した。
「マギーも、ほら…ID、コード出して。…はい、二宮さん読み込んで、ほい出来た……試しにひとこと送信してな、ちゃんと繋がったか確認しとけよ、」
「……」
 どうしてか部下二人は反抗できず、言われるがままにスマートフォンのチャットアプリを起動、ID交換を行った。ハラスメントに該当すると思われるのに、これをさらに上の管理職に報告するのも躊躇われる。
 アプリのホームには新しく追加されたアイコンが輝き、菫は表情を繕ってスマートフォンをポケットへと仕舞った。
 真澄も嬉しさを隠して、居住いを正す。
「…コホン…二宮さん、お付き合い頂いてありがとうございます」
「いえ……失礼しますね、良いお年を」
「あ、良いお年を!」
 ニコニコ「また来年な!」と叫ぶ大牟田の隣で、真澄はスマートフォンを握り締めて小さく手を振った。


「…マギー、今さらだけど、お前の想い人って二宮さんで合ってた?」
重い金属扉が閉まると、大牟田は間抜け面で真澄に向き直る。
「合ってますよ!合ってますけど……乱暴ですよ、せっかくちょっとずつ仲良くなろうとしてたのに!」
「それじゃ何年かかるか分かんないだろ、キューピッド役を買って出てやったのに」
「もし僕の好きな人が二宮さんじゃなかったらどうしてたんですか⁉︎」
「いや、二人とも赤くなってたし否定しないし」
 個人的なことなのだから、上司に促されたって連絡先交換はせずに済ませられたはずである。けれど強引な大牟田に流された風に装って、上手いこと事が運んだと思わんことも無い。
 だから、真澄は大牟田に怒りながらも口の端が僅かに上を向いていた。
「…二宮さん側からセクハラで訴えられても知りませんからね」
「マジかー、やり過ぎたかー」
「……本当は、感謝してます…」
「そっか、良い年になると良いな!」


 その後、少し時間があったので真澄は大牟田に「二宮さんの声をどう思うか」と尋ねてみた。
 大牟田曰く、「女性にしては低いな。俺は嫁さんの高いアニメ声が好きだから好みではないかな。まぁ好みの声だったとしても褒めると皮肉に聞こえるかもしれないし、敢えて落ち着いてるとか指摘はしないだろ」とのことだった。
 真澄は「確かに」と自戒の念を強くした。何度も思うことだが、身体的な特徴に言及すべきではなかったのだ。
 今後もっと仲良くなることがあればその点についても謝ろう…真澄は大牟田と別れて作業に戻った。
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