受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

茜琉ぴーたん

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「お店決めようか。それとも、ご飯買って僕のアパートに来てみる?」

「え、あの」

「二人暮らしのイメージ、しやすいかなと思って。もちろん一人暮らしのイメージもね」

「…じゃあ、お邪魔しようかな…」

「変なことはしないから。必ずお家に送り届けるから安心して」

「うん…」


 二人はスーパーに入り、お惣菜とサラダ用の野菜を買った。

 そしてまた車にて、真澄の自宅へと向かうことにした。

「(なんで、あんなこと口走っちゃったんだろ…めっちゃ匂わせた…)」

 離れるのが淋しい心理が働いたのだろうか、菫はやらかしを恥じる。

 しかも真澄の方から言い出すよう試したように思われた気がして、小ずるい女の汚名を被ったと自己嫌悪が頭に渦巻く。

「(さも『誘いなさい』みたいな、誘ってくれなかったら真澄くんが野暮な男になるみたいな、ヤな女みたい、あざとい、私ったら…)」


 ぐるぐる悩んでいると、真澄は苦笑して

「僕との未来を将来の選択肢に入れてくれたの、嬉しいよ」

と笑顔を投げ掛けた。

 暗いからよくは見えなかったが、優しい声に真澄の気遣いが籠っている気がして菫は心が安らいだ。

 そして真澄も自分との可能性を感じてくれていたことに、菫の胸はきゅうっと狭くなる。

 出逢って3ヶ月、交際は1ヶ月…尚早だが恋の走り始めは誰もがこんなものだろう。

 燃え上がって、のぼせ上がって、彼こそが運命の相手だと信じ込む。

 真澄は先に自分のことを認識して好意的に想ってくれていた、しかも声だけに。

 見えない愛情にたっぷり浸ってしまいたい、幸福感が湧き上がって堪らない。

 きゅんきゅんと高鳴る胸を押さえつつ、菫は真澄の横顔を盗み見てははにかんだ。
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