受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

茜琉ぴーたん

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「ここの、201号室だよ」

到着して、真澄は建物の2階を指差す。

 2階建てで、見た目には築浅そうなレンガ調の外壁のアパートだった。

 街の中心からは離れるが、静かで過ごしやすいから真澄はここを選んだ。


「どうぞ」

 階段を上がり鍵を差して、玄関扉を開けるとホワイトムスクが香る。

「お邪魔します…わ、おしゃれ」

リビングに進んだ菫は、モノトーンで揃えられた家電や調度品を興味深そうに眺める。

「どうせなら、ってね…単純に、揃えやすいからだよ。意識高く持ってないと、散らかしちゃうから」

「へぇ…すごーい」

「適当に座って、おかず温めるね」

「あ、私やるよ」

「じゃあ、協力しよう」


 作業のしやすい調理場、物の少ないキッチン。

 使い込んでいる調味料、ラップやホイルも揃えて並んでいる。

 電子レンジの庫内だってキレイで、定期的に手入れがされていることが分かる。

 立ち寄ると想定していたから掃除していたのか、普段からこうなのか…おそらく後者だろう。

 菫は2つ歳上の真澄を、しっかりした大人だと改めて認識できた。

 それに対して実家でぬくぬくしている自分の頼りなさに、居た堪れない。

 そして出来る男な真澄と自分がつり合っているのか、劣等感がチクチクと疼いてしまった。

「…真澄くん、ちゃんとしてる」

「そう?」

「散らかってるけどとか、謙遜もしない…本当に、きちんとした大人って感じ」

「…どしたの?何か嫌なことでもあった?」

 先ほどは観覧車の件でガキっぽいなどと評していたのに、急な方向転換に真澄は不穏なものを感じる。

「ううん、素敵だなって…思ったの。あの…嫌だったら答えなくて良いんだけど、真澄くんって、自分から告白するのは慣れてないって言ってたけど、恋愛経験はどんな感じ?」

「え、えーっと、そうだな…割と、フリーの時期は少ないかな。でもそれが経験豊富かって言うと…分かんないな。告白されて好きになろうと頑張るタイプだったから。自分から動いたのは菫ちゃんが初めてだし」

 真澄が正直に答えると、菫は自身の特別感にまた胸を高鳴らせる。

 リップサービスでも嬉しい、変に誤魔化さない真澄のことだからきっと真実なのだろうし。

 持ち直した菫は、温めた惣菜を取り出して皿に取り分ける。

「…会社の電話で真澄くんと話す時にね、感じの良い人だなって思ってた。軽やかなんだけど、チャラくないの。語尾とか、しっかり言い切る感じ。それで…実際に会ってみたら…か、カッコ良くて…私に好意的だし…もったいない、私にはもったいないくらい…素敵、真澄くん」

「誉め殺しだなぁ」

「真澄くんだって、私の声褒めるじゃない」

「声だけじゃないよ、全部チャーミングだと思ってる」

「そういうとこぉ…」

菫はぽかぽかの手を合わせ、頂きますをした。
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