受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

茜琉ぴーたん

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 そうして大槻おおつきの一件があり、式場を決定して段取りを進めていたある日のこと。

 真澄の高校時代の友人たちがお祝いをしたいとのことで、集まることになった。


 高校は過疎地の地元から10キロメートル以上離れており、真澄は最初はバスで、免許を取ってからは原付バイクで通っていた。

 本来は生徒のバイク乗り入れは禁止なのだが、学校側も特別措置としてバイク通学を許してくれていた。

 イケメンが颯爽と原付で走り現れる姿は、当時はなかなかの名物だったようだ。

 真澄は女子からモテたが男子からの人気も高く、それは見た目だけではなく人柄や物腰の柔らかさを皆が知っていたからだった。


 そんな高校時代の友人男性3名と真澄と菫は、駅前の居酒屋にて合流した。

「牧野、久しぶりだな!おめでとう!」

「ありがとう、こちらが婚約者の二宮菫ちゃん。よろしくね」

「うわぁ、美人じゃん、やったなぁ、牧野!二宮さん、おめでとうね!俺はアキヤマだよ、よろしく!」

歳上ということもあり、真澄の友人たちは気さくに菫を受け入れてくれる。

「あ、りがとうございます、よろしくお願いします」

菫は対人スキルとエネルギーを搾り出し、にこやかに振る舞った。

 ただでさえ初対面の人たちの中にポンと入れられて不安なのに、嫌な印象を持たれては真澄にも悪い。

 その真澄も菫の心配は分かっているので、

「菫ちゃんが人見知りしちゃうから、変な絡み方しないでね」

と優しい友人たちに軽くさとした。

「分かってるよ、初対面だべ、俺ら。来てくれただけでも有り難いんだから。ほら、ここ並んで座りな、飲みもん頼も」

「僕はイシノっていいます。二宮さん、何飲む?」

「二宮さん、俺はムラカミです。まっすーがお世話になってます。呑む?良いよ、ウーロン茶ね。まっすーは?俺もソフトドリンクにしとこうかな」

友人たちは実に紳士的に、目まぐるしく菫に気を回してくれた。

 友人からすれば、学生時代からの真澄の歴代彼女を知っているだけに菫のキャラクターは新鮮だった。

 どちらかといえば派手目な女性がこれまで多かったため、清楚で大人しそうな菫は「丁重に扱わねば」と特に気を遣ったのだ。

 恋人の男友達の呑みの場という、超絶アウェーに顔を出してくれた菫に無理をさせてはいけない。

 社会人として大人の男性として、皆が協定でも結んだように清い会にしようと頑張っていた。
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