受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

茜琉ぴーたん

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「依子さん、落ち着いて下さい」

「良い子振るなってば、腹黒いこと考えるよねー、やっぱアンタはアタシとは違うわ、見た目通り量産型女子だ。そのくせ声低いから完璧に擬態しきれないでやんの、無様だわ」

「声は生まれつきなのでどうにもなりません」

「今日だってこんなに男ばっかのとこにノコノコ来てさ、あわよくば真澄以外とも良い仲になろうとしてんでしょ、男に媚びて可愛がられることしか考えてないあざと女子だ」

 そうだとしたら何なんだろう、菫は

「…そうだとして、何か不都合ありますか?」

と諦めてゆっくり尋ねる。

 自分から望んで来た訳ではないし緊張がストレスに変わって不愉快だし頼みの真澄は泥酔しているし…菫だっていい加減怒りたくもなる。

 その落ち着きと地を這うような深い響きに依子は一瞬だけたじろいだ。

 しかし

「あー、開き直った、真澄、この子猫被ってるよ、アンタ食い物にされてるだけだって!」

と真澄に告げ口する。


「……」

 久々に発言権が回って来た真澄に皆の注目が集まるも、当の真澄の口は重い。

「…あのー、うんー、」

依子が出現する前に胃に入った強いアルコールが効力を発揮、酔いがピークに達していた。

「真澄くん、大丈夫?お水飲んで、」

「ありがと…」

「吐く?そういうんじゃない?」

「うん、うん…」

真澄は菫の肩にずずずと頭を下ろし、すふーと深く息をする。

 真澄の頭を支えるために菫は動けなくなり、二人は予期せず寄り添う形になった。

「な、なによ、真澄、聞いてんの⁉︎」

目の前でイチャイチャを見せつけられて、さらには発言を無視されて、依子は激昂とまでいかないが怒りを露わにする。

 しかし問い掛けられるも真澄は半分夢の中で、むにゃむにゃ口を波打たせては菫の頬に鼻先を付けたりと意に介さない。

 けれど突如「ウッ」と催して、

「ごめ、トイレ…」

と座敷の上を這い出した。

「真澄くん、」

「二宮さん、僕が付き添うよ。全部吐かせて来る…牧野、悪酔いし過ぎ…ヨイショ」

多目的トイレが無かったのを事前に確認していたイシノが、真澄に肩を貸して立たせる。

 あわあわと慌てる菫を差し置いて、苦々しく見送る依子が

「アタシが介抱するよ、吐いちゃいなよ、アタシそういうの平気だから」

も申し出るも、イシノがギッと睨んで真澄を連れて行った。
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