受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

番外編

世話好きイシノの記録・3

「イシノ、ヨリって今どうしてるか知ってる？」

友人たちとの呑み会では、たまにそんな話題が出る。

　依子を迷惑に思っていた男子は多かったから、自然とその後が気になるのだろう。

　牧野によって撃退された話はどこからか拡散されてしまったし、彼女の顛末を聞いてスカッとしたいのかもしれない。


　大概僕は「んー」とシラを切り、「どこかで元気に暮らしてると良いね」なんて答える。

　そうすると「イシノは優しい奴だな」と言われて、僕は満足する。

　僕は世話好きを自覚しているけど、自分が芯から優しい人間だとは思っていない。

　でもあの夜の僕の助言が依子の為になったのなら、結果的に優しい奴なのかも。


　友人たちの中には、僕と依子が良い仲だと疑う者もいたらしい。

　聞かれたら僕は否定して、笑っていた。

　僕は実際、恋愛はよく分からない。

　人に親切でありたい、そう心掛けているだけだ。

　世の中は恋愛だなんだと煩うるさいが、そこに重点を置かない奴もいるのだと…受け入れてもらえたら僕も生きやすい。

　僕は何となく、僕と僕にまつわる友人たちが生きやすいように出来たらそれで良い。

　厚情と薄情の共存、不思議だけどそれでスムーズにコトが進むのが良い。


　依子は僕のそんな軽薄な心に気付いていたのかもしれない。

　だから黙ってフェードアウトしたのかも。

　でもあのタイミングがお互いにベストだったと思う。

　お見送り食事会をしたって「頑張ってね」としか言えないし、激励までは出来ない。

　僕はあくまで知人の不幸を見ていられないだけ、知人が他人になれば…その後の幸福度まで知ろうとはしない。


「…また会えたら良いよね」

僕はそんな嘘をついて、水滴で濡れたテーブルを拭いた。



おわり