受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
87 / 88
終章・深い愛

82

しおりを挟む

「はー…疲れたぁ」

就寝前、ダイニングで菫はボヤく。

 時短勤務にしてもらっているが体力的にキツく、行き届かない家事に不甲斐なさを感じている。


 結婚から2度の産休と育休を経験して今に至る間に、菫と真澄は店舗間でトレードされた。

 大きい本店と中規模な北店とでは、作業量にも差がある。

 本店の菫が休むのなら穴埋めが欲しいと上同士が掛け合って、北店から真澄が本店へと異動したのだ。

 そこで当初は粛々と事務をこなしていたのだが、元々の素養や能力を買われ、すぐに売り場に立つことになった。

 ブランクはあったものの、見込み通り真澄は営業力を発揮した。

 報奨金も付くのでお給料が以前よりアップし、せわしないが充実した日々を送れている。


 菫は育休が明けたら比較的緩い北店にて、時短業務で仕事復帰を果たした。

 追いやられたような寂しさはあったものの、作業量と責任の重さを考えれば順当な人事であった。

 おかげで菫の気も楽になり、まぁなんとかこなせている状態である。

 けれどキャパオーバー気味なところもあり、1日の終わりにはこうしてだらんと溶けてしまう。


「うん、菫ちゃん、お酒呑む?今日はグレフルサワー」

風呂上がりの真澄は冷蔵庫から缶チューハイを1本出し、伏せたグラスに手を掛けた。

「んー、5パー?」

「うん。炭酸で割って半分こしよう」

真澄は飲みかけにしていた炭酸ジュースのペットボトルも取り出して、グラスに半分ずつ注ぐ。

「どうぞ」

「ありがとう」

シュワシュワと泡の立つグラスを受け取り、菫は卓上のプリントを片付けた。

 家と保育園と会社の往復、そして学校行事と目まぐるしく1日が過ぎて行く。

 参観日だ急病だと忙しなく、しかし段々と自分の時間を持てるようになってきている。


「…菫ちゃん、結婚記念日に乾杯」

「乾杯」

 二人は静かにグラスを合わせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

処理中です...