枯れかけのサキュバス

あかね

文字の大きさ
上 下
27 / 101
9月・承服のサキュバス

26

しおりを挟む

 棚卸し打ち合わせを済ませたある日の夜。

 ゆいが駐車場の車に近づいて解錠すると、影から葉山はやまが顔を出した。

「おつかれさまです!」

「きゃあ!あ、あ?…お前か?」

「すみません、ユイさん!驚かせるつもりだったけどここまでとは」

「……お前、…コロすぞ。…なんや?」

ばくばくしている心臓を押さえながら唯が尋ねる。

「いえ、あと4日で棚卸しでしょう?忙しくなると構ってもらえないから、泊まり込もうかと思って♡」

「は?」

「そろそろ発情期だし、ね、いいでしょう?」

「……プライベートの時間も欲しいねんけど」

意外と悪くない提案に、彼女の心は揺れて却下しかねた。

「僕の存在は無視してくれていいですから、お願いします。構ってもらえないと、僕死んじゃいます」

「えぇ……はぁ、ええよ、乗れ」

「ありがとうございます♪コンビニ寄って、甘い物買って帰りましょう」

「……」

可愛い、これは彼女の本心からの気持ちである。


 唯はシートベルトを着けエンジンをかけてまず車内を暖め、かねてより考えていた事を葉山へ提案する。

「…なぁりゅうちゃん、うちから通うと交通費の不正受給にならへんか?」

「そう、ですね…住所変更かけましょうか、ユイさんの家に♡」

「あのな……龍ちゃん、うち、次の2月で社宅の契約更新やねん。もう住宅補助も切れてるけど、近くて便利やから住んでて」

 唯達の会社では、転勤者への住宅補助は3年しか払われない。

 満期になると社宅アパートを出て行くのが通例となっているが、不満がなければ住み続けることもできるのだ。

「ええ、」

「……お前、春から、一緒に住むか?」

「!」

思いもよらぬ唯の提案に、葉山は目を剥いて固まる。

「ぷ、プロポーズ…」

「ちゃうわ、嫌ならええで、安いとこにする」

ふぅ、と息を吐いて車を出す唯へ、葉山は

「嫌なわけないでしょう、ぜひご一緒させてください!……うれしい…5ヶ月後ですか?長いな、年末には引っ越しましょう?」

と気の早い話を捲し立てた。

「早い…」

「結婚情報誌買わなきゃ…」

「………早い」

 二人はコンビニでケーキを買い、住宅情報誌を参考に貰って唯の家へ帰るのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

嫁が可愛いので今夜は寝ない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:110

迦国あやかし後宮譚

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:426pt お気に入り:3,784

そういうギャップ、私はむしろ萌えますね。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:33

私達は、若くて清い

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:10

俺はこの顔で愛を釣る

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:20

先生、マグロは好きですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:51

ライアー・ブライド…真面目な僕らの偽装結婚

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:15

僕たちが幸せを知るのに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:14

馬鹿な婚約者ほど、可愛いと言うでしょう?え?言わない?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:1,768

処理中です...