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調査・皇路西店
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しおりを挟むカウンターを離れて白物コーナーへ、冷蔵庫の森の中にちょこんと佇む女性へアイコンタクトを投げて近寄る。
「お疲れさま、笠置フロア長」
「お疲れさまですー」
仄かに京訛りの残る彼女は葉山唯(28)、名乗りは旧姓・笠置のフロア長だ。本店の葉山くんの妻で、出身の京都勤務の時代からの付き合いらしい。
彼女はフロア長に昇格してまだ数ヶ月、忙しさに眉間のシワが日に日に深くなるのが気に掛かってはいる。
「だいぶん慣れた?」
「そうですねぇ…フローはまぁなんとか。あとは人望というか、威厳とかが付いてくればええんすけどね」
笠置さんは身長153センチと小柄なのだ、客はおろかスタッフにまで舐められることがあるらしい。気は強いし仕事は出来るからピシャリと言い負かすそうだが、やり辛さは積もり積もってストレスとなり蓄積しているみたいだ。
「つらい?」
「いえ、段々と馴染んで来た感はあるんで…でも人の上に立つん、そこまで得意やあれへんかもしれませんね。例えば子供がデキて休まなあかんかったら、そのままヒラに降格してもろて以後昇進は断りますわ」
「そうか…能力と意欲はまた別だからね、貴重な意見をありがとう」
「その頃は夫も昇進してるかも分からんし…嬉野さん、うちのんどうですか?」
適性はあるし本人が望めばある話だ、
「葉山くんがやりたいなら、ね」
と返すと笠置さんはジト目でため息を吐いた。
「あー、忙しくて家族との時間が取れへんならやりたないて普通に言いそうっすわ」
「だろう?ちなみに笠置さん以外の女性はイモだってさっきも言われたよ」
「……アイツ…」
なんにせよ仲良きことは美しきかなだ、ぴきぴきと額に青筋が走り出すのを尻目に新しい話題を提供する。
「そういや笠置さんは知ってるかな、浜田くん」
「……その人、去年の4月に本店に来たんと違います?うち、こっちに転勤したのが20年2月なんで、入れ違いですね」
「そうか、だよね。いやね、人柄とか何か知ってることがあればと思って…これはもう業務外の質問」
「んー、潤と美月…法人の清里所長と白物の高石、あいつらから評判は聞いてますよ。呑み会で誘われたとか、女の数を自慢してたとか」
その辺りの話は本店メンバーからの証言とも符合する、女遊びが派手だったことはやはり事実みたいだ。
「そう、それくらいは周知だったんだね」
「潤も美月も、マメで一途な男が好きやから…嫌悪感丸出しにしてたら逃げてったらしいですよ」
「…そう」
それはうちの娘が引っ掛かる前の話なのだろうか。その悪評が広まっていれば娘も自衛出来たのかな、なんて少々悔やむ。仕事はともかく個人的な女癖は僕の耳に入らなくて当然だけど、女性陣のネットワークで抑止出来ていれば良かったのに。
まぁ浜田に人誑しの才覚があったなら、周りから抑止される恋は余計に燃え上がったかもしれないが。
やるべきことはやって私的な調査も少しして、僕は西店を後にした。
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