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調査・内偵指示
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しおりを挟む「もしもし、お疲れさま。今大丈夫かな」
『お久しぶりですね、大丈夫ですよ』
電話の相手は神奈川県は甕倉市の本店の店長・宮前岳美(38)だ。
僕は関東勤務だった時に宮前くんのお世話をしていて、彼が一般職から管理職に上り詰めるまでの助けをしたのだ。贔屓はしていないが、元々が能力が高いと見て目を掛けていて、上昇志向も強いし向上心もあるしで折々推薦などしていた。
関西に一緒に転勤したりもしたし、勤務地が分かれてもなお連絡は取り合っている可愛い部下だ。
しかしその宮前くんの店舗というのが、浜田が転勤した先だというのだから世間は狭い。
僕が浜田を送り出す時にもこうして電話はしたのだが、その時は僕は浜田の諸々の所業を知らなかった。だから勤務態度とかスタンスとかを軽く報告したまでだったのだが…まさかひと月足らずでこんな連絡をすることになるとは。
「あのさ、皇路からそっちに行った浜田くんっていたじゃない、最近どう?」
『どうって…もう転勤しましたよ』
「え」
思いがけない応えに、画面に向かって目を丸くしてしまう。
月1くらいしか本社に出向かないので、他地区の異動は感知してなかった。調べるには本社のデスクトップに入れてあるデータにアクセスせねばいけないし、持ち出すことも出来ないし。
『実質、うちに居たのは2週間くらいですかね。今はブランドの総本山とも言える横浜の店舗に居ますよ。欠員が出て、喜んで飛んで行きましたよ』
「あ、そうなんだ…そうか…」
『?』
本当なら、浜田の悪事を知ってすぐに宮前くんに連絡を取っても良かったのだ。しかしそれでどうということも出来ないし、浜田の実態を伝えて指導に支障が出てもいけないと思った。上が結託して下の者を虐めるなんてことは絶対にあってはならないし、よく知りもせず責めることもしてはいけない。人道的にもそうだし、僕だって自分の職が危ぶまれるようなことはしたくないのだ。
「いや、浜田くんが去った後にね、二股交際とか不純異性交遊が発覚してさ…個人的に調べてたんだ」
『…はぁ、そんなに酷かったんですか?』
「相手がね、うちの娘で……、……、」
僕は淡々と、事実だけを述べた。自分が得た情報だけを、恐らくの時系列に沿って伝えた。
宮前くんは神妙に耳を傾けてくれて、時折合点がいったように相槌をくれた。
「……っていう、それで、勤務時間外だし聞いてみようかなって。あくまで個人的な話としてね…でもそうか、転勤しちゃってるのか」
『僕も家電外のことはあまり把握してなくて…お恥ずかしいです。そうか…僕の方で、調べてみましょうか?』
「良いの?怪しまれたらハラスメントになっちゃうよ?」
『向こうの店長さんとは交流がありますし…でもまずはうちの店内で聞いてみますよ。それとなく、まずは奥さんにでも。女性のネットワークの方が情報は掴みやすいと思いますし』
「なるほど…ではそれでお願いするよ」
宮前くんの同級生の奥さま・泉里香も彼と同店に勤める営業事務員だ。
うちの百合子と似たタイプの敏腕レジスタッフで、陰では『鬼嫁』なんて呼ばれてはいるが決して暴君などではない。端的に言い過ぎて不興を買うことがしばしば、それを宮前くんがフォローして回ることで良いバランスなのだとか。
泉さんは確かに店のボス的存在だから、裏側の話が集まりやすいかもしれない。とはいえ、「誰々が遊ばれた」とか「誰々がナンパされた」とかそんなエピソードが聞けたところでどうにもならないのだが。
僕は浜田の女性遍歴を編纂したい訳ではないのだ。
しかし何か有益な情報が貰えるかもしれない、ほんのちょっとの望みを宮前夫妻に託して通話を切る。
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