13 / 23
調査・神戸
13
しおりを挟む翌日は県中央部の店舗を回り、また翌日…僕は大都市・神戸へと踏み込んだ。東部に行くほど人柄も言葉も関西色が強くなっていくのが面白い。
さて、市内の店舗の1つにも皇路に馴染みのあるスタッフがいたのを思い出し、本業が終わってから話をしてみた。
「和田くん、そういえばさ、皇路本店に少し居たじゃない?浜田くんって覚えてるかな」
ここの副店長を務める和田豊章(39)も、かつては皇路の店舗に在籍していた。法人事業部にて営業を担当した後に北店の店次長となり、本店の清里所長の産休の間の留守を任され派遣されていたのだ。時期としては浜田が本店に来た頃と被ってはいないのだが、何か情報があればと思った。
「浜田……いや、北店に戻った後に転勤して来たんと違いますかね。ほんまに4ヶ月くらいしか本店には居てなかったんで」
「そうか、分かった」
「なんぞありましたか?」
和田くんは主張の強い眉をぐねぐね動かして、空気をピリつかせる。
彼は強面と呼ぶよりは端正な顔立ちなのだが、男らしいというか雄々しいというか、獣っぽさがある。例えばライオンを擬人化したような猛々しさ、それに最近は艶っぽさが足されて男の色気に満ち満ちている。褐色の肌に漆黒の髪がそう感じさせるのか、気品と自信はまさに王者の風格であった。
その王の表情が険しくなるものだから一瞬「おぉ」と驚くも、人柄を知っているので僕は狼狽えはしない。
「いや、私的なことなんだよ。男女関係のもつれと言うか。ぐちゃぐちゃに掻き回して転勤して行ったんだ」
「業務に支障が?」
「いやいや。あくまで、私的なことだよ」
浜田くんの私的ではなく僕の私的なんだけどね、情報は最低限しか開示せず話を終わらせるつもりだった。
しかし和田くんは
「それやったら、うちのアイ…吹竹に聞いたったらええですよ」
と新たな証言者を紹介してくれた。
「お疲れさまです、嬉野さん」
呼ばれてカウンターから出て来たのは和田愛花(30)、レジと金庫業務がメインの営業事務員だ。彼女は和田くんと入籍して半年にも満たない新妻さんで、彼の転勤を追いかける形で皇路からやって来た。
ちなみに同一店舗内夫婦は異なる姓を名乗りがちだが、愛花さんは「夫は役職で呼ばれるから混同されないでしょー」と軽いノリで和田姓で通している。
小柄でお洒落メガネにふわふわショートボブ、仏頂面な和田くんと並ぶと殊更に軽やかさと柔らかさが際立つ。
彼女は親しみやすさに定評があり、人との距離を縮めるのが得意なのだそう。物怖じせず誰にでも話しかける度胸があり、それでいて過度なお世辞で持ち上げたりはしない。だらだらと駄弁るにも真剣な相談にも真っ向から組み合ってくれる親身さで友人も多いらしい。
「皇路本店に浜田くんって居てたらしいねんけど、知ってる?」
和田くんは、妻に対しては言葉を崩した。
「浜田くん…はいはい、知ってますけど。ブランドの人ですよね?転勤前に少しだけ期間は被ってました」
「和田さん、その浜田くん…何か、知らないかな、その、人柄とか素行とか」
僕は下手な前置きもせずに斬り込む。
色んな人に尋ね過ぎて、少々公私のボーダーが曖昧になっていた。
「そこう、ですか…んー、女遊びが激しい、とか」
「そう、具体的に…言える範囲で」
「店内ですと、大人しそうな子を狙ってる感じでしたかね。でもまずは男慣れしてそうな人に行ったみたいですよ」
「清里所長とか高石さんとかって聞いたけど」
「はい。既婚者とか彼氏持ちには手を出さないそうですよ、ポリシーなのか…商管の千早さんもジリジリ距離を詰められて困ったそうです」
「ん?それは…知らなかったな。千早さんとも話したのに」
本店の商品管理室の千早さんにも聞き込みをしたというのに、彼女は自分の被害については匂わせなかった。
浜田に口説かれたことを恥と感じたのだろうか。
「知佳ちゃん…千早さんは自分の評価が低いですからね、葵ちゃんと自分を同列に語るのが失礼とか思ったんじゃないですかね…あ、葵ちゃんと浜田さんが仲良くしてたのは知ってます」
「周知なのかな」
「そこまでではないと思います。少なくとも人前で話題にできることではなかったですし、女同士でしか話したことは無いです」
「そうかぁ…娘の恋が知れ渡ってるのは辛いなぁ」
芸能人じゃあるまいし、くっ付いた離れたが周りに認知されているのは恥ずかしい。もちろん本人が一番キツいだろうが、これも人生経験として乗り越えて行って欲しい。
幸いにも周囲は同情的だし、この辺は圧倒的悪役の浜田に感謝すべきなのか。いや、浜田が派手に遊ばなければそもそも葵はショックを受けずに済んだのか。
「嬉野さん、浜田さんに制裁でもする気なんですか?」
和田さんがあまりにハッキリと聞くので、隣の和田くんの眉が捩れる。
「ん、いや、まさか。個人的なことだから職権濫用はしないよ…でも、そうだな…転勤先は分かってるしね、各店舗で同じことをされると風紀が乱れて嫌だなとは思ってるよ」
「表立っては言えませんか」
「恋愛は自由だし、口出すとパワハラになっちゃうからね。でもどうにか…立ち直れず沈んでる女の子がいるっていうことを知らしめてやりたいっていうのは…父として当然だと思うんだよね」
娘の恋愛に父親が出て来るなんて、恥ずかしいことこの上ない。分かっているがギャフンと言わせたい、できれば反省させて謝罪させてやりたい。
婚約してた訳でもないから無理なことは分かってる。そして娘のこと以外にも、それが自分の陣地内で行われたことにも腹が立っている。
僕は本来の仕事を終わらせて、ビジネスホテルへとチェックインした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一条さん結婚したんですか⁉︎
あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎
嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡
((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜
⭐︎本編は完結しております⭐︎
⭐︎番外編更新中⭐︎
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
