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しおりを挟む翌日、和樹は角田が勤める会社に直接電話して、昼なら繋げるとのことで本人を呼び出してもらった。
「もしもし、バイクの女性の件で、ご連絡させて頂きました」
『あー、どうも。どうっすか、見つかったっすか?』
上司たちの手前か、角田の言葉遣いは幾分かマシである。
あの日、角田が何人に声を掛けたのか不明だったので、和樹はあくまでその内のひとりという体で話し始める。
名乗らないのは反則だろうが、報復が恐いなんて理由もあった。
なんせ居住地が割れているようなものだし、和樹にしか名刺を配ってないのならピンポイントで攻撃を受けるかもしれない。
「ええ。女性…白銀さんに連絡が行きましてね、知人の私に相談が来ました。それで、本人は角田さんの目的を知りたいそうなんですよ。捜索していた、何をしたいのか、と」
『…それ、あんたに言う必要あんの?』
「代理人なので。目的が分からなければ、危なくて会うことは出来ませんよ」
代理人というワードの堅苦しさにビビったのか、角田は無言になった。
1分ほどの沈黙があり、電話口の向こうから同僚らしき人の声が聞こえる。
工務店の営業だから、電話のために外回りから事務所へわざわざ戻ったのかもしれない。
だとすればまた営業先へ向かわねばならないだろうから、早めに話を付けようと焦っている空気を感じる。
そこでやっと、角田が喋った。
『何もしねぇよ、自分の女に会いてぇってだけで』
「彼女は、貴方とは別れていると言ってます」
『…そりゃ、別れたけどよ』
「理解してるんなら、大人しくしていて下さい。彼女は新しい人生を歩んでいるんです」
『……』
事務的な和樹の言葉に角田は再度黙り、しかし突如
『っ…ならよぉ!あいつに貸したバイク、返せよぉ‼︎』
沸騰したかのように声を荒らげる。
「…譲渡したと聞いてますが。名義も変更されて、維持費は彼女が負担しています」
『うるせぇ!返せ、それかタダでやったんだから金払えよ!俺の愛車、タダでくれてやったんだぞ!今ならプレミアついてんだ、金払え‼︎』
なるほどそう来たか、今日だけでは済まないなと和樹はため息をつく。
「おいくらですか?」
『えっ』
金の話を出せば怯むとでも思っていたのか、角田は声だけでも分かるくらいたじろいだ。
しかし持ち前の度胸なのか、すぐ持ち直す。
『あのバイクは…ひゃ、100万で買ってんだ。そんだけ払うんなら、真綾のこと、諦めてやっても良いぜ』
「諦めるも何も、あの子は貴方とは他人になってるんですよ」
『うるせぇ!とにかく、俺と縁を切りたいなら、100万持って来いって伝えとけ‼︎』
ガコガコと受話器と本体の打ち合う音がして、電話は切れた。
あれで営業が務まっているのだろうか、自分の方がまだ愛嬌があるなと和樹はスマートフォンを置く。
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