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しおりを挟むそのクリスマス直後の週末、土曜日の夕方。
「じゃ、行ってくるわ。戸締りよろしくな」
「はーい、行ってらっしゃい」
バッグを持って出る萩原夫婦を、真綾が見送る。
まだ雰囲気にあやかろうと、駅前のホテルでクリスマスディナーショーが行われるという。
そこに和樹の父母が参加するとのことで、和樹は留守番を任されたのだ。
和樹は知らなかったのだが、真綾がひと月前からチケットを取り、両親へプレゼントしたそうだ。
しかも本日の夜はそのホテルに泊まって帰るという。
是が非でも高まる期待、しかし深い意味は無いのかもしれない。
親の好きな歌手が来るからチケット予約しただけで、二人きりになるためではないのかもしれない。
真綾の意図はさておき二人でしっぽり過ごせばよろしいのだが、和樹は過度な期待をしないよう心を落ち着かせる。
「(抱ける?そういうことじゃない?でも、真綾から迫って来ることは無いだろうし)」
「今日も冷えるね~」
婚約したとはいえ別居の真綾が、戸締りをして居間に戻って来る。
「そだな」
「和樹くん、他にやることある?」
「んー…肉屋は休業だし、特に何も」
今年の大晦日は平日で、ちょうど良いからと精肉店は早めの年末休業に入っている。
これは商店街の他の店も同じくで、今日の昼頃から一斉に掃除をしたり年始用の門松を置いたりと忙しなかった。
クリスマスの余韻無くスパッと年越しに切り替えるこの感じが、和樹は嫌いではない。
とはいえ部屋の中には精肉店に飾っていたカラーテープやキラキラの星が残っていて、まだまだクリスマスを引きずっている。
「そっか…ねぇ、今日さ、私…和樹くんのお部屋で寝て良いの?」
エプロンを外した真綾が、もじもじとそんなことを問う。
まんま新妻だな、和樹は
「もちろん。嫌なら俺はここで寝るよ」
と真綾の気持ちを試した。
「…なんでそんな、意地悪言うの」
「は?」
「嫌なわけ、無いじゃん…」
「そ、そう…」
初恋でも初体験でもあるまいに、どうしてか和樹ももじもじしてしまう。
既に体は重ねているのに、二人は二人きりになる時間が少な過ぎた。
「(夜はそう、確定だな…よっしゃ)」
しかし夜まで何をして時間を潰すか、晩は余り物のチキンでステーキでもするかな…と和樹は思考する。
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