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しおりを挟む昼のピークを過ぎて客足は落ち着き、和樹は残り数を確認して少し息をつく。
「そうだ真綾…結婚記念というか、指輪どうするとか言ってたろ?あれ何かあるか?」
「あー…何でも良い?」
「二人で使う物とか、アクセサリーとか。食べ物じゃない方が良いかな」
真綾は「んー」と唸り、けれど口元はムニムニと柔らかい。
候補はあるが決めかねているか、もしくは言い出しにくいといった感じである。
和樹は金額面の心配かと思い
「俺が買ってやるから、借金増額とかは心配しなくて良いぞ?」
と助け舟を出す。
しかし真綾はぶんぶんと首を振り、ぱくぱくと口を動かす。
「タンデム」
「ん?」
「タンデムシート、が欲しいの」
「は?バイクの?」
「うん、それかダブルシート」
「…え、暴走族が使う、L字のゴツいやつか⁉︎」
和樹は唾が飛びそうになり、慌てて口を押さえた。
和樹はバイクに詳しくないが、テレビの暴走族検挙の映像でそれは知っている。
後部席のヤンチャな若者が手を揺らしタコ踊りなどする、強烈なイメージがあった。
「違う違う、私のレーサーレプリカだから、そんなのカッコ付かないよ。普通のフラットな、でも後は少し高めになるよ。私は前傾で乗るから、後ろはどっしり座れるのが良いかな。その方が全体的にカッコいい」
「真綾の美的感覚は分からんけど…二人乗りすんのか?」
「うん。だってキッチンカーかバイクしか足がないでしょ?移動する時に不便じゃない」
「まぁ、そうだけど…」
和樹は大型二輪の免許は持っておらず、自動的に後部座席に座ることになる。
小柄な女性に運転させて後ろにゆったり座る男、光景を想像するにどうも外聞が悪い気がした。
「それくらいしか考え付かなくて…実用的でしょ?」
「ウン」
お願いポーズで見上げる婚約者の可愛さに、和樹の口が勝手に了承してしまう。
あれば便利だろうし二人で使うものだし、形に残るし革のしっかりした物になりそうだし。
何でも良いと言ってしまった手前、和樹は後から訂正も出来なかった。
「やった!商店街の端にバイクショップあるじゃない?この前行ってみたの、そしたらカタログ見せてくれて。私は新品にはこだわらないから、良いのがあれば中古で状態の良いやつ取り寄せてくれるって」
「あ、そう…お、おいくらくらい…?」
「物によるかな、また見に行こうね」
和樹は目をパチクリしながら鉄板に顔を戻す。
指輪を選ぶようにバイクのシートを選ぶ日が来るなんてな、人生は分からないものだと若輩なりに悟ったふりをする。
「(まぁ、良いか)」
隣に笑顔で元気な真綾が居てくれれば、自分の小さな自信が保てる。
少し舐めているのは事実で、世話が掛かると侮っているのも本当だ。
でもいつしか「明るく元気な肉屋の奥さん」と「尻に敷かれる主人」になりそうで、末恐ろしい。
「(それも悪くないけど、リーダーシップは取りたいんだよな)」
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