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しおりを挟むそれからランチ営業を続けること数十分、周辺企業の昼休憩も終わったのか人足がぱったり無くなる。
オフィスでも年末休業に入った所は多いのだろう、仕事納めだというのに売り上げは振るわなかった。
「真綾、片付けよう」
「はーい」
「帰って昼飯な」
「うん!」
儲けたり稼げなかったり、こんな日々が続く。
真綾を不安にさせることもあるかもしれない。
けれど心と時間の余裕があるから、その分心の繋がりを強固にしていけるのではないかと…和樹は金庫を運転席の脇へ置いた。
「…今日みたいに、売れ残る日もザラだ。やって行けるか?」
「うん、ハンバーグをお惣菜にしてお店の方で売ったりするじゃない。あれ、イレギュラーだけど楽しみにしてるお客さんいるんだよ」
「…そうなの?」
「うん!通り過ぎて引き返す人もいたよ、ラッキーって喜ぶの」
「そか…俺はそこまで気付かなかったな」
車を出して、「売れ残りも悪くないな」と和樹は考えを改める。
そしてふと遠くの高い山を眺めて、
「なぁ真綾、昼食ったら…ツーリング行かね?」
と助手席の真綾を誘った。
ちょっとした逃避欲を満たしたく、爽快感が欲しくもあり。
新年への期待を込めて、モヤモヤを発散したくて提案してみたのだ。
「良いけど、乗り心地悪いかもよ?」
「俺はコレで。荷物下ろしたらちょっとは軽くなるから。真綾はバイクで…無理か?」
「ううん、じゃあ…あっちのあの山ね、私が通ってた高校があるの。何も無い所だけど、一緒に走ろ」
「うし。真綾の家に回るから、後でうち集合な。メシ持って行こう」
「おっけー」
—
和樹は真綾を白銀家で降ろし、自宅台所にて余り物からハンバーグ丼を2つ作った。
そして玄関先で待っていると、慣れてはいるが煩いバイクの音が近付いて来る。
いつものように胸を潰しライダースジャケットを着て、派手なフルフェイスを被った真綾の登場である。
「お待たせ、ゆっくり走るからね、安心してね!」
「あぁ、ついて行くよ」
派手なバイクとカラフルなキッチンカーは、連れ立って住宅地の道路に出て行く。
知った人は手を振り、真綾も和樹も愛想良く振り返す。
山道を登り真綾の母校を外から見学、ダム湖の畔に景色の良い広場があったので駐車して昼食を摂った。
そして帰る直前、和樹は真綾へ「少しだけ、昔の感じで走って良いよ」と告げる。
真綾は困惑するも、すぐにニマッと笑いヘルメットを被った。
そして緩やかな下り坂を、真綾のバイクは法定速度ギリの速さで走り抜けた。
登りならまだしも下りでのこの姿勢…言い出しっぺの和樹は、改めて真綾の動体視力や剛胆ぶりに驚く。
「あー、ドキドキした!こんなにスピード抑えず走るの、久しぶり!」
和樹はヒヤヒヤしたが、麓のコンビニで合流した時の真綾は爽やかに汗をかきキラキラ笑っていた。
「…じゃあ真綾、帰って…結婚記念シート選ぼうか」
「別に、そこまで急がないよ?」
「ううん、俺も早く真綾の後ろ乗りたいから…俺たちの記念だから」
「……」
和樹の覚悟に真綾は満足そうに笑む。
そして元気いっぱい、
「うん!」
と返すのだった。
つづく
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