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趣味が理解できない
9(最終話)
しおりを挟む後日…週明けの始業前のこと。
出勤して来た主任の顔は絆創膏やガーゼで大部分が覆われていた。
フロアの社員は皆当然驚いて「何があったのか」と尋ねるが、主任は「なんでもない」と業務に入る。
終業後、野次馬根性の旺盛な同僚がインタビューを試みたそうで、概要を聞き出す事ができた。
なんでも、主任は新たな女性を引っ掛けてホテルへ行ったらしいのだが、それが良からぬ筋のお方だったらしい。
コトが済んだら途端に凄まれて荷物を漁られて、金品を探るついでにあの手帳の存在もバレてしまったそうだ。
それで「キモい」だのなんだのと言われながら暴行を受けて、付近に待機していた強面男性にも吊し上げられたとか。
これはたぶん、相手は最初から美人局をするつもりだったのだと思われる。
そしてなんという意趣返しか主任は裸に剥かれて、恥ずかしい写真を撮られたらしい。
もしかしてネット上にばら撒かれていたりして、その危険性は過分にあるそうだ。
そして同僚曰く「なんか、大切なノートを取られて火を付けられたらしいよ」とのことで…私は自身のデータがこの世から消えたことに心から安堵した。
誰彼構わず手を出すからこんなことになるのだ。
しかし「背中の刺青がキレイだったなぁ~」と、主任は懲りていないらしい。
むしろ、ノートを燃やされたことの方がショックだったとか。
私は知らなかったが、主任は男性だけの集まりだと下世話な話もバンバンしていたらしい。
そして紳士協定というのか、そこで得た情報なんかは外に洩らさないというルールが自然と出来上がっているのだそうだ。
まぁ、中でも主任のトピックは常に群を抜いていたらしいので、周りも異質さは感じていたみたいだ。
やはりネジが数本は飛んでいたのだろう、もう馬鹿としか見られないから今後の仕事が大変だ。
ちなみに、主任はあれから私には交際以前と変わらぬ態度で接してくれている。
馬鹿で、器用で、変態だったんだなぁ、私の主観ではそんなところだ。
世の中は広いから、どこかに主任の価値観というかセックスの相性追求に理解ある女性がいるかもしれない。
早めに運命の人に出逢わなければ、被害者の数だけが増えて誰も得をしない。
いや、変態も被害者も私の主観だから当たり前の価値観にしては失礼なのか。
「…でも私の気持ちだから、私の主観で良いよね……あー、キモい!」
庶民的な大きさの風呂に浸かり、洗面器で顔を押さえながらそんなことを叫んだ。
別れ際にお祈りはしたものの、幸せになって欲しいんだか欲しくないんだか。
通り魔に遭ったみたいな不幸体験だから記憶からすっぱり消えてくれれば良いのにな、フガフガ叫びながらそんなことを思う私であった。
おわり
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