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3…舐める視線

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 さて本日2度目のオーサキ上陸、玄関を入りエスカレーターへと向かう。

 今は客なんだから昼間よりは堂々として良いはず。

 しかし買うものも決まらず足だけはさかえさんの居るであろう白物しろもの売り場へと進んでしまう。


「(……居ない…もう終わったのかな…)」

居なくて元々なのだから分かりきったこと、管理職は売り場に立たずにカウンターや奥で事務作業をしていて不思議無い。

 このパターンだって想定していたのにずんと重くなる気持ち、私は自覚している以上に栄さんのことが気になっているようだ。


「(さて…じゃあパン食べて帰ろう…)」

あまり長居しても怪しまれるので早々と退散、1階へ降りてパン屋の店先にあるトレイとトングを手に取った。

 石窯オーブンは『外はカリッと中はしっとり』が特徴で、これは調理家電においても搭載している機能だから学習済みである。

 遠赤外線と対流熱でそういうことになるのだとか、兎角とかく原理など知らなくても並んだパンを見ればその美味しさは歴然なのだ。


「(ハムチーズフォカッチャ…ジャーマンソーセージ…うわぁ、ハッシュポテトがラス1、フライドチキンも…)」

 これはもう立派な夕飯、トレイに4点置いてレジでホットミルクを頼む。

 フードも少し温めてもらうことにして着席して手を拭いて待つ。

 道路側の窓に走るカウンター席ではいまだ若いカップルが睦まじく食事中、邪魔しては悪いと何となく隣の書店が見えるようテーブル席へと座った。



「こちらと、ホットミルクでーす、ごゆっくりどうぞー」

「ありがとうございます!…はふ」

 ほかほかの揚げたポテトのザクザクした歯応えが大好きだ。

 肉汁が抜けていないチキンも大好きだ。

 手に付いた油をペーパーで拭いてから適温になったホットミルクをひと口、「ふふふ」と勝手に笑みが溢れる。

「(幸せー)」


 私は食べることが好きだ。

 お米もパンも麺類も何でも、家庭料理も外食もファーストフードも何でも美味しくて沢山頼んでお腹いっぱい食べてしまう。

 残念ながらそれらが全て栄養に変わる訳ではないので背もそれほど伸びなかったけれど、余分な肉が付かないところを見ると胃腸が強く代謝が良いのかもしれない。


「(良いストレス解消法だよー…あとは帰って寝るだけー)」

 栄さんに会えなくてもパンを理由にまた来よう。

 通路を歩く人や書店のぶら下がり広告などを見ながら3品目のフォカッチャに手を掛けたその時、

「あ、」

「あ」

黒いピーコートを羽織った栄さんが視界の先本屋の通路で立ち止まった。


 パン屋と書店との境は観葉植物を柵のように並べてあるだけで数メートル離れていても互いが丸見え、彼は足を揃えて確実に私を視界に収めていた。


「あ、(こ、こんばんは!)」

座ったままペコリと頭を下げてもぐもぐ口を動かす、今はラッキーと言うよりみっともない気持ちの方が大きい。

 仕事終わりに本屋なんて知的だな、反対に私ときたら仕事帰りに高カロリー食を詰め込んでしかも独りで。

 下を向いてわたわたとフォカッチャを皿に置いて手を拭いて…しかしチラと目線を前に戻せばそこに居たはずの栄さんが消えていた。
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