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Little me.
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しおりを挟む約束の日。
指定されたスタジオに行けばそこにはまるで湖畔を模したようなセットが組まれていて、森の木々というよりは草木、名も知らぬ単子葉類の葉が複数枚天井からぶら下がっていた。
そして大きな双子葉類の葉っぱが1枚、もちろんハリボテだが布地の目を上手く利用していて葉脈の質感が美しい。
「いらっしゃい、ラムちゃん」
「わー…吾妻さん、本当にカメラマンだったんだ」
「言うたやんな、名刺渡したやんな、」
「うん…いや、エッチな撮影の線も消えてなかったから」
「まぁええわ…警戒心は持たんとな……ラムちゃん、今日はこれで…何のイメージか分かる?」
「え、なんだろ…水辺に関係あるの?」
川下りのイメージがある御伽話なんて桃太郎とか瓜姫くらいしか思い浮かばない。
河童なんて攻めたことはしないだろうし…私が考えていると吾妻さんが助け舟を出してくれる。
「葉っぱに乗ってさ、川を移動するやつよ」
「…一寸法師?」
あぁあれはお碗だっけ、そう思った矢先、スタジオの端から
「ぶっ!」
と吹き出す声がした。
「⁉︎」
「あ、ごめんなさい…お、惜しいかな…親指姫だよ、」
「…はぁ」
惜しくないじゃない、超笑ってるじゃない、呼吸困難になってるじゃない。
その人はひーひー言いながらこちらへ近付いてきて、
「ごめんごめん、親指姫、読んだことある?」
と私へ尋ねる。
「…あるけど…憶えてないです…」
「そっか、可愛いお話だよ、また調べてみてね…申し遅れました、僕は古湊咲也、このブランドの運営会社の社長でチーフデザイナーをやってます」
「え、すご…」
デザイナーって男性なんだ、しかも若くってそこそこイケメンで。
彼はサンダルを履いた私より少し身長が高いくらいの、要は男性にしてはチビだった。
「君いいね、ちょっとクールな感じで…でも化粧映えしそうだし…うん、始めようか、メイクさんに付いて行って、」
「あ、はい、」
誘導されるままに控え室へ、カーテンで区切られたスペースには同じデザインの服がサイズ違いで何着か吊るされている。
隣のスペースでも着替えている音がして、何人かが集まって同時進行なのだなということが分かる。
私服を脱いだらスタイリストさんが入ってきて、あれよあれよといううちにインナーを着せられタイツを履かされ親指姫モチーフのワンピースを着せられた。
「あの、さっきの古湊さん、お化粧してました?」
別に今の時代化粧は女性だけのアイテムではないし男性向けのファンデーションも売られてはいるけれど、彼はまつ毛もバサバサに整えてあった。
「うん、古湊さんもモデルやるからね、先にメイクしたのよ…うん、彼もドレス着るわよ」
「え、女装家なんですか?」
「女装というか、モデルとして何でも着るのよ。ジェンダーレスって言うのかしらね」
「へぇ」
「私設のファンクラブなんかもあるのよ、ファンミーティングとか定期的にやってるから、継続して働くなら参加してみても楽しいかもよ。うん、採寸データ通りね…はい、次はメイクね、こっち」
また誘導されてメイクスペースへ、ケープを着けて複数人の担当が髪もメイクも同時進行でやってくれる。
髪を巻いてハーフアップに盛り上げて、編み込んで盛って巻いて盛って、大ぶりな花を挿せば顔の小ささが際立って白さと透明感も増して見える。
「わぁ」
「目閉じてね、綺麗な二重ねー」
「……あの、親指姫って…どんな話でしたっけ?」
「花から生まれたお姫様が誘拐されちゃってね、なんやかんやあってツバメに乗って王子様に嫁ぐ的な」
このチームは吾妻さんナイズドされているというか大雑把で、でもいい加減じゃなくて気持ちの良い人ばかりだ。まぁざっくりとした説明をふむと受け入れる私も同類なのかもしれない。
「花の姫かぁ」
だからなのかタイツの模様も小さなチューリップ、ワンピースの配色もよくある赤・白・黄のチューリップカラーでまとめてある。
けれど全体的に燻んだ色味というかビンテージ調というのかセピアのフィルターを掛けたような雰囲気で、甘々のロリータというよりはアンティークっぽいテイストなのかなと感じた。
「はーい、できましたー、お願いしまーす」
支度を済ませてスタジオに出れば吾妻さんが
「おー、ええやん。サイズ感も…うん、イメージぴったり」
と褒めてくれる。
「……」
「なに、緊張してる?」
「まぁ」
「ほぐしてほぐして、可愛いよ、ライムちゃん」
「ライム?」
「モデル名。スタッフクレジットに載せるから。他に候補ある?」
「いえ、特には」
「ほなこれで。うん、可愛いわ、最高!」
これも仕事のうちなのだろう、悪い気はしないので練習がてら笑って見せた。
「よーし…行こうか」
「ライムちゃん、どうぞ」
「はい、」
スタッフに促され、私はセットに入り葉っぱの船に腰を下ろす。
遠くを見据える感じで、蛙から逃げる恐怖感とかも滲ませつつ、私は外野から投げられる言葉通りの表情を作ってはポーズをとった。
「オーケーオーケー、よし、じゃあ次立ちで、こっちの背景ね」
「はーい」
ブルーバックの前に立たされて商品がよく見えるようにポージング、本来ならマネキンの仕事なんだろうけど実際にモデルに着せることで商品の着丈や肌のトーンとの差などイメージが掴み易くなるらしい。
「初めてとは思えないなぁ……サイズ直し要らない?大丈夫そうだね。ライムさんいいね、次は僕」
そう言って立ち位置を代わったのはスーツに身を包んだ古湊さん、おそらくオーダーメイドなのだろう小柄な身体にぴったりフィットしたスーツは艶々とした質感が美しかった。
数パターン撮るだけで彼は水辺のセットへ入り、
「ライムさん、こっち!」
と私を手招きする。
「はい、はい…」
親指姫と花の国の王子様、水飛沫を模したブルーのビーズのオーナメントが空調の風に吹かれて揺れて私たちの顔にキラキラと水色の影を付ける。
「僕の顔見て、でも虚な感じで」
「アンニュイみたいな?」
「そう、そんな…分かる?」
「伏し目がち?」
「西洋画みたいな」
パシャパシャ鳴るシャッター音の中で見つめ合った私たちはぽつりぽつりそんな話を交わして、出来上がりをチェックしてはポーズを変えてまた撮影を繰り返した。
「あの、この服って私専用ですか?」
「ううん、サイズ展開は元々多いんだよ。テストも兼ねて数パターン作ってる。それは送ってもらったデータからちょっとお直ししてライムさんに合わせただけ」
「…それも商品ですか?」
「これ?手作りだけど商品化はされない。うちのブランドは女性用のみだから」
イメージは求婚のシーン、レンガの城と大量の草花をバックに古湊さんは私の手を握り地面へ片膝をつく。
「ふーん…買い手が付きそうですけど」
「でも華奢な男性って少ないでしょ?需要がないとね…商品としては作らせてもらえないんだ…社長とは言え意見が通らなくて困っちゃう」
まぁ確かに身長160センチに満たないかつ装飾性の高いスーツが似合う容貌の男性は少ないか。
けれどすべすべした背広や紋章を模したボタンとカフリングスはコスプレを超えて立派な服飾品として用を成していた。
「それ、着たい女性もいると思いますよ」
「男装ってこと?」
「それもいいけど女性として。結婚式とか、お洒落なパンツスーツ素敵かと」
煌びやかな格好が好きだけど脚を出したくないという女性もいるだろう。柄物のタイツではドレスコードに引っかかる場合もあるし。
「……ふむ」
「ゴスロリのジャケットじゃあんまり礼服扱いされないでしょう?そのスーツは充分冠婚葬祭…婚はいけるんじゃないかな…長身の女の子用でも良いですね、男性よりカッコいいスーツ…前髪上げて横髪はリーゼントで流して、パンクよりもっと女性っぽい感じ」
「…なるほど…脚とか女性的なラインにしてみようかな…」
創作のスイッチが入ったのか古湊さんは独り言をぶつぶつと漏らしながら、カメラのフラッシュに照らされポーズを変えていく。
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