Fragment-memory of lilac-

黒乃

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第二話

第二十七節 不老長寿

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 建国記念日当日。その日は朝食を食べてから、全員で街に出掛けることになった。子供たちの引率はリゲルをはじめとした職員全員。人込みを避けるため、あまり人が集まらない時間帯に出掛けると朝食の際に言われたのだ。
 ヤクとスグリをはじめとした子供たちもお祭りが楽しみなのだろう、いつもと違いそわそわと落ち着けないでいた。

「いよいよ国王様を見れるんだな」
「うん。楽しみ、だね」
「ほんとな!」

 出かける準備を整えた二人は、集合場所である玄関まで来た。そこでは職員たちが子供たちに何かを手渡している。その様子が不思議だったヤクとスグリが首をかしげていると、一人の職員が二人に気付く。

「スグリとヤクは、孤児院全員でのお出かけは初めてだったよね。もし迷子になったら大変だから、このリボンを服に着けてね」

 そう言って職員が手渡してきたのは、黄色いリボンだ。聞けばそれはここの孤児院の子供だと言うことを表す証明証のようなものである、とのこと。一見すると何の変哲もないリボンだが、微弱な魔力が込められているらしい。一定距離から離れるとリボンの魔力が発動して、職員に子供がはぐれたことを伝える仕組みとなっている。
 万が一迷子になってしまったとき、リボンの魔力を頼りに職員が迎えに行くことができるのだと。

「私たち職員がしっかりと見るけど、万が一ってこともあるからね」
「保険、ってこと?」
「うん、そういうことだよ」
「わかった、着けます」
「ありがとう」

 リボンもつけ準備が整ったところでまず、院長のリゲルが子供たちに向かって再度注意を促す。お祭りを楽しむのはいいが、他の人に迷惑になるようなことはしないように、と。彼の言葉に元気に返事を返す子供たち。いい返事が聞けたリゲルは優しく微笑み、それではお出かけしようと号令をかけた。
 街へは列になって向かうことになる。先頭はリゲルで、列の途中途中で職員が子供たちを見守るように入ることに。孤児院の戸締りをしっかり行い、いよいよ目的の場所へ向かい始めた。

 孤児院のある通路を通り抜け、大通りに面している場所に到着した一行は、感嘆の息を漏らす。街は色鮮やかに彩られ、街灯と街灯を結ぶように繋がったロープには、綺麗な装飾が施されたランプが飾られている。
 どこからか漏れている陽気な音楽は祭りの楽しい雰囲気を醸し出し、耳を楽しませていた。行き交う人々も楽しそうで、いつも見る風景とは一切違うその雰囲気に、子供たちは一気に虜になる。

「すっげぇ……!」
「とても、綺麗……!」

 目を輝かせて街の風景を見上げる子供たち。これは興奮するなという方が無理というもの。国王様の演説はもう少しで始まるらしい。リゲルは国王様が見れる位置まで移動しよう、と声をかけてきた。ひとまず、城のバルコニーが見える場所まで歩くことに。近付くたびに齢500を超えるも、いまだ現役で活躍している国王様に期待が膨らむ。

 しばらく歩いてとある広場に辿り着く一行。上を見上げれば、城のバルコニーとの位置はほどほどであり、何よりそこは国王様を見やすい場所だとのこと。リゲルたちは毎年建国記念日の日になると、この場所で国王様を拝謁するのだとか。
 観客があまり近付かないようにと、ある一定の場所でミズガルーズ国家防衛軍が巡回している姿も目に入る。その中にルーヴァの姿はない。少し残念に思っていたが、途端に周囲から歓喜の声が上がる。その様子に一瞬たじろぐも、近くにいたリゲルに大丈夫だと諭され上を見上げた。視線の先のバルコニーから出てきたのは、一人の青年。

「あの方が、このミズガルーズの国王シグ様だよ」

 聞かされたその言葉に、思わず呆気に取られてしまった。確かに数日前のルーヴァの説明では、秘術を使用しているため500年間という長い時間を生きていると聞いていた。その話を聞く限り、シグ国王の見た目は相当老いているだろうと予想できる。
 実際にそのような姿なのだろうと考えていた。しかし視界に映る国王様の姿は、どこをどう見ても青年のそれだ。不思議そうに見上げていたが、自分たちが何を言いたいのか理解したのだろう、リゲルが自分たちに説明する。

「はは、その様子だと国王様をご老体だと予想していたな?あのお姿こそが、シグ国王陛下が取得している秘術の成果なのだよ」
「そうなのか?」
「私も詳しくは知らないんだ、何せ秘匿事項だからな。だけど第三次世界大戦後からずっとこの国と世界の平和のために奔走なさっている、素敵なお方だ」
「へぇ……」

 それ以降の詳しい説明もなく、ヤクとスグリは改めてバルコニーに出て演説をしているシグを目に焼き付ける。500年間という長い時間を生きていて、今もなお国民に親しまれている国王様。そんな国王様のいるここミズガルーズに逃げてこられたことは奇跡に近いのかもしれないと、ヤクは一人思うのであった。

 その後演説も終わり、街を一周してから孤児院に戻ることになった一行。しかし演説後の街中は人込みで溢れ、子供はもちろん大人でも歩きにくい状態となっていた。そんな中でいくら手を繋いでいるとはいえ、子供の手は簡単に大人の手をするりと抜けてしまう。
 手が抜けてしまった子供はヤクだった。彼は己が一行からはぐれてしまう、と気付くも時すでに遅し。振り返ろうとしても溢れてくる人の波に抗うことなどできない。行き交う人の波に揉まれながら、ひとまずはそこからの脱出を試みる。大人たちの足の合間を潜り抜けるように歩き続く。そのまま歩いていたが不意に押し出され、そこから抜け出すことに成功。

 見知らぬ街、というわけではない。外に出られるようになってから、何度かこの街をルーヴァと一緒に出掛けたこともある。しかしいつもと違う雰囲気の街並みの中での孤立は、子供の恐怖心を煽るには十分。途端に心細くなったヤクの足は竦んだ。きゅ、と自分の服を掴むと、しゅるりとした感触を指に感じる。なんだろうと視線を底に落とせば、そこには外出前に職員から着けてほしいと言われた、黄色いリボンがあった。
 そのリボンがお守り変わりだということを思い出したヤクに、少しの心の余裕が生まれる。ほっと息をついてから、考えを巡らす。

「あ……そうだ、このリボンがあるから……」

 確かこのリボンには特殊な仕掛けが施されていて、一定の距離から離れると職員にはぐれたことを知らせてくれるものだったはず。だとしたら、あまり動かない方がいいのかもしれない。そう考えたヤクは、ひとまず目の前にある噴水に座って待つことにした。これで本当に探しに来てくれるといいのだけど、と一抹の不安を抱えながらも今はじっと耐えることしかできなかった。

 ******

 それからそんなに時間はたっていないのかもしれないが、心細さから一気に不安に駆られるヤク。しかしそんな彼の目の前に、数人の訪問者が現れた。

「ん~?どうしたんだよ嬢ちゃん、こんなところで一人か?」
「え、あっ……」

 上を見上げれば複数人の男が自分を見下ろしている。顔に笑顔を張り付けているが、ヤクはその笑顔に不信感しか覚えなかった。その笑顔の種類に見覚えがあるのだ。そう、自分を実験動物としか扱っていなかった、あの白い人間たちを同じ笑顔。あの時の彼らと今目の前にいる人物たちの笑顔が、一緒なのだ。
 恐怖に体が竦むも、相手は人のいい笑顔を張り付けたままヤクに話しかける。

「迷子なら、一緒に親を探してやろうか?ん?」
「ぇ、と……だ、大丈夫、です……。お迎え、来るから……」
「そんなの本当に来るか分からないんだろ?ずっとここに座ってるだけだったのに、だーれもお前を迎えに来る様子がなかったんだから」
「で、でも……本当に、大丈夫……」
「まぁまぁそう堅苦しいこと言わないでいいから」
「そうそう。俺たちと一緒に来ようぜ、なぁ?」

 不意に手首の辺りを掴まれ、ぐい、と上に持ち上げられる。思った以上に引っ張られる力は強く、表情が歪む。男たちの振る舞いにますます恐怖心が煽られ、拒否しようと声を上げようとした。

「痛いッ……!や、やだ……!!」

 しかし思うように声は出せず、か細い悲鳴になるだけだった。いやいや、と抵抗するヤクの姿に男たちは苛立ちを感じたのか、語尾を荒げながら彼を引っ張る。

「ああもう大人しくしろ!」
「はな、して……!」
「騒がれると面倒だ、もう袋ン中にでもぶち込むか?」
「だな、とっととずらかって売りさばくか」

 大の男に子供の力では到底敵うはずもなく、噴水広場からずるずると引きずられるように歩かされる。聞こえてきた言葉の意味が分かるだけに、ヤクの双眸からは涙が溢れる。誰か助けてと、心の中で懇願した直後のこと。

「事象顕現。"法を守る要の主" パープスト"、"反転 ウムケールン"」

 聞き覚えのある安心できる声が聞こえ、次に何か重いものが出現したような音も耳に届く。次に頭上から聞こえてきた声には、驚愕の感情が漏れているように感じた。手首の痛みはいつの間には引いていて、代わりに優しく抱きしめられているような感覚を覚えたヤクは、恐る恐る上を見上げる。

 視界の中に映ったのは、ミズガルーズ国家防衛軍の軍服を身に纏い、鋭い視線を前方に向けているルーヴァの姿だった。
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