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第三話
第四十三節 固い絆
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ルーヴァに相談をしたその日の夜のこと。夕食を取り終わったスグリは、寝る前にヤクに話したいことがあると告げた。いつもとは雰囲気が違うスグリの様子に、ヤクも何か察したのだろう。わかったと頷き、彼に向き合った。一度深呼吸をしてから、スグリはゆっくりと話を切り出す。
「俺、さ。俺も士官学校に入学するって決めたんだ。でも俺はお前みたいな魔術の才能はないし、俺ができるのなんて剣だけだ。だから剣術専攻科に進もうと思う」
「そっか。スグリがそう決めたなら、僕も応援するよ」
「それでなんだけど……。そのことで、もしかしたらお前のことを苦しめてしまうかもしれなくて……」
「僕を?どうして?」
「俺が使えるのはアウスガールズの剣術だ。俺が昔住んでいた村で習っていた剣術はアウスガールズのもので、ミズガルーズで主流になっている剣術とは違う。でも俺の村って言ったら、お前はいい気分はしないだろ?あそこには、嫌な思い出しかないだろうし……」
そこまで言って、言葉を濁す。思わず俯いて、拳を握った。
士官学校へ進むと決めて己に何ができるかを考えたときに、自分には剣術しかないと気付いた。しかも使える剣術はミズガルーズで主に使われている剣術とは違う、アウスガールズ特有のもの。
一度はヤクを守るために、アウスガールズで過ごした記憶も思い出も、何もかもを切り捨てようと考え、見て見ぬふりをした。しかしヤクにとっては嫌な記憶でしかない村だとしても、スグリにとってアウスガールズ、特にガッセ村は故郷の一つに他ならない。そこで習っていたものを全て捨てることは、スグリにはできなかったのだ。
「最初は一からミズガルーズの剣術を習おうかとも考えた。けど、剣を見るたびに思うんだ。俺が極めたい剣術は、本当にこれなのかって。でも俺はお前を苦しめるよなことなんてしたくない。かといって、俺は……」
「……スグリ」
握っていた拳に、ヤクの手が重ねられる。おずおずと顔を上げて彼を見てみれば、ヤクは何処か慈しむような表情で笑っていた。
「……確かにスグリの言う通り、あの村での記憶はほとんどが怖いものばかりだよ。あまり、思い出したくない。でも……怖い記憶だけじゃないってことは、なんとなくだけど覚えてる」
「それだけじゃないなんて、そんなこと……」
「あるよ。いつだったか、スグリが道場で修行しているところを見たことがあったんだ。その時のスグリは一生懸命で、笑顔だった。今考えると、剣術を習うことが大好きで、楽しかったんだろうなって思うよ」
突然の告白に、驚愕したのちに羞恥を感じた。まさか自分が修行をしていたところを見られていたとは、思っていなかったのだ。熱が集まったことで自分が赤面したと自覚させられ、思わず顔を逸らす。
「そんなの、いつ見てたんだよ……」
「あまりにも楽しそうだったから、声をかけづらかったのかもしれない。まぁ、どうやって声をかけたらいいか、当時はわからなかったんだろうけど」
「そ、そっか……」
「でもとにかく、そんな楽しそうな表情をしていたスグリを見るのは、好きだったんだと思う。だから印象に残っているんだろうね」
「……そんなに、楽しそうだったのか、俺」
「うん、キラキラしてた。……僕を守るためって考えたことは嬉しいけど、そのことがスグリの重荷になるのは、嫌だ。自分の大事にしたいことを放り出してまで守られても、嬉しくないよ」
ヤクの言葉を聞いて、ルーヴァの言う通りだと思い返す。自分の気持ちに蓋をしてもそれは自己満足なだけであって、相手の気持ちを考えていないことと同じだと。
大丈夫と笑ってから、ヤクはスグリに告げる。
「スグリがアウスガールズの剣術を使っても、嫌な記憶は思い出さないよ。寧ろ僕はスグリがミズガルーズの剣術を習う方が嫌だな。だってそこまでして強くなっても、スグリは嬉しくないでしょ?」
「それは……。……うん、正直言うと、嫌だ。だってそれって、俺が今まで習っていたことが無意味だってことにもなるから」
「だったら、我慢しないでほしいな。スグリが本当に学びたい剣術で、強くなってほしい。剣術を習っているときのスグリは、本当に楽しそうだった。その気持ちを捨てないでほしいよ」
「……いい、のか?本当に?」
「いいよ。僕のことは大丈夫だから」
ね、と笑うヤクを見て、スグリは胸の中の靄が消える。彼の笑顔を見たら、自分が大事にしたいと思った故郷の剣術を極めることを、許されたような気がしたのだ。ようやくスグリにも笑顔が戻り、ヤクに感謝の言葉を述べる。
「ありがとな、ヤク」
「どういたしまして、でいいのかな」
「ああ、いいさ。お陰で自分の進みたい道がようやく見えたんだから」
「そっか、それなら、うん。極める道は違っても、これからも一緒に頑張ろうね」
「そうだな。まずは入学試験に合格することから、だな!」
相談して気分が晴れたことで、久々に爽快な気分になれたスグリである。ヤクと共に笑いながら、その日を過ごした。
翌日から、スグリとヤクは入学試験のための勉学に励む。調べたところ、士官学校の入学試験は筆記試験のみらしい。試験内容は魔法学園で習ったことを中心に、一般問題や時事問題などに関しても数問あるらしく、試験勉強に明け暮れる。二人でも難しいと思った問題に関しては、時折孤児院に様子を見に来るルーヴァから教えてもらうこともあった。
クラスメイトたちは自分が士官学校に進学するつもりだと伝えると、応援してくれた。中には同じく士官学校に進学すると決めている友人もいて、いいライバルとしてお互い高めあおうと約束も交わしていた。
そして入学試験まで残り一ヶ月を切った頃。試験前にルーヴァから勉強を教えてもらえる日はその日が最後ということもあり、追い込みという形で二人は朝から勉強に励んでいた。孤児院の自分たちの部屋で缶詰め状態になりながら勉強をしていたが、昼食を取ってからはうまく頭が回らなくなってしまう。二人のそんな様子にルーヴァは苦笑しながらも、気分転換をしようと彼らをカフェまで誘ってくれたのであった。
食後のデザートを楽しみながら、ひと時の休憩を楽しむ三人。入学試験を前に、スグリは重いため息をつく。大変だろうとは考えていたが、まさかここまで参考書やノートとにらめっこの日々が続くとは思っていなかったのだ。
「随分と重いため息だね、スグリ」
「受験勉強って言っても、こんなに勉強漬けの日々になるなんて正直思ってなかったから……ため息も出ちゃうってもんだよ」
「でも全ては試験に合格するためなんだから。もう少しだから、頑張ってね」
「他人事だと思って……」
「まぁまぁ。学生と勉学は切っても切り離せないものなんだよ」
ルーヴァの正論を前にスグリは反論できず、抹茶アイスを口に運ぶ。何時間も勉強をした脳に、甘い糖分が染み渡る。一方でヤクは、それほど疲労が蓄積している様子がない。同じように何時間も受験勉強をしているのに、どういうことなのだろうか。
「ヤクは疲れてないのかよ?」
「大変だけど、そんなに疲れてるってわけじゃないかも。勉強は嫌いじゃないから」
「優等生か」
「それに必ず合格するって目標もあるから、疲れていられないって考えるようにしてるよ。スグリは違うの?」
「違わないけど、俺はどっちかって言うと体を動かす方が好きだからさぁ……」
なんとも優等生なヤクの回答を前に思わずぼやいてから、そういえばと話題を変えるために話を切り出す。
「士官学校の入学試験なのに実技試験がないのは驚いたな。てっきり技術面でも色々見られると思ってたんだけど……」
「そういえば、確かに。どうしてなのかなっては思ってた」
「ああ、それはね。入学後に個人の能力を判断するんだよ。訓練のためのグループを振り分けるためにね」
「そのグループ分けって、優秀かそうじゃないかで固めるのか?」
「ううん、違うよ。寧ろグループ内の力量を平均的にするためなんだ。力のある者とそうでない者を一緒のグループにすることで、チームワークを築く訓練にもなる。軍は個々人で動くわけじゃないからね」
互いに協力し合い、時には補い合い高めあう仲間としての意識を鍛えるためのグループ分けなのだと、ルーヴァは告げる。ヒトは誰しも万能ではない、自分のできないことを補い合えるから人は強くなる、と。
「これは僕が士官学校にいたときに教えてもらったことの、受け売りなんだけどね。でも僕は真理だと思っているんだ。誰もかれもが強くなんてない。だけど手を取り合って生まれる力は、どんな強大なものよりも強くなる」
子供だったキミ達が互いを守ろうと行動することと同じだよ、とルーヴァは楽しそうに微笑んで言葉をかける。自分は一人じゃないことを忘れないでほしい、と言外に伝えられた二人は彼に頷く。意図をくみ取ったとルーヴァも理解したのだろう、嬉しそうに笑ってから、さて、と切り出す。
「休憩はここまで。孤児院に帰って勉強の追い込みをかけよう。もう試験まで一ヶ月もないんだからね」
「思い出させないでくれよルーヴァさん!せっかくいい話で締めようってところだったのに……!」
「弱音も愚痴も試験に合格した後でちゃんと聞いてあげるから。試験に落ちたら元も子もないんだよ?」
「うぅ……」
「頑張ろう、スグリ」
肩を落としたスグリに声をかけるヤク。彼を一瞬恨めしそうに見てから、スグリはやってやると言わんばかりにわかったと頷くのであった。
それから時は過ぎ、季節は冬の厳しさを増す2の月の上旬。ミズガルーズでは雪はあまり降らないが、その分森から街の中へ吹く風は凍えるような寒さを孕んでいる。
その日の学園の授業も終え放課後になり、あとは帰宅するだけなのだが。スグリとヤクを含めた数名の生徒は、居残るようにと教員から指示を受けた。居残ったメンバーは全員が、先日行われたミズガルーズ国家防衛軍士官学校の入学試験を受けた人員だった。恐らく、試験の結果が学園に届いたのだろう。
教室の一室に集まるようにとのことで、早速二人も指定された教室へと赴く。教室の中は学園用の暖炉が点火されている。底冷えする廊下で待たされることがなくて一安心するも、教室内は緊張で包まれていた。何せ合否判定はその場で発表するのではなく、名前を呼ばれた生徒が一人ひとり別教室でその結果を聞く、というもの。直前まで自分が合格しているかどうかわからないのだ。緊張もする。
スグリは別の生徒が呼ばれている中で、試験の時のことを思い出す。猛勉強の甲斐もあり、試験自体は落ち着いて受けることができていた。大きなスペルミスもなく、解けない問題はそう多くもなかった。自分では納得のいくものだと認識しているが、はたして。
まるで処刑台に立たされているようだ、と考えたところでスグリが呼ばれる。一度ヤクを見れば、大丈夫だよと頷かれる。彼も少なからず緊張しているようだ。スグリも一つ、彼に応えるように頷いてから別教室へと向かうのであった。
「俺、さ。俺も士官学校に入学するって決めたんだ。でも俺はお前みたいな魔術の才能はないし、俺ができるのなんて剣だけだ。だから剣術専攻科に進もうと思う」
「そっか。スグリがそう決めたなら、僕も応援するよ」
「それでなんだけど……。そのことで、もしかしたらお前のことを苦しめてしまうかもしれなくて……」
「僕を?どうして?」
「俺が使えるのはアウスガールズの剣術だ。俺が昔住んでいた村で習っていた剣術はアウスガールズのもので、ミズガルーズで主流になっている剣術とは違う。でも俺の村って言ったら、お前はいい気分はしないだろ?あそこには、嫌な思い出しかないだろうし……」
そこまで言って、言葉を濁す。思わず俯いて、拳を握った。
士官学校へ進むと決めて己に何ができるかを考えたときに、自分には剣術しかないと気付いた。しかも使える剣術はミズガルーズで主に使われている剣術とは違う、アウスガールズ特有のもの。
一度はヤクを守るために、アウスガールズで過ごした記憶も思い出も、何もかもを切り捨てようと考え、見て見ぬふりをした。しかしヤクにとっては嫌な記憶でしかない村だとしても、スグリにとってアウスガールズ、特にガッセ村は故郷の一つに他ならない。そこで習っていたものを全て捨てることは、スグリにはできなかったのだ。
「最初は一からミズガルーズの剣術を習おうかとも考えた。けど、剣を見るたびに思うんだ。俺が極めたい剣術は、本当にこれなのかって。でも俺はお前を苦しめるよなことなんてしたくない。かといって、俺は……」
「……スグリ」
握っていた拳に、ヤクの手が重ねられる。おずおずと顔を上げて彼を見てみれば、ヤクは何処か慈しむような表情で笑っていた。
「……確かにスグリの言う通り、あの村での記憶はほとんどが怖いものばかりだよ。あまり、思い出したくない。でも……怖い記憶だけじゃないってことは、なんとなくだけど覚えてる」
「それだけじゃないなんて、そんなこと……」
「あるよ。いつだったか、スグリが道場で修行しているところを見たことがあったんだ。その時のスグリは一生懸命で、笑顔だった。今考えると、剣術を習うことが大好きで、楽しかったんだろうなって思うよ」
突然の告白に、驚愕したのちに羞恥を感じた。まさか自分が修行をしていたところを見られていたとは、思っていなかったのだ。熱が集まったことで自分が赤面したと自覚させられ、思わず顔を逸らす。
「そんなの、いつ見てたんだよ……」
「あまりにも楽しそうだったから、声をかけづらかったのかもしれない。まぁ、どうやって声をかけたらいいか、当時はわからなかったんだろうけど」
「そ、そっか……」
「でもとにかく、そんな楽しそうな表情をしていたスグリを見るのは、好きだったんだと思う。だから印象に残っているんだろうね」
「……そんなに、楽しそうだったのか、俺」
「うん、キラキラしてた。……僕を守るためって考えたことは嬉しいけど、そのことがスグリの重荷になるのは、嫌だ。自分の大事にしたいことを放り出してまで守られても、嬉しくないよ」
ヤクの言葉を聞いて、ルーヴァの言う通りだと思い返す。自分の気持ちに蓋をしてもそれは自己満足なだけであって、相手の気持ちを考えていないことと同じだと。
大丈夫と笑ってから、ヤクはスグリに告げる。
「スグリがアウスガールズの剣術を使っても、嫌な記憶は思い出さないよ。寧ろ僕はスグリがミズガルーズの剣術を習う方が嫌だな。だってそこまでして強くなっても、スグリは嬉しくないでしょ?」
「それは……。……うん、正直言うと、嫌だ。だってそれって、俺が今まで習っていたことが無意味だってことにもなるから」
「だったら、我慢しないでほしいな。スグリが本当に学びたい剣術で、強くなってほしい。剣術を習っているときのスグリは、本当に楽しそうだった。その気持ちを捨てないでほしいよ」
「……いい、のか?本当に?」
「いいよ。僕のことは大丈夫だから」
ね、と笑うヤクを見て、スグリは胸の中の靄が消える。彼の笑顔を見たら、自分が大事にしたいと思った故郷の剣術を極めることを、許されたような気がしたのだ。ようやくスグリにも笑顔が戻り、ヤクに感謝の言葉を述べる。
「ありがとな、ヤク」
「どういたしまして、でいいのかな」
「ああ、いいさ。お陰で自分の進みたい道がようやく見えたんだから」
「そっか、それなら、うん。極める道は違っても、これからも一緒に頑張ろうね」
「そうだな。まずは入学試験に合格することから、だな!」
相談して気分が晴れたことで、久々に爽快な気分になれたスグリである。ヤクと共に笑いながら、その日を過ごした。
翌日から、スグリとヤクは入学試験のための勉学に励む。調べたところ、士官学校の入学試験は筆記試験のみらしい。試験内容は魔法学園で習ったことを中心に、一般問題や時事問題などに関しても数問あるらしく、試験勉強に明け暮れる。二人でも難しいと思った問題に関しては、時折孤児院に様子を見に来るルーヴァから教えてもらうこともあった。
クラスメイトたちは自分が士官学校に進学するつもりだと伝えると、応援してくれた。中には同じく士官学校に進学すると決めている友人もいて、いいライバルとしてお互い高めあおうと約束も交わしていた。
そして入学試験まで残り一ヶ月を切った頃。試験前にルーヴァから勉強を教えてもらえる日はその日が最後ということもあり、追い込みという形で二人は朝から勉強に励んでいた。孤児院の自分たちの部屋で缶詰め状態になりながら勉強をしていたが、昼食を取ってからはうまく頭が回らなくなってしまう。二人のそんな様子にルーヴァは苦笑しながらも、気分転換をしようと彼らをカフェまで誘ってくれたのであった。
食後のデザートを楽しみながら、ひと時の休憩を楽しむ三人。入学試験を前に、スグリは重いため息をつく。大変だろうとは考えていたが、まさかここまで参考書やノートとにらめっこの日々が続くとは思っていなかったのだ。
「随分と重いため息だね、スグリ」
「受験勉強って言っても、こんなに勉強漬けの日々になるなんて正直思ってなかったから……ため息も出ちゃうってもんだよ」
「でも全ては試験に合格するためなんだから。もう少しだから、頑張ってね」
「他人事だと思って……」
「まぁまぁ。学生と勉学は切っても切り離せないものなんだよ」
ルーヴァの正論を前にスグリは反論できず、抹茶アイスを口に運ぶ。何時間も勉強をした脳に、甘い糖分が染み渡る。一方でヤクは、それほど疲労が蓄積している様子がない。同じように何時間も受験勉強をしているのに、どういうことなのだろうか。
「ヤクは疲れてないのかよ?」
「大変だけど、そんなに疲れてるってわけじゃないかも。勉強は嫌いじゃないから」
「優等生か」
「それに必ず合格するって目標もあるから、疲れていられないって考えるようにしてるよ。スグリは違うの?」
「違わないけど、俺はどっちかって言うと体を動かす方が好きだからさぁ……」
なんとも優等生なヤクの回答を前に思わずぼやいてから、そういえばと話題を変えるために話を切り出す。
「士官学校の入学試験なのに実技試験がないのは驚いたな。てっきり技術面でも色々見られると思ってたんだけど……」
「そういえば、確かに。どうしてなのかなっては思ってた」
「ああ、それはね。入学後に個人の能力を判断するんだよ。訓練のためのグループを振り分けるためにね」
「そのグループ分けって、優秀かそうじゃないかで固めるのか?」
「ううん、違うよ。寧ろグループ内の力量を平均的にするためなんだ。力のある者とそうでない者を一緒のグループにすることで、チームワークを築く訓練にもなる。軍は個々人で動くわけじゃないからね」
互いに協力し合い、時には補い合い高めあう仲間としての意識を鍛えるためのグループ分けなのだと、ルーヴァは告げる。ヒトは誰しも万能ではない、自分のできないことを補い合えるから人は強くなる、と。
「これは僕が士官学校にいたときに教えてもらったことの、受け売りなんだけどね。でも僕は真理だと思っているんだ。誰もかれもが強くなんてない。だけど手を取り合って生まれる力は、どんな強大なものよりも強くなる」
子供だったキミ達が互いを守ろうと行動することと同じだよ、とルーヴァは楽しそうに微笑んで言葉をかける。自分は一人じゃないことを忘れないでほしい、と言外に伝えられた二人は彼に頷く。意図をくみ取ったとルーヴァも理解したのだろう、嬉しそうに笑ってから、さて、と切り出す。
「休憩はここまで。孤児院に帰って勉強の追い込みをかけよう。もう試験まで一ヶ月もないんだからね」
「思い出させないでくれよルーヴァさん!せっかくいい話で締めようってところだったのに……!」
「弱音も愚痴も試験に合格した後でちゃんと聞いてあげるから。試験に落ちたら元も子もないんだよ?」
「うぅ……」
「頑張ろう、スグリ」
肩を落としたスグリに声をかけるヤク。彼を一瞬恨めしそうに見てから、スグリはやってやると言わんばかりにわかったと頷くのであった。
それから時は過ぎ、季節は冬の厳しさを増す2の月の上旬。ミズガルーズでは雪はあまり降らないが、その分森から街の中へ吹く風は凍えるような寒さを孕んでいる。
その日の学園の授業も終え放課後になり、あとは帰宅するだけなのだが。スグリとヤクを含めた数名の生徒は、居残るようにと教員から指示を受けた。居残ったメンバーは全員が、先日行われたミズガルーズ国家防衛軍士官学校の入学試験を受けた人員だった。恐らく、試験の結果が学園に届いたのだろう。
教室の一室に集まるようにとのことで、早速二人も指定された教室へと赴く。教室の中は学園用の暖炉が点火されている。底冷えする廊下で待たされることがなくて一安心するも、教室内は緊張で包まれていた。何せ合否判定はその場で発表するのではなく、名前を呼ばれた生徒が一人ひとり別教室でその結果を聞く、というもの。直前まで自分が合格しているかどうかわからないのだ。緊張もする。
スグリは別の生徒が呼ばれている中で、試験の時のことを思い出す。猛勉強の甲斐もあり、試験自体は落ち着いて受けることができていた。大きなスペルミスもなく、解けない問題はそう多くもなかった。自分では納得のいくものだと認識しているが、はたして。
まるで処刑台に立たされているようだ、と考えたところでスグリが呼ばれる。一度ヤクを見れば、大丈夫だよと頷かれる。彼も少なからず緊張しているようだ。スグリも一つ、彼に応えるように頷いてから別教室へと向かうのであった。
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