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第一話
第十四節 心の平和は在り方次第
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目を開けると、そこはやはり地下施設の天井だった。硬いベッドの感触に、自分は寝かせられていたのかと理解する。視線を逸らせば、そこにはシューラが椅子に座って葉巻をふかしていた。彼女はヴァダースの目が覚めたことに気付くと、近くまで寄ってくる。
「目が覚めたか。気分はどうだい?」
「……まぁ、ほどほどって感じですよ」
「そうか。そいつは結構」
満足そうに笑うと、彼女はヴァダースのベッドに座る。襲撃されたときに打ち込まれたらしい薬品については、全部抜き取ったとのこと。そのおかげか、体が感じていた倦怠感は消えていた。体調的に問題ないことがわかると、ヴァダースは上体を起こす。一つため息をついてから、ここに運び込まれるまでの出来事を訊ねる。
己が襲撃された時に発動した右目は衝撃波となって、地下施設全体に影響をもたらしたらしい。修練のために従えられていた魔物たちは一斉にひるみ、発生源から遠く離れた場所にいたはずの訓練生にも、心臓発作などのダメージが及んだ。
原因究明のためシューラは発生源を突き止め、そこで倒れていたヴァダースと廃人になった複数名の訓練生を発見。事情聴取をするにも、その場でまともに発言できそうな人物はいなかったため、まずは全員を救護室に運んだ、とのことだ。
「そう、ですか……」
「幸い、アンタ自身にダメージはない。それならそれでいいさ」
「しかし……規則を、破りました。だからもう……」
「ああ、そのことだけどね。安心しな」
シューラはシガーカッターで葉巻の先端を切り落とす。安心しろとはどういうことだろうか、と視線で問いかけるヴァダース。彼女は彼の顔を一瞥してから理由を述べる。
「連中の中に、奇跡的に意識を取り戻した奴がいてね。一切合切を吐いてもらったのさ。アンタを強姦しようとしたこと、そのために薬等を用意したこと、何もかもをね」
「そう、でしたか」
「ああ。そんでそのあと協議されてね、アンタには正当防衛を与える機会が与えられることになった」
「機会……つまり条件がある、ということですか?」
「そういうこった」
「それで、その内容は?」
問いかけるも、実際のところヴァダースにはその予想ができていた。シューラもそのことに気付いていたのか、にやりと意味深めいた笑みを浮かべてから告げる。
「次の昇進試験において、優勝すること。これが、アンタを無罪放免にするための条件ってわけだ」
「なるほど、やはりそうですか」
「……どうした、思ったより冷静じゃないか。悲観すると思ったんだがね」
「いえ、まさか。……むしろ、上に上がれる機会がこんなにも早く巡ってくるなんて、私にとっては好都合というものです」
言い切って笑って見せる。初めて目にする様子のヴァダースに一瞬目を見開いたシューラだったが、やがて楽しそうに笑った。
「そうか、それがアンタの戦い方ってヤツか。成程、そうやって仮面を着けて別の己を演じるんだな。いやはや一見すりゃあただの虚勢だけど、元お坊ちゃんにしては上等な考えじゃないか。それがアンタの正義ってわけかい?」
「正義なんて、そんな大それたものではありません。ただ、私の信念の一つなだけです。それに正義なんて言葉は、悪党には似あわないでしょう?」
「言うようになったじゃないか。いいね、益々アンタを正式な戦闘員にしたくなったってもんだ。ついでだ、ちょいと昔話をしてやるよ」
シューラは一本目の葉巻を吸い終わると、次の葉巻に火をつけた。
空間に揺蕩う煙をふうっと吐きながら、どこか遠い目をする。
「ある馬鹿女の話さ。その女は昔は、とある政治家御用達のハニートラップ要員だった。要は色仕掛けを使った諜報活動さ。しかもただのハニトラ要員じゃない。指定された相手の暗殺も仕事の中に組み込まれていた」
「暗殺……」
「ああそうさ。男も女も関係なく、その女は食らって情報を奪って殺しを繰り返していた。その女は元々孤児だったこともあってね、それしか能がなかったし、それしか生きていくための道がなかった」
そうして屍の山を築きながら、女は色仕掛けと暗殺を生業として生きていたと彼女は語る。語っているときのシューラの表情は、なんとも言い難かった。懐かしむような、憎んでいるような、憐れんでいるような。それらの感情が複雑に絡み合っている。その表情で、ヴァダースはある答えを見出す。
彼女の語る女の話とは、シューラ自身の過去の話なのだと。しかしそれを訊ねるのは野暮というものだと理解し、閉口して聞き役に回る。
「ちょっと色仕掛けを仕掛けるだけで、馬鹿な政治家やお貴族様は女に簡単に情報を流した。まぁそいつらも女の腹ン中に種なり欲望やらをぶちまけてたけどね、最終的には女の前で腹上死を見せてやったものさ」
「仕事が上手だったんですね」
「天職にも思えたんじゃないかね、まぁどうでもいいけど。けど、物事ってのは順調にいけばいく程その反動ってのは返ってくるもんさ。ある時、女は失敗した。不覚にも暗殺相手にほだされやがった。その結果、暗殺は失敗。女は逃走を図った」
「……雇い主に助けを求めたんですか?」
「ご名答。愚かな女は政治家が助けてくれるものだと信じて、求めた。けど……政治家は残酷に女に告げた。お前の情報を軍に売った、とね。暗殺が失敗したら、女はいとも簡単に切り落とされたのさ。こうも言われたよ、お前の変わりはいくらでもいるってな」
そのあと、女は己の命が惜しいがために軍の追手や政治家が雇った暗殺者から逃げ回る人生を送ったと聞く。トカゲの尻尾切と同じだ、とシューラは嘲笑する。
そんな中、逃走中に女は己が身重だと知った。相手は一人しか考えられなかったらしい。最後の仕事として抱かれ、ほだされた男。少し考えれば、女は迂闊な行動をしていた。
いつもは仕事の後には薬を飲み、妊娠しないように細心の注意を払っていたらしい。しかし暗殺に失敗した夜はそれを手にする前に政治家に助けを求め、そして裏切られ殺されかけた。その上住み込みで働いていたために、使用していた部屋もものの見事に破壊された。とても薬を取り戻しに帰れる状況ではなかったのだ。
「女は悩みに悩んだそうだよ。暗殺相手とは言え、女はほだされた男に惚れかけてもいた。そんな奴との間にできた子供だ、産んで育ててもいいと考えた。暗殺業しかやってこなかった奴だけど、一人の女としての幸せとやらを一度は噛み締めてみたいってね。だけど──」
結局、女はその子供をおろすと決めたらしい。
理由は単純なもので、子供を産めば己を狙っている暗殺者や軍に捕らえられる確率が高い。見つかれば、殺される確率が高い。加えて敵は女の生死なんて一切気にしない相手たちだ。どうでもいい、しかし死んでいれば死んでいるほうで都合もいい。そう考えるだろうという人物たちだということを、女は安易に予想ができたとのこと。その時に感じてしまったのだ。
己の子供とはいえ他人のために己の命を差し出したくない、と。
「どこまでいっても女は自分勝手だった。惚れた相手と己の子供よりも、自分の命のほうが大切だって考える大馬鹿者だったのさ」
「……」
「死ぬのは一向に構わない。だけどその前に……死ぬ前に一度くらいは、己自身が納得する人生を生きてみたい。そのためなら、例えどんなことがあっても生き抜いてやる。子供をおろした後、女はそう心に決めて信念としたのさ」
そんな時に女が出会ったのが、カーサのボスだったと語る。世の中を腐らせる人間たちを蹂躙、支配するために立ち上げたという組織、カーサ。女はそれを聞いたとき、どんな素晴らしい貴族や高説を垂れる政治家よりも魅力的に思えたらしい。
「だから女は素直にカーサに所属した。力をつけて、他の奴らを圧倒するための修練を怠らなかった。ここが自分の居場所だと、帰る場所だと決めてね。そんでもって、世界をカーサの遊び場に作り替えるのが楽しそうだって考えたんだと」
「世界を、カーサの遊び場に……?」
「そうさ。正義なんてものを振りかざして我が物顔で世界を牛耳っている奴らからそれを取り上げて、自分たちの楽園にする。どう?楽しそうだと思わないか?」
「おとぎ話のような夢物語ですね」
はぁ、とため息をつくヴァダースに対し、シューラはからからと笑う。
「いいじゃんよ。それくらい夢見たってここにゃあ誰も裁く奴なんていないんだ。まぁあれだ。アタシが言いたいことは、自分の場所がここにしかないって思っていようがどうしようが、生きてりゃ夢も見れるし、己の守りたいものってやつを守れるんだよ」
「……気付いていたんですか?」
「言ったろ、アンタはわかりやすいほどに素直だって。ここ数日間毎日アタシにボコられてるのに反撃の一つもできなくて、泣き言の一つや二つ考えてるだろうなってこたぁお見通しさ」
「泣き言なんて言ってません」
「はいはい、そういうことにしといてやるよ。けどなヴァダース。生きてりゃあ、こんな偏屈な場所でもちったぁ見つけられるんだよ。自分の居場所ってのをな」
シューラはそういうと、ヴァダースの頭に手をのせてにやりと笑う。どうも子ども扱いされている気分になるが、ぐっと堪える。
「ここにしか、じゃないんだ。ここから居場所を広げていく、そう考えりゃアンタはこれから変わっていけるだろうよ」
「……もしかして、励ましてくれているんですか?」
「ばーか。ンなわけないだろ、アタシのためだ。ボスからもアンタは一目置かれているようだからね、そんな奴のお守をしてんだ。上に上がってくれればアタシも鼻が高いってもんさ」
「期待するだけ無駄でしたか」
「そういうこった。その仮面が剥がれる時が今から楽しみだよ」
「どうでしょうね。その前に、私が貴方を殴り飛ばすほうがきっと先です」
そう言い返せばやはりシューラは楽しそうに笑い、一発だけヴァダースの頭を叩いてから葉巻を吹かすのであった。
「目が覚めたか。気分はどうだい?」
「……まぁ、ほどほどって感じですよ」
「そうか。そいつは結構」
満足そうに笑うと、彼女はヴァダースのベッドに座る。襲撃されたときに打ち込まれたらしい薬品については、全部抜き取ったとのこと。そのおかげか、体が感じていた倦怠感は消えていた。体調的に問題ないことがわかると、ヴァダースは上体を起こす。一つため息をついてから、ここに運び込まれるまでの出来事を訊ねる。
己が襲撃された時に発動した右目は衝撃波となって、地下施設全体に影響をもたらしたらしい。修練のために従えられていた魔物たちは一斉にひるみ、発生源から遠く離れた場所にいたはずの訓練生にも、心臓発作などのダメージが及んだ。
原因究明のためシューラは発生源を突き止め、そこで倒れていたヴァダースと廃人になった複数名の訓練生を発見。事情聴取をするにも、その場でまともに発言できそうな人物はいなかったため、まずは全員を救護室に運んだ、とのことだ。
「そう、ですか……」
「幸い、アンタ自身にダメージはない。それならそれでいいさ」
「しかし……規則を、破りました。だからもう……」
「ああ、そのことだけどね。安心しな」
シューラはシガーカッターで葉巻の先端を切り落とす。安心しろとはどういうことだろうか、と視線で問いかけるヴァダース。彼女は彼の顔を一瞥してから理由を述べる。
「連中の中に、奇跡的に意識を取り戻した奴がいてね。一切合切を吐いてもらったのさ。アンタを強姦しようとしたこと、そのために薬等を用意したこと、何もかもをね」
「そう、でしたか」
「ああ。そんでそのあと協議されてね、アンタには正当防衛を与える機会が与えられることになった」
「機会……つまり条件がある、ということですか?」
「そういうこった」
「それで、その内容は?」
問いかけるも、実際のところヴァダースにはその予想ができていた。シューラもそのことに気付いていたのか、にやりと意味深めいた笑みを浮かべてから告げる。
「次の昇進試験において、優勝すること。これが、アンタを無罪放免にするための条件ってわけだ」
「なるほど、やはりそうですか」
「……どうした、思ったより冷静じゃないか。悲観すると思ったんだがね」
「いえ、まさか。……むしろ、上に上がれる機会がこんなにも早く巡ってくるなんて、私にとっては好都合というものです」
言い切って笑って見せる。初めて目にする様子のヴァダースに一瞬目を見開いたシューラだったが、やがて楽しそうに笑った。
「そうか、それがアンタの戦い方ってヤツか。成程、そうやって仮面を着けて別の己を演じるんだな。いやはや一見すりゃあただの虚勢だけど、元お坊ちゃんにしては上等な考えじゃないか。それがアンタの正義ってわけかい?」
「正義なんて、そんな大それたものではありません。ただ、私の信念の一つなだけです。それに正義なんて言葉は、悪党には似あわないでしょう?」
「言うようになったじゃないか。いいね、益々アンタを正式な戦闘員にしたくなったってもんだ。ついでだ、ちょいと昔話をしてやるよ」
シューラは一本目の葉巻を吸い終わると、次の葉巻に火をつけた。
空間に揺蕩う煙をふうっと吐きながら、どこか遠い目をする。
「ある馬鹿女の話さ。その女は昔は、とある政治家御用達のハニートラップ要員だった。要は色仕掛けを使った諜報活動さ。しかもただのハニトラ要員じゃない。指定された相手の暗殺も仕事の中に組み込まれていた」
「暗殺……」
「ああそうさ。男も女も関係なく、その女は食らって情報を奪って殺しを繰り返していた。その女は元々孤児だったこともあってね、それしか能がなかったし、それしか生きていくための道がなかった」
そうして屍の山を築きながら、女は色仕掛けと暗殺を生業として生きていたと彼女は語る。語っているときのシューラの表情は、なんとも言い難かった。懐かしむような、憎んでいるような、憐れんでいるような。それらの感情が複雑に絡み合っている。その表情で、ヴァダースはある答えを見出す。
彼女の語る女の話とは、シューラ自身の過去の話なのだと。しかしそれを訊ねるのは野暮というものだと理解し、閉口して聞き役に回る。
「ちょっと色仕掛けを仕掛けるだけで、馬鹿な政治家やお貴族様は女に簡単に情報を流した。まぁそいつらも女の腹ン中に種なり欲望やらをぶちまけてたけどね、最終的には女の前で腹上死を見せてやったものさ」
「仕事が上手だったんですね」
「天職にも思えたんじゃないかね、まぁどうでもいいけど。けど、物事ってのは順調にいけばいく程その反動ってのは返ってくるもんさ。ある時、女は失敗した。不覚にも暗殺相手にほだされやがった。その結果、暗殺は失敗。女は逃走を図った」
「……雇い主に助けを求めたんですか?」
「ご名答。愚かな女は政治家が助けてくれるものだと信じて、求めた。けど……政治家は残酷に女に告げた。お前の情報を軍に売った、とね。暗殺が失敗したら、女はいとも簡単に切り落とされたのさ。こうも言われたよ、お前の変わりはいくらでもいるってな」
そのあと、女は己の命が惜しいがために軍の追手や政治家が雇った暗殺者から逃げ回る人生を送ったと聞く。トカゲの尻尾切と同じだ、とシューラは嘲笑する。
そんな中、逃走中に女は己が身重だと知った。相手は一人しか考えられなかったらしい。最後の仕事として抱かれ、ほだされた男。少し考えれば、女は迂闊な行動をしていた。
いつもは仕事の後には薬を飲み、妊娠しないように細心の注意を払っていたらしい。しかし暗殺に失敗した夜はそれを手にする前に政治家に助けを求め、そして裏切られ殺されかけた。その上住み込みで働いていたために、使用していた部屋もものの見事に破壊された。とても薬を取り戻しに帰れる状況ではなかったのだ。
「女は悩みに悩んだそうだよ。暗殺相手とは言え、女はほだされた男に惚れかけてもいた。そんな奴との間にできた子供だ、産んで育ててもいいと考えた。暗殺業しかやってこなかった奴だけど、一人の女としての幸せとやらを一度は噛み締めてみたいってね。だけど──」
結局、女はその子供をおろすと決めたらしい。
理由は単純なもので、子供を産めば己を狙っている暗殺者や軍に捕らえられる確率が高い。見つかれば、殺される確率が高い。加えて敵は女の生死なんて一切気にしない相手たちだ。どうでもいい、しかし死んでいれば死んでいるほうで都合もいい。そう考えるだろうという人物たちだということを、女は安易に予想ができたとのこと。その時に感じてしまったのだ。
己の子供とはいえ他人のために己の命を差し出したくない、と。
「どこまでいっても女は自分勝手だった。惚れた相手と己の子供よりも、自分の命のほうが大切だって考える大馬鹿者だったのさ」
「……」
「死ぬのは一向に構わない。だけどその前に……死ぬ前に一度くらいは、己自身が納得する人生を生きてみたい。そのためなら、例えどんなことがあっても生き抜いてやる。子供をおろした後、女はそう心に決めて信念としたのさ」
そんな時に女が出会ったのが、カーサのボスだったと語る。世の中を腐らせる人間たちを蹂躙、支配するために立ち上げたという組織、カーサ。女はそれを聞いたとき、どんな素晴らしい貴族や高説を垂れる政治家よりも魅力的に思えたらしい。
「だから女は素直にカーサに所属した。力をつけて、他の奴らを圧倒するための修練を怠らなかった。ここが自分の居場所だと、帰る場所だと決めてね。そんでもって、世界をカーサの遊び場に作り替えるのが楽しそうだって考えたんだと」
「世界を、カーサの遊び場に……?」
「そうさ。正義なんてものを振りかざして我が物顔で世界を牛耳っている奴らからそれを取り上げて、自分たちの楽園にする。どう?楽しそうだと思わないか?」
「おとぎ話のような夢物語ですね」
はぁ、とため息をつくヴァダースに対し、シューラはからからと笑う。
「いいじゃんよ。それくらい夢見たってここにゃあ誰も裁く奴なんていないんだ。まぁあれだ。アタシが言いたいことは、自分の場所がここにしかないって思っていようがどうしようが、生きてりゃ夢も見れるし、己の守りたいものってやつを守れるんだよ」
「……気付いていたんですか?」
「言ったろ、アンタはわかりやすいほどに素直だって。ここ数日間毎日アタシにボコられてるのに反撃の一つもできなくて、泣き言の一つや二つ考えてるだろうなってこたぁお見通しさ」
「泣き言なんて言ってません」
「はいはい、そういうことにしといてやるよ。けどなヴァダース。生きてりゃあ、こんな偏屈な場所でもちったぁ見つけられるんだよ。自分の居場所ってのをな」
シューラはそういうと、ヴァダースの頭に手をのせてにやりと笑う。どうも子ども扱いされている気分になるが、ぐっと堪える。
「ここにしか、じゃないんだ。ここから居場所を広げていく、そう考えりゃアンタはこれから変わっていけるだろうよ」
「……もしかして、励ましてくれているんですか?」
「ばーか。ンなわけないだろ、アタシのためだ。ボスからもアンタは一目置かれているようだからね、そんな奴のお守をしてんだ。上に上がってくれればアタシも鼻が高いってもんさ」
「期待するだけ無駄でしたか」
「そういうこった。その仮面が剥がれる時が今から楽しみだよ」
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