Fragment-memory of moonlight-

黒乃

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第二話

第二十五節 知恵を持つ者たち

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 最高幹部としての初めての仕事は、これより行われる四天王の選出試験の監督官だった。最高幹部の時と違い、まだ選出される可能性が高いと考えられたのか。最高幹部の選定試験の時と比べ、志願者の数は遥かに多かった。確かに正式な戦闘員全員に資格がある、とローゲは言っていたが。
 痛くなる頭を押さえながらため息をつき、まず手元にある資料に目を通すことにした。それは一次選定試験の折に志願者全員に受けさせた、簡単な筆記試験の答案用紙だ。そこでまずは学力的に能のない者をふるいにかける。勿論その筆記試験の内容はローゲが考えたものであり、公平性が確立されているものであると最初に説明した。その説明に、志願者は全員納得して筆記試験に臨んだ。

 選出方法はローゲから指示があった。まず全体の答案から平均点を出し、その平均点以下の者は脱落。次にヴァダースが最高幹部の試験の時に受けた学力試験と同じ問題で、指示を出し一人を殺す選択をした者以外を脱落。そこで残った人員で次の模擬試験を執り行う、とのことだった。その結果、残った人数は四十名。

 ひとまずキリのいい人数に収まってくれて一安心だ。採点と仕分けを終わらせたヴァダースは、一つため息をつく。そこまでできたらボスに報告し、一次試験合格者には一週間後に修練場に集まるよう指示を出す。そしてヴァダースは一週間後に間に合うように合格者を振り分け、四つ分の表として一覧にした。その表は、二次選定試験の模擬戦闘の対戦票でもあった。

 四天王の模擬戦闘は、グループ内での総当たり戦。まず各グループ十名ずつに分けられた一次試験合格者たちで、ワンオーワンの模擬戦闘を行う。グループ内で勝率の高い上位一名が四天王として選出される、というものだった。
 模擬戦闘のルールは、基本的に最高幹部の選定試験の時と内容は同じ。相手をダウンさせた者が勝利となる。魔術行使に関しては無制限。しかし相手を殺害、またはそれに値するダメージを与えた者は失格。また今回は人数も多いということで、時間制限を設けることになった。そのことについて、ヴァダースが説明する。

「時間制限内に相手をダウンさせられなかった場合は、その場は一時中断として総当たり戦ののちにサドンデスを行います。その際には、こちらで用意したこの腕輪を装着していただきます」

 そう告げてから、ヴァダースは胸ポケットから手首にはめる腕輪を見せた。それはローゲが制作したものであり、お互いに装着することで4000とカウントが表示される。それは各々のライフポイントを指していて、その数字がゼロになった者が敗者として決定される。
 サドンデスになった場合は、いかに早く相手のライフポイントをゼロにさせるかが、勝負の分かれ目になる。また、治癒術を使用してもライフポイントそのものの回復はないので、注意すること。その説明で、志願者は納得してくれたようだ。

「審判は、最高幹部選定試験時と同様にボス自らが務めてくださいます。説明は以上になります、よろしいですね?」

 ヴァダースの言葉に、志願者たちが一様に敬礼する。それを御意と捉え、ヴァダースは早速各々戦闘を始めるよう指示を出した。そして彼は修練場内にあるバルコニーへと向かう。そこからなら、修練場全体を見下ろせるからだ。彼の隣には、自分と同じように修練場の様子を見守るローゲの姿。どうやら、隣の人物は分身体ではないようだ。二次選定試験が始まって少ししてから、彼から声をかけられる。

「最高幹部としての威厳が板についてきたではないか、ダクター」
「お世辞は結構です、ボス。私は、私の仕事をこなしているだけですので」
「世辞などではないのだがな。それで……どうだ?己の部下になりそうな人物の候補は、この中にいるか?」
「……そうですね……」

 ローゲの言葉に、ヴァダースはやや考えてから修練場を見下ろした。

 ******

 ヴァダースが気になった人物は、主に三名。

 一人目は、緋色の髪を持つ男。名前はカサドル・スヴァット。彼は筆記試験の成績をトップで通過していた。試験中は冷静に周囲の状況を把握しているようで、物事に対する理解も早いように見受けられる。
 戦闘スタイルは主に接近戦を得意としているようだ。手にしている武器は、あれは黒い針だろうか。それを投擲しながら、あるいは形状を変化させて斧や剣に見立てて攻撃を仕掛けている。魔術は自然現象を元にしているものが多いようだ。
 相手の弱点を的確について、一気にダウンへと持ち込む。加えて無駄な動きもないようで、何試合か戦ったはずだが息が全く乱れていない。恐らく、彼は確実に四天王になるだろう。

 二人目はシャサールだ。
 彼女の頭の良さとキレの良さは、自分が一番理解している。また判断力は人一倍鋭く、カサドルほどではないにしろ状況処理能力も高い。筆記試験も、以前勉学を教えたことが功を奏し難なくクリアしていた。
 戦闘スタイルは己が知っている通り、鞭を使い相手を牽制しながらも己の領域内に捉え、その隙を狙い魔術攻撃で突いている。戦闘を自分のペースへと持っていく能力に関しては、彼女の右に出る者はいないだろう。そしてこれはヴァダースも初めて目にしたが、彼女は影を魔術で使役する術を展開した。

「そうか……これが、貴女の編み出した新技ということですか……」

 影を使役する術なんて、想像以上に難易度が高いだろうに。彼女の戦闘相手は動揺を隠せないままに、シャサールの術の前に倒れていく。彼女はきっと、四天王の地位を手に掴んで見せることだろう。

 三人目は、褐色の肌を持つ男。リエレン・クリーガーというこの男は、ほかの戦闘員とは何か違う、別のものを持っていた。筆記試験の点数は悪くない。しかし少々コミュニケーション能力に乏しいようで、独特な話し方をしていた。
 少々調べたが、彼が犯した罪は殺人。なんでも彼には自らの力を極めるという目的があり、己より強い者を前にすると闘争本能が刺激され抑えられないとのこと。そのせいで何人もの人間、他種族を殺してしまったことで世間から追放され、彷徨っていたところをローゲに拾われ、今に至る。
 とはいうものの、どうやらむやみやたらに戦闘をけしかけるわけでもなく、彼の中で線引きをしているのか、カーサに忠誠を誓っている姿に偽りはない。
 戦闘スタイルは、己自身の身体強化による武術。しかも彼の執念の成果か、使用する際は腕が人間のものとはかけ離れた姿に変化している。なるほど、これを成長させないわけにはいかない。

 ******

「まぁ……こんなところでしょうか」
「四天王だというのに、あと一人候補はいないのか」

 やれやれ、といった様子でローゲがヴァダースを嘆く。それに対して彼は横目で眺めながらも、ため息をつく。

「正直、あの三人以外は雨後の筍です。突出した何かがあるわけでもなさそうですし、しかも運がいいのか悪いのかその三人は各々別のグループになっていますからね。まぁ、優秀な者として考えましょう」
「なんと冷たい男よ」
「カーサ強化のために必要なことだと、私は思っているんですが」
「そうか、それはなんとも嬉しいことだな」

 その会話を最後に、あと時間は二次選定試験を見守る。
 そして、一日をかけて開催された二次試験の模擬戦闘試験が終了。この時点で、四天王選出は決定的なものとなった。整列している志願者たちに向かって、ローゲが彼らに告げる。

「もう各々理解しているだろうが、現時点をもって四天王は決定。名を呼ばれた戦闘員は前に出るように」

 ローゲが四人の戦闘員の名を呼ぶ。
 選ばれた戦闘員のうち、三名はヴァダースも目をつけていた人物だった。カサドルにシャサール、そしてリエレン。そして最後の一人は、第四グループで妙な薬を自らに投薬し、人体強化をもって制したキゴニス・マキナという人物だった。

 正直なところ、ヴァアースはこのキゴニスという人物に対してだけは、嫌悪感に似たものを抱いていた。事前に調べていたことで把握していたが、彼はあの世界保護施設から首切りを言い渡された男だった。
 どうやら今から四年ほど前にある失態を犯し、それが原因で施設に甚大な被害を与える結果になったのだと。その責任を追及させられ、彼は世界保護施設から捨てられ、着の身着のままカーサに転がり込んできたのだとか。
 そんな彼は今はローゲや己に忠誠を誓っているが──何か裏があると、彼の第六感が告げている。

 しかし着任した今はひとまずは様子見することにしようと、ヴァダースは何も言わずに彼らの四天王任命を見守った。その後ヴァダースは彼らをボスの部屋へと案内して、次に四天王内をまとめるリーダーとしてカサドルを指名。
 彼なら、優れた統率力で自分が不在の時には代わりに四天王をまとめてくれるだろう、そう確信していたからだ。ヴァダースの指示にカサドルは従い、ほかの三人もその指示に納得した。

 揃った最高幹部と四天王。そして彼らにまとめられ行動を起こす、戦闘員たち。
 これが、新生カーサの誕生である。
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