50 / 60
第三話
第五十節 迷いを解き放つ
しおりを挟む
メルダーから突然の告白を受けて、数日たったある日のこと。ヴァダースとメルダーの二人は今、カーサ本部ではなく別大陸のアウストリ地方にいた。北ミズガルーズ地区にある玄関口、港町フルーア。そこで営業しているカフェの一角でコーヒーを飲みながら、どうしてこうなったのかと自問自答するヴァダースである。
******
事の発端は、メルダーからの告白を受けた翌日のことにまで遡る。その日の仕事を終えようとしたときに、二人はローゲから呼び出しを受けカーサ本部のボスの執務室に足を運んだ。
その日は前日のこともあり、ヴァダースとメルダーの間には、どことなくぎこちない空気が流れていた。最初は何か叱責を受けるかとも思われたが、特にこのことが原因で仕事に支障をきたしている、というわけではない。何か別の任務でもあるのだろうかと思考を巡らせながらローゲのもとまで到着すると、彼から意外な言葉をかけられたのである。
「ダクター、ラフィネ。ここしばらくお前たちはよく働いてくれている。お前たちの働きのお陰で、ここ最近のカーサの戦力も安定している。このことを評して、お前たちに二人に休暇を命じることにした」
「……はい……?」
突拍子もないローゲの言葉に、思わず言葉を失った。それはメルダーも同じだったらしく、しばらく硬直してから再度どういうことか尋ねた。しかし返ってきた言葉はやはり同じものであり、増々混乱するヴァダースとメルダーである。
「ヒトは休息を取らなければ余裕をなくす。そうなれば、仕事の効率も下がってしまうものだ。だからこそ時に休暇は必要になってくる。それに関して、上に立つ者が仕事ばかりしていては、下の者が休暇を取りにくいだろう?」
「仰ることは理解できますが……。最高幹部両名が同時に休暇など、守りが手薄になってしまうのではないですか?」
「なるほど、お前の言い分はわかる。しかしダクター、その意見は言い換えれば、お前は自ら選出した四天王たちの実力を信じていない、ということになる」
ローゲに四天王たちを信じていないのか、と尋ねられて咄嗟にそんなことはないと反論した。彼の返事を予想していたのか、ローゲは満足そうに頷く。
「であれば、何も問題はあるまい?なに、ときには四天王たちに仕事を任せてみるのも、いい経験になろう。お前たちにとっても、四天王たちにとってもな」
「はぁ……」
「休暇は、そうだな……。そういえばラフィネの誕生日が近かったな。では、その日に被るように調整しよう。異論はないな?」
ボスであるローゲの意見を前に、ヴァダースたちは反論する術を持たない。仕方なくその命令を拝命することになったのである。
******
そんなこんなで二人は街に繰り出し、久方ぶりの休日を楽しんだ。そして今はこうして、カフェでお茶を嗜んでいるというわけである。ちなみに服装もいつもの戦闘服ではなく、よそ行きの格好となっている。
二人の休暇のことを聞いたシャサールがコーディネートしてくれたのだ。その甲斐あってか、周りの人間はヴァダースたちの正体に気付かないまま、自分たちの会話に花を咲かせている。
「それにしても、急に休暇なんて言われて最初はどうなるかと思いましたねダク……ツクヨさん」
「え、ええヒナタ。まさかこんなことになるとは思いませんでした……」
ちなみにだが、万が一のことを考えて二人は本名ではなく、いつぞや使っていた偽名で過ごすことに決めていた。カーサの最高幹部として、その名前が世間に知られている可能性も少なくない。自分たちの正体を隠すための防止策、というわけである。
「えっと、このあとどうしましょう?」
「そう、ですね……。どうするもなにも、今日は貴方の誕生日なのですから。よろしければ、何か差し上げますよ」
「い、いやぁ!?そんなの申し訳ないですよ!」
「ですが、その……決まってないんですから。貴方のリクエストに応えるというのも悪くないと、思いまして……」
先日のメルダーの告白の一件以来、どうもメルダーとの会話にぎこちなさを覚えてしまう。実は告白を受けた翌日、メルダーの方から告白について問いただされた。どうやら彼は酒に酔っても記憶は残るタイプだったようで、自分が酔った勢いでヴァダースに告白したことを、しっかりと覚えていたと告げられたのだ。
まさか覚えていたとは思わなかった。もし酔い潰れた後のことを覚えていない様子だったら、彼から何か聞かれても聞き流そうと思っていたのだ。その結果ヴァダースも告白されたことを思い出し、思わず言葉に詰まってしまった。その様子にメルダーも思うところがあったらしく、互いに顔を赤めるだけでそれ以上のことを話す気にも聞く気にもなれなかった。
ヴァダースの言葉の後、しどろもどろになりながらメルダーが答える。
「じ、じゃあその……ツクヨさんの手料理が、食べたいです」
「そんなのでいいんですか?」
「はい。ツクヨさんの料理美味しいですし……久々に、食べたいなって」
にこ、と笑うメルダー。その笑顔を見ていると、いいようのない感情が胸の中で渦巻いて、ある種の苦しささえ覚える。それを誤魔化すためにコーヒーを飲みながら、わかったと一つ頷いた。
「……なら、材料をここで調達して最後にケーキでも購入してから宿舎に帰りましょうか。貴方の部屋のキッチンをお借りします」
「はい!料理のリクエストも、いいですか?」
「それは、もちろん」
じゃあ、と一呼吸おいてから、メルダーは料理のリクエストを告げる。
それからその料理の材料を市場で調達して、最後に港の近くにあるケーキショップで気になったケーキを購入する。そしてヴェストリ地方アルヴ行きの船に乗船して、港町フルーアを後にするのであった。
数時間後。アルヴに到着した二人は街から少し離れた位置まで移動すると、二人は懐から空間転移の鉱石を取り出し、それを発動させる。万が一のためにと、事前に所持していたのだ。行き先はアルヴとは反対の位置に存在する都市、ヴァーナヘイム。本部の隣にあるカーサ戦闘員の宿舎前にも、拠点用培養液が設置されているのだ。
踏みつぶされた鉱石から魔法陣が広がり、二人を包むと一瞬のうちに彼らをヴァーナヘイムまで空間転移させた。どうやら食材もケーキも無事なようだ。
メルダーの部屋に到着してからは、あっという間だった。ヴァダースが夕食を作っている間に、メルダーも部屋の片づけをしながら時間をつぶしていた。やがて完成した料理をテーブルに運び、折角だからとメルダー用に買ったワインも用意して、夕食の準備が整った。
テーブルに並べられた料理は、アサリと豆乳のクリームパスタとホウレンソウのソテーの二つだ。誕生日なのにこんな簡素な料理でいいのかと何度も確認したが、メルダーはそれがいいと言って聞かなかった。なんでも、彼にとってその二つは思い出の味なのだとか。そんな理由を前にされてはヴァダースもそれ以上言えず、彼がそれで満足するのならいいかと了承したのだ。
着席してワイン──ヴァダース用にノンアルコールのワインも用意してある──をグラスに注いでから、二人はグラスを掲げた。
「それでは。誕生日おめでとうございます、メルダー」
「ありがとうございます、ダクターさん!」
乾杯を交わし、二人は夕食を食べ始める。メルダーは満足そうにパスタを口に運びながら、美味しいと呟く。
「やっぱり美味しいです!」
「そんなに気に入られるとは思っていませんでした」
「俺にとってこのメニューは、初めて家族以外の人から振る舞われた料理ですもん。一口食べたとき、こんなに美味しいパスタは初めてだって感動したんですよ」
「こんなものでよければ、また作りますよ」
「ありがとうございますっ」
それから穏やかな夕食の時間を過ごした二人。会話も弾みながら食後のケーキも食べ、一息ついた頃。メルダーが話を切り出す。
「あの……ダクターさん」
「なんでしょう?」
「その……この間は、すみませんでした」
「この間とは?」
「……酔った勢いで、貴方に告白したことです」
メルダーの言葉に、ヴァダースは心臓を直接掴まれたような感覚に陥った。そんな彼をよそに、メルダーは語り掛けるように話を続ける。酔ってはいたが、あの時の言葉に嘘はないと。
「本気で、一人の人間としてダクターさんのことが好きなんです。でもそのせいで、最近貴方を困らせていることにも気付いていました。だから、俺の言葉は忘れてください。貴方を困らせるようなこと、したくないですから」
そう言ってどこか悲しそうに笑うメルダー。そんな彼を見てしまっては、こちらとしても言いたいことがある。
「ええそうですね、困惑していましたよ。突然告白されて、愛してるなんて言われて、私はどうしたらいいか分からなくなった」
「す、すみませ──」
「ですが困惑してしまうほどに、告白されてから私はどうしようもなく貴方のことを考えていた。貴方の顔を見るたびに、貴方の声を聞くたびに、自分がどうしようもなくなって、逃げていたんです。自分の感情を抑えるのに必死だったんですよ……!」
そう言うや否や、ヴァダースは勢いよく立ち上がるとメルダーに近寄り、彼の唇に己のそれを重ねた。気の遠くなるような一瞬を味わってから、ゆっくりと離れる。
「ダクター、さん……!?」
「……これが、私の答えです。私は、貴方を愛しています」
「……!ほ、本当、に……?」
「ええ。こんな時に冗談は言いません」
メルダーの目を見つめて告げれば、目の前の彼は感極まったかのように瞳を潤ませながら、口に手を当てる。やがて指の隙間から、嬉しいと言葉が零れ落ちた。
「夢じゃ、ないんですよね?」
「夢であってたまるものですか。前々から、本当はわかっていました。私は貴方を失いたくないほどに、愛しているんだと」
「っ……ダクターさんっ!」
メルダーがヴァダースの抱き着く。ヴァダースはその行動に驚きはしたが、優しく抱きしめ返す。まるで匂いを確かめるように顔を埋められながら、メルダーも言葉を紡いだ。
「大好きです。ダクターさんのこと、誰よりも愛しています」
「……ヴァダース」
「え?」
「……名前で、呼んでください。カーサに所属してからファミリーネームにはその、あまり馴染みがないですから」
「わかりました。では……ヴァダースさん」
メルダーはヴァダースの名前を呼び、一度離れて彼を見上げる。ヴァダースもその視線の意味に気付き、再び口づけを交わす。今までのどんなキスよりも蕩けるようなそれに、胸が幸福感で満たされる感覚を覚える。堪能してから、余韻に浸るように離れる。幸せだ、と言わんばかりに笑顔になる二人であった。
******
事の発端は、メルダーからの告白を受けた翌日のことにまで遡る。その日の仕事を終えようとしたときに、二人はローゲから呼び出しを受けカーサ本部のボスの執務室に足を運んだ。
その日は前日のこともあり、ヴァダースとメルダーの間には、どことなくぎこちない空気が流れていた。最初は何か叱責を受けるかとも思われたが、特にこのことが原因で仕事に支障をきたしている、というわけではない。何か別の任務でもあるのだろうかと思考を巡らせながらローゲのもとまで到着すると、彼から意外な言葉をかけられたのである。
「ダクター、ラフィネ。ここしばらくお前たちはよく働いてくれている。お前たちの働きのお陰で、ここ最近のカーサの戦力も安定している。このことを評して、お前たちに二人に休暇を命じることにした」
「……はい……?」
突拍子もないローゲの言葉に、思わず言葉を失った。それはメルダーも同じだったらしく、しばらく硬直してから再度どういうことか尋ねた。しかし返ってきた言葉はやはり同じものであり、増々混乱するヴァダースとメルダーである。
「ヒトは休息を取らなければ余裕をなくす。そうなれば、仕事の効率も下がってしまうものだ。だからこそ時に休暇は必要になってくる。それに関して、上に立つ者が仕事ばかりしていては、下の者が休暇を取りにくいだろう?」
「仰ることは理解できますが……。最高幹部両名が同時に休暇など、守りが手薄になってしまうのではないですか?」
「なるほど、お前の言い分はわかる。しかしダクター、その意見は言い換えれば、お前は自ら選出した四天王たちの実力を信じていない、ということになる」
ローゲに四天王たちを信じていないのか、と尋ねられて咄嗟にそんなことはないと反論した。彼の返事を予想していたのか、ローゲは満足そうに頷く。
「であれば、何も問題はあるまい?なに、ときには四天王たちに仕事を任せてみるのも、いい経験になろう。お前たちにとっても、四天王たちにとってもな」
「はぁ……」
「休暇は、そうだな……。そういえばラフィネの誕生日が近かったな。では、その日に被るように調整しよう。異論はないな?」
ボスであるローゲの意見を前に、ヴァダースたちは反論する術を持たない。仕方なくその命令を拝命することになったのである。
******
そんなこんなで二人は街に繰り出し、久方ぶりの休日を楽しんだ。そして今はこうして、カフェでお茶を嗜んでいるというわけである。ちなみに服装もいつもの戦闘服ではなく、よそ行きの格好となっている。
二人の休暇のことを聞いたシャサールがコーディネートしてくれたのだ。その甲斐あってか、周りの人間はヴァダースたちの正体に気付かないまま、自分たちの会話に花を咲かせている。
「それにしても、急に休暇なんて言われて最初はどうなるかと思いましたねダク……ツクヨさん」
「え、ええヒナタ。まさかこんなことになるとは思いませんでした……」
ちなみにだが、万が一のことを考えて二人は本名ではなく、いつぞや使っていた偽名で過ごすことに決めていた。カーサの最高幹部として、その名前が世間に知られている可能性も少なくない。自分たちの正体を隠すための防止策、というわけである。
「えっと、このあとどうしましょう?」
「そう、ですね……。どうするもなにも、今日は貴方の誕生日なのですから。よろしければ、何か差し上げますよ」
「い、いやぁ!?そんなの申し訳ないですよ!」
「ですが、その……決まってないんですから。貴方のリクエストに応えるというのも悪くないと、思いまして……」
先日のメルダーの告白の一件以来、どうもメルダーとの会話にぎこちなさを覚えてしまう。実は告白を受けた翌日、メルダーの方から告白について問いただされた。どうやら彼は酒に酔っても記憶は残るタイプだったようで、自分が酔った勢いでヴァダースに告白したことを、しっかりと覚えていたと告げられたのだ。
まさか覚えていたとは思わなかった。もし酔い潰れた後のことを覚えていない様子だったら、彼から何か聞かれても聞き流そうと思っていたのだ。その結果ヴァダースも告白されたことを思い出し、思わず言葉に詰まってしまった。その様子にメルダーも思うところがあったらしく、互いに顔を赤めるだけでそれ以上のことを話す気にも聞く気にもなれなかった。
ヴァダースの言葉の後、しどろもどろになりながらメルダーが答える。
「じ、じゃあその……ツクヨさんの手料理が、食べたいです」
「そんなのでいいんですか?」
「はい。ツクヨさんの料理美味しいですし……久々に、食べたいなって」
にこ、と笑うメルダー。その笑顔を見ていると、いいようのない感情が胸の中で渦巻いて、ある種の苦しささえ覚える。それを誤魔化すためにコーヒーを飲みながら、わかったと一つ頷いた。
「……なら、材料をここで調達して最後にケーキでも購入してから宿舎に帰りましょうか。貴方の部屋のキッチンをお借りします」
「はい!料理のリクエストも、いいですか?」
「それは、もちろん」
じゃあ、と一呼吸おいてから、メルダーは料理のリクエストを告げる。
それからその料理の材料を市場で調達して、最後に港の近くにあるケーキショップで気になったケーキを購入する。そしてヴェストリ地方アルヴ行きの船に乗船して、港町フルーアを後にするのであった。
数時間後。アルヴに到着した二人は街から少し離れた位置まで移動すると、二人は懐から空間転移の鉱石を取り出し、それを発動させる。万が一のためにと、事前に所持していたのだ。行き先はアルヴとは反対の位置に存在する都市、ヴァーナヘイム。本部の隣にあるカーサ戦闘員の宿舎前にも、拠点用培養液が設置されているのだ。
踏みつぶされた鉱石から魔法陣が広がり、二人を包むと一瞬のうちに彼らをヴァーナヘイムまで空間転移させた。どうやら食材もケーキも無事なようだ。
メルダーの部屋に到着してからは、あっという間だった。ヴァダースが夕食を作っている間に、メルダーも部屋の片づけをしながら時間をつぶしていた。やがて完成した料理をテーブルに運び、折角だからとメルダー用に買ったワインも用意して、夕食の準備が整った。
テーブルに並べられた料理は、アサリと豆乳のクリームパスタとホウレンソウのソテーの二つだ。誕生日なのにこんな簡素な料理でいいのかと何度も確認したが、メルダーはそれがいいと言って聞かなかった。なんでも、彼にとってその二つは思い出の味なのだとか。そんな理由を前にされてはヴァダースもそれ以上言えず、彼がそれで満足するのならいいかと了承したのだ。
着席してワイン──ヴァダース用にノンアルコールのワインも用意してある──をグラスに注いでから、二人はグラスを掲げた。
「それでは。誕生日おめでとうございます、メルダー」
「ありがとうございます、ダクターさん!」
乾杯を交わし、二人は夕食を食べ始める。メルダーは満足そうにパスタを口に運びながら、美味しいと呟く。
「やっぱり美味しいです!」
「そんなに気に入られるとは思っていませんでした」
「俺にとってこのメニューは、初めて家族以外の人から振る舞われた料理ですもん。一口食べたとき、こんなに美味しいパスタは初めてだって感動したんですよ」
「こんなものでよければ、また作りますよ」
「ありがとうございますっ」
それから穏やかな夕食の時間を過ごした二人。会話も弾みながら食後のケーキも食べ、一息ついた頃。メルダーが話を切り出す。
「あの……ダクターさん」
「なんでしょう?」
「その……この間は、すみませんでした」
「この間とは?」
「……酔った勢いで、貴方に告白したことです」
メルダーの言葉に、ヴァダースは心臓を直接掴まれたような感覚に陥った。そんな彼をよそに、メルダーは語り掛けるように話を続ける。酔ってはいたが、あの時の言葉に嘘はないと。
「本気で、一人の人間としてダクターさんのことが好きなんです。でもそのせいで、最近貴方を困らせていることにも気付いていました。だから、俺の言葉は忘れてください。貴方を困らせるようなこと、したくないですから」
そう言ってどこか悲しそうに笑うメルダー。そんな彼を見てしまっては、こちらとしても言いたいことがある。
「ええそうですね、困惑していましたよ。突然告白されて、愛してるなんて言われて、私はどうしたらいいか分からなくなった」
「す、すみませ──」
「ですが困惑してしまうほどに、告白されてから私はどうしようもなく貴方のことを考えていた。貴方の顔を見るたびに、貴方の声を聞くたびに、自分がどうしようもなくなって、逃げていたんです。自分の感情を抑えるのに必死だったんですよ……!」
そう言うや否や、ヴァダースは勢いよく立ち上がるとメルダーに近寄り、彼の唇に己のそれを重ねた。気の遠くなるような一瞬を味わってから、ゆっくりと離れる。
「ダクター、さん……!?」
「……これが、私の答えです。私は、貴方を愛しています」
「……!ほ、本当、に……?」
「ええ。こんな時に冗談は言いません」
メルダーの目を見つめて告げれば、目の前の彼は感極まったかのように瞳を潤ませながら、口に手を当てる。やがて指の隙間から、嬉しいと言葉が零れ落ちた。
「夢じゃ、ないんですよね?」
「夢であってたまるものですか。前々から、本当はわかっていました。私は貴方を失いたくないほどに、愛しているんだと」
「っ……ダクターさんっ!」
メルダーがヴァダースの抱き着く。ヴァダースはその行動に驚きはしたが、優しく抱きしめ返す。まるで匂いを確かめるように顔を埋められながら、メルダーも言葉を紡いだ。
「大好きです。ダクターさんのこと、誰よりも愛しています」
「……ヴァダース」
「え?」
「……名前で、呼んでください。カーサに所属してからファミリーネームにはその、あまり馴染みがないですから」
「わかりました。では……ヴァダースさん」
メルダーはヴァダースの名前を呼び、一度離れて彼を見上げる。ヴァダースもその視線の意味に気付き、再び口づけを交わす。今までのどんなキスよりも蕩けるようなそれに、胸が幸福感で満たされる感覚を覚える。堪能してから、余韻に浸るように離れる。幸せだ、と言わんばかりに笑顔になる二人であった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新するかもです。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる