1 / 5
第一章
さよなら ママ
しおりを挟むここは沖縄県の古宇利島。
小さな森の中に、その施設は建っていた。
児童養護施設 星空学園沖縄園…
子ども達は庭を駆け回り、元気に遊んでいた。
私が理事長になってから、もう20年過ぎた…やさぐれていた子ども達も、今や皆心の優しい良い子たちばかりになった。
昔、私が育ったあの施設と同じ…
廊下を歩き、窓の外を見た。年長者6人組が、また楽しく心躍る様な作戦会議を行っていた。その後ろ姿は昔の自分そのものだった
ふと、6人組のリーダー。花梨が、私に気づき、走って私の胸に飛び込んだ。
「愛ちゃん先生~!今日はもーお仕事終わり?」
私は娘の様に可愛がっている花梨の頭を撫でた。
「えぇ、もうそろそろ帰ろうと思っていた所です。」
花梨は私の胸の中で首を横に振ると頬を膨らました。
「だーめ!今日も愛ちゃん先生のお話聞く約束してるんだもん。」
私は口元に手を当てて笑った。
懐かしい…若い頃の私の姉そっくりの元気が良くて、甘えん坊だ。
「ふふっ、花梨は星空バスターズのことが本当に好きですねぇ」
「だって!私、いつか愛ちゃん先生みたいになりたい!私達も星空バスターズに負けない凄いチームになるんだもん!」
私は自分の前にいる目を輝かせている6人の子供達をみた。
クールで花梨にベタ惚れな昴。
みんなをよく見ている彩華。
オタク気質だけどメンバー思いな来夏。
いざと言う時の閃でみんなを導く愛奈。
そして、あの人とよく似た夏樹……
あの頃の私達そっくりだ……
「……ふふっ、本当に似ている…」
私は縁側に腰かけ、花梨の頭を撫でて口を開いた。
「…今日は誰にも言ってなかった話をしようかしら」
花梨は目を輝かせ、私の膝の上に座った。周りには残りの5人が駆け寄り、各々地面に座った。
あれは……まだ私が3歳の頃の話だ……
✼••┈┈┈┈•夜空の奇跡•┈┈┈┈••✼
私の家は裕福とは言えないが、とても幸せな家庭で育ったと思う。
子ども達に愛情を注ぎ、母を愛する優しいお父さん。
美味しいご飯を毎日作ってくれて、悲しい時はいつも親身になって話を聞いてくれるお母さん。
元気いっぱいで、おっちょこちょいだけど、いざと言うときに妹を助けてくれる双子のお姉ちゃん。
そんな何不自由ない幸せな日常が、ずっと続くと思っていた。
だけど人生とは、あまりにも唐突に、残酷に私達の幸せをかき消して行ったのだ。
それは私と姉の誕生日に、悲劇は起きた。
お母さんと姉と3人で、お誕生日ケーキを作っていた時のことだ。
私の家は、父が生クリームが苦手なため、誕生日にはお母さんの作ったチーズケーキを食べる決まりがあった。お母さんの作るチーズケーキは絶品で、1口くちにした途端、生地が口の中で溶けだし、クリームチーズの味が広がる。思わず美味しいと言ってしまうほどだ。私も姉も母のチーズケーキが大好きで、いつもお手伝いをおねだりしていたが、小さいからと言って何度も断られていた。だが、今年は3歳の誕生日ということもあったのだろう。私達にチーズケーキを作るのを手伝って欲しいとお願いされた。
オーブンに入れたケーキが、ふくらんでいく。それを私と姉はじっと見つめていた。姉がふとチーズケーキに指さして弾む声で話しかけた。
「はっ……!プク~ってなった!」
私は姉の顔を見て首を縦に振った。姉は私の顔を見た。
「おっきなケーキになるといいね!」
「どーして大きなケーキがいいの?」
「だってママと初めて作ったケーキ、いっぱい食べたいから。」
私は姉のそんな無邪気な姿を見てクスクスと笑いながら、うなずいた。そんな私たちの後ろから、母は抱きついてきた。
「コラー。2人ともオーブンの光は目に悪いって言ったでしょー?」
母の手で脇腹をコソコソとくすぐられ、思わず体をひねって笑う。
「ママごめんなさ~い」
姉がキャッキャ笑いながら、オーブンから離れた。私もあとを追うようにオーブンから離れ、お母さんのエプロンの裾を握りしめた。
ずっとこんな日が続くと思っていた…………
幸せな家族、
優しい母親
大好きなお姉ちゃん
そして、優しいパパ……
その全てが当たり前で、なくなる日なんて想像もつかなかったんだ……今日この日が来るまでは……
私が2人と一緒に作ったケーキに飾り付けをしていると、部屋に電話のベルが鳴り響く。母は私たちに振り返ると、
「2人はケーキを飾り付けして。私は電話しに行ってくるわ」
といってそそくさと受話器を取った。姉は母の言う通りにケーキの飾り付けに取り掛かるが、私はどうしても大好きな母の後を追うように、椅子から降りて、母の元へと駆け寄った。
「どーして……そんな……!」
私の目の前で母が崩れ落ちた。私は駆け寄り、首を傾げて尋ねた。
「どーしたの?ママ……」
母は私を見るなり抱きしめた。
「パパが……車に轢かれて死んじゃった……!」
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる