夜空の軌跡

スイートポテト

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第一章

さよなら ママ

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ここは沖縄県の古宇利島。
小さな森の中に、その施設は建っていた。
児童養護施設 星空学園沖縄園…
子ども達は庭を駆け回り、元気に遊んでいた。


私が理事長になってから、もう20年過ぎた…やさぐれていた子ども達も、今や皆心の優しい良い子たちばかりになった。
昔、私が育ったあの施設と同じ…

廊下を歩き、窓の外を見た。年長者6人組が、また楽しく心躍る様な作戦会議を行っていた。その後ろ姿は昔の自分そのものだった

ふと、6人組のリーダー。花梨かりんが、私に気づき、走って私の胸に飛び込んだ。

「愛ちゃん先生~!今日はもーお仕事終わり?」

私は娘の様に可愛がっている花梨の頭を撫でた。

「えぇ、もうそろそろ帰ろうと思っていた所です。」

花梨は私の胸の中で首を横に振ると頬を膨らました。

「だーめ!今日も愛ちゃん先生のお話聞く約束してるんだもん。」

私は口元に手を当てて笑った。
懐かしい…若い頃の私の姉そっくりの元気が良くて、甘えん坊だ。

「ふふっ、花梨は星空バスターズのことが本当に好きですねぇ」

「だって!私、いつか愛ちゃん先生みたいになりたい!私達も星空バスターズに負けない凄いチームになるんだもん!」

私は自分の前にいる目を輝かせている6人の子供達をみた。
クールで花梨にベタ惚れな昴。
みんなをよく見ている彩華。
オタク気質だけどメンバー思いな来夏。
いざと言う時の閃でみんなを導く愛奈。
そして、あの人とよく似た夏樹……
あの頃の私達そっくりだ……

「……ふふっ、本当に似ている…」

私は縁側に腰かけ、花梨の頭を撫でて口を開いた。

「…今日は誰にも言ってなかった話をしようかしら」

花梨は目を輝かせ、私の膝の上に座った。周りには残りの5人が駆け寄り、各々地面に座った。

あれは……まだ私が3歳の頃の話だ……

 ✼••┈┈┈┈•夜空の奇跡•┈┈┈┈••✼

私の家は裕福とは言えないが、とても幸せな家庭で育ったと思う。
子ども達に愛情を注ぎ、母を愛する優しいお父さん。
美味しいご飯を毎日作ってくれて、悲しい時はいつも親身になって話を聞いてくれるお母さん。
元気いっぱいで、おっちょこちょいだけど、いざと言うときに妹を助けてくれる双子のお姉ちゃん。
そんな何不自由ない幸せな日常が、ずっと続くと思っていた。

だけど人生とは、あまりにも唐突に、残酷に私達の幸せをかき消して行ったのだ。

それは私と姉の誕生日に、悲劇は起きた。
お母さんと姉と3人で、お誕生日ケーキを作っていた時のことだ。
私の家は、父が生クリームが苦手なため、誕生日にはお母さんの作ったチーズケーキを食べる決まりがあった。お母さんの作るチーズケーキは絶品で、1口くちにした途端、生地が口の中で溶けだし、クリームチーズの味が広がる。思わず美味しいと言ってしまうほどだ。私も姉も母のチーズケーキが大好きで、いつもお手伝いをおねだりしていたが、小さいからと言って何度も断られていた。だが、今年は3歳の誕生日ということもあったのだろう。私達にチーズケーキを作るのを手伝って欲しいとお願いされた。

オーブンに入れたケーキが、ふくらんでいく。それを私と姉はじっと見つめていた。姉がふとチーズケーキに指さして弾む声で話しかけた。

「はっ……!プク~ってなった!」

私は姉の顔を見て首を縦に振った。姉は私の顔を見た。

「おっきなケーキになるといいね!」

「どーして大きなケーキがいいの?」

「だってママと初めて作ったケーキ、いっぱい食べたいから。」

私は姉のそんな無邪気な姿を見てクスクスと笑いながら、うなずいた。そんな私たちの後ろから、母は抱きついてきた。

「コラー。2人ともオーブンの光は目に悪いって言ったでしょー?」

母の手で脇腹をコソコソとくすぐられ、思わず体をひねって笑う。

「ママごめんなさ~い」

姉がキャッキャ笑いながら、オーブンから離れた。私もあとを追うようにオーブンから離れ、お母さんのエプロンの裾を握りしめた。

ずっとこんな日が続くと思っていた…………

幸せな家族、

優しい母親

大好きなお姉ちゃん

そして、優しいパパ……

その全てが当たり前で、なくなる日なんて想像もつかなかったんだ……今日この日が来るまでは……


私が2人と一緒に作ったケーキに飾り付けをしていると、部屋に電話のベルが鳴り響く。母は私たちに振り返ると、

「2人はケーキを飾り付けして。私は電話しに行ってくるわ」

といってそそくさと受話器を取った。姉は母の言う通りにケーキの飾り付けに取り掛かるが、私はどうしても大好きな母の後を追うように、椅子から降りて、母の元へと駆け寄った。


「どーして……そんな……!」


私の目の前で母が崩れ落ちた。私は駆け寄り、首を傾げて尋ねた。

「どーしたの?ママ……」

母は私を見るなり抱きしめた。

「パパが……車にかれて死んじゃった……!」
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