夜空の軌跡

スイートポテト

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第一章

さよなら ママ  ー2ー

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父が亡くなった知らせを聞きた私と姉と母は、父が搬送はんそうされた病院までかけつけた。父は病院の一室に頭から白い布をかけて深い眠りについていた。

「パパ……?」

パパが大好きだった姉のは、白い布をそっと静かに取った。目の前には真っ白な顔をした父が、静かに眠っていた。今にも「優希、舞、栞」と私たち3人の名前を呼びながら、やさしい手で抱きしめてくれそうだ。私は父の大きな手に触れると、氷のように冷たく、固まっていた。

「……パパ……冷たいよ?」

私はその時痛感した。父は死んだのだと……私は冷たい手を握りながら大粒の涙を流した。そして、父の手にすがるように顔を乗せて大声を上げて泣いていると、優希が頭を優しく撫でた。

「よしよし、寂しかったね」

泣く私の事を何度も優しく撫でた姉の手は、少し震えていた。自分と同じ歳にも関わらず、自分の悲しみよりも、妹を気にかける姿に安心感を覚えた。

「お姉ちゃん……」

私は優しい姉にすがりついて泣いた。まだ小さな姉の腕の中は少し寂しく、秋のような肌寒い感覚によく似ていた……


ーーーーーーーーーーーーーーーー


あれから月日は流れ、私たちは父のいない生活にも慣れてきていた。母が女手一つで私達を支えようと必死に毎日仕事をしてくれた。私は母のそんな姿を見て、自分にできる最大限の事をしたいと考えるようになった。母が仕事から帰り、玄関の扉を開けた。

「ただいまぁ~」

私はおたまを持ったまま母の声のする方へと振り返った。

「おかえりなさい!ママ」

私はあの日から家事を手伝うことにした。料理、洗濯は勿論、掃除や買い出しも全部私がやっていた。

「今日はとうもころしが安かったから、コーンスープにしたよ!」

私が母の手を引くと、母の反対の手を姉が引いた。

「舞!とうもころしじゃなくて、とうろもこしだよー!」

姉の無邪気な笑みに釣られるように、私も母も笑顔になった。お金はないし、生活も厳しいけど、それでも3人で過ごす日々はとても楽しかった。仲良し家族……ずっとこの関係が続くと思っていた。けど、現実はそう甘くはなかった。
私たち双子は現在3歳で、同年代の子どもたちは幼稚園や保育園に行っていた。私達は父が死んでからというもの、通っていた幼稚園をやめ、家の手伝いをしていた。母はそれをずっと気にしていたのだろう。夕食の準備を終え、席に着くと、母は私達2人に問いかけた。

「ねぇ2人とも。そろそろ幼稚園に行きたいと思わない?」

私は幼稚園と聞いて戸惑いを隠せなかった。幼稚園に行きたい。クラスのみんなとまた話をしたい……でも幼稚園のお金なんて払う余裕がうちにあるとは思えない。ましてや双子。2人分の幼稚園代を稼げる程、母の給料は多くないと子どもながらに感じていた。姉はそんな私の気持ちをくんでだろう。母に首を振って断った。

「ヤダ行かない」

母が眉を下げ、身を乗り出して姉に問いただした。

「どうして行かないの?」

「だって私、おうちの方が好きだもん!幼稚園なんてきらーい」

一見我儘に見えるこの会話にも彼女なりの配慮を感じた。母に負い目を感じさせないためにわざとわがままっぽく見せるのだ。母はそんな姉の頭を撫でた。

「優希は優しいね。いつも皆のことを考えてくれて」

姉は首を横に降ると、下を俯いて黙った。母は椅子をたち、私達2人の元に来ると、優しく抱きしめた。

「でもお母さん、2人には幼稚園に行って欲しいなぁ。だって2人の顔を見てたら、幼稚園に行きたいって言ってるんだもん。母親として2人には好きな事を好きなだけ頑張って欲しいな」

私と姉は互いに見つめ合い母を見て笑った。私達は母の腕を片方ずつ抱きしめて頷いた。


「ありがとう!ママ」

優しい母の気遣いにより、次の日から幼稚園を通う事になった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

休み明けの久しぶりの幼稚園は懐かしく、なんだか新鮮な気持ちになった。大きな校庭と広々と遊べる教室。大きな積み木や水の中に入った筆の数々に心が踊る。先生がピアノを弾き始めると、子どもたちは教室のおもちゃを片付け始めた。私も当時は必死でおもちゃ箱におままごとセットを入れていると、目の前にある茄子のに手を伸ばすと、小さなもう一つの手が触れた。私はその手の主を見る 為、顔をあげると、眼鏡をかけた男の子が目の前にいた。男の子は私の顔を見てニカッと笑った。

「初めましてだね。夏川舞ちゃん」

私は茄子から手を離し、男の子の顔をまじまじと見ながら問いかけた。

「どうして私が舞ちゃんだってわかったの?」

私の問いに男の子は笑って答えた。

「だって、いっつもおやすみしてるんだもん!先生が名前を呼ぶの聞いて、覚えちゃった」

男の子は私の手を引いた。

「ねぇ!舞ちゃん、今日の朝の会で一緒にすわろー?」

無邪気な子どものように笑う男の子に、私は頷くしかなかった。強引な彼の手に、私はとても不快感を感じていた。
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