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序章 私、寺本 あかりは、新選組の攻略キャラクターなんかに負けません!

決戦!沖田ルート構築をかけた斎藤一との仁義なき戦い

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 道場には新選組幹部が揃っていた。攻略対象の近藤をはじめとし、土方、永倉、斎藤、ダンディ井上、谷、藤堂、原田。またのちの5番隊組頭の尾形もいた。ヒロインの力なのだろう。恐ろしい…普通こんなにギャラリーが着くような戦いではないだろうに…私は額から汗が流れながら、道場に足を踏み入れた。
  近藤さんに自分の道着を持ってきて「使うか?」と尋ねられたが、男性の袴を借りるのはさすがに申し分なく、遠慮させてもらった。代わりに新しい女物の道着を土方が倉庫から出してきてくれた。意外と気配りをしっかりしてくれるいい人なのかもしれない。彼の心使いに優しさと尊敬を感じたが、貸してくれた後に「お前を俺は隊士として認めた訳じゃない。洗って返すように」と言われた……一言多いんだよ。一言が……!内心腹が立つも、貸してくれたことには変わりない為、感謝を述べたあと、道着を着て場内に入った。
  齋藤さんは道着を着ても美しい……細身の体に清潔感を保たれている道着。何度見てもその姿は花のように美しい。齋藤は竹刀を右手に持ち、腰の付け根に手を添えると、頭を45℃下げた。自分も左手の竹刀を腰に持ち上げては、そそくさとお辞儀をした。

「貴様、剣を持つのは初めてであろう。俺を見て真似るといい」

  この数分でなぜバレたのだろう。そんなにおかしな行動をしていたのかな……齋藤さんが3歩前に歩き、竹刀を構え、そんきょするのを見て自分も真似る。竹刀を持とうとする手が大きく震えていたが、竹刀を構え、相手の剣先と交わらせた時、不思議と不安と恐怖が消えた。齋藤さんが立ち上がるのを合図に、立ち上がった後、大きな声でやぁ!!っと叫んだ。

「……気配が変わった……」

  ギャラリーにいた隊長達がざわつき始め、幹部がこちらを見入った。齋藤さんが竹刀を振り上げた瞬間。その姿が遅く感じた。相手の振る刀の導線が自分にはハッキリと予測できた。私はその刀を受け流すように齋藤さんのつばに軽く竹刀の剣先で触れ、軸をずらした。

「な……」

  周りで見ていた近藤が口をポカリと開けて驚いている。私は齋藤さんのズレた剣先を見てそのまま竹刀をを頭頂部に付くように剣先を真っ直ぐ伸ばすも、それに気がついた齋藤さんは私の竹刀のつばを齋藤さんのつばで押さえつけた。当然女の方が力は弱い為、直ぐに体が傾く。それを狙って齋藤さんが後ろに下がりながら、私の横腹目掛けて剣先を描く。遅い……もう次に何が来るか分かる……私は横腹に齋藤さんの竹刀が当たる前に後ろに体を引いた。互いに剣先を交わらせ、横歩きしながら見つめ合うと、斉藤さんが言葉を交わしてきた。

「先程までとは見違えるようだ。咄嗟の判断力、自分の力量と相手の技の繰り出し方を見抜き、体を動かす……素晴らしい身のこなしだ……本当に初めて剣を取るのか?」

  お世辞を述べる齋藤さんに私は気づいていた。彼の本質を……

「齋藤さん……手加減してますよね?」

  マニュアルの様なお決まりの動き、体の動きと手を振り下ろす際感じる導線……この動きはどう考えても最強と謳われる男の剣筋ではない……私は左足を少し上げ、右手を少し浮かせては、姿勢を低くし、竹刀の持ち手を耳の横に振りかざしては、静かに息を吸う。

「本気で挑んでください……」

  齋藤さんは私の姿を見て、目付きが変わった。先程までの美しく花のような彼は消え、鋭い目付きと、牙を向いた獅子の様なオーラを身に纏った。私は左足を踏み込み、体全体を飛ばすと、齋藤さんは剣先を詠み、避け、後ろから振りかぶる。私はそれに気がつくと、体を回し、つばで剣を払い除け、首元につきを放とうとし、齋藤さんに剣を振り払われる。

  何度も互いに剣を触り合い、その度に竹刀から風圧が増し、鋭い音が鳴り響く。互いに剣を合わせ、つばを突きつけあった時、お互いの竹刀から鈍い音が聞こえた。竹が割れる音だ。齋藤さんは私の顔を見るなり言葉を漏らす。


「竹刀が限界だ。そろそろ決着をつけないか……?」

  「はい、私もそう思っていた所です……」

  互いに竹刀を払い除けた。向き直り、竹刀を構え、2人は静かに見つめあった。ギャラリーも息を殺し見守る。どちらともなく走り出し、竹刀が風を切る。互いの竹刀が大きく響き渡ると、走りきり、背を向けあった。齋藤さんは竹刀を持ったままその場に居直った。

「俺の負けだ……見事な剣筋。尊敬に値する」

  言葉の後に齋藤さんの手から竹刀が落ちると共に糸が解れ落ち、4本の竹が飛び散った。私も居直り、言葉を振り絞る。

「いいえ、これは私の負けです」

  手に持つ竹刀はヒビが広がり、大きな鈍い音と共に崩れ落ちた。互いに振り向くと、齋藤さんは目を大きく開けながらこちらを見た。小さな声で

「美しい……」

  と零す。何を言ってるのか分からないまま手を差し伸べると、齋藤さんは手を見て驚いたまま、手を握り返した。 

「齋藤さん。とても素敵な勝負ありがとうございました」

  私の言葉に齋藤さんは笑みを向けると、ギャラリーから1つ。2つと拍手の音が大きくなった。幼い顔の永倉さんがこちらに走ってくると、私の手を取り、大きく振った。

「あんたすげーよ!天才剣士だ!」

  私はふと自分が天才と言われた後、首を傾げた。

「何の事ですか……?」

  永倉さんの後ろから落ち着いた声のお兄さん。原田さんが顎に手を当てながら歩み寄る。

「おめぇさん、自覚がないのか?うちのの3剣豪の1人と同格で戦えるのはあんたが初めてだ」

  忘れていた……齋藤一。新選組の最強の剣と謳われた彼に負けたとはいえ、あんな戦いを繰り広げてしまった……というかおかしくないか?何で剣を1度も取ったことない私があの剣豪と渡り合えたんだろう……主人公補正か?しかし元々の寺本あかりは剣を1度も握らない。消えた記憶の中に剣を振っていたのか……いくつか疑問が生み出される中、土方と近藤さんが身を乗り出しながら走ってくる。近藤さんは私の手を取ると、目を輝かせた。

「素晴らしい才覚……!どこの流派の者だ!?」

  どこの流派も何も、習ったことすらありません……流石に言えないかと思いながら土方の方を見ると、先程までの呆れ顔は消えて、尊敬の眼差しを向けてきた。

「こりゃ文句無しの一級剣士だ。総司の隊と言わず、新たに隊長となり、戦うも良いかもしれんな……」

  顔が引つる。勘弁して欲しい。私は沖田さんの隊に入って沖田さんルートを構築したいんだ……!こんな……

「なぁ、君。私、近藤勇の元で護衛として働かんか?君の才能を開花させるためにも、俺と一緒に稽古しながら、強くなろう!」

「ずるいよ近藤さん!ねぇ、僕ら二番隊においで。うちの二番隊の副隊長の枠が欲しかった所なんだ」

「やめろ。彼女は俺たち3番隊と共に行動する方が良いだろう。戦いの反省を共に話し合い、更なる強みを共に探そう」

こんな展開望んでない……!どうあっても攻略キャラとくっつけようとしてくる……

「主人公補正なんて!大っ嫌いー!!!」
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