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第一章 root近藤編

あれ?これって誰ルート?掛かり稽古で本心を暴け

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 昼食後の屯所内道場。近藤さんの管轄の元、1番隊の稽古が行われる。私は1番隊隊士全員を相手に、震える刀を両手で握りしめた。近藤さん道場に響く声でルールを声にした。

「ルールは簡単。こちらのたけちゃんに向かってお前たち1番隊全員が刃を向ける。一本取られたものは、枠から離れ、俺と総司のいる道場の正面まで来い。もしたけちゃんが全員に1本を取れたらたけちゃんの勝ち。もしお前たちの中で1人でもたけちゃんに一本取れれば、たけちゃんの勝ちだ」

    どうしてこんな事になってしまったんだ…顔を青ざめながら、近藤さんに目を向けると、親指を立てこちらに笑いかけてきた。剣を握って2日目で10人相手にする戦い。しかも相手は手練ばかり。私は現状にため息をこぼした。沖田さんがこちらに向かって歩いてくると、眉を下げ、心配を述べる。

「君、本当はこうゆう状況慣れてないんじゃない?手が震えてるよ」

   私は沖田さんの心遣いに笑いかけるしかできなかった。

「1番隊の皆さんに信頼を置いて貰うためです。頑張ります」

   でもと続ける沖田さんの肩を近藤さんが手を置いて静止した。

「総司、お前は1番隊の隊長なら、部下を信頼してやれ。お互い悪いようにはならないさ」

    近藤さんがなだめては、沖田さんも渋々引き下がり、近藤さんの隣に座った。沖田さんが今回の掛かり稽古に参加しないのは何よりの救いだ。ただでさえ実力重視の強者ばかりが募る1番隊全員を相手にしながら、剣豪をさばくことになるのだ。そんなことが出来るのはチートクラスの能力者か一撃で敵を仕留める化け物しかできないだろう。


   私は頭の中で回路をめぐらせていると、小さな声でが聞こえてきた。ふと周りを見ると、物も人の動きも時が止まっているように微動打にしなかった。ふと頭上に光が差し込むのに気が付き、光のする方へ顔あげると、白兎が私の元へと降りてきた。

「あかりちゃん!短めの竹刀を腰に身につけるんだ」

   白兎が私の近くの短剣型の竹刀を指さした。私は恐る恐るそれを拾い上げては、白兎に問いかける。

「どうしてこれが必要なの?」

   白兎は口元に手を添えながら他の隊士達に目をやった。

「君には才覚がある。でも10人の剣士相手に1人が太刀打ちするにも限界があるだろう…10人を出し抜き、この戦いに勝利するには、知恵が必要だ。それを今から僕が教えるから、覚えて欲しい」

   慌てる様子の白うさぎに口を開け、問いかけた。

「また私を助けてくれるの?」

   白兎は迷わず首を縦に降ると、自分のもふもふな毛皮から時計を取り出し、時間を見せた。

「残り3分しかないから、よくきいて?」

   慌てる白兎を静止し、顔をのぞき込みながら話を続けた。

「どうして私を助けてくれるの?あなたは私の事、何も知らないはずなのに…」

   白兎は目を見開くと、少し悲しげに耳を下に傾け、悲しげな声色で呟く。

「もう忘れちゃったんだね…」

   私は悲しげなその白い生き物の頭を撫でながら、自分の記憶が消えた中に彼がいた事を自覚した。白兎は撫でられては決心が着いたのか、顔色を変えて、私に策をはなし始めた。

「まず前列の3人はこの一番隊の中でも強い剣士だ。真ん中の剣士は最近入りたてだけど、経験が浅い割に剣の才覚だけで1番隊に入った子。青髪の剣士はベテランだけど、今まで二刀流の人にあったことがない。そこをついて攻撃するんだ。ここ2人がやられれば、仲間内で不穏な空気が流れる。あとは周りを1人づつ対処すれば大丈夫」

    白兎の早口の言葉を聞きいれては頷いた。しかし赤の剣士について何も言われていないことに気がつくと、振り返って聞き返す。


「赤の剣士は?あの中では強いんでしょ?どんな人なの?」

    白兎は私の問いに頷く。

「赤の剣士はベテランで才覚もある。それに全体の信頼感も熱いし、冷静な判断もできる」

    話を聞き終わっては白兎は続ける言葉がなく、そのまま立っていた。

「それだけってことは、対策法がないって事?」

   私が白兎に聞くと、静かに口を開けた。

「彼は仕留めるのは難しいだろう。1番初めに対処するのは絶望的だし、仲間と連携をたてられたら、こっちからの攻撃はきかないだろうね」

    攻撃が効かない…対処法がないと知ると、口元に手を添え、考えていると、天から光が刺した。

「もう行かないと…君の事、いつでも見守ってるからね」

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   白兎が天に帰ると、いつもの日常にもどった。不安げにこちらを見つめる沖田さんも、こちらに竹刀を向ける1番隊隊士達の緊張も全てが元通りに時を刻み始めた。私は短剣型の竹刀を握り、胸の前で構えては小さな声で白兎に「ありがとう 」と感謝をする。私は左手に短刀型の竹刀を頭上で構え、右手で長剣型の竹刀を敵に向けた。互いに睨み合い、蹲踞をし合うと、近藤さんの声が道場内に響いた。

「はじめ!!」

   合図とともに、互いに叫び合う。私は長剣型を頭に振り上げると、3人の剣士が斬りかかりにくる。飛び込んできた隊士達に長刀を振り下ろす。3人の剣士がその剣に注目を集めた瞬間。私は自分の持っている長刀型の竹刀を胸元に寄せ、短剣型の竹刀で前列にいる真ん中の隊士の頭目掛けて振り下ろした。相手もとっさの事で何かわからず、かわすこともなく、真ん中の隊士の頭当たった竹刀が大きな音を立てた。

    怯む隊士達の顔を見ては、前方にいた残り2人を長剣型の竹刀で胴を殴り掛かる。青髪の隊士の胴は何とか一本取れたが、赤髪の隊士には刀を弾かれた。

「そう上手くはいかせてもらえないよね……」

   私は短刀型の竹刀を赤髪の剣士に構え、姿勢を低くした。足をしっかりとつき、長剣型の竹刀を下に構える。赤髪の剣士は眉を顰める

「……どうした…さっきまでの勢いは」

   赤髪の剣士は私の頭目掛けて竹刀を振り下ろす。私は短刀型の竹刀で牽制をした。竹刀を振りほどくと、1人、2人とほかの剣士達が竹刀を下ろしてくる。その様子はハイエナの様に、隙の無い連携だ。私は竹刀が揺れる度に体に疲労が蓄積されていくのを感じた。


「残念だよ…齋藤さんと渡り合えると聞いて楽しみだったのだが、まさかここまでとは…」

    私は赤髪の剣士が落胆する中、周りを見渡した。おかしい、こんなに連携は取れてるのに、違和感を感じる……刀を避けながら周りを見ると、剣士達に違和感を覚えた。タイミングが一定なのだ。私は赤髪の剣士が目の前に来ると、竹刀が胴目掛けて降りて来るのを見た。

「これで終わりだ」

   私は竹刀が降りてくるのを合図に、赤髪の剣士のすぐ後ろにいる剣士の元まで走りきり、面に竹刀を打ち付けた。周りの隊士たちがこちらに注目を集めた瞬間、地を蹴り、すぐ右の剣士に小手をうちつけた。赤髪の剣士がこちら側に勢いよく竹刀を振り下ろす。

「何故だ…我々に包囲されたものは、隊長クラスの剣士でも振りほどくのは至難の業…!お前はどうしてこの窮地を切り抜けた…!」

   私は竹刀を構えた後、姿勢を低くし、静かに口を開けた。

「みんな互いに信頼を置き、攻撃も休むこと無く振り下ろされる。連携が上手くいくほど、仲がいいのは分かる…けど、攻撃がパターン化している。タイミングも同じだよ」

    私の言葉に1人の剣士の竹刀が降りて来るが、隙だらけのだ。私は左に少し逸れたあと、隊士の頭に竹刀をたたきつけた。

   次々に隊士達を切りつけていく。赤髪の剣士だけが残った後、刃を向け、彼の竹刀と私の竹刀が音を立てた。

「……こんなにあっさり我らが負けるなんて……」

    悔しそうな赤髪の剣士に2つの竹刀を構えては、竹刀を耳に添え、姿勢を低くおろした。

「一筋縄ではいかなかったよ。やっぱり新選組随一の実力派の隊だね……だけど油断は隙を産むもとだ。どんな相手にもちゃんと油断せずに挑む事だね」

    私は足を踏み込み、体を前へと押し出した。赤髪の剣士の喉元に竹刀をつき、相手の身体が後ろに倒れるのを確認したあと、竹刀を収めた。周りを見渡すと、近藤さんがこちらに勢いよく走ってくる。

「やはりたけちゃん!君はすごい才能を感じる」

    私は安堵のあまり声を出せずにその場で会釈すると、近藤さんは私の両肩に手を置いた。

「君は俺たちの希望だ。この新選組の運命を変化させるだろう。俺は君に期待している」

  私は間抜けな声を出したあと、近藤さんは道場を後にした。1番隊の隊士達はそレを見たあと、こちらへと足を運ぶ。

「君はすごい才能だ!」
「どこで剣術を習ったんだ!」

    1番隊の歓喜の中、沖田さんは笑顔を向け、こちらに近づいてきた。

「本当、君には何度も驚かされちゃうな」

   私が照れながら謙遜していると、沖田さんは続けてこう言った。


「やっぱりきみは近藤さんが見惚れる程の相手だけあるよ」


    この言葉……懐かしい。前世で沖田さんに初めてかけて貰った時の言葉だ……ん?前世?私は沖田さんに恐る恐るもう一度言葉を聞いた。

「沖田さん…今なんて?」

    沖田さんは不思議そうな顔をしながらもう一度上記の言葉を述べた。

「やっぱりきみは、近藤さんが見惚れる程の相手だけあるって言ったんだよ」

   思い出した……!「雷鳴」のroot近藤での出来事。主人公は沖田さんと協力して改名案、「新選組」を提示した際、近藤さんから、「君は俺たちの希望だ」と言って、肩を手で取られる。そのスチルの後に沖田さんはこういうのだ。

「近藤さんが見惚れるほどの相手だね」

   完全にこれは……!近藤さんルートだ……!どこだ、どこでルートをミスってしまったんだ……!そもそも近藤さんルートの条件である近藤さんの妓生と言う立ち位置でもない。私は頭の中で回路をめぐらせ、沖田さんに否定のコメントをした。

「いえ、近藤さんに見惚れられても困ります!私には……!」


   すると沖田さんは鋭い眼光でこちらを睨みつけてきた。多分続く言葉を間違えれば、好感度を下げるだけでなく、自分の命も持っていかれそうだ……そう考え手を引っ込めた。最悪だ、最悪だ……!これで完全に沖田さんルート降り出しまで戻されてしまった……
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