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第二章
第一二一話 幕間 遊女アキ
しおりを挟む裕福ではないけれど、そこまで貧乏というわけでもない、普通の家に生まれた。
私は幸せだったと思う。
お父さんとお母さんは仲が良かったし、弟は生意気だったけど、そこそこ可愛いと思うこともあった。
だけど、十歳の誕生日を目前に、幸せは一瞬で消えて無くなった。
樹海が迫って来ていて、近々大規模な伐採計画があるとか無いとか、お父さんは言っていたけれど、誰も言っていなかったと思う。
樹海と一緒に大型陸獣が近づいて来てるってことは。
お父さんも、お母さんも死んだ。弟も、ぺちゃんこになって死んだ。弟の血は暖かくて、ヌメヌメと私の全身に降り掛かり、私も潰されると思ったところで、陸獣の後ろ脚がドシンと背後で鳴った。
別に私たちを殺す気なんか無くて、ただ通り過ぎただけ。両親と弟は踏まれて、私は運よく踏まれなかっただけだった。
隣村の親戚に預けられたけど、すぐに女衒に売られた。自分で言うのもなんだけど、私はそれなりに上玉だったから、大きな港町に売られることになった。
オプシーという町には聞き覚えがあった。偶にお父さんが材木を売りに行って、帰りにお菓子を買って帰ってくる。そういう町だったはず。
遊郭というのがどういう所か知らないけれど、伯父さんや叔母さんは嫌いだったからちょうどいい。
どうせ死ぬのなんて一瞬だ。弟は痛みを感じる暇も無かったんじゃないだろうか。ああいう死に方がいいかもしれない。
そこは高い塀に囲まれていて、女の人がいっぱいいる所だった。甘ったるい変な臭いがして、なんだか気持ち悪い。
いろんな場所から来た馬車と合流して、十人くらいの子供と一緒に連れて来られた。私よりちょっと小さい子が大半だけど、同い年の子も一人いた。いろいろと話しかけてきてウザったい。
赤い格子の付いた建物がいくつもあって、あちこちから何人かの着飾った女の人が出てきた。あんな綺麗なおべべを着れるのなら悪くないかも。
周りの子達は次々と手を引かれて連れて行かれたけど、私は最後まで残った。何故かは分からないが、選ばれなかったようだ。気分が悪い。
その時、向かいの建物から一人、女の人が出てきた。今までの人達とは少し感じが違う。綺麗な着物を肩から羽織っただけで、他は普通の服だった。
「えらいひどい顔でありんす。よしなんし」
「……」
「もちっと愛想良うしなんし」
「変なしゃべり方」
「ふふっ。そうでしょ? でも、そういう決まりなのよ」
「そう」
「わちきが指南しんす。こっちきなんし」
「ありんす」
「それはもっと大きくなってからね」
どうやら私はかなりキツイ顔になっていたらしい。全員にガンをつけていたとか。なるほど。可愛いはずなのに、余りものになったのはそういうわけか。
**********
生意気な私の手を引いてくれたのは、ハル姐さんという優しい女の人だった。私はハル姐さんの禿というのになったらしい。
禿なんて失礼な呼び名だと言ったら、アソコに毛が生えてないから、そう呼ばれるんだとか。なるほど。でも、それはハゲではないだろう。
ハル姐さんにはもう一人、私より三つ年上の禿がいた。間もなく新造になるその女の名前はナツといった。
ハル姐さんの禿だからナツ。そして、私はアキ。源氏名というらしい。これからはこの名前を名乗って、ここで商売をすることになる。もし、次の子が来たら、フユになるのだろう。単純でいい。
ナツ姉さんは口うるさい。何かにつけて、「やめなんし」「よしなんし」「待ちなんし」「どうともなんし (どうとでもしろ)」「てもせわしのうざんす (慌てるな)」「金茶金十郎 (馬鹿)」「早くうっぱしろ (急げ)」「こはばからしゅうありんす (馬鹿らしい)」とほとんど意味不明だ。
「ナツ姉さんは、まだ『ありんす』は使えんはずでありんすぅ~」
「アキこらぁ!」
「暴力反対! やめなんし、よしなんし、待ちなんし!」
「このクソ餓鬼っ!」
「超! 金茶金十郎~!」
「死ねぇ!」
「うわっ! ナツ姉さん! 強化魔法は禁止!」
「二人ともやめなんし!」
ナツ姉さんは多彩な芸事を修め、武芸にまで手を出しているし、ハル姐さん直伝の超絶技巧もあるし、遊女として大成できる器量もある。借金さえ無ければ、外に出ても成功するんじゃないだろうか。
ただ、その借金が難物だ。十五で成人したら客が取れるようになるけど、それで直ぐに稼ぎが出るわけじゃない。まずは、ハル姐さんの名代としてお酌をしているおゆかり様から、徐々に慣らしていくことになる。
自分のおゆかり様が増える頃には、借金はとんでもなく膨れ上がっているはずだ。
坊主は金払いがいいけど気持ち悪い。兵隊は無駄に威張る武左が多いって言うし、騒がしい七夕やダサい野暮だっていっぱいいる。
「ハル姐さん。おいらは金持ちで、カッコよくて、優しくて、すぐさま身請けしてくれる間夫が欲しいでげす」
「アキ……。それを他の姉さんに言うんじゃないよ?」
「はぁ~。世の中は甘くないでげす」
「アキはもっと芸事を磨きなんし!」
「ナツ姉さんはもっと性格を丸めた方がいいでげすぅ~!」
「なんだとこらぁ!」
「うわっ! ナツ姉さん! 新造ご昇格おめでとうございます! よたろう!」
「最後のが余計だ! コノヤロー!」
「ふふっ。やめなんし」
**********
ハル姐さんは決して飛ぶ鳥を落とすような高級遊女じゃなかった。普段は化粧っ気も無いし、質素な暮らしをしている。お客も大店の太客なんかではなく、ほどほどの庶民、船員や山師も多かった。
ハル姐さんの気性は遊女に向いていないと思う。あまり客に無理をさせないし、身を滅ぼしそうな人には「いい雨だっけね」と直ぐに帰してしまう。
それでも、ハル姐さんにはおゆかり様がいっぱいいた。優しい人ばかりで、偶に私もおこぼれの砂糖菓子なんかを貰えたりする。
ハル姐さんの禿になれた私は運がいい。悪い姐さんについた子はひどい目に遭うらしい。何の指南も慣らしも無しに、いきなりお客をあてがわれ、稼ぎは姐さんに持っていかれたりする。
思えば、陸獣に踏まれなかったのも運が良かったからだ。私は不幸中の幸いを拾う質なのかもしれない。
ともかく、今は結構幸せだ。
**********
ナツ姉さんは十四歳になった。あと一年で客が取れるようになる。
そして、やっぱり世の中は甘くなかった。幸せの帳尻を合わせるように、不幸が降りかかる。不幸に踏まれたのは私じゃなくて、ハル姐さんだった。
質の悪いお客が来て、私を手籠めにしようとしたのだ。何処かの貴族崩れだったらしく、おかさんやごてさんも助けてくれなかった。ハル姐さんが庇ってくれて、あらゆる手練手管を駆使してソイツの相手をしたから私は助かった。
そのお客はナニの質も悪かったらしく、ハル姐さんは梅毒を貰ってしまった。私には生体魔法の適性があったけど、生体魔法はちゃんと勉強しないと使い物にならない。遊郭で性病の治療に精通した人間なんていなかった。
おかさんにも、ごてさんにも相談なんかできない。ナツ姉さんと話して、隠し通すことに決めた。バレたら即追放されるに決まっている。
ハル姐さんのおゆかり様が助けてくれた。特に何をする訳でも無いのに、店に来ては新造になったばかりの私の下手クソなお酌で酒を飲み、いろいろと教えてくれて、帰り際に「ハルさんに食わせてやってくれ」と言って菓子や果物を置いていく。
そんなお客が何人もいたから、店にもバレずに何とかなっていた。だけど、それでも不幸はハル姐さんを踏みつけたまま離れてはくれなかった。梅毒が体中に回り、肌には吹き出物がたくさん出来て膿が出続ける。拭いても拭いても切りがない。
「ナツ。あんまり気張り過ぎるんじゃないよ? あんたは真面目過ぎるとこがあるからねぇ」
「ハル姐さん。あちきは大丈夫でありんす。たくさんのおゆかり様を作って、たぁんと稼ぎんす」
「おゆかり様は財布じゃないよ。数でもないし、質でもない」
「ハル姐さん。じゃあ、なんでげす?」
「ふふっ。げすが出てるよ? いつまで経っても禿かい?」
「……お座敷では出しんせん」
「そういうのを出しても、来てくれるのがおゆかり様さ」
「あい……ひっく……」
「泣いてちゃダメだ。男を泣かすようでなきゃねぇ」
私はまだまだ足りてない。ナツ姉さんには遠く及ばない。二人の話はしっかり聞いていたけど、よく意味が分からなかった。私はハル姐さんの介抱をするだけだ。あまり意味の無い介抱を。
**********
ナツ姉さんは十五歳の誕生日を迎えた。
そして、ついにハル姐さんの病気が隠し切れなくなった。ごてさんは暫く見て見ぬふりをしてくれていたみたいだけど、おかさんは許してはくれなかった。
どうやら、ハル姐さんは最初から、ナツ姉さんの成人と同時に出て行くことを決めていたらしい。
やせ細り、目は落ちくぼみ、頬はこけて、吹き出物からは膿が止まらない。それでも、姐さんは化粧をした。初めて会った時と同じ綺麗な着物を羽織り、スックと立ち上がる。
「ナツ。アキ。受け取りなんし」
ハル姐さんは節くれ立ち、骨と皮だけになった手を差し出した。
「ナツは左利きで右小指。アキは右利きで左小指。指切りに使いなんし」
掌の上には、白魚のような綺麗な小指が二本乗っていた。
「お身請けの後でバラせばようざんす。地獄を出るに小指を詰めるなんぞ、こはばからしゅうありんす」
二本の小指は瑞々しく、まるでたった今、切り取ったかのようだ。淡く魔法の光を纏っていた。
「……外に出たら、レストランで働かせてもらいんす。わちきの夢ざんす。ふふっ」
ハル姐さんはしゃなりしゃなりと歩いて店を出て、自ら門へと向かっていく。門番は深々と頭を下げ、門扉を押し開いて待っていた。
「ナツ。アキ。――おさればえ」
二人で礼をしてハル姐さんの花道を見送った。その歩みはゆっくりとしていたが、今まで見たどんな遊女のものより美しかった。
「「おいらんとこの姐さんは、世界一の遊女でげす!」」
私は泣いたが、ナツ姉さんは泣かなかった。
**********
ハル姐さんが門を潜って、ちょうど三ヶ月後。小指の強化魔法が切れた――。
「アキ。ちっと貸しなんし」
ナツ姉さんは二つの小指を手に取ると、全霊の強化魔法を行使した。その直後、顔面から脂汗が噴き出し、魔力欠乏でぶっ倒れた。
「ナツ姉さん……あんまり気張り過ぎないで」
「同じこと、ハル姐さんにも言われた」
「覚えてるよ」
「今なら、分かるでしょう?」
「分かるよ……」
「アキはあと三年だ。早いとこ、指切りする間夫を見つけなきゃね」
「金持ちで、カッコよくて、優しくて、すぐさま身請けしてくれないと」
「ふふっ。そんな男は最高だね」
ナツ姉さんは才能を開花させた。あっという間に高級遊女に登り詰めていく。
私は三年間、ナツ姉さんが仕事に専念できるように支えるだけだ。姉さんの肌はいつも青白く、直ぐに脂汗が噴き出す。化粧直しは頻繁にやらなければならなかった。
ナツ姉さんは、常時続く魔力欠乏を、気合いでねじ伏せていた。
**********
成人を迎えて六年が過ぎた。私はナツ姉さんほどではないが、それなりに稼げる遊女になっていた。
店に上がりの多くを持っていかれるので、ちっとも貯まらないが仕方ない。小指を使うに値する男が、なかなか現れないんだから。
金持ちで、カッコよくて、優しい男は、驚いたことに結構いた。
それでも、まったく響かない。何というか、誰も彼も小さく見える。ハル姐さんの小指には、まったく届かない。
「アキ。もう二十一でござんす。そろそろ、お身請けしてもらいなんし」
「ナツ姉さんこそ。頼まんでも引く手数多。なんでざんす?」
「「……はぁ」」
「もう指切りどうこうじゃない」
「ハル姐さんのカッコよさに遠く及ばない」
「「はぁ~」」
自分の力で生きていく。遊女の仕事に誇りとやりがいを感じていた。これもナツ姉さんのおかげだ。
十五歳を迎える頃には、ナツ姉さんのおゆかり様を通じて多くのご縁に恵まれた。その中には今でも続く、おゆかり様もたくさんいる。
ナツ姉さんもハル姐さんから頂いたご縁だと言っていたので、私もそのようにしたいところだが、まだ禿を抱えられるほど稼げているわけでもない。
この時期は、幸せを感じていたと思う。
**********
そして、忘れた頃に顔を出すのが不幸というもの。今度は仲の良かった別の店の遊女が踏まれた。遊郭に来た時に一緒だった同い年の娘だ。人懐っこい性格だったのか、余りものだった私に何度も話しかけてくれた。
彼女の店は通りを挟んで対面にあったので、遊女同士の交流もあった。他の遊女からの又聞きで、どうやら梅毒に当たったらしいということを知った。
とはいえ、他の店の遊女だ。あまり頻繁に訪ねて、店に勘付かれたら目も当てられない。そうこうしている間にも、彼女の容態は日に日に悪くなっていく。
生体魔法適性のお客が付いた。事情を明かして、性病治療が出来る医者を何人か紹介してもらった。私が逆に金を払って、対面の店に行ってもらい、彼女を診てもらうということを繰り返した。
だが、どうやら藪医者ばかりだったようだ。そもそも、性病治療は施術できる者が少なく高額で、長い期間に渡って継続しなければ効果がないことを後から知った。あのお客はそのようなことは教えてくれなかった。
私がお客を利用しようとしたから、罰が当たったのだろうか。ハル姐さんの言葉が頭をよぎった。
しかし、性病の原因を齎すのもお客なのにと、生来のガンつけ精神が鎌首をもたげる。
彼女の容態を聞いてみると、ハル姐さんの末期症状とほとんど同じだった。もう猶予は無い。何とかして医者に見せなければならないが、もう当てがないし、金も無かった。
**********
三か月後、いよいよ彼女が危ないかという時に、おゆかり様の一人から妙な噂を聞いた。
遊郭の近くにあるスラムに、伝染病に侵された数人の子供が捨てられていたらしい。それ自体は別に珍しいことじゃない。年少奴隷の処分に困ってスラムに捨てる者などいくらでもいる。
私が興味を引かれたのは、その子供たちの病気を生体魔法で完治させ、スラムの大人に預けて立ち去った医者がいたという点だ。どうやら、その人はかなり腕のいい船医で、しかも女医らしい。
あちこちの伝手を使って調べたところ、その女医はビクトリア号という船の乗組員で、船はオプシー港の第四桟橋に着桟しているという。
私は彼女を背負い、宵闇に紛れて遊郭から出奔した――。
あとで折檻だろうが何だろうがすればいい。このまま彼女を死なせたら、ハル姐さんに顔向けできない気がする。ナツ姉さんが何か創ろうとしているらしいが、とてもじゃないけど間に合わない。
死ぬのなんて一瞬だと、そういう死に方がいいと思っていたけど、ハル姐さんは違った。
粘った。そりゃあもう、ネチネチとねちっこく、糸引くぐらい生き足搔いた。
全身を梅毒に侵され、遊郭から追放されても、たった一人で三ヶ月も生き続けた。
彼女だって同じだ。まだ粘れるはずだ。全身が骨と皮になって、鼻は低くなってるけど、生体魔法なら再生治療だって出来る。
第四桟橋にたどり着いた。暗くて何が何やら分からないが、船が泊っているのは分かる。
「おがみい――――――――す!!!」
「おがみい――――――――す!!!」
「おがみい――――――――す!!!」
「おがみい――――――――す!!!」
**********
「うるせぇぞぉ!」
何回目だったか。ひたすら叫んでみたら、野太い荒々しい声と一緒に筋肉だるまが降ってきた。
桟橋がグラグラと揺れるが、何とか這いつくばって耐える。
「助けてくださ――――い! 医者ぁ――――っ!」
デカい腹直筋に向かって思いっきり叫んだ。こんなあり得ないシックスパックはまったく趣味じゃない。私は中肉中背の普通の男の方が好みだが、贅沢は言っていられない。犯りたきゃ犯れ。だけど、その前に、
「医者ぁああああああ――――――――っ!!!」
「うるせぇぞぉ! どんだけだぁ!」
筋肉だるまは「少し待てぇ」というと船に戻り、すぐに金髪の女性を連れて戻ってきた。とんでもない美人だ。身体の方もあり得ないボンッキュッボンッだ。羨まし過ぎるが、それよりも、
「助けてくださ――――い! 梅毒ぅ――――っ!」
「うっるさいかしら! 診てあげるからっ!」
金髪爆乳女医はスタスタと近づいてきて、筋肉だるまが光魔堰で照らす光の中で、彼女の首筋に触れ、瞼を開いて暫し。
少し離れると「残念だけど、既に亡くなってるわ」と言った。
本当は分かっていた。遊郭を出た時から、いや、彼女を背負った瞬間から分かっていた。
ただ、納得できなかった。人間はもっとしぶといはずだ。身を持ってそれを示したのは、
「おんらんとこの姐さんは、こうなってから三ヶ月、生きてたでげす。チェスカだって同じはず。まだ、生きてる」
「……そうなってから、三ヶ月? 不可能だ」
「本当だ。ハル姐さんの強化魔法は三ヶ月間そのままだった」
「強化魔法がそんなに長続きするわきゃねぇ。どんなに魔力を込めたって一週間だぁ」
「本当だぁああああああ――――――――っ!!!」
「「うっるさぁあああいっ!」」
誰も信じてくれないけれど、ハル姐さんの魔法は、生きていたんだ。
**********
私はビクトリア号に招かれ、食堂でお茶をご馳走になりながら、シア先生からいろいろと教えてもらった。
生体魔法による性病治療は消費魔力が大きいらしい。よほどの魔力容量が無ければ、一回の治療での完治は不可能。
だから、複数回に分けて行わなければならず、施術者が少ないことも相まって、高額な治療費と長い療養期間が必要になる。
「分かったかしら? そんじょそこらの生体魔法適性者が学んでも実入りが少ない分野なのよ。だから臨床医も育たないし、魔力容量が大きければ、もっと楽でいい仕事が山ほどあるわ」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「予防するしかないわ」
「予防って……」
「……遊女には難しいでしょうね」
ほんに、こん世は、地獄でげす。
「ゆっくりでも、治療すれば、生きられるんですか?」
「それは保証するかしら。ちゃんと治療すればね」
「シア先生。わちきを買うてくれ」
「は?」
「おがみいす」
「何故、私があなたを?」
「生体魔法の適性でげす。わちきを買うて、わちきに性病治療を教えて、一人前になったら自由にして」
「……」
「手放す時はオプシーでお願い」
「……」
「おがみいす」
「……あなた」
私はこの人から性病を学び、性病治療の生体魔法を覚えて、ナツ姉さんの創る養生処に帰る。
そのためには、何でもやろう。
「おがみい――――――――す!!!」
「だから! うるっさいかしら!!」
**********
翌朝、遊郭から私とチェスカを捕らえに大勢の若衆が来た。ナツ姉さんやチェスカの店の姉さん、他にも何人かの高級遊女の姉さんたちが一緒に来ている。
事情を話したら、ナツ姉さんにぶん殴られた。遊女の顔面をグーで殴るとかあり得ない。しかも、そのまま何も言わずに帰って行った。つまり、そういうことなんだろう。
シア先生には昨日の内に船長に紹介してもらって、仮雇い入れの許可を得ていた。眠そうだったので、大声でおがみ倒したら、すんなり認めてくれた。
私の身代金は船長が立て替えてくれた。すべて私の給与から天引きするらしい。昼は司厨部員として働き、夜はシア先生との勉強に充てることになる。
**********
「初めまして! 今日から司厨部でお世話になります! チェスカです! 何でもやります! よろしくお願いします!」
「追い回しだわね」
「追い回しっす」
「追い回しだな。やっと雑用から解放される」
グランマさん、ボリスさん、ベイカーさんの三人は、私の事情を知らない。知ってるのは、船長、シア先生、甲板長の三人だけ。先生との夜の勉強も秘密だ。
いずれは遊郭に戻るつもりなので、夢はハル姐さんと同じにした。姐さんは怒るかもしれないが、他に思いつかなかったのだから仕方ない。
ハル姐さんの小指はお守り代わりに肌身離さず持っている。ナツ姉さんの強化魔法も途切れることなく持続していて、いつまでも瑞々しい綺麗な小指だ。
ただ、一つだけ、予想外の困った問題がある。
司厨部の追い回しの仕事があり得ないくらいキツイこと。それだけが予想の遥か斜め上だった。
「チェスカ! あんた朝飯食ったの!?」
「いただきました!」
「チェスカ! この皿、全部洗っといてな」
「かしこまり~!」
「チェスカ! マジまんじ!」
「どういう意味ですか!?」
「「「チェスカ!」」」
「はい~! ただいまぁ~!」
チェスカは、今日もしぶとく、生きている。
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