海の彼方のトティアス 〜船員さん、異世界へゆく。海に沈んだ世界で絆を育み生き抜く、普通の男の物語~

万年ぼんく

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第二章

第一五六話 キャパ超え? いろいろと限界です①

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 浮かない顔でサラダをつつく穂積の夕食風景を四人が心配そうに見つめていた。

 右腕の義手はクリスの新作を装着している。一定以上の力で引っ張ると肩口で外れる安全装置が付属していた。

 左手の扱いにはまだまだ慣れないが、フォークで食事をするくらいは出来る。

「どうしたの、ホヅミン? 元気無いみたいだけど」
「ん……。ちょっとな」
「ホヅミさま……義手……?」
「いいや、新作はとてもいいよ。教えてないのにこんな機構を思いつくとは、流石はクリスだな」

 すぐ撫でてやれないことに歯痒い思いをしつつ褒めてやると、クリスは安心したように笑ってくれた。

 本当に優秀でよく出来た子だと考えていると、斜向はすむかいに座るチェスカがろくでもないことを言い出した。

「じゃあ、何です? 便秘が辛いなら、お手伝いしますか?」
「違うから。手伝いって何する気だ」
「ひひっ。中からちょちょっと……勃たなくても気持ちいいと思いますよ?」
「やめて。便秘でもないし、手管てくだが凄すぎるから」

 トティアス一万年の文化は教会だけでなく、遊郭でも練り上げられていたようで、チェスカの超越技巧がとんでもないのだ。EDでなければ、どれだけ搾り取られているか分かったものではない。

 イソラとの情事が異常に盛り上がる原因はその辺りにあるのかもしれないので、決して嫌ではないのだが。

(明らかに限界を超えてるもんね……いろんな意味で……それも毎回)

 イソラの身体が心配になってくるほどなのだが、彼女は息もえに『もっと! もっとぉ!』と叫んでいるので良しとしておく。

 左隣に座るビクトリアがソワソワしていた。ここ数日は妙に口数が少なく、雰囲気も違っていた気がする。何か悩んでいるのだろうか。

「ビクトリア。せっかくの肉なのに食べてないじゃないか」
「……え? な、なんだ、ホヅミ?」
「いや、最近、ちょっと変だぞ? 歩き方もぎこちないと言うか、ゆっくりだし」
「そういえば、そうね。いつもは肩で風切る偉そうな感じかしら」
「船長も便秘ため気味ですか?」
「ば、馬鹿言うな。オレは何も溜めてなんかないぞ」
「月の物かしら? 重たいなら言ってね。薬出すから」
「せ、生理なんか来てたまるか!」
「リア姉……ホントに何言ってるの? ストレスで(生理)不順なのかしら?」
「ふ、不純……そうだな……不純の極みだ……」

 消え入りそうな声でそう呟くと、額に手を当てて俯いてしまった。やはり、ビクトリアがおかしい。

 こんな状態の彼女に更なるストレスを与えるのは気が引けるし、『大陸海溝の深海に行きたいけど、どうしたらいい?』などと相談できそうにない。

「ホヅミさま……そろそろ船長室に来ませんか……?」
「ああ、そうね。ウォーターベッドの搬入も今日終わったわ」
「毎晩、医務室が五月蠅いって苦情来てますしね」
「そうだな。いつまでも占領してるわけ「ダメだ!」にも……ビクトリア?」

 ガバッと顔を上げて叫んだビクトリアに怪訝な視線が集まる。

「あ、明日でも、いいんじゃないか? なぁ? まずはウォーターベッドの寝心地を確かめてからでも? な?」

 慌てた様子でパタパタと意味不明のジェスチャーをまじえつつ、しどろもどろに言い募るビクトリアに怪訝な顔を向けて、

「……まぁ、元々ビクトリアの居室だし、そう言うなら別に明日でもいいけど」
「よ、よし。どうせ、これで最後だ」
「そりゃあ、医務室の世話になるのは、これで最後にしたいけどさ」

 ほっとしたように「では、ホヅミの引っ越しは明日にしよう!」と締めくくったビクトリアは、夕食を手早く詰め込んでそそくさと席を立った。

「「「……怪しい」」」

 残された三人の女たちは異口同音に呟き、ジットリとした眼差しを微妙に内股で歩く彼女の背中に向けるのだった。

 ビクトリアが食堂から出ていって数分後、廊下を歩きながら言い争う声が近づいてきた。

「だから、儂は居室でええっちゅうとるだろ!」
「ダメです! 伯父さんも偶には食堂に出てきて食べて!」
「区切りが付いたら出るっちゅうに!」
「そう言って区切りなんか付けないじゃない!」

 穂積が予期した通りに、居室に籠りっぱなしのカントをミリーが引っ張ってきた。放っておけば風呂も食事も放棄して製図台から離れないのだから、やむを得ないだろう。

「オーナーからもこのじゃじゃ馬に言ってやってくれ! 邪魔するなとな!」
「じゃじゃ馬って何よ! 夕食の後は浴場に行ってよね! せっかくお風呂に入れる船に乗せてもらってるのに、一回も入ってないでしょ!」
「公衆浴場の設備配置と各部材の寸法測定、強度計算は済んどるわい! 次はもっと部材を減らして造れる!」
「そう言うことじゃないのよ! 臭いって言ってるの! そんなに新造船が大事なの!?」
「当たり前じゃろ! 各種新素材に未解読魔堰! 水道設備の例もある! 今までとは全く違う船が造れるんじゃ!」

 ミリーから新素材について聞かされたカントは始め半信半疑だったという。

 しかし、スターキーから実物を見せられて、各種素材の性能試験結果を知るや、すぐに製図台を広げ始めた。

「カントさん。新造船にバラスト石は要りませんからね」
「なぬ?」
「送液魔堰を利用してバラスト注排水システムを創りましょう。積載量と喫水制限に合わせて調整できる可変バラストです」
「…………固定バラストの撤廃か? 海水をバラストに出来れば……いける! いけるぞオーナー!」
「船倉をバラストタンクで囲んだダブルハル構造はどうでしょう? 出来ますか?」
「ダブルハル……? 二重船殻か? ――いける! 隔壁で区画分けすれば、簡単には沈まん船になる!」
「目指せ! 三三三メートルの超大型水輸送船!」
「真水輸送か!?」
「名付けてVLTC! Very Large Tunsuin Carrier! 巨大なカーゴタンクに真水を満載して輸送する水専用船です。揚げ荷と同時にバラスト注水、積み荷と同時にバラストを排水して喫水を維持します。まずは一番船を建造してブラッシュアップ。二番船以降の設計に反映させて、あとは姉妹船を量産して商船隊フリートを拡充。アルロー全島を網羅する定期航路を走らせます。もちろん船管はヒービン船舶管理です!」
「……オーナー」

 ミリーが呆れたようにジト目を向けてくるが敢えて無視する。

「安全率にも寄りますが、可能な限り大きく設計してください。従来の木材を多用し、新素材の使用は極力抑えた上でです」
「なんでじゃ?」
「新素材は今のところ一人しか造れる人材がいません」
「……そりゃ厳しいのう」
「オーナー。カントを煽らないでください」
「ミリーさんもカントさんの事、よろしくお願いしますね。VLTC計画は既にヒービンさんとモリスさんに伝えてありますから、船体設計図案と造船計画書を早めに事務部に提出できる様にカントさんをサポートしてください。もちろん、身体を壊さないように適度に休息を入れさせて」
「…………はい。かりこまりました」

 穂積の無茶振りに、ミリーはげんなりしつつも請け負った。

 ヒービンとモリスもこれを商機と捉えて、それぞれに構想の具体化に走っている。カントほどではないが、彼らも生活を犠牲にするきらいがあるので、目の下にクマを作らせない程度にはコントロールしてやる必要があるだろう。

「ホ~ヅミ~様っ! こちらをどうぞ。肴はわっちが造りんした!」

 ビクトリアが居なくなったのを好機を見たのか、キサラが左隣りへ滑り込み晩酌セットを差し出してきた。ちょうど一服したかったところだったので、タイミングはバッチリだ。

「ああ、キサラちゃん。ありがとう。美味しそうだね」
「ありがとうござりんす。お箸は使えんでありんしょ? わっちが給仕しんすぅ」

 キサラはこの数日の間に本船の珍しい献立と穂積の好みを把握し、箸の扱いを覚えて、事あるごとにこうして身体を寄せてくる。彼女は右利きだが、左右どちらからの給仕にも対応できるように、左手でも箸を自在に美しく扱うのだから、その努力たるや並大抵のものではない。

「……キサラ。皿洗いと品出しと床磨きとゴミ出しと真水移送は終わったの?」
「はい、チェスカさん。すべて終わっていす」

 キサラは追い回しとしても大変に有能だった。初日こそ醜態を晒していたが、それ以降は文句の付けようの無い働きを見せ、グランマの覚えもめでたい。

 ボリスとベイカーもコロッとほだされて、さり気なくキサラの雑用を手伝うようになり、追い回しの負担を上手くなしていた。

 体力と根性で解決を図るチェスカとは微妙に馬が合わないのだが、仕事はちゃんとしているので文句も言えない。

「ホヅミ様ぁ、お酌いたしんす。どうぞぉ」
「おぅ、ありがとう。いただきます」
「ホヅミ様……お尺もいたしんす?」

 しかし、チャンスと見るや、ぶっこんでくるのが玉に瑕だ。それもこの場でやってくるのだから、彼女も逞しいのだが、こうなると周りが黙っていない。

「キサラ。夕食後の浴場清掃が残ってる」
「チェスカさん。それは甲板部の仕事では?」
「ついさっき担当替えになったかしら」
「……ガードが固いざんす」
「ホヅミさまに色目を使うな……」(プレッシャー)
「ひぃ! ク、クリス…………様。冗談でげす」

 こうして最後はトラウマのクリスにやり込められるのが常だった。

(う~ん、キサラにも錬成魔法の練習して欲しいんだけどなぁ。ファーストコンタクトが良くなかったらしい)

 キサラも一生懸命なので可哀想ではあるのだが、女同士の確執に関わるのも恐ろしい。

 お互いに探りを入れつつ線引きはしているようなので、ねたそねみが溢れ出さない限りは大丈夫だと思うのだが、穂積の周辺で人間関係が飽和状態になりつつあった。

「ホヅミぃ、いい加減にしろよ」
「ホヅミめ……刺されろ」

 レットとブルが血を吐きそうになりながら、縁起でもないことを口走っていると、

「誰に刺されるの?」
「「ひいっ! フィーア様ぁ」」
「何? 震えてるの? 寒い?」
「いえっ、いいえぇ!」
「暑い、暑いなぁ!」
「暑いの? ます?」
「いえっ! ちょうどいい! 今がちょうどいいっす!」
「本日もたいっへんお美しい! いや、マジっす!」
「そう。ありがとう」

 突然フィーアに話し掛けられて恐れ慄きつつも、

「フィーア様! おれとリバーシやりましょう!」
「リバース? 裏返すの? 皮膚でいい?」
「いやいや、おれとトランプやりましょう! 神経衰弱でいいっすか?」
「何? 衰弱させればいいの?」
「「ジェンガで!」」
「じぇんがって何?」
「「教示させていただきまっす!」」

 何処どこか嬉しそうなチャラ男たちだった。

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