海の彼方のトティアス 〜船員さん、異世界へゆく。海に沈んだ世界で絆を育み生き抜く、普通の男の物語~

万年ぼんく

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第四章

第二四〇話 テロリストを狩る

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「突貫する! 軸線合わせ!」
「軸線合わ~せぇ~! よろし! ミッジップ!」

 前方一マイルに見える巨大な艦影。操舵手がジョイスティックを巧みに動かし、その横腹に舳先を合わせた。

「主機! 両舷補機! 最大戦速!」
「全推進魔堰! 最大戦そぉ~く!」
「突貫!」
「とっかぁ~ん!」

 『白海豚』三番艦は横波をものともせずに真っ直ぐ加速し、風切り音を靡かせ敵戦艦の土手っ腹目掛けて青海を切り裂いていく。

 急接近する真白の艦に気付いた敵艦から放たれた砲弾が雨霰と降り注ぐが、すべて後方に消えていく。速過ぎる標的に照準補正が追い付いていない。

 敵戦艦の高く広い外板が視界いっぱいに広がり――、

「総員! 衝撃に備え!」
「「「――――っ!」」」

 十分な速度を乗せた体当たりが炸裂した。

『ズガァアアア――――ン!!』

 水線下に突き出したバルバス・ラムは敵艦の分厚い外板を紙細工のように貫く。本艦全長の半分を占める艦首装甲が、侵入を拒み抵抗する敵艦の船殻フレームをし折り叩き割って、メリメリと入り込んだところで艦の行き足が止まった。

「艦首魔法部隊! どうか!?」

 艦長が伝声管に向けて大声を放つと、数秒遅れて艦橋天井に設置されたスピーカーから返答が届いた。

『じゅ……び……よろぉ……いぃ……』

 この艦内通話装置は未だ開発段階であり、金属製ではないため振動が減衰しやすく伝播速度も遅い。思いっきり大きな声で叫んで、ようやくノイズ混じりの囁き声が届く程度のものだった。

「艦首装甲上げろ! 直ちに放て!」

『ギギギギギ……ギギ……』

 艦首内配置の隊員が回転魔堰を起動すると、多数の減速歯車により落とされた回転数と引き替えに、絶大なトルクを得た巨大なカムローラーが回り、艦首前部を覆う装甲を持ち上げる。

「後進掛けろ! 敵艦のフレームが邪魔してる!」
「後進微速! 艦首を振ります!」

 メインハルの主機で後進を掛けて艦体を引きつつ、両舷サイドハルの補機をサイドスラスターとして使い、めり込んだ艦首を左右に振るとバキバキと音を立てて艦首装甲の上に隙間が空いた。

『ギギィ……ガゴンッ』

 装甲が定位置まで持ち上がると、艦首に待機し魔法を準備していた部隊の視界が開けた。目前には敵戦艦の中身が晒されている。

 部隊長の大声が響いた。

「てぇええええええっ!」

 艦首に空いた隙間から『火弾』や『風刃』、『圧縮火球』が放射状に乱れ飛ぶ。

「完了!」

 発射直後に伝声管に叫ぶと共に艦首装甲を下ろす。

 報告を聞いた艦長はすぐに「後進全速!」とオーダー。一気に敵戦艦から距離を取る。同時に、目一杯魔力を注ぎ込んだ魔法が敵艦の中で炸裂した。

『ボカァアア――ン! ドゴ――ンッ! ズガァアアアアンッ!』

 内部から蹂躙され、行き場を失った圧力に耐え兼ねて、敵戦艦の船殻外板があちこちで破裂した。

「「「うおおおおおおおおおっ!」」」

 バルバス・ラムで穿たれた大穴から海水を注ぎ込まれ、あぶくを噴きながら沈していく敵艦を見て、艦内の各所配置で勝鬨かちどきが上がった。

「一番艦に報告! 現在座標もだ! 送れ!」
「はっ! 文伝送ります!」

 流石に戦艦だけあってなかなか沈まない。排水量が大きい分だけ内部に溜め込んだ空気も多い。ボコボコ沸き出す気泡に塗れて徐々に沈降しているが、完沈するまで確認する時間が無い。

 あの戦艦の運命は決まっている。中央に空いた大穴から浸水し、沈み続け、やがて艦首と艦尾に残る浮力に耐え切れなくなった船殻がど真ん中で裂ける。

 真っ二つに割れた艦体はそれぞれ首と尾を持ち上げて直立し、ゆっくりと空気を吐き出しながら沈んでいくだろう。

「艦長! これで二隻です! 大戦果ですよ!」
「馬鹿者。まだノルマは残っている。僚艦の獲物まで狩りつくす気概で当たれ」
「はっ! 引き続き索敵に努めます!」

 浮かれて艦橋飛び出し、屋上に上がって見張りに指示を飛ばす若い副官を見ながら、ふっと笑いが漏れる。

 副官の気持ちは分かる。体当たりは海戦の華だが、一撃必殺の最後の手段であり実戦で使われることはほぼ無い。轟沈確定の場面で一矢報いるために用いる程度のものだ。

 この艦に配属された時はどうしようかと思ったものだが、既存の常識をすべて捨て去り、一から勉強し直した自分を褒めてやりたい。

「――と、浸っている場合ではないな。いかんいかん」

 セントルーサの軍港から出撃して二日。発見してしまえばすぐ蹴りは付くのだが、やはり索敵に時間が掛かる。敵の目的を考えれば、絶対に取りこぼすわけにはいかない。

 今もヴァルス要塞の西では護衛艦隊と敵艦隊の睨み合いが続いている。どうやら敵は要塞の存在を知らなかったようで、その脅威度が読み切れずに攻めあぐねているらしい。

 偶々、要塞の視察に訪れていた巫女姫が、造りかけの基礎部材をぶち壊して張りぼての要塞を造ったらしく、見た目の威圧感が恐怖を煽るのだとか。

 とはいえ、戦艦の砲が直撃すれば壊れる程度の代物だ。弾幕を張って攻め寄せてくれば抑え切れないだろう。

「一刻も早く、テロリスト狩りを終えて急行せねば」

 三番艦は敵艦の捜索を続け、二日後の日没前に三隻目を沈めた。 


**********


「ビクトリア様、二番艦のセーラ様より報告あり。十五隻目を沈めました」
「よし。直ちに変針、増速。警戒艇はどうか?」

 セントルーサ島を発って六日目の昼過ぎ、領海内に侵入し散開した敵戦艦すべての撃沈が確認された。

 ビクトリアの乗艦である一番艦は当然として、僚艦四隻も損害は軽微であり、乗員に死傷者は無い。

 敵戦艦は陣形を組まず単独で、直衛の艦艇も居なかったとはいえ、戦艦十五隻を相手にたった五隻の駆逐艦が挙げた異例の戦果に、艦橋に詰めている要員は顔が赤くして興奮していた。

 一方、ビクトリアや一番艦の艦長は落ち着いている。『白海豚』の性能を以ってすれば勝って当然の相手だと分かっていたからだが、テロリストという存在への警戒心がまず先に立つ。

「西方の各島より動かせる全艇を出しました。監視網は構築済みです。今のところ、不審な船舶は見つかっておりません」
「うむ。各島沿岸の監視も強化するよう通達を出せ。泳いで上陸してくるモグラ崩れが居るかもしれん。一般人の夜間外出禁止令を出せ。街中の巡視も増やせ」

 戦艦という派手な脅威を目眩ましに、漁船などに偽装した不審船が入り込む可能性もある。撃破した戦艦が完沈するまで監視する余裕は無かったため、生き残りがいる可能性も捨て切れない。

「ビクトリア様。夜間だけとはいえ、外出禁止令はやり過ぎでは?」
「かもしれん。だが、オレも初めての相手だ。テロリストは怖いのだよ」
「それほどの強者がなるものなので? そのテロリストとは?」
「艦長、貴官も覚えておかれよ。テロリストの恐ろしいところは、魔力でも戦闘力でもなく、その精神性にある」

 ビクトリアにしても穂積の受け売りだが、わざと周囲に聞こえるように、今回の相手の特殊性について解説した。

 そのように定義される存在はこれまでトティアスにはいなかったが、海賊や山賊、地下に蔓延る闇組織の影に隠れていただけのこと。捻じ曲がった根性と切っ掛けさえあれば、誰でもなり得るのがテロリストだ。

「例えば、セントルーサの下町で、小物や花を売っている少年少女がいるだろう」
「おりますな。何処の島にもおります。大抵はスラムの子供たちです」
「テロリストは子らを言葉巧みに騙し、爆発物を持たせて貴官の元へ行かせるだろう」
「…………は?」
「少女から花を買ってやろうとした優しい貴官は、少女と諸共に肉片と化す。周囲にいる大勢の無関係の者も巻き込んでな」
「…………むぅ」
「子供を洗脳して積極的にテロをやらせるタイプもあるそうだ。自爆する子供と自爆しない子供を、どう見分ける? どう対処すればいい?」
「信じたくはありませんが、そういう人間もいるということですか。さて、防ぎようが無いかと」
「そういう事だ。現時点では水際で食い止めるしかない。戦艦の相手をする方が遥かに楽なのだ」
「承りました。各島に徹底させるよう通達します」

 この艦長も含めて職業軍人の業務は多岐に渡る。艦隊同士の海戦などほとんど起こらないため、普段は海賊や山賊を追い掛け回したり、コソ泥を捕まえたりするのが彼らの仕事だ。

 親衛隊には首長館の警備や要人警護の任もあるが、その他の部隊との差はほぼ無いと言っていい。海兵と憲兵の境も曖昧であり、その都度、状況に応じて人員を融通し合うことで治安を一定以上に維持している。

 つまりは、この場にいる全員が無関係ではいられない。戦艦を沈めて大きくなっていた威勢は縮こまり、誰もがテロの恐ろしさに身震いしていた。

「魔力容量で人を測る時代は間もなく終わる! 魔法など使えずとも強いやつは強いし、魔法の強弱が意味を為さない相手もいるのだ! それを肝に銘じて己を鍛え直せ!」
「「「はっ!」」」
「だが、ここから先は貴官らが主役の戦場! 大規模海戦だ! アルロー海軍の力を示せ!」
「「「応っ!!」」」
「艦長! 僚艦に号令! ヴァルス要塞に集結せよ! 送れ!」
「アイ、マム!」

 セーラの報告を受けた直後から、一番艦は最大戦速で西へ向かっている。ビクトリア砲による遠距離攻撃を有する本艦は、万一の取りこぼしに備えて領海深くで網を張っていたため、他の四隻より出遅れていた。

「ビクトリア、あんまり大声出さないの。お腹に響くかしら」
「はい、母上」
「座ってなさい。ウロウロしないの」
「……はい、母上」

 せわしないビクトリアを、専属衛生兵として従軍したルシオラがたしなめる。

 とりあえず母の言うことを聞いて、指揮官用の背の高いパイロットシートに腰掛けながら、進行方向の水平線を睨み付けて肘掛けをトントン叩く指先が、ビクトリアの内心を如実に表していた。

「前駆陣痛はまだみたいだし、お腹の張り具合を診ても、まだ早いとは思うけど――、臨月には違いないの! 安静にしてなきゃいけないかしら! 本来なら!」
「重々、分かっております。だから、こうして安静にしているでしょう?」

 娘が碌な性知識も持っておらず、いつ出来たのか判然としないと聞いた時は頭を抱えて、そういえばそっちの教育はしていなかった事を思い出した。おかげで予定日がよく分からなくなっているが、おそらくあと二週間ほどだろう。

「戦闘艦の艦橋で安静にする妊婦なんかいないかしら!」
「大丈夫です。つわりも張りも感じません」
「あなたは自分の事には鈍いところがあるから、もしかしたら気付いてないだけかもしれないでしょ」
「ですから、安静に戦っているではありませんか。体当たりはしていませんし、一隻は他に任せて二隻しか沈めてないし。本艦だけですよ? ノルマ未達成は」
「ビクトリア!」

 ルシオラの遅きに失した性教育は、説教を織り交ぜながら長く長く続いた。

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