1 / 14
こんな小デブに!なんで!わたくしが!
しおりを挟むアンバー・マーコットは、いよいよ覚悟を決めた。
不本意な気持ちではあった。
俯いたその顔には眉間に皺がより、目には涙が浮かんでいた。
王妃教育では、常に淑女たれと言われ続けてきた。
内心では顎を噛み砕きそうなほどに歯を食いしばりつつ、優雅に目を細め、口角を穏やかに引き上げる。
ーー何があっても決して感情を見せるようなことがあってはならない。
日々繰り返されてきた言葉が頭をよぎり、一瞬にして吹き飛んだ。今ではそれをアホみたいに繰り返しまくった講師たちに、うっせばーかばーか!と怒鳴りつけてやりたいくらいだ。
それでも成さねばならないのだ。そうでもしないと、結局、別の意味で気が狂いそうになるのだから、どうしようもない。
頭の中で、御託を並べ終えた彼女は、非常に不本意ながら。
目の前の小デブに、口付けた。
クリオラシュ・ヘイザムは、にひゃあ、とだらけた顔でそれに応じる。
「ありがとうございます。私の女神。本当に信じられない。私はなんて幸せ者なんだ!」
矢継ぎ早に告げられる言葉は、たいてい、アンバーへの賞賛や感謝であり、次いで自分が幸運だとか果報者だとかの自分ラッキー的な言葉である。
こんな小太りに、何を言われようが嬉しくもなんともない。
腹の中では辛辣な言葉をこれでもかと吐きながら、アンバーは口角が震えるのを何とか阻止し、どうにか洗練された微笑みを返した。
またもや感激した様子の、クリオラシュが襲い掛かるようにアンバーに抱きついた。腹の肉がほよよんとアンバーの華奢な体を包み込む。小太りのくせに節だった指がアンバーの顎をクイっとやる。啄むように口付けられた。
「ん、はむ、ふ、んン……♡♡」
こ、れ、だ、か、ら!
この男は嫌なのだ!!!
アンバーは、目の前の男をキィ、と睨みつけそうになるのを必死で堪え続ける。
他愛のないそれは、角度を変えてどんどんと深いものになっていく。アンバーの我慢しきれなかった吐息まで呑み込んでしまうキスは、とても、魅力的なものだった。
それがとても許せない。
許せないのに、じゅわり、と下が濡れ始める。
さらに居た堪れない。
くっそー、と思いながらも、アンバーは両の手を彼の背に回してしまう。
デカい!アンバーの細腕では回り切らない!
こんな、小デブに!なんで!わたくしが!
このように、アンバーは実に不本意な気持ちで一杯である。
それでも体はモジモジし始める。
もう欲しくてたまらないのだ。
痴女だ!もう!
我ながら痴女すぎる!
屈辱に震えながらも口を開く。
しかし口をつくのは本心とは全く違うはずの甘ったるい声だった。
「クリオラシュさま……、はやく哀れなアンバーに、お慈悲をくださぁい♡」
アンバー・マーコットは脇役俳優であるポッチャリ男の手管に、ガッツリ堕とされている。
それはもう不本意なほどに。
0
あなたにおすすめの小説
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる