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第三節 えっ?アタシ、ケンカ売られちゃったけど?
第11話 友達と手紙と涙と報奨 前編
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魔王ディグラスとルミネの話し合いの結論は結局のところ何も出なかった。拠って今後、何かが分かり次第そっちの方は話しを進めていく事になった。
「あら?こんな所で何をやっているんですの?」
「あぁ…ルミネおかえり。父様との話しは無事に終わった?」
「え、えぇ。終わりましたわ」
「それよりも、どうかなさいましたの?」
「うん、ここから、遠くの方に消滅した山の跡が見えるの」
「え?そ、そうですわね。ふふふ。あはは。何を黄昏れているのかと思いましたら、ふふふふふふ。あっははははッ」
王都ラシュエより戻ったルミネは、ルネサージュ城の塔の上で黄昏れている(様に見える)少女に声を掛けた。
声を掛けられた少女はまるで魂が抜けた抜け殻のような表情でルミネに対して返答していた。
ルミネは魔王ディグラスとの会話の中で少女を人間界に戻す方法が見付からなかった事を悩んでおり、てっきり少女もそれを心配しているのだと勘違いしていた。だが、返って来た解答は全くの想定外であり、不意打ちを喰らったルミネはこらえきれずに吹き出していた。
一方で突然笑い出したルミネに対して少女は「きょとん」とした顔でルミネの顔を眺めていたが直ぐに笑顔になった。
「なんだルミネ、そんな表情も出来るし、ちゃんと笑えるんじゃない!」
「はッ!?」
「そ、そうですわよ?あ、当たり前の事じゃないんですの?」
「あははははッ。おっかしー」
「な、何がおかしいんですの?」
少女は声を上げて笑った。
ルミネは少女に笑われているのが腑に落ち無い様子で、ちょっとだけ頬をむくれさせていた。
ルミネの白く柔らかそうな頬がリスのように膨らんだのを見た少女は更に破顔させていく。
「アタシさ…元いた世界じゃ仲間はいるけど…友達って呼べる人はいなくてさ。だから、こんな風に笑ったのも久し振りなんだ」
「そ、そうなんですの?」
「でも、それを言ったら、わたくしにだってそんな方はいらっしゃいませんわよ?」
「お父様は厳しいし、わたくしと同年代の方は周りにはおりませんもの」
「ちょ、一体どうしたんですの?わたくしが何か失礼なコトを申しましたか?」
ルミネは少女の瞳から一筋の涙が溢れたのを見た。その涙が示している意味がルミネには分からなかった。
だからその結果、ルミネはその突然の涙におろおろとするしか出来なかった。
そんな取り乱したルミネの様子を尻目に少女は更に言の葉を紡いでいく。
「それに…ね、死んだと思ってた父様が生きてて、そして魔王やってるなんて驚いたしさ。それにこの世界から本当に帰れるのかなって色々ここで考えてたら、なんか…ね」
「なんかごっちゃごちゃで、色んな感情が次から次へと押し寄せてきて、すっごく情緒不安定」
「これじゃ、アタシ、本当にどうしたらいいんだろ?」
少女のその瞳は今にも決壊しそうになっていた。
ルミネはそんな少女の表情に胸が締め付けられた。だから気付いた時には無意識の内に少女を優しく抱きしめ頭を撫でていた。
「ありがとう、ルミネ。でも、その、ちょっと苦しい」
「はッ!?わたくしったら一体何を」
「た、大変失礼致しました。粗相をせぬように厳命されておりましたのに。申し訳御座いませんでした」
「大変、申し訳ありませんッ」
「ルミネちょっとやめてよ。アタシはルミネの事をこっちで出来た友達だと思っているの。それとも、友達だと思ってちゃ…駄目?」
「ルミネもアタシの事を友達だと思ってくれるなら堅苦しいのはやめて。もっと、さっきみたいに笑って色々と話そうよッ!」
「御子様……」
「出来れば、その御子様ってのもやめて欲しいけど、それは…無理?」
「御子様のコトを友達として思ってもいいんですの?」
「えぇ、モチロン!」
「ありがとうございます、御子様。でも、御子様は御子様なので、他に呼ぶ事は出来ませんわ」
「もう、ルミネは堅ったいなぁ」
「じゃあ、これからは友達として宜しく、ルミネッ!」
「こちらこそ、宜しくなのですわ」
ルミネも泣きそうだった。でもここで泣いてしまったら少女を驚かせてしまうかもしれないから、必死に我慢した。
だからルミネは実際には苦しい苦しい心の内で、気付かれないように泣いていた。
でも、最後には少女に対して笑顔で応えていた。
こうして2人は友達になった。
それから2人は色々な話しをした。「魔界」には朝も昼もないし、夜もない。常に薄暗いか多少暗いかの2択しかない。
言うなれば夜の帳が降りる寸前を常に繰り返しているようなモノだ。然しながら、それこそ一晩中といっても過言ではないくらいの時を費やし、寝食を忘れる程に塔の上で色んな話しをした。
そんな2人の様子を見詰めている2つの影があった。2つの影はそれぞれ別々の場所にあって、それぞれが思い思いの感情を抱いて2人の様子を窺っていた。
それから数日経ったあくる日の事。
「此度の反乱における功労者の武勲を讃え叙勲式を行う」との通達が王都ラシュエから入った。
アスモデウスは一部の兵を城の守りに置くと、残り全ての兵を率いて慌ただしく王都へと向かっていった。
その中に少女とルミネの姿はなかった。
「ルミネは行かなくていいの?」
「だって、関係ないんですもの。功労者の叙勲式なんて。軍属ではない、わたくし達には関係ありませんわ。それにお父様から「来い」とも言われませんでしたし」
「そうなんだ?」
「なぁんだ、アタシはてっきり「一緒に行かずに後で扉を使っていきますわ」とか言うものと思ってたけど?」
「御子様、それってわたくしの真似ですの?怒りますわよ?」
「あはは、ごめんごめん。そんなに怒らないでよぅ」
アスモデウス達を見送ったルミネに対して少女は声を掛けた。
ルミネが顔をむくれさせているのが気になったからだ。
少女はルミネが「自分が呼ばれなかった」という事に対して、腹を立てていると感じたから少しだけ心配になったのだった。
だから少女は少しでも場を和ませようと、ルミネの声と仕草を大袈裟に真似て言葉を紡いだ。
然しながらそれは当然のように逆効果でしかなく、ルミネは更に顔をむくれさせていった。
少女はルミネの顔が、これ以上膨らまないように宥める事に必死だった。
2人はあの日からだいぶ仲が良くなっていた。ルミネの敬語…というかお嬢様語(?)は貴族の家に生まれた以上、仕方のないものだと割り切る事にした。
だけどそれを除いても、ルミネの変化は少女にとって満足のいくものだったと言える。
しかし、当然の様にそれを快く思わない者もいる。
「お嬢様。こんな場所に御座しましたか。何やら楽しそうな所を申し訳ありませんが、早々に出立の準備を済ませて頂けますか?」
「貴方は確か、ハロルドだったかしら?それは一体、どういった意味かしら?わたくしにどこに行けと仰っているの?」
「お嬢様、言葉が足らず申し訳ありません。お嬢様はお館様から何もお聞きになられてはおりませんか?」
「だから、一体なんなんですの?わたくしはお父様から何も言われておりませんし、お父様は言わずに王都ラシュエに向かわれました。これで宜しいかしら?」
「えっ?何も聞かされていらっしゃらないのですね。それは大変失礼致しました」
少女との時間を楽しんでいた時に、横槍を入れてきた兵士に対してルミネは些細な敵意を抱いた。
一方のハロルドはルミネから放たれている敵意を「無いもの」としてやり過ごすと、ルミネの質問に質問を投げ返していく。
ルミネは容量を得ないハロルドの質問に対して更に敵意を増していくが、ハロルドはその増し増しになった敵意に気付かないまま純粋に頭を下げた。
その様子にルミネの敵意は少しだけ、ほんの少しだけ緩和していった。
「ほっほっほっ、無理もないハロルド。お館様はお嬢様には本当にお伝えしていないのだから」
「貴方まで一体、何の用かしら?」
「王都から届いた通達には、お嬢様とそちらの御方のお名前も御座いました。ですが、お館様は「軍属ではないのだから、一緒に来る必要はない」と申され、そしてお館様達が王都に出立した後にこれを…と」
「これを、お父様が?」
くしゃッ
「御子様、参りましょう」
「えっ?ルミネどうしたの?って、どこに行くのよ~」
ハロルドに続き横から割り込んで来た者がいた。その顔を見た途端、ルミネの表情が昏くなっていくのを少女は見逃さなかった。
拠ってルミネの薄れた敵意は一層強みを増していく。
一方で少女は先程からその様子を静観する決意をしていたので、一言も発せず成り行きを見守る事にしている。
後からやってきた男がルミネに対して差し出した1通の手紙。ルミネの父親であるアスモデウスが書いたと言う手紙。
ルミネはその手紙を受け取り一通り目を通すと、手紙を憎しみを込めて握り潰していた。そして更に何も言わずに少女の手を取ると、歩き出していった。
少女は戸惑いながらも、ルミネの瞳に浮かんでいる涙を見てしまった事から何も言えなかった。
その場には2人が取り残され、ハロルドは心配そうな表情を浮かべてルミネを見送っていた。しかし、もう1人は口角を上げて嗤っていた。
「あーっもうっ、くっそムカつきますわ!!」
がしゃんッ
「何なんですの?あのクソ親父ッ!自分より武勲が上だから来るのを禁ずぅ?全く意味が分かりませんわ」
がしゃがしゃんッ
「ご自分が弱いから武勲が上がらなかっただけでしょう?それなのに、それなのに、あーーーーーッ、もうッ!」
ばりんッ
「ムシャクシャしますわッ!」
ルミネは荒れた。自分の部屋に着くなり荒れた。
少女はそんな荒れているルミネに対して声を掛けるのを諦めた。触らぬ神に祟りなしではないが、何があったのか正確な事が分からない以上は、掛けていい言葉が見付からなかったからだ。
だが一方でルミネが今までに見せた事のない表情や言葉遣いに、ニヤニヤが止まらなかったと言うのも事実である。
ルミネは更に荒れていく。言葉遣いも非常に悪くなっている。
そして少女はニヤニヤが止まらない。
だがこれ以上ルミネが荒れると部屋がメチャクチャになりそうだったので、ニヤニヤを抑えて渋々止める事にした。そんな時、荒れているルミネの手からアスモデウスの手紙が落ちていった。
しかも、その手紙に少女が触れると2枚目の手紙が現れたのである。
2枚目の手紙を拾い上げ、その中身を読んだ少女は表情が砕けていった。
そして気付けば大声を出して笑っていた。
流石にその光景を見たルミネは「自分が荒れている為」だと勘違いし少しだけ落ち着こうと思った。
然しながらその矢先に少女からアスモデウスからの手紙の2枚目を渡されたのである。
「あら?こんな所で何をやっているんですの?」
「あぁ…ルミネおかえり。父様との話しは無事に終わった?」
「え、えぇ。終わりましたわ」
「それよりも、どうかなさいましたの?」
「うん、ここから、遠くの方に消滅した山の跡が見えるの」
「え?そ、そうですわね。ふふふ。あはは。何を黄昏れているのかと思いましたら、ふふふふふふ。あっははははッ」
王都ラシュエより戻ったルミネは、ルネサージュ城の塔の上で黄昏れている(様に見える)少女に声を掛けた。
声を掛けられた少女はまるで魂が抜けた抜け殻のような表情でルミネに対して返答していた。
ルミネは魔王ディグラスとの会話の中で少女を人間界に戻す方法が見付からなかった事を悩んでおり、てっきり少女もそれを心配しているのだと勘違いしていた。だが、返って来た解答は全くの想定外であり、不意打ちを喰らったルミネはこらえきれずに吹き出していた。
一方で突然笑い出したルミネに対して少女は「きょとん」とした顔でルミネの顔を眺めていたが直ぐに笑顔になった。
「なんだルミネ、そんな表情も出来るし、ちゃんと笑えるんじゃない!」
「はッ!?」
「そ、そうですわよ?あ、当たり前の事じゃないんですの?」
「あははははッ。おっかしー」
「な、何がおかしいんですの?」
少女は声を上げて笑った。
ルミネは少女に笑われているのが腑に落ち無い様子で、ちょっとだけ頬をむくれさせていた。
ルミネの白く柔らかそうな頬がリスのように膨らんだのを見た少女は更に破顔させていく。
「アタシさ…元いた世界じゃ仲間はいるけど…友達って呼べる人はいなくてさ。だから、こんな風に笑ったのも久し振りなんだ」
「そ、そうなんですの?」
「でも、それを言ったら、わたくしにだってそんな方はいらっしゃいませんわよ?」
「お父様は厳しいし、わたくしと同年代の方は周りにはおりませんもの」
「ちょ、一体どうしたんですの?わたくしが何か失礼なコトを申しましたか?」
ルミネは少女の瞳から一筋の涙が溢れたのを見た。その涙が示している意味がルミネには分からなかった。
だからその結果、ルミネはその突然の涙におろおろとするしか出来なかった。
そんな取り乱したルミネの様子を尻目に少女は更に言の葉を紡いでいく。
「それに…ね、死んだと思ってた父様が生きてて、そして魔王やってるなんて驚いたしさ。それにこの世界から本当に帰れるのかなって色々ここで考えてたら、なんか…ね」
「なんかごっちゃごちゃで、色んな感情が次から次へと押し寄せてきて、すっごく情緒不安定」
「これじゃ、アタシ、本当にどうしたらいいんだろ?」
少女のその瞳は今にも決壊しそうになっていた。
ルミネはそんな少女の表情に胸が締め付けられた。だから気付いた時には無意識の内に少女を優しく抱きしめ頭を撫でていた。
「ありがとう、ルミネ。でも、その、ちょっと苦しい」
「はッ!?わたくしったら一体何を」
「た、大変失礼致しました。粗相をせぬように厳命されておりましたのに。申し訳御座いませんでした」
「大変、申し訳ありませんッ」
「ルミネちょっとやめてよ。アタシはルミネの事をこっちで出来た友達だと思っているの。それとも、友達だと思ってちゃ…駄目?」
「ルミネもアタシの事を友達だと思ってくれるなら堅苦しいのはやめて。もっと、さっきみたいに笑って色々と話そうよッ!」
「御子様……」
「出来れば、その御子様ってのもやめて欲しいけど、それは…無理?」
「御子様のコトを友達として思ってもいいんですの?」
「えぇ、モチロン!」
「ありがとうございます、御子様。でも、御子様は御子様なので、他に呼ぶ事は出来ませんわ」
「もう、ルミネは堅ったいなぁ」
「じゃあ、これからは友達として宜しく、ルミネッ!」
「こちらこそ、宜しくなのですわ」
ルミネも泣きそうだった。でもここで泣いてしまったら少女を驚かせてしまうかもしれないから、必死に我慢した。
だからルミネは実際には苦しい苦しい心の内で、気付かれないように泣いていた。
でも、最後には少女に対して笑顔で応えていた。
こうして2人は友達になった。
それから2人は色々な話しをした。「魔界」には朝も昼もないし、夜もない。常に薄暗いか多少暗いかの2択しかない。
言うなれば夜の帳が降りる寸前を常に繰り返しているようなモノだ。然しながら、それこそ一晩中といっても過言ではないくらいの時を費やし、寝食を忘れる程に塔の上で色んな話しをした。
そんな2人の様子を見詰めている2つの影があった。2つの影はそれぞれ別々の場所にあって、それぞれが思い思いの感情を抱いて2人の様子を窺っていた。
それから数日経ったあくる日の事。
「此度の反乱における功労者の武勲を讃え叙勲式を行う」との通達が王都ラシュエから入った。
アスモデウスは一部の兵を城の守りに置くと、残り全ての兵を率いて慌ただしく王都へと向かっていった。
その中に少女とルミネの姿はなかった。
「ルミネは行かなくていいの?」
「だって、関係ないんですもの。功労者の叙勲式なんて。軍属ではない、わたくし達には関係ありませんわ。それにお父様から「来い」とも言われませんでしたし」
「そうなんだ?」
「なぁんだ、アタシはてっきり「一緒に行かずに後で扉を使っていきますわ」とか言うものと思ってたけど?」
「御子様、それってわたくしの真似ですの?怒りますわよ?」
「あはは、ごめんごめん。そんなに怒らないでよぅ」
アスモデウス達を見送ったルミネに対して少女は声を掛けた。
ルミネが顔をむくれさせているのが気になったからだ。
少女はルミネが「自分が呼ばれなかった」という事に対して、腹を立てていると感じたから少しだけ心配になったのだった。
だから少女は少しでも場を和ませようと、ルミネの声と仕草を大袈裟に真似て言葉を紡いだ。
然しながらそれは当然のように逆効果でしかなく、ルミネは更に顔をむくれさせていった。
少女はルミネの顔が、これ以上膨らまないように宥める事に必死だった。
2人はあの日からだいぶ仲が良くなっていた。ルミネの敬語…というかお嬢様語(?)は貴族の家に生まれた以上、仕方のないものだと割り切る事にした。
だけどそれを除いても、ルミネの変化は少女にとって満足のいくものだったと言える。
しかし、当然の様にそれを快く思わない者もいる。
「お嬢様。こんな場所に御座しましたか。何やら楽しそうな所を申し訳ありませんが、早々に出立の準備を済ませて頂けますか?」
「貴方は確か、ハロルドだったかしら?それは一体、どういった意味かしら?わたくしにどこに行けと仰っているの?」
「お嬢様、言葉が足らず申し訳ありません。お嬢様はお館様から何もお聞きになられてはおりませんか?」
「だから、一体なんなんですの?わたくしはお父様から何も言われておりませんし、お父様は言わずに王都ラシュエに向かわれました。これで宜しいかしら?」
「えっ?何も聞かされていらっしゃらないのですね。それは大変失礼致しました」
少女との時間を楽しんでいた時に、横槍を入れてきた兵士に対してルミネは些細な敵意を抱いた。
一方のハロルドはルミネから放たれている敵意を「無いもの」としてやり過ごすと、ルミネの質問に質問を投げ返していく。
ルミネは容量を得ないハロルドの質問に対して更に敵意を増していくが、ハロルドはその増し増しになった敵意に気付かないまま純粋に頭を下げた。
その様子にルミネの敵意は少しだけ、ほんの少しだけ緩和していった。
「ほっほっほっ、無理もないハロルド。お館様はお嬢様には本当にお伝えしていないのだから」
「貴方まで一体、何の用かしら?」
「王都から届いた通達には、お嬢様とそちらの御方のお名前も御座いました。ですが、お館様は「軍属ではないのだから、一緒に来る必要はない」と申され、そしてお館様達が王都に出立した後にこれを…と」
「これを、お父様が?」
くしゃッ
「御子様、参りましょう」
「えっ?ルミネどうしたの?って、どこに行くのよ~」
ハロルドに続き横から割り込んで来た者がいた。その顔を見た途端、ルミネの表情が昏くなっていくのを少女は見逃さなかった。
拠ってルミネの薄れた敵意は一層強みを増していく。
一方で少女は先程からその様子を静観する決意をしていたので、一言も発せず成り行きを見守る事にしている。
後からやってきた男がルミネに対して差し出した1通の手紙。ルミネの父親であるアスモデウスが書いたと言う手紙。
ルミネはその手紙を受け取り一通り目を通すと、手紙を憎しみを込めて握り潰していた。そして更に何も言わずに少女の手を取ると、歩き出していった。
少女は戸惑いながらも、ルミネの瞳に浮かんでいる涙を見てしまった事から何も言えなかった。
その場には2人が取り残され、ハロルドは心配そうな表情を浮かべてルミネを見送っていた。しかし、もう1人は口角を上げて嗤っていた。
「あーっもうっ、くっそムカつきますわ!!」
がしゃんッ
「何なんですの?あのクソ親父ッ!自分より武勲が上だから来るのを禁ずぅ?全く意味が分かりませんわ」
がしゃがしゃんッ
「ご自分が弱いから武勲が上がらなかっただけでしょう?それなのに、それなのに、あーーーーーッ、もうッ!」
ばりんッ
「ムシャクシャしますわッ!」
ルミネは荒れた。自分の部屋に着くなり荒れた。
少女はそんな荒れているルミネに対して声を掛けるのを諦めた。触らぬ神に祟りなしではないが、何があったのか正確な事が分からない以上は、掛けていい言葉が見付からなかったからだ。
だが一方でルミネが今までに見せた事のない表情や言葉遣いに、ニヤニヤが止まらなかったと言うのも事実である。
ルミネは更に荒れていく。言葉遣いも非常に悪くなっている。
そして少女はニヤニヤが止まらない。
だがこれ以上ルミネが荒れると部屋がメチャクチャになりそうだったので、ニヤニヤを抑えて渋々止める事にした。そんな時、荒れているルミネの手からアスモデウスの手紙が落ちていった。
しかも、その手紙に少女が触れると2枚目の手紙が現れたのである。
2枚目の手紙を拾い上げ、その中身を読んだ少女は表情が砕けていった。
そして気付けば大声を出して笑っていた。
流石にその光景を見たルミネは「自分が荒れている為」だと勘違いし少しだけ落ち着こうと思った。
然しながらその矢先に少女からアスモデウスからの手紙の2枚目を渡されたのである。
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