不思議なカレラ

酸化酸素

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第二節 えっ?アタシのコトを追っ掛けて…来るワケないわよね?

第10話 盾と極大魔術とゴーレムと研究課題 後編

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「無事に戻って来られたな」

「恐れながら陛下」

「構わぬ、お主らが気に病む必要はない。なぁに、スグに直る。そこで見ていなさい」
「すまないな、わたしの城よ。わたしの魔力を注ぐから元に戻してもらえるか?」

 ルミネの転移魔術に拠って戻って来た場所は、ボロボロになった玉座の間だった。
 その惨状にルミネとアスモデウスは居た堪れない気持ちでいたが、魔王ディグラスはそんな2人に優しく声を掛けた。
 更に魔王ディグラスは天井を見上げると明らかに

 その場に居合わせた3人にはその光景が、とても理解出来る光景モノではなかった。
 それは魔王ディグラスが城に対して話し掛けている光景が「イタイから」ではない。

 魔王ディグラスは城に向かって話し掛けていたのは事実だ。だが城の床にその手を置くと状況は一変した。
 どこからともなく「了解致しました。マイ・マスター」と声が響き、玉座の間はみるみる内に修復されていったのである。

 理解出来ないでいた3人が呆気に取られる事しか出来なかったのもまた、紛れもない事実だった。


「修復完了」

「これは、わたしは幻でも見ているのか?ルミネよ、お前にこれが解明出来るか?」

「い、いえ。サッパリですわ、お父様。壊れた城を元に戻す魔術なんて発想もありませんわ」

「時間の逆行?でもそれとも違うようだし、さっきの話し声からするとこの城自体が生きてるってコトかしら?」

「バカかッ!城が生きているなど信じられるか!それならわたし達は腹の中にいる事になるのだぞッ!」

「まぁまぁ、そんなに謎解きがしたいのであれば解答しよう」
「この城はわたしが作った城だ。正確にはわたしが作った魔術生物ゴーレムだがな」

「なッ、魔術生物ゴーレム?これ程の大きさの魔術生物ゴーレムとは」

「この魔術生物ゴーレムわたしが内部、外部、細部に至るまで設計し作り上げた。だから、いくら破壊されようが元に戻す事が出来る。そういったモノだ」

「そんなコトが出来るんですの?」

「アタシはそこら辺は管轄外だから分からないわ。でも信じるしかなさそうよ?」

 魔王ディグラスが紡いだ言の葉を聞いたアスモデウスには、思い当たる事があった。
 確かに今代の魔王ディグラスがその要職に就くまで、


 先代魔王の城はここではなく、この城から今でも見える位置にあり今でもなお健在している。

 一昔前までここには何もなかったのだ。今ある城下の街すら影も形も無かった。


 今代の魔王であるディグラスは、要職魔王に就任するや否や(魔界に昼夜の概念は無いが、便宜上)一夜にして王城を築いた。
 更には先代の王城と、新たな王城を取り囲むように城壁までも造ってしまった。

 そして広がった城壁の内側に次々と建物が建築されて、今の王都ラシュエが完成した。

 一夜にして王城と城壁が出来た事に対して、街の者も含め皆が首を傾げていた。
 然しながら誰も「どうやって造ったか?」という解答に至る者はいなかったのだった。

 その謎が今、解き明かされた。他ならぬ当事者魔王ディグラスの口から。


「さて、こたびの一件、誠に大義であった。今回の沙汰さたは追って日取りを知らせる故、今は居城に戻り疲れを癒やして欲しい」
「ルミネよ、アスモデウスと共に我が子も送ってもらえるか?」

「わ、我が子?」

「あぁ、確かにあの場にいなかったお主は知らなんだか。他の主要な者達には伝えたが、そこのヒト種の娘は我が子である。早々に人間界に戻す予定ではあるが、それまでその方の城に置いておいてもらえるか?ここでは、なにぶんと小奴こやつを構ってやれる相手がおらぬのでな」
「あと、広くおおやけにはまだ話しておらぬ故、他言は無用ぞ」

「本当に…あの話しは本当だったのか」
「ルミネえぇぇぇぇ!」

「どうかなさいまして、お父様?」
「陛下の御前ですわよ?」

「ぐぬぬぬぬ」

「アスモデウスよ。こたびの事、ルミネを叱るではないぞ?」
「ルミネの助言があればこそ大事にはならなかったのだ」

「か、畏まりまして御座います」

 アスモデウスは知らなかった。ルミネから何も聞かされていなかった。
 少女が魔王の実子である事実を。

 アスモデウスはルミネから聞いていたのは飽くまでも可能性の話しであって、実際にそれが真実の可能性は低いと考えていた。


 ルミネは玉座の間への招集を行う際に、アスモデウスへの伝令は自分が行うと申し出ていた。
 そしてその際にアスモデウスに対して少女の正体の事は一切触れず、「他貴族に反乱の疑いがある為、兵の用意を」とだけ伝えるに留めた。
 拠ってアスモデウスは玉座の間への招集の話しなど知る由もなく、故に少女の正体も憶測でしかなかった。
 全てはルミネの掌の上で転がされていただけと言える。


 全てを悟ったアスモデウスは声を失っていた。だからこそ何も言えずにいた。


「ルミネよ、そなたにはまだ話しがある故、2人を送り届けたらここに戻ってきてもらえるか?」


「父様、アタシはここにいてはいけませんか?」

「それは無理と言うものだ」

「でもッ」

「ワガママを言って困らせてくれるな」

「ちぇっ。ううん、はーい分かりました、父様」

 少女はディグラス父親の決定に不服だった。まだ父に話したい事が山程あった。
 だがそれは却下され、結果として渋々承服せざるを得なかった。


「では、頼んだぞ」

「かしこまりました。また後ほどお伺い致します、陛下」

 こうして3人は玉座の間から姿を消していった。

 3人が姿を消して少し経った頃の事。玉座の間は開かれ、中に入って来た兵士から魔王ディグラスは報告を受け取っていた。



 ルネサージュ城に戻った3人は、戻った傍から城に仕える執事バトラーに捕まっていた。

 執事バトラーは討伐軍が反乱軍の居城を占拠した旨の報告をしていく。
 またその他にも幾つかの報告があった。

・反乱軍の居城及びその周辺を捜索しても首魁しゅかいは発見されなかった事
・ルネサージュ領の北に位置する北部の山脈が全て消し飛んだ事
・また、その際に被害を受けた者はいない事

等である。

 3人は少なからず心当たりがあったが、何かを口走ろうものなら更に長引きそうな気配がした事から、ただ黙って聞いていた。
 その表情は何とも言えない表情だった。


「お館様、それで、このヒト種の娘は如何いかがなさいますか?」

「ひ、控えよッ!」

「はっ?お館様?」

「こ、この者は魔王陛下の賓客ひんきゃくである。拠って、この城に於いても賓客として迎えよ。何人たりとも粗相をしてはならん」
「くれぐれも丁重にな。丁重にだぞッ!」

「畏まりました。それではお部屋をご用意して参ります」

 アスモデウスは執事バトラーの発言で明らかに取り乱した。
 その様子を見たルミネは、心の底から指を指して笑いたかったが出来なかった。
 まぁそれは当然の事なのだが顔に出さない様に必死に耐えていた。
 拠って表情筋はぷるぷるしていた。


 少女の事は執事バトラーから変わって、メイド達が世話をする事になった。
 拠って部屋の用意が終わった少女はメイド達に引き取られていった。


「それでは陛下の元に行って参ります」

「うむ。くれぐれも粗相の無いようにな」

「お任せ下さい、お父様」

 ルミネは城外に出る際はその前に、アスモデウスに挨拶してから出る事が約束させられていた。
 拠ってこれはただの挨拶なのだが「粗相の無いように」と言われたルミネは、先程取り乱したアスモデウスの顔が面白くて、思い出し笑いをしそうになるのをまたもや必死に耐えながら王城へと向かっていった。

 その場には面白くなさそうなアスモデウスが1人で、ただただ溜め息をついていた。



 玉座の間に入って来た兵士からの報告に対し、魔王ディグラスは今後の方針を伝えていった。

 その後魔王ディグラスは少しの間だったが玉座にて考えに思いを乗せて、思考をどこかへと馳せさせていた。
 だが考えは一向にまとまらず、玉座の間から自室へと戻っていった。


こんこん

「開いているから入ってきなさい」

「こちらにいらっしゃったのですね。ただいま戻りました。それで陛下、わたくしにお話しとは、一体どの様なご用件で御座いますか?」

「うむ、娘を人間界に戻す方法を探しているのだがな、中々にいい方法が見付からない。そなたなら何か良い知恵が有るまいかと思ってな」

 王城へと戻ったルミネは話しの内容が想定内だった。
 だから「やっぱり」と思っていたが、そこまで馴れ馴れしくは話せないので心の中だけで紡いでいた。

 ルミネは独自に人間界に渡る方法を探していた。それは少女がこの世界魔界に来る前からであり、ルミネが抱えている研究課題の1つでもあった。



 それは今より遥かに昔の事。「魔界」は人間界と“密接”だった。
 然しながら約60年程前に人間界で起こった「虚無の禍殃アンノウン」と呼ばれる大災害に因り、“密接”だった2つの世界の関係性は一気に“疎遠”になってしまった。

 “疎遠”になったと言っても繋がりが絶たれたワケではない。だからこそまれに2つの世界が繋がる事はあるし、故意に繋げる事が出来ないワケでもない。

 然しながら“疎遠”になる前と比べれば、遥かに労力が掛かるのは事実だ。


 元より魔族デモニアはアストラル体しか持たない。
 2つの世界が疎遠になろうと人間界にマテリアル体を用意して、世界を渡る為の膨大な魔力を捻出さえ出来れば人間界で受肉する事が可能だ。
 更にマテリアル体が用意出来なくても、アストラル体のみで生存だけは可能と言える。
 その際は何か別の生物に憑依して身体の主導権を奪えば依り代に出来る。


 一方で人間界に住まう生物は、元からマテリアル体の中にアストラル体がある。
 拠って表に出ているのがマテリアル体のみでは魔界に於いては生活が出来ない。
 何故ならば正常な五感が働かなくなるからだ。


その結果として「魔界」に於いては生きながらえるには、ならない。
 然しながらそれでも最終的にはまともに動けなくなる。

 それはとどのつまり、事になる。

 マテリアル体を完全に消す事は出来ない上に、そのマテリアル体が「魔界」に於いての生存を拒絶するから……とも言い換えられる。

 要はアストラル体の中に、マテリアル体は存在出来ないのだから仕方のない事なのだ。

 拠って消滅するまでの時間を…、という手段しか取れないのが結論になる。しかしながら魔界に於いて割合を変更する事は出来ても、完全な元の状態に戻す事は叶わない。

 従って割合を変化させたままの状態で人間界に戻せば、表面に出ているアストラル体は消滅してしまう。

 それは即ち「死」となる。

 偏に行き着く先は全て死亡フラグデッドエンドという結論しかない。



 昔のように2つの世界が“密接”な状態なら、割合を変化させずに保護だけしておいて、繋がった段階で早々に送り返す事が可能だった。
 また故意に繋げて送り返す事も可能と言えば可能だった。


 だが今は“疎遠”になり2つの世界が滅多に繋がる事はない。
 そして繋がるのを待って割合を変えなければ、早い内に消滅する事になる。

 要するに割合を変えれば戻せなくなる、不可逆的ふかぎゃくてきパラドックスを抱えているのが現状と言える。

 ならば故意に繋げれば良いとも考えられるのだが、“疎遠”になった事で世界を渡る為には魔力が必要になったので、それもまた大変に難しい。


 その身の内に膨大な魔力をたたえていても、マナを練る事が得意ではない魔族デモニア個人の力では限界がある。
 拠って世界を繋げるのに必要になる膨大な魔力は、個人では足りず繋げる事が容易に出来ないのが現状なのだ。
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