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第六節 えっ?アタシそろそろ疲れたんだけど?
第45話 ベルンと蛇と冠と鎚 後編その壱
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北の辺境伯の領内西端にある小高い山の上にルミネの扉は開かれていった。そして扉を潜った全員がその地に足を踏み入れていた。
然しながらルミネはここに全員を連れてきたものの、戦況が一体どうなっているのかさっぱり分からなかった。
ルミネに対して少女が出した「提案」では「ここで決着」だったが周囲には何も無い。前に来た時と同じ様な岩場があるだけで全く代わり映えしない光景が広がっていた。
「既に…わたくし達がここに来る前に、全てが終わったとでも言うんですの?」
「でも、それならばこの場所に御子様がいるハズですわッ!」
ルミネは胸中に不穏な考えがよぎったが、それを払拭する為に頭を横に振っていた。
一方で魔王ディグラスは現況が全く分からない為に、状況確認も兼ねてルミネに問いを投げていったがルミネは何も応える事が出来ないでいた。
何も応えないルミネの姿に、魔王ディグラスは溜め息を漏らすだけだった。
ルミネは自身の魔眼で前に視た「未来」を否定したかった。だからこそ何も言えなかったのだ。
その「未来」を伝えてしまえば、その「未来」を確定させてしまえば、少女はこの世からいなくなってしまうのだから。
そんなルミネの姿を見た魔王ディグラスは、連れてきたルシフェルに対して眷属を召喚させ城を含む付近一帯の偵察を命じた。それに拠ってルシフェルは大量の梟と蝙蝠を召喚すると、北の辺境伯の領地一帯に眷属を飛ばしていく。
「さてこれで、何か解れば良いが」
「だが、これからどうしたものかな」
魔王ディグラスはルシフェルの眷属達が飛び立っていく姿を見ながらただただ呟いていた。
「魔王陛下、某の眷属達が城内で戦闘中の者達を見たそうに御座います」
「分かった。よし、イーラ!全員が乗れる飛竜を召喚せよ」
「かしこまりました、陛下」
魔王ディグラスからの命を受けたイーラは、この場にいる全員が乗れるだけの飛竜を召喚していった。
眷属とは主要貴族に与えられた「冠」に起因する使い魔達の総称である。「冠」を与えられた貴族はその「冠」に属する眷属を自身のオドを代償にして魔術的に召喚する事が可能になる。
また「冠」に属する眷属は複数種いる為に、必要性に応じて使い分ける事が出来る。
尚、現時点で新参のアバルティアとインヴィディアにはまだ「冠」が与えられていない為に、眷属を召喚する事は出来ない。その為に「暴食」と「強欲」の冠は空席となっているがこれは余談である。
床が崩落し階下に落ちた少女は身体を強く床に打ち付け気を失っていた。一方でフヴェズルングは気を失った少女を見付けると肩に担ぎ上げてどこかへと連れ去っていった。
フヴェズルングが立ち去った後で、魔王ディグラス一行が乗った飛竜達が城内に降り立ち捜索が始まる。
しかし既に城の中に残っている者は誰一人としていない。
拠って、その中で戦場となり床が崩落した部屋を見た全員は口から出て来る言葉もなくただただ呆然としていた。
フヴェズルングは少女を担いだままで城から西の小高い山へと転移していた。更にはそこの地面に少女を寝かすと特殊な陣形を描き始めていった。
「そこまでですわ。その人から離れなさい!」
「そこから静かに立ち去れば見逃して差し上げますわ!」
然しながらそこにはルミネがいた。ルミネは特殊な陣形を描き始めたフヴェズルングに言の葉を投げていた。
ルミネはイーラの召喚した飛竜には乗らなかった。それに乗ってしまえば「視たままの未来」を追い掛ける事になるからだ。
だからこそ飛竜に乗らずに城にも行かず、この場に留まる事を選択していた。
城には誰もいない事を理解していたからとった行動だった。
「あのままわたくしまで城に行けば、御子様は助からない」
これこそがルミネが視た「未来」である。
だが一方でその事を魔王ディグラスを含む誰かに言ってしまえば、「魔眼の秘密を自分から明かしてはならない」という、父・アスモデウスの封印契約に反する事になる。
だからこそ「視たままの未来」を変える為に1人でこの場所に残ったのだった。それ故にルミネにはこの先の「未来」は分からない。
その先にあるハズの「未来」はまだルミネの魔眼に映し出されてはいなかった。
「あ゛ぁ゛?なんだぁ、テメェはぁ?」
「その方の友人…とでも名乗っておきますわ。ですから、わたくしの友人を返して頂く為に参りましたの」
ルミネは目の前に立ちはだかる強大な敵の気配に対して内心はビクビクしていたが、表情には臆面も出さずに言の葉を返していく。
「あ゛ぁ゛?友人だぁ?コイツは我様達を2度も、更には我様達の子供をも殺した大罪人だ。大悪党だッ!」
「だから返すワケにはいかねぇッ!どーしてもってんなら、我様をブッ倒して奪るんだなッ!」
ぎりっ
「随分と勝手なコトを言ってくれますわね」
フヴェズルングは憤怒の如き様相で凶悪なまでに顔を歪め、虚空より先程と同じ鎚を取り出すとルミネに向かって速攻を仕掛けていった。
一方で城の中は不気味と言える程にひっそりと静まり返っていた。
魔王ディグラスは配下の貴族達に改めて領内の探索をさせたが、今度は何も発見出来なかった。
その結果、ここで初めて魔王ディグラスは「これは罠ではないか?」と考え始めていた。
魔王ディグラスは自問自答する形で付随する疑問を頭の中で展開し解答を導いていくコトにしたのだった。
第1の疑問
「これが「罠」であれば、誰が仕掛けた「罠」なのか?」
第1の疑問の解答
「考えつく限りの結果が示す先は「銀髪の男」」
第2の疑問
「ルミネは何故、山に1人で残ったのか?」
第2の疑問の解答
「王都でのルミネの戦闘風景を使い魔を通して見ていた限り、「今の状態では戦力になれず足手まといになる」と考えた結果、自分から身を引いたのでは無いか」
魔王ディグラスはルミネの魔眼の中身をこれまでずっと知らなかった。拠ってルミネが今まで「未来視の魔眼」を使って得た結果に基づき、選択していたその行動のそれら全てを、「勘の良さ」や「洞察力の鋭さ」などと考えていた。
然しながら第2の疑問の解答から魔王ディグラスの元に新たに第3の疑問が湧き上がってきたのであった。
新たに浮かんだ第3の疑問
「ルミネはあんなにも余の娘の事を気に掛け、「少しでも早く助けに行きたい」と言っていたにも拘わらず、何故に「この場に来なかったのか?」」それは矛盾では無いだろうか?」
第3の疑問の解答。
「考察の余地はまだまだあるが、結論だけを考えれば「ルミネはこの城に娘がいない事を知っていた」事になり、逆説的に考えれば「今、ルミネがいる所に娘がいる」となる」
「そうであれば、余が取れる最善を尽くすのみだッ」
魔王ディグラスは自問自答から得た解答を「是」として随伴した貴族達に対して命令していく。
「イーラ、ルシフェル、リヴァイアタン、以上3名は余と共に来い!イーラはすまぬが再び眷属を呼んで貰えるか?」
「かしこまりました、陛下」
「ベルフェゴール、アヴァルティア、インヴィディア、以上3名はこのまま城内及び領内を手分けして探索し、これより1時間の後まで何もなければ先程の山まで戻れ。これより先、探索中に何かが起きた場合には、速やかに各自の判断で対処・殲滅しそれらを制圧せよ!」
かくして魔王ディグラスと貴族3名は、再び山を目指して召喚された飛竜の背に乗った。
また、探索を命じられた3人は飛び去る飛竜を見送っていた。
ルミネはたった1人でフヴェズルングと闘っていた。ルミネはフヴェズルングの事を少女から少しでも遠ざけようと空中戦を選択し、自分の得意な距離で間合いを取り、その上で闘っていた。
当のフヴェズルングもルミネの思惑を知ってか知らずか、ルミネを追い掛ける様に空へと駆け上がり空中で2人の激しい攻防が交錯していた。
フヴェズルングは距離を詰め鎚を振るう。ルミネはその鎚を躱すと距離を開けて魔術を放つ。
自身に向けて襲来する魔術を鎚で薙ぎ払いうと、再びルミネに対し距離を詰めて鎚を振るう。そんな決め手のない戦闘ではあったが、2人はそれを幾度となくそれを繰り返していく。
然しながらそうこうしている内にルミネは魔眼に未来を「視た」のだった。
「いけませんわッ!それは駄目なのですわッ!」
「あ゛ぁ゛ん?余所見してる余裕がどこにあんだよッ!!」
ルミネは自身の魔眼へと映し出され視てしまった「未来」を否定すべく強く願っていた。だがフヴェズルングはそのルミネの隙を見逃してはいなかった。
ルミネは当然の事ながら対処が遅れた。その結果ルミネは鎚の一撃をまともに受けると、そのまま上空から地面に向けて勢いよく叩きつけられていった。
然しながらルミネはここに全員を連れてきたものの、戦況が一体どうなっているのかさっぱり分からなかった。
ルミネに対して少女が出した「提案」では「ここで決着」だったが周囲には何も無い。前に来た時と同じ様な岩場があるだけで全く代わり映えしない光景が広がっていた。
「既に…わたくし達がここに来る前に、全てが終わったとでも言うんですの?」
「でも、それならばこの場所に御子様がいるハズですわッ!」
ルミネは胸中に不穏な考えがよぎったが、それを払拭する為に頭を横に振っていた。
一方で魔王ディグラスは現況が全く分からない為に、状況確認も兼ねてルミネに問いを投げていったがルミネは何も応える事が出来ないでいた。
何も応えないルミネの姿に、魔王ディグラスは溜め息を漏らすだけだった。
ルミネは自身の魔眼で前に視た「未来」を否定したかった。だからこそ何も言えなかったのだ。
その「未来」を伝えてしまえば、その「未来」を確定させてしまえば、少女はこの世からいなくなってしまうのだから。
そんなルミネの姿を見た魔王ディグラスは、連れてきたルシフェルに対して眷属を召喚させ城を含む付近一帯の偵察を命じた。それに拠ってルシフェルは大量の梟と蝙蝠を召喚すると、北の辺境伯の領地一帯に眷属を飛ばしていく。
「さてこれで、何か解れば良いが」
「だが、これからどうしたものかな」
魔王ディグラスはルシフェルの眷属達が飛び立っていく姿を見ながらただただ呟いていた。
「魔王陛下、某の眷属達が城内で戦闘中の者達を見たそうに御座います」
「分かった。よし、イーラ!全員が乗れる飛竜を召喚せよ」
「かしこまりました、陛下」
魔王ディグラスからの命を受けたイーラは、この場にいる全員が乗れるだけの飛竜を召喚していった。
眷属とは主要貴族に与えられた「冠」に起因する使い魔達の総称である。「冠」を与えられた貴族はその「冠」に属する眷属を自身のオドを代償にして魔術的に召喚する事が可能になる。
また「冠」に属する眷属は複数種いる為に、必要性に応じて使い分ける事が出来る。
尚、現時点で新参のアバルティアとインヴィディアにはまだ「冠」が与えられていない為に、眷属を召喚する事は出来ない。その為に「暴食」と「強欲」の冠は空席となっているがこれは余談である。
床が崩落し階下に落ちた少女は身体を強く床に打ち付け気を失っていた。一方でフヴェズルングは気を失った少女を見付けると肩に担ぎ上げてどこかへと連れ去っていった。
フヴェズルングが立ち去った後で、魔王ディグラス一行が乗った飛竜達が城内に降り立ち捜索が始まる。
しかし既に城の中に残っている者は誰一人としていない。
拠って、その中で戦場となり床が崩落した部屋を見た全員は口から出て来る言葉もなくただただ呆然としていた。
フヴェズルングは少女を担いだままで城から西の小高い山へと転移していた。更にはそこの地面に少女を寝かすと特殊な陣形を描き始めていった。
「そこまでですわ。その人から離れなさい!」
「そこから静かに立ち去れば見逃して差し上げますわ!」
然しながらそこにはルミネがいた。ルミネは特殊な陣形を描き始めたフヴェズルングに言の葉を投げていた。
ルミネはイーラの召喚した飛竜には乗らなかった。それに乗ってしまえば「視たままの未来」を追い掛ける事になるからだ。
だからこそ飛竜に乗らずに城にも行かず、この場に留まる事を選択していた。
城には誰もいない事を理解していたからとった行動だった。
「あのままわたくしまで城に行けば、御子様は助からない」
これこそがルミネが視た「未来」である。
だが一方でその事を魔王ディグラスを含む誰かに言ってしまえば、「魔眼の秘密を自分から明かしてはならない」という、父・アスモデウスの封印契約に反する事になる。
だからこそ「視たままの未来」を変える為に1人でこの場所に残ったのだった。それ故にルミネにはこの先の「未来」は分からない。
その先にあるハズの「未来」はまだルミネの魔眼に映し出されてはいなかった。
「あ゛ぁ゛?なんだぁ、テメェはぁ?」
「その方の友人…とでも名乗っておきますわ。ですから、わたくしの友人を返して頂く為に参りましたの」
ルミネは目の前に立ちはだかる強大な敵の気配に対して内心はビクビクしていたが、表情には臆面も出さずに言の葉を返していく。
「あ゛ぁ゛?友人だぁ?コイツは我様達を2度も、更には我様達の子供をも殺した大罪人だ。大悪党だッ!」
「だから返すワケにはいかねぇッ!どーしてもってんなら、我様をブッ倒して奪るんだなッ!」
ぎりっ
「随分と勝手なコトを言ってくれますわね」
フヴェズルングは憤怒の如き様相で凶悪なまでに顔を歪め、虚空より先程と同じ鎚を取り出すとルミネに向かって速攻を仕掛けていった。
一方で城の中は不気味と言える程にひっそりと静まり返っていた。
魔王ディグラスは配下の貴族達に改めて領内の探索をさせたが、今度は何も発見出来なかった。
その結果、ここで初めて魔王ディグラスは「これは罠ではないか?」と考え始めていた。
魔王ディグラスは自問自答する形で付随する疑問を頭の中で展開し解答を導いていくコトにしたのだった。
第1の疑問
「これが「罠」であれば、誰が仕掛けた「罠」なのか?」
第1の疑問の解答
「考えつく限りの結果が示す先は「銀髪の男」」
第2の疑問
「ルミネは何故、山に1人で残ったのか?」
第2の疑問の解答
「王都でのルミネの戦闘風景を使い魔を通して見ていた限り、「今の状態では戦力になれず足手まといになる」と考えた結果、自分から身を引いたのでは無いか」
魔王ディグラスはルミネの魔眼の中身をこれまでずっと知らなかった。拠ってルミネが今まで「未来視の魔眼」を使って得た結果に基づき、選択していたその行動のそれら全てを、「勘の良さ」や「洞察力の鋭さ」などと考えていた。
然しながら第2の疑問の解答から魔王ディグラスの元に新たに第3の疑問が湧き上がってきたのであった。
新たに浮かんだ第3の疑問
「ルミネはあんなにも余の娘の事を気に掛け、「少しでも早く助けに行きたい」と言っていたにも拘わらず、何故に「この場に来なかったのか?」」それは矛盾では無いだろうか?」
第3の疑問の解答。
「考察の余地はまだまだあるが、結論だけを考えれば「ルミネはこの城に娘がいない事を知っていた」事になり、逆説的に考えれば「今、ルミネがいる所に娘がいる」となる」
「そうであれば、余が取れる最善を尽くすのみだッ」
魔王ディグラスは自問自答から得た解答を「是」として随伴した貴族達に対して命令していく。
「イーラ、ルシフェル、リヴァイアタン、以上3名は余と共に来い!イーラはすまぬが再び眷属を呼んで貰えるか?」
「かしこまりました、陛下」
「ベルフェゴール、アヴァルティア、インヴィディア、以上3名はこのまま城内及び領内を手分けして探索し、これより1時間の後まで何もなければ先程の山まで戻れ。これより先、探索中に何かが起きた場合には、速やかに各自の判断で対処・殲滅しそれらを制圧せよ!」
かくして魔王ディグラスと貴族3名は、再び山を目指して召喚された飛竜の背に乗った。
また、探索を命じられた3人は飛び去る飛竜を見送っていた。
ルミネはたった1人でフヴェズルングと闘っていた。ルミネはフヴェズルングの事を少女から少しでも遠ざけようと空中戦を選択し、自分の得意な距離で間合いを取り、その上で闘っていた。
当のフヴェズルングもルミネの思惑を知ってか知らずか、ルミネを追い掛ける様に空へと駆け上がり空中で2人の激しい攻防が交錯していた。
フヴェズルングは距離を詰め鎚を振るう。ルミネはその鎚を躱すと距離を開けて魔術を放つ。
自身に向けて襲来する魔術を鎚で薙ぎ払いうと、再びルミネに対し距離を詰めて鎚を振るう。そんな決め手のない戦闘ではあったが、2人はそれを幾度となくそれを繰り返していく。
然しながらそうこうしている内にルミネは魔眼に未来を「視た」のだった。
「いけませんわッ!それは駄目なのですわッ!」
「あ゛ぁ゛ん?余所見してる余裕がどこにあんだよッ!!」
ルミネは自身の魔眼へと映し出され視てしまった「未来」を否定すべく強く願っていた。だがフヴェズルングはそのルミネの隙を見逃してはいなかった。
ルミネは当然の事ながら対処が遅れた。その結果ルミネは鎚の一撃をまともに受けると、そのまま上空から地面に向けて勢いよく叩きつけられていった。
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