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第七節 えっ?アタシ眠いんだけど?
第55話 戦後処理とアイリとノックとゲート 後編その弐
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魔族化とは単純明快に言ってしまえば「魔族の様に形状を変えるという事」も含まれるのだが実際の所は違う。
その実魔族化とは、100%アストラル体化のコトを指す。
生態系上に於いて分類される種族としての魔族のその特性は、マテリアル体を持たない種だと定義されているからだ。
それは「魔界」という過酷な世界に住まなくてはならないと決められた事に端を発し、それ故にその世界の特性に種族としての特性を決められたと言っても過言では無いだろう。
その結果としてマテリアル体を持つ者が「魔界」にいれば、マテリアル体とアストラル体の割合を0:100にしなければマテリアル体の死を迎えた段階で、アストラル体の死を意味する事になる。
更にはマテリアル体の割合が高ければ高い程に、例外無くそのマテリアル体の本来の死期よりもそれは早く訪れる。
だがしかし、マテリアル体を持つ者でも魔族化をしてマテリアル体を完全に捨て去れれば、アストラル体のみの特徴でもある「時間経過に拠る崩壊という結末の生」を迎える事が可能となる。
しかしその場合、捨て去っているのでマテリアル体に戻る事は不可能だ。
結果としてマテリアル体を持たない身体で人間界に降りる事は叶わないし、中途半端な割合で人間界に降りればそれこそ人間界の身体を失う事になるのだ。
拠って中途半端に身体を失った個体は生きていけないので、必然的な死を要求される。
然しながらその不可能を少女は可能に出来ると言い放っていた。
少女はルミネに「見ててね」と言うとベルゼブブの魔石を愛剣に宿す。そして完全に魔族化したのだった。
「た、確かに魔族化していますわ」
ルミネは驚く事しか出来なかった。魔石の使い方もそうだが、魔族化した少女のオドは魔界にいる誰よりも莫大だった。(魔族化した際に少女がベルゼブブに似た姿になった事にも驚いたが、そこは見てみぬフリをしていた)
だがそれでもルミネは、「人間界と「魔界」を繋ぐ転移ゲートを開けられる程の魔力量ではないかもしれない」とそんな風にも考えていた。
「まだ、魔力が足りないって思ったでしょ?じゃあ、見せたいのは更にここからよッ!」
「デバイスオープン、マモンの魔石よ、剣に宿れ!」
少女はベルゼブブの魔石の他に、マモンの魔石も追加して剣に宿していく。
そうして2つの魔石は剣に宿り、その2つの魔石から齎されるオドは少女の中を駆け巡っていく。
少女の口から甘美な吐息と声が漏れていった。
一方でそのオドの量は、既に人間が許容出来る範囲を超えているとルミネは感じ取っていた。
ルミネは足が竦んでいる。少女の持つ「底が見えない得体の知れなさ」に対してだ。
「膨大」という言葉で表現したとしても、そんな言葉では表現し切れない程の膨大な魔力。それを目の当たりにして、その魔力が放つプレッシャーにルミネは押し潰されそうだった。
そんな時、ルミネは意図せずに視てしまった。少女の「未来」を少女が人間界にヒト種として存在している姿を。
「何故、このタイミングなんですの?」
ルミネの放つその言葉は呪詛だった。空気の読めないタイミングに対しての呪詛。悪い仕事しかしないタイミングに対しての呪詛。
確かに「視た」未来を「拒否」すればこのタイミングは否定出来る。でもそれは少女に対する裏切りではないか?
だからこそ、ただただ呪詛を吐くだけで、逡巡するだけで「拒否」は出来なかった。
そんなこんなでそうこうしているうちに、膨大な少女のオドを媒体としてゲートは偶然にも開いていった。
バタンッ
城の中で今まさに起こっている異常事態を機敏に感じ取った魔王ディグラスは、少女の部屋へと駆け付けその扉を勢いよく開け放っていた。
「父様、ノックを忘れてはいけませんよ!にひっ」
少女は屈託のない笑顔を魔王ディグラスに向けて言の葉を紡いでいる。
一方でそんな言の葉を受けても魔王ディグラスは何も反応出来なかった。
魔王ディグラスは「何故に今なのか?」と、そう考え運命を呪った。
しかしゲートが開いたなら、開いているなら、今が絶対のチャンスであると確信した。
だから少女に1本の剣を差し出した。
少女はその剣を受け取ると「ありがとう、大事にするね」とだけ言の葉を紡いだ。
ゲートはルミネと魔王ディグラスに少女に対しての別れの時間を与えてはくれなかった。
ゲートは無慈悲にも何かを言おうとした少女を吸い込むと余韻も残さずに消えていった。
たかだか数分前まで少女がいた城の一室には、去り行く少女に何も言えなかったルミネが床にへたり込み頬を大粒の涙で濡らしていた。
突然の別れを強いられた魔王ディグラスが天井を見詰めて、身体を震わせていた。
少女は心地良い風を浴び目覚めた。だけど、目覚める前の事。
人間界に渡って来る途中で何かが起きた様な気がした。
でもそれは、どうしても思い出せない。思い出せないモノは仕方がない。諦めるしかない。
割り切りはいい方なのだ。
少女は覚醒したばかりの、まだ朧気な視界で周囲を見渡していった。
空は蒼く澄んでおり、眩しい光を放つ太陽が見える。周囲には山があり、緑が映えている。
季節は春だろうか?アタシはどれくらいの期間、この世界を留守にしていたのだろう?
更に遠くの方には街が見える。ここはどこだろう?あの街は何ていう名前の街だろう?
でもま、そんな事はデバイスで調べれば一瞬で分かる。
だけど敢えてそれをせず、久し振りの人間界なのだから「ゆっくり感覚を取り戻して行こう」と、そう少女は考えていた。
懸念されていたマテリアル体とアストラル体の割合はどうやら元に戻っている。少女は手をグーパーさせ、身体や装備に異常が無い事を入念に確認すると、その場で立ち上がり目覚めさせてくれた心地良い風を身体いっぱいに浴びていた。
「風が気持ちいいッ」
手元のデバイスには今まさに着信が入って来ておりデバイスが音を掻き鳴らし「早く出ろ」と急かしている様子だ。
少女はその着信が誰から来たものなのかを確認すると、出る事をせずブーツに火を点し空を駆けていった。
着信が鳴り止んだ頃、少女は自分から発信を掛けた。
だがその相手は先程の着信とは別の相手。
「おかえりなさいませ、お嬢様。今までどちらに行かれてたのですか?」
バイザーからは懐かしい声が響いてきている。
少女はその声にちょっとだけ瞳が潤んだが、大空を駆けている最中で周囲には誰もいない事もあって、気遣う事もせず気にしないコトにした。
「ちょっと、父様に会いに「魔界」まで。これから屋敷に帰るから、とびっきり美味しいご馳走をお願いねッ♪」
少女は明瞭簡潔に言の葉を紡ぎ通信を切ると、晴れ渡り心地良い風と共にゆっくりと空を駆けていった。
「やっぱり、アタシはこの世界でハンターとして生きていくわ」
その実魔族化とは、100%アストラル体化のコトを指す。
生態系上に於いて分類される種族としての魔族のその特性は、マテリアル体を持たない種だと定義されているからだ。
それは「魔界」という過酷な世界に住まなくてはならないと決められた事に端を発し、それ故にその世界の特性に種族としての特性を決められたと言っても過言では無いだろう。
その結果としてマテリアル体を持つ者が「魔界」にいれば、マテリアル体とアストラル体の割合を0:100にしなければマテリアル体の死を迎えた段階で、アストラル体の死を意味する事になる。
更にはマテリアル体の割合が高ければ高い程に、例外無くそのマテリアル体の本来の死期よりもそれは早く訪れる。
だがしかし、マテリアル体を持つ者でも魔族化をしてマテリアル体を完全に捨て去れれば、アストラル体のみの特徴でもある「時間経過に拠る崩壊という結末の生」を迎える事が可能となる。
しかしその場合、捨て去っているのでマテリアル体に戻る事は不可能だ。
結果としてマテリアル体を持たない身体で人間界に降りる事は叶わないし、中途半端な割合で人間界に降りればそれこそ人間界の身体を失う事になるのだ。
拠って中途半端に身体を失った個体は生きていけないので、必然的な死を要求される。
然しながらその不可能を少女は可能に出来ると言い放っていた。
少女はルミネに「見ててね」と言うとベルゼブブの魔石を愛剣に宿す。そして完全に魔族化したのだった。
「た、確かに魔族化していますわ」
ルミネは驚く事しか出来なかった。魔石の使い方もそうだが、魔族化した少女のオドは魔界にいる誰よりも莫大だった。(魔族化した際に少女がベルゼブブに似た姿になった事にも驚いたが、そこは見てみぬフリをしていた)
だがそれでもルミネは、「人間界と「魔界」を繋ぐ転移ゲートを開けられる程の魔力量ではないかもしれない」とそんな風にも考えていた。
「まだ、魔力が足りないって思ったでしょ?じゃあ、見せたいのは更にここからよッ!」
「デバイスオープン、マモンの魔石よ、剣に宿れ!」
少女はベルゼブブの魔石の他に、マモンの魔石も追加して剣に宿していく。
そうして2つの魔石は剣に宿り、その2つの魔石から齎されるオドは少女の中を駆け巡っていく。
少女の口から甘美な吐息と声が漏れていった。
一方でそのオドの量は、既に人間が許容出来る範囲を超えているとルミネは感じ取っていた。
ルミネは足が竦んでいる。少女の持つ「底が見えない得体の知れなさ」に対してだ。
「膨大」という言葉で表現したとしても、そんな言葉では表現し切れない程の膨大な魔力。それを目の当たりにして、その魔力が放つプレッシャーにルミネは押し潰されそうだった。
そんな時、ルミネは意図せずに視てしまった。少女の「未来」を少女が人間界にヒト種として存在している姿を。
「何故、このタイミングなんですの?」
ルミネの放つその言葉は呪詛だった。空気の読めないタイミングに対しての呪詛。悪い仕事しかしないタイミングに対しての呪詛。
確かに「視た」未来を「拒否」すればこのタイミングは否定出来る。でもそれは少女に対する裏切りではないか?
だからこそ、ただただ呪詛を吐くだけで、逡巡するだけで「拒否」は出来なかった。
そんなこんなでそうこうしているうちに、膨大な少女のオドを媒体としてゲートは偶然にも開いていった。
バタンッ
城の中で今まさに起こっている異常事態を機敏に感じ取った魔王ディグラスは、少女の部屋へと駆け付けその扉を勢いよく開け放っていた。
「父様、ノックを忘れてはいけませんよ!にひっ」
少女は屈託のない笑顔を魔王ディグラスに向けて言の葉を紡いでいる。
一方でそんな言の葉を受けても魔王ディグラスは何も反応出来なかった。
魔王ディグラスは「何故に今なのか?」と、そう考え運命を呪った。
しかしゲートが開いたなら、開いているなら、今が絶対のチャンスであると確信した。
だから少女に1本の剣を差し出した。
少女はその剣を受け取ると「ありがとう、大事にするね」とだけ言の葉を紡いだ。
ゲートはルミネと魔王ディグラスに少女に対しての別れの時間を与えてはくれなかった。
ゲートは無慈悲にも何かを言おうとした少女を吸い込むと余韻も残さずに消えていった。
たかだか数分前まで少女がいた城の一室には、去り行く少女に何も言えなかったルミネが床にへたり込み頬を大粒の涙で濡らしていた。
突然の別れを強いられた魔王ディグラスが天井を見詰めて、身体を震わせていた。
少女は心地良い風を浴び目覚めた。だけど、目覚める前の事。
人間界に渡って来る途中で何かが起きた様な気がした。
でもそれは、どうしても思い出せない。思い出せないモノは仕方がない。諦めるしかない。
割り切りはいい方なのだ。
少女は覚醒したばかりの、まだ朧気な視界で周囲を見渡していった。
空は蒼く澄んでおり、眩しい光を放つ太陽が見える。周囲には山があり、緑が映えている。
季節は春だろうか?アタシはどれくらいの期間、この世界を留守にしていたのだろう?
更に遠くの方には街が見える。ここはどこだろう?あの街は何ていう名前の街だろう?
でもま、そんな事はデバイスで調べれば一瞬で分かる。
だけど敢えてそれをせず、久し振りの人間界なのだから「ゆっくり感覚を取り戻して行こう」と、そう少女は考えていた。
懸念されていたマテリアル体とアストラル体の割合はどうやら元に戻っている。少女は手をグーパーさせ、身体や装備に異常が無い事を入念に確認すると、その場で立ち上がり目覚めさせてくれた心地良い風を身体いっぱいに浴びていた。
「風が気持ちいいッ」
手元のデバイスには今まさに着信が入って来ておりデバイスが音を掻き鳴らし「早く出ろ」と急かしている様子だ。
少女はその着信が誰から来たものなのかを確認すると、出る事をせずブーツに火を点し空を駆けていった。
着信が鳴り止んだ頃、少女は自分から発信を掛けた。
だがその相手は先程の着信とは別の相手。
「おかえりなさいませ、お嬢様。今までどちらに行かれてたのですか?」
バイザーからは懐かしい声が響いてきている。
少女はその声にちょっとだけ瞳が潤んだが、大空を駆けている最中で周囲には誰もいない事もあって、気遣う事もせず気にしないコトにした。
「ちょっと、父様に会いに「魔界」まで。これから屋敷に帰るから、とびっきり美味しいご馳走をお願いねッ♪」
少女は明瞭簡潔に言の葉を紡ぎ通信を切ると、晴れ渡り心地良い風と共にゆっくりと空を駆けていった。
「やっぱり、アタシはこの世界でハンターとして生きていくわ」
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