不思議なカレラ

酸化酸素

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第七節 えっ?アタシ眠いんだけど?

第54話 戦後処理とアイリとノックとゲート 後編その壱

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 ルミネは少女の経過観察をまだ、。しかし魔王ディグラスが少女の部屋にやって来て、空気を読んで部屋を出て来てしまった手前……、その際に「研究室に行ってくる」と言ってしまった手前……、渋々ながらも研究所に戻って来ていた。


 ルミネはしばらくぶりに帰ってきた研究室で、気晴らしも兼ねて研究を再開しようと考えていた。
 帰って来たからにはちゃんと研究を再開しようとも考えていた。

 本格的に研究を再開すれば、「暫くの間、御子様に会えなくなりそうですわね」とも考えていた。
 そして、自分の研究室の扉を開けたのだった。


「そういえば、そうでしたわね。はぁ……」

 ルミネは扉を開けてから後悔した。ルミネの研究室は地震の影響で、足の踏み場も無い程にからだ。

 更には王都ラシュエが復興に勤しむ際もルミネは眠れる少女の部屋に入り浸っており、その間は研究室の事を完全に失念して全く手を付けていなかったのだった。
 拠って現状はあの時と変わらずそのまま今に至る。


 ルミネは暫くの間、研究をいさぎよく諦める事にして魔力製素体ホムンクルスを3体作成していった。ルミネは創り出した魔力製素体ホムンクルスに部屋を片付ける様に指示を出し、自身は先程出て来たばかりの少女の部屋へと踵を返して戻る事を決めた。

 ルミネのその足取りは軽く表情はとても晴れやかだった。



コンコン

「入りますわよ?」

がちゃ

 ルミネは晴れやかな気分のまま少女の部屋を軽快にノックし、中の住人の返答を待たず扉を開けていった。

 中からは「ちょっと待って」と聞こえて来た気がしなくもないが、その言葉は聞こえないフリをしたのでそのまま扉を軽快に開ける事にした。


「ッ!??!」

 ルミネが扉を開けると、その中には涙で頬を濡らしている少女がいた。

 感動の父娘の対面。無事生還し、積もる話しで盛り上がった後のハッピーな余韻。

 ルミネはそんな幸せのを期待していたのだ。

 だが、そこにいるのはそんな想定内の、予測通りの姿とは正反対の切なさで、頬を濡らしている少女の姿だった。
 だからそれは決してルミネの予定調和ではない。


「ちょ、ちょっと、一体どうしたんですの?陛下に何か言われたんですの?」

 ルミネは戸惑っていた。ルミネは明らかに動揺していた。
 そして、「勝手に扉を開けなければよかった」とも後悔した。

 だが、後悔した所で話しは先に進まない。それ以前に後悔しても時間を戻す事は出来ない。


「えぇ、うん、まぁ、ちょっと考え事をしてたら、なんか泣けてきて…ね」

「相談事なら、遠慮無く言って下されば、ちゃんと乗りますわよ?」

 少女から返される歯切れの悪い言の葉に、ルミネは優しい表情で言の葉を紡ぐ。少女はその言葉を受け取ると、ただ気恥ずかしそうに微笑み「ありがと」とだけ返していた。



 少女はディグラスから聞いた内容をルミネに話していく。
 ルミネは少女からもたらされるその内容に、所々で驚いた表情を取っていたが少女が話し終えるまで話しの腰を折る事はしなかった。
 全面的に「聞き手」を貫き相槌あいづちを打って聞いてくれていた。


「では、わたくしがお会いしたのは、御子様のお母様でしたのね」
「でも、それでしたら、わたくしの事も話さなければなりませんわね」

 ルミネは決意を固めた瞳で少女を見詰め、それでも決意とは裏腹に多少重たい口を開いた。
 それは自身の魔眼についての事だった。


 少女は「世界を渡る方法」について心当たりはあるが、正確な方法は分かっていなかった。
 そしてアイリが語ったとされる「お友達の助け」の「お友達」の部分は分かっていたが、「助け」の部分は皆目見当も付いていなかった。しかしルミネから齎された「魔眼」の情報で、両方共に納得がいくのだった。


 それ以前にルミネの魔眼については、聞いた瞬間に「凄い!!」としか表現する語彙ごいが無かった少女だったがこれは余談と言えるだろう。



 ルミネの持っている魔眼は「未来視みらいしの魔眼」と、もう1つ。
 アスモデウスに拠って封印を施されていた「変革の魔眼」の計2つである。


 「変革の魔眼」は「未来視の魔眼」以上に性能が高い魔眼であり、非常に稀有けうな存在とされる。
 その魔眼ホルダーは「魔界」に於いて、過去から現在に至るまで5本の指に入る程度の人数しか確認されていない。


 その「変革の魔眼」は対象となるモノの「因果」の決定権を持つのだ。
 且つ魔眼の所有者が認めない「因果」を「拒否」する事が出来る。
 拠ってこれは破格の性能を持っているしか言いようが無い。

 分かり易く言えば、相手が持っている「因果」を魔眼の力を使って「拒否」する事で、「因果」自体を事が出来る事をも示唆している。


 ただし相手がまたは使「因果」ないし、進行形で現象として用いている「因果」に対して、「拒否」若しくは「書き換える行為」を行う際は、代償を支払う義務が生じる。

 仮に正規の使用者が扱う「レーヴァテイン勝利の剣」の「因果」を書き換えるとするならば、それこそ生命を代償とする必要性に見舞われたりもする。

 然しながらこれは余談だ。本題はそこじゃない。


 だからその力を対峙している相手の「因果」に対する「拒否」や「書き換え」として使わず、「未来視の魔眼」と組み合わせその魔眼に映し出された未来の「拒否」を行うのであれば代償を支払う義務は発生しない。

 拠って2つの魔眼を組み合わせる事で、「未来の因果関係を全て変更する事が出来る」というチート機能を発揮出来るのだ。

 先の戦闘に於いてはこの魔眼の力をルミネが発揮し、上手く使い得た事でヨルムンガンドを倒せたのだった。



「恐らく御子様のお母様がおっしゃった方法は、わたくしの魔眼の力を使って、世界を渡る時に「成功する因果を組み上げる」って事だと思いますの」

 ルミネは少女に言の葉を紡ぎ、少女はその言の葉を受け黙って頷いていた。


「でも、わたくしには疑問なのですが…。もう本当に「世界を渡る力」を持っているんですの?」
「今の状態で人間界に帰れば、身体の半分は消失してしまいますのよ?それに、この世界で完全にマテリアル体のみに戻す事は難しいですし……」

「まだ推論でしかなくて恐らくなんだけど、アタシが魔族デモニア化すれば良いんだと思う。そうすれば、自分のオドと魔族デモニア化した際のオドを足して、転移魔術で強引に世界を渡っていける」

「は……い?」

 天才肌のルミネであっても、その理論には理解が追い付けていない様子だった。拠ってルミネは困惑しているのだが、更に少女は言の葉を紡いでいく。


「人間界に渡った後で、力を解放して魔族デモニア化を解除するっていう感じならば可能性はあるかなって思ってるけど……」
「それに、アタシの延命の為にアストラル体とマテリアル体の割合を変えてくれてたけど、それはアタシが自力でなんとか出来そうだしね!」

魔族デモニア化?!一体どういう事ですの?御子様はヒト種でしょう?魔族デモニア化なんて、そんな事……」

「出来るのよ、これがッ!」

「えっ?本当なんですの?」
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