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第三節 The Surface Take
第75話 Reckless Adventurer Ⅲ
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ハンターへの依頼は原則として、その国内のみで完結させなければならない。
何故ならば自国の情報を、他国に漏らしたくは無いからである。
自国内で発生した依頼を他国に知られれば自国内の実情を他国に知らしめる事になる。それに因って戦力が少ないと知られれば、その事を好機として侵略戦争が起き兼ねない。
これは偏に過去からの教訓である。
そしてまたそれと同様に素材の流出も国としては避けたいと言える。
魔獣の分布には偏りがあり、それは国によって素材の需要と供給が異なる事を意味している。ハンターが依頼により狩った魔獣の素材は武防具や弾薬の原料となり、それらは国内での消費に限らず他国へと輸出され国益となっている。
更には魔獣の核とも言える魔結晶と、魔獣の素材を用いて魔導工学に拠って作成される「魔道具」も、国によって作れる内容が異なる事から国益の一翼を同様に担っている。
それ故に、その国特有の素材の流出は国益の低下にも繋がるし、資源を巡って侵略戦争の引き金にもなり得ると言える。
だが稀に国内戦力だけでは討伐出来ない古龍種討伐や、大暴走と呼ばれる魔獣達に因る大移動などの依頼は、国益と政治さらには国内の被害状況などから鑑みられた結果に於いて、他国へ「要請」という形で出回る事がある。
その場合は国外の依頼でも受ける事が出来る事になりその結果、依頼を完結出来れば達成報酬として国内では手に入らない魔獣の素材も得られる事がある。
然しながら自国内で完結出来ない案件であるという事は即ち、当然の事ながら難易度が跳ね上がっているという事であり、完結するのが非常に難しい案件とも言える。
クリスの村を襲った古龍種は炎龍ディオルギアである。
それはクリスの口から齎されその話しを聞いた少女は最初言葉が出て来なかった。
相手が古龍種である事から地域的な要因に因っては未だに被害状況が国に上がっていない可能性がある。
出現箇所が人口の多い都市部であれば被害状況は直ぐに報告されるが、山間部などの人口の少ない地域や、被害に因り既に壊滅してしまった地域などからは情報が上がり難いのは当然である。そして今回は限り無く前者ではないだろう。
だからこそ、その事を考えるとマムには少なくとも近日中(今日か明日)には話しを通そうと決心していた。
そんな折に掛かってきた通話だった事から、事前に触りだけでも話せた事は僥倖だったと言える。
然しながらそうなるようにワザワザ仕向けたのは余談であるし、自分の今後の為にもマムにだけは知られたくない少女である。
少女はこれでいてかなり計算高いのだ。
さて今回のクリスの陳情(まだ正確に依頼として認定されていない事から、正式には「陳情」となる)に於いて、重要になるのが龍人族の村の位置である。
龍人族の村は先程マムが話していた「獣人種特別なんたら」即ち「獣人種特別保護協定」(通称・BPA)に従って、自衛する事を望んだ為に認識阻害の結界を周辺に掛けているらしかった。
結果として国からは国民としては認められていない事になるが、国からの恩恵を受けていないのであれば国民として認められなくても問題ないとの判断だろう。
然しながらその事が龍人族の村の正確な位置情報を分からなくしていた。拠って正確な位置こそ掴めていなかったが、その場所は大体「北緯35度24分東経138度54分」で示されるエリアと予想出来たのである。
そこは「三国山」と呼ばれる「神奈川国」「静岡国」「山梨国」の3つの国の国境だ。
それ故に国益や政治が絡む非常にシビアでデリケートで、センシティブな大問題な場所と言えた。
少女はマムとの通話を終えた後で報告書から少しのあいだ解放された事もあって、気晴らしがてら階下に降りていった。
少女が1階に降りると広間から何やら声が聞こえたので向かう事にした。そこには昨夜保護した2人がいたのであった。
『ちゃんと寝れたかしら?あと、身体に異常は無い?』
『っ!?』 / 『きゃっ!!』
『あ、ごめん、驚かせちゃった?』
声を掛けられた2人は一瞬だけ身体をビクっとさせたが、少女を確認すると直ぐに笑顔になっていった。
『昨夜は助けて頂いて、ありがとうございました。サラは猫人族で名前はサラって言います』
『昨夜は暴れてしまってその、ごめんなさい。レミは兎人族よ。あと、助けてくれてありがと』
『ねぇ、サラちゃんとレミちゃん。そう呼んでいいかしら?』
『はい、構いません』 / 『べ、別にそれでもいいよ』
『ありがと、2人とも。ところで2人が暮らしていた場所はどこにあるの?あと、帰れるなら帰りたいかしら?』
密猟に関わった犯罪者は捕まればその国の法で裁かれる。国外から来た者であったとしても対象となる国に送還などされない。
それが今の国家間でのやり取りに於ける犯罪者への対応だった。何故ならば国が乱立し割拠しているからである。
もしも送還される事になっているとすれば、その犯罪者と無関係な国を通過する必要性が出てくる可能性もあるのでそれは必ずしも認められないからと言える。
然しながら密猟の被害者は違う。無理やり住んでいた場所から、来たくもない土地へと連れて来られたのである。
拠って「保護されたから、その国で暮らせ」と言われるのは、どう考えても可怪しいし納得も出来無いだろう。それにむしろそれを言ってしまえば、国の言い分が密猟の加害者と同じになる。
それ故に国家間の取り決めとしては、「最大限元の生活に戻す」というのが方針とされている。
だがそれは同時に大きな問題を抱えていた。複数の国境を越えて連れて来られた場合は、元の居住地へと戻る為に通過する全ての国の許可が必要になるのだから。
密猟に遭った際にわざわざ身分証明書など持っているハズもなく、通過させるだけだと言ってもその国は、それに伴う無用なリスクを背負わなければならない事になる。
更に付け加えるならば獣人種の抱えるシビアな問題もある。龍人族の村のように、BPAに基づき外界との接触を拒む集落もあるからだ。
その事から被害者本人が帰る事を希望しても、集落から拒否される可能性が無いとは言えない。
一方でBPAに頼らず、外界との接触を拒んでいない/出来ない獣人種達は、密猟の被害に遭った集落を捨て同じ国内で集落の場所を変える事もある。
それ故に被害者が申告した場所には既に誰も住んでいないといった事案が、過去に於いて発生しており国家間に於ける問題が起きるくらいトラブルが絶えないと言える。
そんな裏事情も踏まえた上で少女は2人に問いを投げていた。まだあどけなさが残る2人には、非常に残酷な問いだったが国家間のトラブルは一個人にはどうしても手に負えない為に仕方ないとも言える。
サラとレミは会話の中で「出来るなら帰りたい」と少女に話した。当然の事ながら2人の年齢はまだ若く、家族の元から離れさせるには酷な年齢だから分からないワケではない。
だがその一方で前にも同様の密猟被害が集落で起こった際には、その集落を捨てて新天地に引っ越した経験があるとも話していた。
だから「もし帰れたとしても家族はおらず、誰1人として知り合いはいないかもしれない」とも話していた事から少女は何も返す言葉が無かった。
とは言っても少女は2人を保護した手前、何も手を打たないワケにはいかなかったと言える。だからこそ2人にとっての最善を尽くそうと決めていた。
少女は真剣な顔で2人に最善と思える提案を示していく。サラとレミは少女から出された提案に凄く驚いていたが、大いに悩んだ末に納得しその提案を受け入れたのであった。
何故ならば自国の情報を、他国に漏らしたくは無いからである。
自国内で発生した依頼を他国に知られれば自国内の実情を他国に知らしめる事になる。それに因って戦力が少ないと知られれば、その事を好機として侵略戦争が起き兼ねない。
これは偏に過去からの教訓である。
そしてまたそれと同様に素材の流出も国としては避けたいと言える。
魔獣の分布には偏りがあり、それは国によって素材の需要と供給が異なる事を意味している。ハンターが依頼により狩った魔獣の素材は武防具や弾薬の原料となり、それらは国内での消費に限らず他国へと輸出され国益となっている。
更には魔獣の核とも言える魔結晶と、魔獣の素材を用いて魔導工学に拠って作成される「魔道具」も、国によって作れる内容が異なる事から国益の一翼を同様に担っている。
それ故に、その国特有の素材の流出は国益の低下にも繋がるし、資源を巡って侵略戦争の引き金にもなり得ると言える。
だが稀に国内戦力だけでは討伐出来ない古龍種討伐や、大暴走と呼ばれる魔獣達に因る大移動などの依頼は、国益と政治さらには国内の被害状況などから鑑みられた結果に於いて、他国へ「要請」という形で出回る事がある。
その場合は国外の依頼でも受ける事が出来る事になりその結果、依頼を完結出来れば達成報酬として国内では手に入らない魔獣の素材も得られる事がある。
然しながら自国内で完結出来ない案件であるという事は即ち、当然の事ながら難易度が跳ね上がっているという事であり、完結するのが非常に難しい案件とも言える。
クリスの村を襲った古龍種は炎龍ディオルギアである。
それはクリスの口から齎されその話しを聞いた少女は最初言葉が出て来なかった。
相手が古龍種である事から地域的な要因に因っては未だに被害状況が国に上がっていない可能性がある。
出現箇所が人口の多い都市部であれば被害状況は直ぐに報告されるが、山間部などの人口の少ない地域や、被害に因り既に壊滅してしまった地域などからは情報が上がり難いのは当然である。そして今回は限り無く前者ではないだろう。
だからこそ、その事を考えるとマムには少なくとも近日中(今日か明日)には話しを通そうと決心していた。
そんな折に掛かってきた通話だった事から、事前に触りだけでも話せた事は僥倖だったと言える。
然しながらそうなるようにワザワザ仕向けたのは余談であるし、自分の今後の為にもマムにだけは知られたくない少女である。
少女はこれでいてかなり計算高いのだ。
さて今回のクリスの陳情(まだ正確に依頼として認定されていない事から、正式には「陳情」となる)に於いて、重要になるのが龍人族の村の位置である。
龍人族の村は先程マムが話していた「獣人種特別なんたら」即ち「獣人種特別保護協定」(通称・BPA)に従って、自衛する事を望んだ為に認識阻害の結界を周辺に掛けているらしかった。
結果として国からは国民としては認められていない事になるが、国からの恩恵を受けていないのであれば国民として認められなくても問題ないとの判断だろう。
然しながらその事が龍人族の村の正確な位置情報を分からなくしていた。拠って正確な位置こそ掴めていなかったが、その場所は大体「北緯35度24分東経138度54分」で示されるエリアと予想出来たのである。
そこは「三国山」と呼ばれる「神奈川国」「静岡国」「山梨国」の3つの国の国境だ。
それ故に国益や政治が絡む非常にシビアでデリケートで、センシティブな大問題な場所と言えた。
少女はマムとの通話を終えた後で報告書から少しのあいだ解放された事もあって、気晴らしがてら階下に降りていった。
少女が1階に降りると広間から何やら声が聞こえたので向かう事にした。そこには昨夜保護した2人がいたのであった。
『ちゃんと寝れたかしら?あと、身体に異常は無い?』
『っ!?』 / 『きゃっ!!』
『あ、ごめん、驚かせちゃった?』
声を掛けられた2人は一瞬だけ身体をビクっとさせたが、少女を確認すると直ぐに笑顔になっていった。
『昨夜は助けて頂いて、ありがとうございました。サラは猫人族で名前はサラって言います』
『昨夜は暴れてしまってその、ごめんなさい。レミは兎人族よ。あと、助けてくれてありがと』
『ねぇ、サラちゃんとレミちゃん。そう呼んでいいかしら?』
『はい、構いません』 / 『べ、別にそれでもいいよ』
『ありがと、2人とも。ところで2人が暮らしていた場所はどこにあるの?あと、帰れるなら帰りたいかしら?』
密猟に関わった犯罪者は捕まればその国の法で裁かれる。国外から来た者であったとしても対象となる国に送還などされない。
それが今の国家間でのやり取りに於ける犯罪者への対応だった。何故ならば国が乱立し割拠しているからである。
もしも送還される事になっているとすれば、その犯罪者と無関係な国を通過する必要性が出てくる可能性もあるのでそれは必ずしも認められないからと言える。
然しながら密猟の被害者は違う。無理やり住んでいた場所から、来たくもない土地へと連れて来られたのである。
拠って「保護されたから、その国で暮らせ」と言われるのは、どう考えても可怪しいし納得も出来無いだろう。それにむしろそれを言ってしまえば、国の言い分が密猟の加害者と同じになる。
それ故に国家間の取り決めとしては、「最大限元の生活に戻す」というのが方針とされている。
だがそれは同時に大きな問題を抱えていた。複数の国境を越えて連れて来られた場合は、元の居住地へと戻る為に通過する全ての国の許可が必要になるのだから。
密猟に遭った際にわざわざ身分証明書など持っているハズもなく、通過させるだけだと言ってもその国は、それに伴う無用なリスクを背負わなければならない事になる。
更に付け加えるならば獣人種の抱えるシビアな問題もある。龍人族の村のように、BPAに基づき外界との接触を拒む集落もあるからだ。
その事から被害者本人が帰る事を希望しても、集落から拒否される可能性が無いとは言えない。
一方でBPAに頼らず、外界との接触を拒んでいない/出来ない獣人種達は、密猟の被害に遭った集落を捨て同じ国内で集落の場所を変える事もある。
それ故に被害者が申告した場所には既に誰も住んでいないといった事案が、過去に於いて発生しており国家間に於ける問題が起きるくらいトラブルが絶えないと言える。
そんな裏事情も踏まえた上で少女は2人に問いを投げていた。まだあどけなさが残る2人には、非常に残酷な問いだったが国家間のトラブルは一個人にはどうしても手に負えない為に仕方ないとも言える。
サラとレミは会話の中で「出来るなら帰りたい」と少女に話した。当然の事ながら2人の年齢はまだ若く、家族の元から離れさせるには酷な年齢だから分からないワケではない。
だがその一方で前にも同様の密猟被害が集落で起こった際には、その集落を捨てて新天地に引っ越した経験があるとも話していた。
だから「もし帰れたとしても家族はおらず、誰1人として知り合いはいないかもしれない」とも話していた事から少女は何も返す言葉が無かった。
とは言っても少女は2人を保護した手前、何も手を打たないワケにはいかなかったと言える。だからこそ2人にとっての最善を尽くそうと決めていた。
少女は真剣な顔で2人に最善と思える提案を示していく。サラとレミは少女から出された提案に凄く驚いていたが、大いに悩んだ末に納得しその提案を受け入れたのであった。
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