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第三節 The Surface Take
第74話 Reckless Adventurer Ⅱ
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『旦那様は先程、お嬢様が仰っておられたように、もう既にこの世にはおられません』
『ですが、お嬢様はそんな旦那様の御意志を、過去を知らずともちゃんと受け継ぎ、立派なハンターになられたと思っております。ですから、その涙をお拭きになって下さい』
爺はそう言うと1枚のハンカチを渡した。真っ白く汚れの無いハンカチはクリスの涙を満足そうに吸い上げていた。
既に太陽は頂点を超え西の空に傾きつつある。窓から入る日差しは部屋を明るく照らしている。
その暖かい日差しに少女は目を向けて1人で今は亡き父親の事を思い出していた。
少女は自室に籠もり必死に書類を書いていた。勿論の事だが自身が引き受けた依頼の「ケンカの仲裁」及び昨晩の「闇取引の告発」に関わる詳細についてである。
-・-・-・-・-・-・-
それは昼過ぎの事。捕縛した3人の身柄と共に送られてきた、魔獣の亡き骸の対処に困った公安の職員が少女に連絡を寄こしてきたのだ。
その為に少女は爺の話しを聞いた後で、まったりとしていた所を返上し、大急ぎで報告書を書かなくてはならなくなった。そしてちょうど忙しくその報告書を書いている途中で、着信が入ってきていた。
「はーい、もしもーし。忙しいから緊急じゃなければ後に……」
「ちょっとアンタ!一体どうなっているんだいッ!!」
忙しさのあまり誰から掛かってきた着信かは確かめず話し始めた、その話しを途中でぶった斬ったのはマムだった。心当たりは無いが相当にご立腹な様子と言える。
少女は正直なところお怒りモードのマムの声にビビっていた。然しながら少女にはマムをご立腹にさせている心当たりが無い。
「えッ?マム?え、えっと何の事?」
「「何の事?」じゃないだろアンタ!あたしゃ朝は着信で起こされてその後の報告はな~んにも無い」
「それにドクから連絡が来てまだ報告書が上がって来てないから魔獣の処理が出来ないだの、イグスタ市の保護施設からは龍人族はどうなっただの、後、司法からは罪状が分からない犯罪者の対処に困っているだの言われても、あたしゃ困るわッ!」
「そ~ん~な~の~知るかあぁぁぁあ!!!!がっしゃーん。ふーっふーっふーっ』
マムは早口で捲し立て息継ぎも殆どせずに怒声を紡いでいた。更にはマムの後ろか前に何かが飛んでいった気もするが、その点も踏まえるとやはり相当にご立腹だと言えよう。
そんなマムの荒ぶりに少女は一言「ゴメンナサイ」と言うのが関の山だった。さすがに「どーどーどー」とは言えなかった。
ホウ・レン・ソウはいついかなる時も大事という事を、改めて理解させられた少女だったと言える。
だけども「てへっ」とかは敢えて言わない。
「さてと、スッキリした所で、報告書はどうすんだい?」
「うぇぁ!うん、それなんだけど………」
マムの話し方は元に戻っていた。少女は事情を説明する為に、たった今纏めている報告書の内容を手短にマムに話していった。
「分かった。報告書は後日で構わないから、今はその内容に沿った形でこっちで適当に対処しておく」
「素材の取り分はアンタからドクにちゃんと伝えておかないとアンタの分は余り物だけになるから早くなさいな。それじゃあね」
「あ、あのねマム。ちょっといいかしら?」
「ん?神妙な声だけど何かあったのかい?」
「えっと、その、凄く言い辛いんだけど…炎龍ディオルギアについて何か依頼が上がっているかしら?」
「炎龍うぅぅぅぅぅぅぅ?」
深刻そうな少女の声に多少なりとも心配になったマムは、切ろうとしていた通話を切れなくなり少女から突拍子もない単語を聞かされた。
そのせいでマムの声は裏返りその奇声は公安に響きわたったという。
炎龍ディオルギアは通常の「龍種」ではなく、「古龍種」という生態系の枠組みに組み込まれている、強力な名持ちの龍種の一体である。
そもそも龍種は強力な魔獣に違いないが、「古龍種」は、その個体1つで国が滅ぶとも言われている「動く天災」そのものと言える。
拠って依頼として発生した場合は、数百名からのハンターを束にして当てても勝算が五分五分と言われている程の強敵とされる。
それら「古龍種」の中でも「五大龍」と呼ばれる一角に「炎龍ディオルギア」が入るのである。
分類上の「古龍種」は上から最上位、上位、中位、下位となり「五大龍」は中位として扱われる。
また過去から現在に至るまでの間に最上位と上位の古龍種はその存在こそ確認されてはいるが、人間界に被害を齎した経緯が1度も無い事から討伐対象にされた事は一度もない。
然しながらもしも仮に討伐対象となったとしても、狩れる実力を持つハンターがいないというのもまた事実である。
ちなみに下位の古龍種は「動く天災」と呼ばれ、炎龍ディオルギアが当て嵌まる中位の古龍種は「さざめく災禍」と呼ばれる。
「今のところ、炎龍ディオルギアについてのクエストは上がって来てないが、その話しは本当に信用に足るモノなのかい?」
「うん、多分だけど、おそらく間違いないと思う」
「アンタねぇ、あたしゃ思うんだが、「多分」やら「おそらく」やら、「思う」やらじゃ、信憑性ないって言ってるようなモンだよ?」
「あはははは。うん、ごもっともです」
最低でも「動く天災」と称される古龍種が、国内で発生すればそれこそ大事になる。早めに対処しなければその被害は甚大となり、そうなった場合はそれこそ国の滅亡或いはそうならなくても近隣諸国の格好の餌食にされるだろう。
拠って国を上げて早急な対処が必要になる。
従ってこの神奈川国に於いて国家元首であるマムにそんな大事の話しがあるならば、入ってきていないのは可怪しいという結論に繋がる。
「国内で話しが上がっていないなら恐らく、発生しているのは、周辺国家の山梨国か静岡国だと思うわ。だからマム!要請が来たら教えて欲しいの!!」
「そもそもその龍人族の村がどこの国に所属しているか分かればどこの国から依頼が上がるか分かるんじゃないのかい?」
「それもそうなんだけど、その、なんて言えばいいのかな?」
「なんだいなんだい、シャキっと話しなさいな!」
「クリスの話しに拠ればどこの国とも関わっていないみたいなの。だから正確な村の位置は地図には記載されていないのよ」
「獣人種特別なんたらってヤツかい?全く難儀なモンだねぇ」
これが通話だった事からマムがどんな表情をしているか少女には分からないが、恐らくは苦々しい表情を作っていそうな事だけは理解出来た。
それくらい今回の件は、色々な方面に対して根が深いと言える。
「だけどそれならば、こっちとして出来る事が少ないのは、分かっているだろう?くれぐれも情に流されて勝手な事をしてくれるんじゃないよ!」
「だけどもし近隣諸国から要請が来れば、いの1番にアンタに知らせてやるよ。あたしゃ忙しいんだそろそろ切るよ!」
つーつーつー
「あ、マム!切られちゃった。でもま、いっか。近々公安に行くからその時でも」
『ですが、お嬢様はそんな旦那様の御意志を、過去を知らずともちゃんと受け継ぎ、立派なハンターになられたと思っております。ですから、その涙をお拭きになって下さい』
爺はそう言うと1枚のハンカチを渡した。真っ白く汚れの無いハンカチはクリスの涙を満足そうに吸い上げていた。
既に太陽は頂点を超え西の空に傾きつつある。窓から入る日差しは部屋を明るく照らしている。
その暖かい日差しに少女は目を向けて1人で今は亡き父親の事を思い出していた。
少女は自室に籠もり必死に書類を書いていた。勿論の事だが自身が引き受けた依頼の「ケンカの仲裁」及び昨晩の「闇取引の告発」に関わる詳細についてである。
-・-・-・-・-・-・-
それは昼過ぎの事。捕縛した3人の身柄と共に送られてきた、魔獣の亡き骸の対処に困った公安の職員が少女に連絡を寄こしてきたのだ。
その為に少女は爺の話しを聞いた後で、まったりとしていた所を返上し、大急ぎで報告書を書かなくてはならなくなった。そしてちょうど忙しくその報告書を書いている途中で、着信が入ってきていた。
「はーい、もしもーし。忙しいから緊急じゃなければ後に……」
「ちょっとアンタ!一体どうなっているんだいッ!!」
忙しさのあまり誰から掛かってきた着信かは確かめず話し始めた、その話しを途中でぶった斬ったのはマムだった。心当たりは無いが相当にご立腹な様子と言える。
少女は正直なところお怒りモードのマムの声にビビっていた。然しながら少女にはマムをご立腹にさせている心当たりが無い。
「えッ?マム?え、えっと何の事?」
「「何の事?」じゃないだろアンタ!あたしゃ朝は着信で起こされてその後の報告はな~んにも無い」
「それにドクから連絡が来てまだ報告書が上がって来てないから魔獣の処理が出来ないだの、イグスタ市の保護施設からは龍人族はどうなっただの、後、司法からは罪状が分からない犯罪者の対処に困っているだの言われても、あたしゃ困るわッ!」
「そ~ん~な~の~知るかあぁぁぁあ!!!!がっしゃーん。ふーっふーっふーっ』
マムは早口で捲し立て息継ぎも殆どせずに怒声を紡いでいた。更にはマムの後ろか前に何かが飛んでいった気もするが、その点も踏まえるとやはり相当にご立腹だと言えよう。
そんなマムの荒ぶりに少女は一言「ゴメンナサイ」と言うのが関の山だった。さすがに「どーどーどー」とは言えなかった。
ホウ・レン・ソウはいついかなる時も大事という事を、改めて理解させられた少女だったと言える。
だけども「てへっ」とかは敢えて言わない。
「さてと、スッキリした所で、報告書はどうすんだい?」
「うぇぁ!うん、それなんだけど………」
マムの話し方は元に戻っていた。少女は事情を説明する為に、たった今纏めている報告書の内容を手短にマムに話していった。
「分かった。報告書は後日で構わないから、今はその内容に沿った形でこっちで適当に対処しておく」
「素材の取り分はアンタからドクにちゃんと伝えておかないとアンタの分は余り物だけになるから早くなさいな。それじゃあね」
「あ、あのねマム。ちょっといいかしら?」
「ん?神妙な声だけど何かあったのかい?」
「えっと、その、凄く言い辛いんだけど…炎龍ディオルギアについて何か依頼が上がっているかしら?」
「炎龍うぅぅぅぅぅぅぅ?」
深刻そうな少女の声に多少なりとも心配になったマムは、切ろうとしていた通話を切れなくなり少女から突拍子もない単語を聞かされた。
そのせいでマムの声は裏返りその奇声は公安に響きわたったという。
炎龍ディオルギアは通常の「龍種」ではなく、「古龍種」という生態系の枠組みに組み込まれている、強力な名持ちの龍種の一体である。
そもそも龍種は強力な魔獣に違いないが、「古龍種」は、その個体1つで国が滅ぶとも言われている「動く天災」そのものと言える。
拠って依頼として発生した場合は、数百名からのハンターを束にして当てても勝算が五分五分と言われている程の強敵とされる。
それら「古龍種」の中でも「五大龍」と呼ばれる一角に「炎龍ディオルギア」が入るのである。
分類上の「古龍種」は上から最上位、上位、中位、下位となり「五大龍」は中位として扱われる。
また過去から現在に至るまでの間に最上位と上位の古龍種はその存在こそ確認されてはいるが、人間界に被害を齎した経緯が1度も無い事から討伐対象にされた事は一度もない。
然しながらもしも仮に討伐対象となったとしても、狩れる実力を持つハンターがいないというのもまた事実である。
ちなみに下位の古龍種は「動く天災」と呼ばれ、炎龍ディオルギアが当て嵌まる中位の古龍種は「さざめく災禍」と呼ばれる。
「今のところ、炎龍ディオルギアについてのクエストは上がって来てないが、その話しは本当に信用に足るモノなのかい?」
「うん、多分だけど、おそらく間違いないと思う」
「アンタねぇ、あたしゃ思うんだが、「多分」やら「おそらく」やら、「思う」やらじゃ、信憑性ないって言ってるようなモンだよ?」
「あはははは。うん、ごもっともです」
最低でも「動く天災」と称される古龍種が、国内で発生すればそれこそ大事になる。早めに対処しなければその被害は甚大となり、そうなった場合はそれこそ国の滅亡或いはそうならなくても近隣諸国の格好の餌食にされるだろう。
拠って国を上げて早急な対処が必要になる。
従ってこの神奈川国に於いて国家元首であるマムにそんな大事の話しがあるならば、入ってきていないのは可怪しいという結論に繋がる。
「国内で話しが上がっていないなら恐らく、発生しているのは、周辺国家の山梨国か静岡国だと思うわ。だからマム!要請が来たら教えて欲しいの!!」
「そもそもその龍人族の村がどこの国に所属しているか分かればどこの国から依頼が上がるか分かるんじゃないのかい?」
「それもそうなんだけど、その、なんて言えばいいのかな?」
「なんだいなんだい、シャキっと話しなさいな!」
「クリスの話しに拠ればどこの国とも関わっていないみたいなの。だから正確な村の位置は地図には記載されていないのよ」
「獣人種特別なんたらってヤツかい?全く難儀なモンだねぇ」
これが通話だった事からマムがどんな表情をしているか少女には分からないが、恐らくは苦々しい表情を作っていそうな事だけは理解出来た。
それくらい今回の件は、色々な方面に対して根が深いと言える。
「だけどそれならば、こっちとして出来る事が少ないのは、分かっているだろう?くれぐれも情に流されて勝手な事をしてくれるんじゃないよ!」
「だけどもし近隣諸国から要請が来れば、いの1番にアンタに知らせてやるよ。あたしゃ忙しいんだそろそろ切るよ!」
つーつーつー
「あ、マム!切られちゃった。でもま、いっか。近々公安に行くからその時でも」
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