不思議なカレラ

酸化酸素

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第四節 The Finisher Take

第123話 Mob Ruiner Ⅲ 挿絵付

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ざしゅッ

「よしッ、った!」

ピピピピピピピッ

「ぬぉッまたか?!」

ひゅひゅッ

「この程度ッ!」

しゅんッ

 最初の1匹はなんなく倒せたが、それを見越した動きで新たに二方向から、今度は同時にクリス目掛けて矢が飛来していた。
 しかしクリスはその矢を意図も簡単に払い落とすと、2匹の場所に向けて視線を送って確認していく。


「流石に片方に向かえば敵に背中を射られる。ならッ!」

ぱしゅッ ぱしゅッ ぱしゅッ

ひゅんッ

どごどごどぉん

ぱしゅッ ぱしゅッ ぱしゅッ

 クリスは牽制の意味合いを込めて、魔力弾を左方向の小鬼種ゴブリン目掛けて放っていった。然しながら正面の射手が放った矢は向かって来ている。
 クリスはすんでのところで矢を躱すと、身を翻して再び同じ相手に向かって魔力弾を撃っていった。


「昨夜の訓練の成果を見たかっ!残りは1匹。いざ参る!」

ひゅんッ

 クリスが2回目に放った魔力弾は見事に命中していたのだった。因って直撃した小鬼種ゴブリンの半身は、跡形もなく吹き飛んでいた。小鬼種ゴブリン程度の魔術抵抗力RESでは、汎用魔力銃ガンからの一撃が有効打になり得るのは至極当然の事であり、クリスはそれにも増して特訓の甲斐があった事を喜んでいた様子だ。


 クリスは屋上に残る最後の1匹に向けて、にじり寄って行くが狙われた射手は後ずさる事なく矢を番えては放っていた。やはりこの行動は通常では予想だに出来ない行動なのだが、クリスは違和感と感じなかった様子だった。


「でぇぇぇぇやぁぁぁぁッ」



どぉぉん どぉぉん

「クリスは始めたようね。じゃ、アタシもボチボチやりますかッ。人工精霊、アタシのARエーアールを出して」

しゅんッ

「ありがとッ。じゃあ、セブンティーンはどこか安全な所に隠れて待っててね。何か必要な武器があったら指示するからその時は持って来てもらえるかしら?」

「カシコマリマシタ、マイ・マスター」

「じゃ、どこかいいかしら?」

きょろきょろ

「あっ!あそこなんて良さそうね♪デバイスオン、認識阻害マントオブの羽織りインヒビション

「さてと、行きますかッ!ブーツオン」

 少女はクリスの開戦の狼煙を聞き届けると、自分も準備に取り掛かるべく空を駆けていったのである。



 少女が降り立った場所は、結界内にある大きな木の太い枝の上。少女は敷地内の西側から様子が手に取るように分かる場所を探していた。そして見付けたのがここだったワケだ。
 だが、見渡すのであれば上空からが1番見渡せるハズだが、ここに来た理由は他にあった。


 少女は手に持ったARに取り付けるアイテムを、デバイスから取り出していく。
 そして出来上がったモノは、スコープとサプレッサーを取り付けたアサルトライフルARだった。


 少女が使うアサルトライフルARは5.56mm弾を使う銃器で、通称「ブラックライフル」と呼ばれるモノだ。

 これは第2次世界大戦後に、当時の地球にあった大国に因って開発された小銃の1種である。そしてそれは魔導工学の誕生後に、その恩恵を受けて更に改良され発展していったアサルトライフルARと言い換えられる。
 少女はその小銃をドクの手でウージーSMG同様に魔改造してもらっているが、それは言うまでもないだろう。


 射程はスナイパーライフルSR程に長くは無いが、連射が利くので使い勝手が良い。付け加えると、この規模の戦場であれば端から端まで狙える射程距離は優に保有している。

 そしてこのブラックライフルであれば、通常弾頭であっても威力は高い。小鬼種ゴブリン相手に数発当てなければ倒せないウージーとは違い、ブラックライフルならば1発で致死となるのだ。


 少女はバイザーで大雑把に小鬼種ゴブリンの位置を把握し、ストックを肩口に当てスコープを覗き込む。





 そして息を整えると、小鬼種ゴブリンを照準の中に入れて引き金を引く。サプレッサーを着装しているから音はそれ程響かない。

 本来であればサプレッサーを付けていても、マズルフラッシュが多少は見えてしまい、それで敵に居場所を悟られる事もある。
 だが、認識阻害インヒビションの羽織りの恩恵で、それすらも見えてはいないだろう。

 サプレッサーから微かに漏れる音だけで、正確な位置を把握するのは非常に困難としか言えない。賢ければ弾道の角度から位置を見抜けるかもしれないが、小鬼種ゴブリン単体にはそこまでの知能はないとタカを括っていた。
 群れの配置が賢過ぎるからと言って全ての個体が賢い道理は一切ないからだ。
 拠ってゴブリン達に「狙撃ポイントは見抜けないだろう」と少女は考えていた。
 要するに慢心していたと言えるだろう。


 少女は次々と照準を当てトリガーを引いていく。狙うは頭一択ヘッドショット。それが1番確実だからだ。
 こうして少女がトリガーを引く度に、小鬼種ゴブリンむくろは増えていく。

 少女はこの戦場に30発入りのマガジンを6個、計180発のホローポイント弾を持って来ている。
 その全てを使う気はサラサラないが、小鬼種ゴブリンの多さと、今にも泣き出しそうな曇天どんてんの影響で、少しでも早く終わらせたい気持ちが、次々と残弾数を減らしていた。



 クリスは建物の屋上制圧後に左手に汎用魔力銃ガン、右手に長剣ロングソードを握ったまま階下へと歩を進めていた。
 階段を降りていくと見えてきた文字は「4F」だった。更にこの建物の中にある光点はおよそ30。

 クリスのいる階にある光点は9つ。そしてクリスが降りている、この階段は建物の中央部分にある。
 それらの光点はその階段を挟んで東西に半分ずつ分かれていた。


「屋上の騒ぎに対して新たに上がって来たのはいなかった……。要するに狙ってるな。出れば即狙い撃ちにされる感じか?流石に挟撃されると此の身とて無傷ではいられない」

ぱしゅッ ぱしゅッ ぱしゅッ ぱしゅッ ぱしゅッ

どどどどどぉぉぉん

 クリスは独り言の後で深呼吸を2回行い、精神を集中させていった。
そして壁に身を隠したまま汎用魔力銃ガンの銃口だけを壁の外に出すと魔力弾を連射していく。

 魔力弾が小鬼種ゴブリン達に当たるかどうかは関係が無く、ただの弾幕張りの牽制射撃だ。だが、狙いは一応ある。小鬼種ゴブリン達は狭い廊下に群れている。要するに魔力弾を避ける場所はないと言えるだろう。
 だから牽制射撃だが当たらないハズはないと考えていた。

 クリスは着弾音が鳴り響く直前に、魔力弾を放った側とは。そして打って出たクリスの視界には矢が4本映っていた。


ひゅッ ひゅひゅひゅッ

「やっぱりかッ!だがこの程度で此の身を仕留められると思うなぁぁぁッ!でぇええやあぁぁッ」

ざんッ

しゅばッ

 クリスは自分に向かって襲来して来ている矢を斬り払うと、射手の元に向かって速攻を仕掛けていく。
 そして次矢を放つべくつがえている間に、4匹の小鬼種ゴブリン達は、クリスの一振りに因って斬り伏せられていた。

 バイザーが示すこの階の残存敵影ゴブリン達は3匹になっている。反対側にいた2匹は魔力弾の直撃を受けた様子だ。

 廊下の片側を制圧したクリスは、振り返りながら魔力弾を放ち残りの3匹目掛けて約50m程の廊下を特攻していった。



 少女の狙いスナイプ先は、クリスが乗り込んだ建物とは真逆の位置にある建物。
 正門入り口のある東側から乗り込んだクリスに対して、少女は、敷地の西側の排除殲滅を進めていた事になる。


 この工場跡の西側は一面全てが壁であり、その壁の向こうは鬱蒼うっそうとして矢鱈やたら茂っている森林地帯である。だからこそ、少女はその場から狙撃スナイプして小鬼種ゴブリン達をほふっていた。
 先ずは屋上。次に窓際。物陰に隠れたり見える所にいないのは取り敢えず除外。弾薬を無駄にしない為に、無理には狙わない。無駄弾を減らす事がハンターとして依頼クエスト完結コンプリートさせる為に重要な考え方だからだ。
 そうやってその階の見える所に敵影がいなくなれば階を1つ下げていく。


ばしゅんッ

「これで、32匹目っと。殺傷力でホローポイント弾にしたけど、流石に対物ライフルくらい貫通力がないと壁ごと抜くのは難しいなぁ」
狙撃スナイプ依頼クエストが増えれば熱源感知スコープとセットで買ってもいいかもだけど、アタシ向けじゃないしなぁ。流石に爺にプレゼントするワケにもいかないし……」
「ま、アタシとしては、先頭切ってドンパチしてた方が発散にもなるしねッ。今日はクリスの見極めだから……って、ヤバッ。さっきから狙撃スナイプに夢中になってて、クリスの事をスッカリ忘れてる気がする。あはは、まぁいっか。てへっ」

 少女が持って来たマガジンは既に1つ終わっていた。現在は2つ目のマガジンを装着し、小鬼種ゴブリンを狙っている。

 だが、ここから狙撃スナイプ出来る位置の小鬼種ゴブリン達は、狩りハントし尽くした様子だ。拠って小鬼種ゴブリン達の躯が増えるペースは下がって来ている。
 それでも尚、少女は場所を変えずにデバイスとスコープを駆使してゴブリン達を1匹でも多く屠っていく事にしたのだった。



 空は更に灰色を濃くしている。いつ雨が降ってきても可怪しくはないだろう。あまり時間に猶予が無いかも知れない。
 少女は、焦る心を落ち着かせつつも引き金を引き小鬼種ゴブリン達を散らしていく。


「お願いだから、雨は降らないで。これ以上、依頼クエストの難易度を上げないで……。それにアタシ、焦れったいのイヤだから今すぐに気持ちよく晴れてほしい」
「濡れるのも濡らされるのも正直イヤなの」

 無駄な祈りと知りながらも、天気の回復を切に願う少女がそこにいた。
 目の前にあるスコープを覗き込みながら。
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