不思議なカレラ

酸化酸素

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第五節 The Towards Shining Take

第164話 Invisible Vanquisher Ⅱ

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「はぁ、はぁ、はぁ。やり辛いわね、まったく。でもあれは一体なに?バイザーでは発見出来ない状態で存在しているって事なの?そうしたら、不可視化インビジブルの魔術?でも、あの巨体が瞬時に消え失せる魔術なんて……でも、触手が来る直前にバイザーはちゃんと反応してくれてる。どんなカラクリなのかしら?」
「ホンっトに解せないわッ!」

 不可視化インビジブルの魔術は、認識阻害インヒビションの魔術と同様に起点から順を追って視えなくなると
 そうであるならば、巨体の全てが文字通り一瞬で消える事は不可能としか言えない。

 更に「ソレ」は一度消えると、バイザーが発見するまでだ。
 それは不可視化インビジブル認識阻害インヒビションの特徴だから間違ってはいない。

 それならばバイザーが感知出来ない程に魔力がのだろう。しかし、バイザーが発見した時には全身が一瞬の内に現れる。
 そしてそれは消える時も同じだった。現れる時も消える時も全てが一瞬。全て刹那せつなの時に起きているのである。
 よって


 その一方で、不可視化インビジブルになっているなら、と言える。

 不可視化インビジブル認識阻害インヒビションは相手から認知されないだけであり、相手に対しての攻撃は認知されていなくても可能なのだ。ただ、触れてしまえば相手から認知されるコトになるが、そもそも触手に捕まれば逃げるコトはほぼ皆無だろう。だったら消えたまま捕まえても何も問題はない。
 故に少女は違和感を覚えていた。


「絶対に何かあるわね。不可視化インビジブルの魔術なんかじゃなく、絶対に何かのトリックがッ!でも、攻撃のタイミングが不規則過ぎて、カウンターも合わせられない!アタシが防戦一方になるなんて、これほどまでとは思ってもいなかったわ!くっ」

 その後もバイザーに拠って幾度となく助けられ、少女は常にギリギリのタイミングで緊急回避に成功していく。だが「いつ襲ってくるか分からない」というこの状況下で少女は、極度の緊張感に見舞われていた。

 更にはカウンターも試してはいるが掠りもしない。拠って緊張感だけでなくイライラも募っていた。
 要するにとも言い換えられるだろう。


ぴぴぴぴぴっ

「まったくしつこいわねッ!そう何度も何度も同じ手ばっかって、手ぇッ!?」

ばちんっ

「きあぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ」

「ぬふふふふ。やっと捕まえた。ワイの餌ぁ。ふはははは。いい悲鳴だ食欲が唆るぅ。でも一飲みはもったいない。ゆっくりと味わって味わって、味わい尽くして咀嚼して堪能しなきゃもったいないな。じゅるりっ」

 何度目かのアラームの後、「ソレ」からの攻撃は先程までの触手に拠るモノから変わっていた。少女は今までの単調な攻撃に慣れてしまっていた事が災いして、対応が一瞬遅れてしまったのだ。それは両手で蚊を潰すような動きだった。
 緊急回避が遅れた少女は、「ソレ」の掌が合わさった時に太腿ふとももから下を挟まれていた。


 「惑星ほし御子みこ」の力を解放しているからか、少女は怪我をしても傷を負っても即時回復していく。それはこの闘いが始まるまで分からなかったコトで、太平洋上の島が犠牲になったあたりでは解明されていなかった。


 だが実際のところ、今までの攻撃によって受けた傷は立ちどころに回復していたから「惑星ほし御子みこ」の力によるモノだと考えるようになっていた。しかし、傷は即時回復しても、痛みだけはどうしようもない。回復力と痛覚はどうやら別物のようだ。
 従って傷を負えば痛みは、その身体をむしばんでいく。


 更に付け加えると、物理作用が効かないと言っても軟体動物などの。拠って脚の骨という骨が「ソレ」に因って砕かれ、折れた骨は筋肉に刺さる。
 その痛みは壮絶そうぜつであり、声にならない声が辺りに木霊していった。だが、折れた骨も傷付いた筋肉も直ぐに元に戻るが、「ソレ」の掌の圧力によって元に戻った途端に再び粉砕されていく。

 そしてその光景に、その悲鳴に、その表情に「ソレ」は愉悦に浸り、気持ち悪い顔を更に気持ち悪く蕩けさせて恍惚としていたのである。


「アタシのか細い脚を蚊を叩くみたいに潰してくれちゃって、お、覚えておきなさいよッ!ぐっくぅぅぅぅ」
「——こ、この痛みは絶対に100万倍返しでも許してあげないんだからねッ!うっ、ううう」
「ぐっ!だから痛ったいってばッ!か弱い女の子には優しくしろって教わらなかったの?!」
「あぁ、もう、アンタに食べられたくなんかないし、穢されたくもないし、初めてをあげる気もないのにぃッ!くっ、離しなさいよ!だから痛いってば!!」

「ぐふふふふ。美味うまそうだ」

 不敵な笑みを浮かべたまま「ソレ」の、おぞましく嗤う顔が近付いてきていた。少女の目の前には「ソレ」のうねうねと、見目みめ麗しくない気持ち悪いだけの触手が迫ってきている。


 度重なって襲ってくる激痛に耐えてでも少女は大剣グレートソードを振ろうと考えたが、少女の愛剣も掌の中に囚われている為に引き抜くコトも出来ない。

 「ソレ」は目の前にある「ご馳走」に異様にわらっていた。凶悪な顔をより一層凶悪に変えて、その美味を堪能たんのうし舌鼓を打てる時を、今か今かと待ち構えている様子だった。


「ちゃんと人の話しは聞きなさいって教わらなかったの?!もうッ!こうなったら背に腹は替えられないわッ!」
「デバイスオープン、精霊石ドリュアス、精霊石ノーム、精霊石スカディ、精霊石サラマンダー、精霊石アウラ、バーストッ!」

しゅごどんしゃきぼんざしゅッ
どごおぉぉおぉおん

「あぁ、ホントにヤんなっちゃう。いつからアタシはこんなに打たれ強くなったんだろ。これじゃまるで、アタシの方がドMじゃないっ!」
「——って、ウソでしょ?これでも効いてないのっ?」

 少女はこの状況を打破する為に様々なシミュレートしていた。そして最後の手段を使わざるを得ない状況まで、逼迫させられていた。
 それは精霊石のバーストである。


 目の前で上位精霊石がバーストすれば、少女もただでは済まない。だが、剣を封じられ、拘束を解く事が出来ない現状では、それが1番手っ取り早い最大火力だった。


 精霊石がバーストし、少女はその火力に穿かれ裂かれ抉られ刻まれ焼かれていった。それは目の前の「ソレ」も同条件だ。
 だが「ソレ」に食べられたら一貫の終わりだが、精霊石からのダメージでは少女は死ぬコトはない。
 ただ、非常に痛いだけだ。

 それはもう、泣きたくなる程に痛くて痛くてどうしようもないだけだ。
 だけど死ぬコトはない。

 よって、「死ぬ事以外はかすり傷作戦」を少女は決行したのである。


 一方で精霊石の爆発をまともに受けた「ソレ」は、何の影響も無かったワケではない。
 ダメージは確かに累積していた。だがそんな事よりも今はただ、目の前の「ご馳走」に全てが集中していた事から気にならなかっただけだった。
 要は「気にならない程のダメージだった」とも、言い換えられる。

 よってご馳走に対する執念が見せた芸当と言い換えられるかもしれない。


「って、うわぁ、なに何ナニ?なんで、急に逆さまに?」

「にふふふ。決めた。やっぱり一飲みにしてやる」

ぐぱぁ

「えっ?!ちょっ、嘘でしょ?やめて止めてヤメテ離してッ!」

 「ソレ」は精霊石など意に介す事なく両手を高々と上げると、コップの中身を飲み干すかのように手首を返していく。その為、少女は逆さ吊りのような格好になっており、一種の辱めを受けている様子だった。
 この時にもしも少女がスカートを履いていたら、顔を真っ赤にして必死になって口汚く抗議しただろう事は間違いがないが、余談でしかない。


 少女のその視界には触手の隙間から開けられた口が、垣間見えている。それは地獄の門が開き、門の中に引きずり込もうとしている感じにも見えるが気持ちの良いモンではない。


「まだ、まだ、まだッ!まだ何か方法はきっとある!諦めるなアタシ!諦めたらそこで終わりだッ!くそっ!くそっ!くそっ!」
「そうだッ!いっその事、口の中に精霊石をブチ込んでやろうかしら?」

きらッ

「えっ?アレって……まさか」

 少女は拘束を解こうと必死だった。その為に「惑星ほし御子みこ」の力を最大まで発揮したが無理だった。
 バフを筋力値STRに入れても、敏捷性AGIに入れてもダメだった。そして藻掻けば藻掻くほど、締め付けてくるその掌の力は増していった。
 治った骨は激しくきしみ、鈍い音を掻き鳴らし痛みが身体を突き抜けていく。


 だがそんな中で逆さ吊りにされた事が幸いしたように、少女の首に掛かっていたネックレスが地球の微かな重力に従い、直下にいる「ソレ」に向かって落下していく様子が、少女の視界に入っていったのである。



 少女はそのネックレスが落ちていく時にどんな気持ちだったのだろう。
 その表情は「驚愕きょうがく」だったのか、はたまた、「歓喜」だったのか。

 または、そのどちらとも付かない表情だったかもしれないが、少女にはそんなコトを気にしている余裕は一切無かった。
 ただ、落ちていくネックレスを見送っただけだったと言えるかもしれない。
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