Kaleido sisters

兎城宮ゆの

文字の大きさ
11 / 15

常夏の生放送

しおりを挟む
梅雨明けの猛暑入りに入ったある日。

アルプロ内では空調機の不調により、仕事での集中が保てずにそれぞれが、あられもない姿でヘタれていた。

「兄ちゃ~ん。暑いからアイス買ってきてー?」

「俺も動くのしんどいから緋鞠と一緒に買ってきてくれ.......」

千円札を華月に手渡すと、緋鞠を横目に見つめようとしたが、しっかりとしている妹が暑さで変な笑い声を出していた。

まるで、この世の終わりのような地獄絵図の社内の雰囲気を壊すように社長が外回りから帰ってきた。

「華月君と緋鞠君は居るかい? ファーストライブ前に仕事が決まったよ。コンビでの初仕事だ。気合を入れていこう!」

社長の掛け声に『おーっ』とやる気の無さげな華月の応えが返ってきたのを高笑いで暑さに参った俺達に元気を見せ付けていた社長はお土産のように下にあったコンビニの袋を広げる。

「アイスあるけど食べるかい?」

「食べる!!!」

社員一斉に社長を神のように称える。平均金額200円にも満たない物で崇める事の出来る神は、すぐそこに存在していたのだ。



日を跨いで、次の日の昼。

急遽決まった仕事なだけに準備する時間は無かったが、それなりにスタイルの調整は俺の食事でしてきた事もあり、何の問題もなかった。

「緋鞠ちゃん見てみて! この現場って最近出来たアミューズメントパークなんだって! プールも開設してあるし、帰りに遊んでいこうよ?」

「で、でも私は金槌だし.......。それに本当は水着も着たくないからーーー」

確かに最初は仕事内容に緋鞠は出すべきではないと思っていた。

アルプロに所属したと噂の『弧鞠』としてネット界で有名な妹をイベントに出すという事は、アミューズメントパークという名目の他に追っかけが来てもおかしくはない。

評判だけなら華月も負けていないが、緋鞠はプロモーション的なものを気にしても仕方がない。

そもそも今日のイベントは、他の王手事務所から参加する予定だった売れっ子アーティストが担当する筈だったものを社長が推薦した『Kaleido sisters』が企業に目を付けられた事から得た結果でもある。

「緋鞠は分かっていると思うが、華月は案内役、リポーターという事を忘れるなよ?
元気でリポートするのは構わないが、変な言葉遣いが出ないようにな?」

「分かってるよぉ~。兄ちゃんは心配症だなぁ~」

そんな話をしている内に近い日にオープンされる予定のアミューズメントパークに辿りつく。

今日は施設に支障がないかのチェックを含めた抽選で選ばれた300人程度の客と共に仕事をする事になっていたので、この中で妹達の紹介の元でテレビ局が取材を行うのだ。

「到着ー! サンサンと照りつける日光がプールに入れと叫んでいるよ兄ちゃん!!!」

「叫んでないから行くぞ? 緋鞠は日傘いるか?」

車を出て、駐車場から歩いて三分程の距離を要する入り口まで、元気に走り回る華月とは対象的に緋鞠は既に暑さにやられて、俺に寄りかかりながらぐったりとしている。

アミューズメントパーク内に入ると受付で話をつけて、準備に取り掛かろうと裏手にある更衣室に姉妹を入れると、ドアの前で数十分の時間を潰す。

「兄ちゃんは水着、着ないの?」

「俺はお前達と違って、プールに入る予定がないし、仕事で来ているだからな」

更衣室越しから聞こえる華月の声にため息をつきながら、緋鞠の合図と共に未発達なりに脂肪分を忘れていない理想の身体をした妹達が現れる。

華月はいつも通りだが、緋鞠は見られる事にまだ慣れていないのか、肌を隠すように恥ずかしそうである。

水着に合わせるパーカーを緋鞠に着せて、テレビ局のスタッフとの打ち合わせに向かうと、既に場に打ち解けている華月を背にアミューズメントパークを見渡す緋鞠の目が輝いているように見えた。

巨大なウォーターパークの外側にはショッピングモールが広がり、快適な温度で南国の気分を楽しめるといった構造に新世界を感じたのだろう。

確かに開放感ある場所だが、プールとショッピングを合わせる必要はあったのだろうか。

取材の時間が近づくに連れて、姉妹共々に注意点を指摘しながら、ディレクターから送られた合図で二人を送り出す。

「本番入りまーす! 3、2、1---」

「突撃!こ↑こ↓に行ってみよ~う!!!」

華月の掛け声と共に緋鞠とカメラに向かって、ポーズを決める二人を目の当たりにしながら、カメラ慣れした姉の解説と相槌を打つ妹といった絶妙な組み合わせで番組が始まっていく。

基本的に指示された場所を隈なく紹介していくが、恥ずかしさの余りに縮こまっている緋鞠の声がちゃんと編集できるか心配になってくる。

「じゃあ次はアレに乗ってみよ~!!!」

指さした先にあったのは、緋鞠が苦手な高台から一気に急降下するウォータースライダー。二人で一緒に滑る事になっていた事もあり、緋鞠も了承したが実際の高台に向かった姿を見ると涙が溢れ返って今にも泣きそうになっていた。

「華月ちゃん。やっぱり私、無ーーー」

「行ってきま~す!」

華月が、カメラに向けて敬礼をすると同時に緋鞠を下にして、その上に乗るように一気に下まで急降下していく。

下に到達するまでに緋鞠の甲高い悲鳴が、スライダー内を通して伝わってきたのを感じた。

大きな音と共にプールに落下した二人をカメラに押えるが、高笑いをして面白さをアピールする華月に比べて、緋鞠はクラゲのようにプカプカと水面に浮かんでいるという相対した光景に視聴者は、どんなインパクトを受けるのだろうか。

番組も後半になり、予定通りに事が進み余った残りの時間に精一杯のアピールをするようにと二人にしていた事もあり、モデル経験のある華月は元より、緋鞠もそれなりの魅力を伝える事は出来ただろう。

「と、いうことで今日のリポートは、Kaleido sistersの立花華月と!?」

「ひ、緋鞠がお送りしました。来週は、廃墟となった老舗旅館に行ってみよ~」

「「またね~」」

無事に取材の仕事が一件落着といったように終わる。

「お疲れ様です。いやぁ~、元オファーしていた子達よりも君達を選んで良かったよ。またよろしくね?」

監督から直々に挨拶を貰い、深々と頭を下げて恐縮の気持ちを伝えると、撤収していくテレビ局の方々を見送る。

「にしし。兄ちゃん、お仕事終わったから遊んでもいいよね?」

「に、兄さんにもウォータースライダーの恐怖を味わってもらいますから.......」

姉妹に両腕を掴まれると、裏手にある更衣室に連れて行かれる。

借用の水着をいつの間にか準備していたようで、逃げないようにと扉の前で見張っている二人に微笑みながら、頷いてみせると社長に一本の連絡を入れてから水着に着替えると気が済むまで家族の団欒を過ごした。

仕事務めで、あまり遊んであげれなかった分も含め、目一杯遊び尽くした後で知った事実だったが、今回の番組はどうやら”生”放送だったらしい。

通りで編集をしないで事が進んだ筈だ。むしろ、生放送と伝えられたら緊張するだろうと思っての社長の配慮だったのだろうか。

その日の番組視聴率は30パーセントを取っていたらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。

クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。 3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。 ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。 「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...