Kaleido sisters

兎城宮ゆの

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ファーストライブ

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若手から年代の人々が群れを為す、大きなイベントが今日この日に行われる。

アイドル聖典祭と呼ばれる『Precious memorys』が開催される此処、『埼玉グレートアリーナ』は現在、ファンの賑わいに比べて俺達プロデューサーの間では、今にも戦争が始まりそうな勢いで殺伐としていた。

本日は、御日柄も良くと始める予定だった開会式に既に一悶着が起きる寸前、勿論狙いは1つといわんばかりのヘイトの先はーーー。

「Kaleido sistersという弱小プロダクションが生み出したアイドルユニットに、負けるわけにはいかない。全力で観客にアピールをしていけ!」

アイドル事業とは、自らの株の上昇の為に可愛い子をスカウトしては育てていくという理想とは裏腹のスパルタな世界であるが為、長続きした者がいないと聞く。

そんな世界に俺は、二人の妹を押し出そうとしている。

兄として、プロデューサーとして、本当にこのままで善いものか......。

「なぁ~に難しい顔してんだよ、兄ちゃん!」

冷たい感触が頬を伝わって、緊張と深刻に悩んでいた影響もあってか、思わず
声を上げてしまう。

「兄さん、落ち着いてください。私達よりも兄さんが緊張してどうするのですか?」

目の前には、満面の笑みでサイダーを向けた華月と、いつものように落ち着いた態度で接している緋鞠の姿がある。

ステージ衣装に身を包んだ可愛らしい衣装と、小さい成りとは裏腹に大人らしさを内に秘めているといった化粧に身を包んだ姿をしていた。

「二人ともステージのチェックと、打ち合わせで決めた台本は記憶したか?」

姉妹揃って顔を見合わせながら、俺の手を引いて走り出そうとしていた。そのまま連れられながら、観客席の一番後ろまで連れて行かれた後に振り返って、口裏を合わせるように「せーのっ」とステージに二人の腕が向けられる。

「私達の初舞台、ここまで連れてきてくれたファンの方々と!」

「未熟な私達、姉妹を導いてくれたアリプロの皆さんに感謝の意を告げながらもこの聖地に足を運んでくれた皆さんに盛大な感謝を持って!」

「「開会の言葉とさせて頂きまーす!!!」」

目の前に広がるのは、アリーナに集まった観客でいつの間にか埋めつくされていた。

ライトアップされた目の前の華月と緋鞠に、圧倒的な歓声と共に開幕となったアイドルの祭典。

目の前に広がる光の海と、これから始まるステージに立つ姉妹に手を引かれながら、その場を後にした俺は、高揚に染まった二人の全速力の走りに合わせながらも楽屋の中へと滑り込むように連れられていく。

畳で出来た床に倒れ込む華月を腕で抱えながらも、緋鞠も体力の限界というように靴を脱いでその場に座り込む。

「はぁ...はぁ.....。どうだったよ兄ちゃん? ちゃんと一人前のアイドルらしく開会の挨拶もしてみせたぞ?」

俺の腕に抱えられていた華月が、決め顔でこちらを見ていた。

確かに祭典の開始に相応しい、今を飾る『Kaleido sisters』として最高の挨拶だったのだろう。楽屋に設置されたモニターで見えるそれぞれのプロダクションの一推しのアイドルがパフォーマンスが、ヒートアップした会場を更に沸かせようと頑張っているのが分かる。

落ち着きを取り戻したように開会の挨拶に最後を飾るファイナルライブを任された俺達、Altoプロダクション。

順々に終わっていくパフォーマンスに、不安の表情を浮かべ始めた二人に声を掛けにくい自分が不甲斐なく感じてしまう。

そんな俺に向かい合うように、身体をこちらに向ける緋鞠と目線が合う。

口篭りしながらも何かを俺に告げようとしていた。

「膝枕...してください.......」

緊張で頭が混乱しているのだろう。華月も同じ境遇なのだと察した事もあり、俺に縋る緋鞠の頭を膝の上に寝せると、震えていた身体を除々に落ち着かせているのだろう。

目を瞑りながら浅い眠りに着いた妹を横目に背中に寄りかかる姉もまた、本番を前に緊張の余り、声も出せずにいたのだろう。

声も微かな発音しか聞こえない。それでも勇気を出そうと少しずつながら、声を張りつつ、いつもの華月に戻ろうとしているのが話しの中で感じ取れた。

「兄ちゃん。世界は広いようで狭いな。あんなに色んな観客がいるのに、サイン会とか参加イベントに顔を出してくれたファンの人も、ちらほらとモニターに映るんだ。その人達見てるとさ。他のアイドルを目的に来た人と同じく、私達のライブを楽しみにしてきてくれたんだと思う。全力で応えたいのに私は、この様だ。こんなんじゃ、ファンのみんなに顔向け出来ないーーー」

いつもの元気とは裏腹にネガティブな一面を見せている華月の頭を撫でながら、待っている妹に掛けてやれる言葉は少ない。

俺は妹達に世界という重荷を背負わせてしまった罪人のようなものだ。

そんな俺から「頑張れ」なんて言葉で背中を押すことも出来ない。

しかし義兄として、家内の主として二人の妹の手を引く事なら出来る。

そんな気持ちで張り詰めていた華月と目線を合わせて自分の気持ちを言葉投げかける。

「華月はアイドルである前に緋鞠のお姉ちゃんだ。華月が弱気になったら、緋鞠も先を見失ってしまう。だからいつも通りの華月でいてほしい。もしファンの期待を裏切る結果になってもその後の活動で信頼を取り戻せばいい。二人には、世界を目指せる魅力があると俺は思っている。だから失敗を恐れるな」

華月を抱きしめるように背中を離して、正面に倒れこむ相手をゆっくりと抱擁するように、緋鞠を起こさない程度の振動で受け止める。

ほんの数十秒だったが肩に顔を埋めてから、スッと何かを決意したように俺から後ろに三歩下がって、備え付けの鏡に向かっていつもの強気な顔を見せている。

「よっしっ! 兄ちゃん、私を誰だと思っているのさ? 私は立花華月でKaleido sistersだよ? 私に出来ない事は緋鞠ちゃんがやってくれる。緋鞠ちゃんが出来ない事は私がやる。だから兄ちゃんは安心して私達の兄ちゃんでいてくれよな?」

拳を向けながら言い放ったその言葉に応えるべく、俺は拳を華月に合わせる。

「Altoプロダクションさん、ステージの準備が整いました。準備をお願いします」

スタッフの男性の声掛けに応じて、ゆっくりと緋鞠も目を覚まして起き上がる。

最終チェックのメイクが入り、いよいよといった様子でこちらを振り返る妹達に最高の演出をこれから披露しようとしている。

俺も二人の晴れ舞台をすぐ近くから見れる事が、この舞台に立たせる事が夢だったのかもしれない。

ふと本番前に手招きで呼び出された事に気づく。

緋鞠は顔を伏せているが、円陣を組もうとしているところを見ると、掛け声をやるつもりなのだろう。

「兄ちゃんと私達のKaleido sistersだ! 無様に終わる気はないからよろしくな! 緋鞠ちゃん!!!」

「私も...兄さんに救われた人生に悔いは残したくない。私達なら出来るよ」

二人の気合も最高潮といった状態から、目線を集中して向けられた俺から何か一言貰いたいといった感じだろうか。

二人の手を円陣の中心に移動させると、伝わる体温の上昇した手の熱さに俺も精一杯の声援を送ろう。

「いくぞ! Kaleido sisters、セーットアーップッッッ!!!」

中心に寄せた手を一気に宙へと上げると、同時にステージに昇る台の上にパタパタと移動していく二人組。

音楽のイントロと共に曲に合わせた演出の煙や光が広がる。

曲が始まる手前で昇降台が二人を打ち上げると、二人で手を結んで着地すると決めポーズのような姿で会場に来ていた観客にアピールをしていく。

「皆さーん!!! 今日のライブ盛り上がってくれましたかー!?」

「私達、Kaleido sistersも先輩方に負けないくらいの演出をお届けしますので、是非見ていってください!」

「曲は私達、Kaleido sistersのファーストソングのーーー」

「『Treasure Bloom』」

光見えず その度に 空を見つめてた
新しい風さえ受け入れずに 自分の殻にこもってた
希望の光 手を伸ばし 掴もうとした
届く筈の無い その想いに可能性を描いていた
それぞれの気持ちを 未来に伝えたい
どんなに苦しい結果が 待っていようとも
Treasure Bloom あの人に 授かった光
受け入れていく強さのHeart
Break the chain きっと今は その先に視える
明るい世界の果てを
Just Keep On Walking!!!

二人の初ソングは会場中を沸かせて、その熱狂は歌っていた二人にダイレクトで歓声という応えが響き渡ったのだろう。

他のアイドルに並ぶ、スターの座に立てた二人は、空を彩る星空のように俺の目にしっかりと映り込み、聖典祭を華々しく幕を降ろすに相応しい終わりを告げる事に成功した。

盛大にヒートアップした会場に響き渡る『Kaleido sisters』呼ぶコールの嵐が、尚も響き渡る。

その声に応える事も出来た筈だが、閉幕しようとするライトの下で身動き1つも取らずに緋鞠と華月は沈黙していた。

ステージが閉まり切ると同時に、床に膝を着いてしまった二人に慌てて駆け寄った俺だったが、逆に涙と共に見せたその笑顔に感服させられてしまったのだろう。

ゆっくりと手を握りながら、落ち着くまでの間に身支度をさせて帰る準備を行う。

聖典祭に出させてもらったスタッフに挨拶を済ませると、先に車に乗せていた姉妹に俺なりの感激のコメントを投げかけようとした。

しかし、当の二人はというとーーー。

「疲れて眠ったか.......。お疲れ様。今はゆっくり休めよ?」

肩を並べて後部座席で眠る二人の頭を撫でながら、自宅に戻っていく。

その寝顔は満足感に浸った素敵な天使の寝顔だったと思う。
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