「月が綺麗ですね」そう言った君の方には何も見えなかった

夢川渡

文字の大きさ
2 / 4

1 多分私じゃない

しおりを挟む

あのよく分からない騎士に会ってから二週間が経とうとしていた。

「面白くない,多分」

‘多分’という言葉を呪文のように操るものだから親にも友達にも「え?」と首を傾げられた。
だが,その言葉がとても心地よかった。

曖昧に表現することにより,ある意味自分を見られる,自分を嘘をつけなくなる。そんな感じがしたのだ。




「よぉリアナ嬢」

「っ!?」

今日も変わらず本を読んでいると,例の騎士が覗き込んできた。

「…貴方ね…」
「なんだい?」

「人の読み物を勝手に見るとか,非常識ではなくて?」

今読んでいるものが普通で良かったなぁと思う。ま、まぁ別に普通じゃなくともこの人には関係ないのだけれど。

「あぁ,すまないね…気をつけるよ」
「多分」
「え?」
「貴方が教えてくれたのよ」

多分に多分救われている私からの精一杯の言葉だ。

「まぁ…それはさておき…」
「おぉ…」
「なんで貴方は私の名前を知っているわけ?」

「あ、、、、」

「それに此処はセレン家の関係者以外は入れないはず」

「あ、、ああ、、」

7歳にしては多分よくまわる頭だなぁと思う。
そんなこと考えている時点で私は私じゃない気もするが。

彼は咳払いをする

「……失礼しました,お嬢様」

「…え?」

「僕の名前は,シア…この家の騎士見習いです」
「嘘をつくなシア」

んんん???
なんか人が来たぞ

顔を見るといつも私のお世話をしてくれる執事のルスが居た。
家政婦は見たってな!…やかましいわ…

ん?
…なんだ今のボケは?

まぁいいや


「あらルス…どうしたの?」
「どうしたって…初めから此処に居ましたよ?」
「え?」

「え?じゃないでしょう…最近お嬢様が寂しそうなので連れてきましたのですよ」

連れて…来た?

「あ,あら…そうなの…?ありがとうね。それで誰を?」
「こいつです」
「はぁ?!?!」

はぁ?!?!と声をあげるのは先ほどシアと名乗った騎士だった。

「あら,貴方連れてこられたのね…気づかなくて申し訳ないわ」
「…い、いえ…」

何かありそうだけれどあえて探るのはやめておく。私はしっかりしている人間…そう,きっと大人よ。

じーっとシアが見つめてくる
「な…なぁに?」
「お嬢様はやはり不思議ですねぇ」
「表情あまり変わらないのになんかすごく考えてそう!」

(…なんなの?この人は)

でも、けれど…この人とまた会えて嬉しくもあった。

「お嬢様,そろそろ眠る時間では?」
「あ!もうそんな時間なのね…シア,申し訳ないけれど今日はこれでばいばいよ。また明日お会いできれば」

「あ,その件なんだけれど」
「では」




なにかシアが言いかけたけれどまた会った時に聞こう。

そう思って自室へと戻った。


「彼といると時間があっという間に感じるわ」

「あら,お嬢様初恋でもしたのかしら?」

「ちょっと,メア…勘違いしないで」
「またまたぁ!」

そう言って専属のメイドのメアは私を寝かしつけた。
一人で眠れるのだけれど,人といた方が今日はなんだか安心するわ。

「おやすみなさい…」
「おやすみ,リアナ様」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。 この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。

背徳の恋のあとで

ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』 恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。 自分が子供を産むまでは…… 物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。 母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。 そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき…… 不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか? ※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

捨てられた妻は悪魔と旅立ちます。

豆狸
恋愛
いっそ……いっそこんな風に私を想う言葉を口にしないでくれたなら、はっきりとペルブラン様のほうを選んでくれたなら捨て去ることが出来るのに、全身に絡みついた鎖のような私の恋心を。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...