ディスペアー・ファンタジア

雅弌

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1話 異世界転移は死と隣り合わせ

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──その異世界転移は夢も欠片もなかった。
魔王が出現し、危険な魔物が蔓延り、常に危険と隣り合わせな世界。
そんな世界に凪鷺高校2年A組の生徒達は授業中にクラスメートと教師ごと召喚された。
ゲームとかアニメが好きなクラスメートはチート能力を貰って大冒険が出来るー!!!なんて楽しそうに騒いでいたけども。

1ヶ月もしないうちにクラスメートの人数は35人から8人にまで減ってしまった。
魔王討伐に使用する聖剣の素材があるとされるダンジョンに放り込まれてほとんどがモンスターに殺されてしまったのだ。


チートかは分からないが、異世界に転移した際に一人一つずつ魔法や能力が開花して使用する事ができた。
転移する際にゲートと呼ばれる巨大な門を通じて移動するのだが、そのゲートは強力な魔力の波が循環しており通過した人間の才能を開花させるとか何とか。
けれどそれはオレ達を呼んだ異世界人達にとってお気軽に兵士を補充でき、異世界の人間だからいくら死んでも被害として軽微で済むとかそんな理由。

最初にチート能力で大冒険だー!なんて騒いでいたクラスメートは運動も苦手な、有り体に言えばただのデブなオタクだったので早い段階で死んでしまった。
けれど良いヤツではあった。
元の世界ではあまり縁もなかったけれど、こんな無茶な世界に放り込まれてしまった事で結束感は出来たし──。
アニメやゲームの知識だけれども魔法や異世界、モンスターの特性など知り得る事は考察し教えてくれた。


この世界の人達は、最低限の装備と食料を渡すだけで何にも教えてくれなかったし、彼の情報は凄く助かった。
縁もなく、見た目や趣味のせいで好き好んで接点を作ろうとしてこなかったけども話してみれば案外面白いヤツだったよ。
他にも喧嘩とまではいかないにしろ反りの合わないクラスメートととも苦難を共にしているうちに仲良くなった。


けど、最終的には仲良くなっていくのを後悔した。
だって──皆死んでいくんだから。
血が、絶叫が、悪臭が。
心に、体に染み込んでいく……!

生き抜くには助け合いは大切だ。
だけども親しい友人が、恋い焦がれたクラスメートが!
目の前で崩れさっていく光景を何度も見させられて!!!

気がつけば、残った8人はほとんど会話しなくなった。
必要最低限な会話はするけども、気分転換の楽しげなトークやくだらないコイバナも。
何もせずに、食事の担当や戦闘について戦略を練ったりする時に会話するだけになった。

けれど決してクラスメートの事が嫌いになったワケじゃない。
言葉を減らしても仲間意識は強くなる一方で。
目の前で誰かが死に、友達でも恋人でもなかったクラスメートがその死んだ相手の側に涙ながら近寄ってまた殺される。
そんな光景すら目にした。

気がつけば──どうやって悲しまずにいられるかどうか考えるようになってて。
それでも誰かが死ぬと足を止めそうになる。
今残ってるオレを含めた8人は、何とか足を止めずにいられただけにすぎない。
足を止めたら死ぬ。そんな異世界。

──地獄だ。


「──蔵石くん」
「あぁ」


オレ、蔵石 宗助はクラスメートの小鳥遊 優理花の声に小さく答える。
小鳥遊の身長は160cmほど。運動部でもなかった彼女は鎧などを着込む事もできなかったのでこの世界に来た時の服装のまま、今では薄汚れた茶色ブレザーと紺と白のチェックスカートの制服を着ている。
活発な性格で、クラスの中でも明るい彼女だったが今では瞳に光がない。
異世界に来る前は茶髪のロングヘアーだったが、邪魔にしかならないとショートカットにしてしまった。


彼女の能力は『精霊魔法Lv2』。
精霊と会話し、力を借りて攻撃や補助の魔法を行う。
その威力や効果は力を貸してくれる精霊とやらに既存するので不安定な能力。
しかし汎用性が高く、精霊が索敵を行ってくれたりダンジョン内で安全地帯を探してくれたりと助かっている。

ダンジョンは洞窟に埋もれた、暗がりの多い崩壊した遺跡のような場所。
あちこちに倒れた柱や、物陰がありモンスターの隠れる場所も多いため彼女の索敵能力は生命線だ。
つまり、彼女が声をかけてきたという事は近くにモンスターがいるという事だ


「──シャドウシフト」


対してオレの能力は『闇魔法Lv3』と『暗殺Lv2』。
闇魔法と聞けばかっこよく聞こえるかもしれないが、攻撃的な魔法は一つしか使えない。
Lvにつき一つしか魔法が使えないのだが、闇魔法Lv3の場合は自分の顔と同じくらいのサイズの黒色の球体を放つ『ダークボール』と相手の足元にある影から影の手を伸ばし数秒足止めする『シャドウハンド』。
そして今使ったシャドウシフト──身体に闇を纏わせ暗がりでの相手からの発見を困難にする魔法だ。


今はこの場にオレと小鳥遊しかいない。
理由としては小鳥遊の索敵とオレの暗殺の相性が良く、人数が多くても足音等で騒がしくなるだけだからだ。
最近では初めていく場所を探索する場合はこのペアが多い。

デブオタクだった今は亡き彼にゲームとかの知識ではあったがマッピングの仕方等も教えてもらっており、今でも役に立っている。


(敵は武装したゴブリンが3体。ギリギリいけるな)


小鳥遊を置いて直視で敵を確認する。
精霊はざっくりとしか教えてくれないらしくて気配を察知した後は目視の確認が必須。
シャドウシフトは闇の中でも目の利く相手でも効果があるので便利だ。
ゴブリンは人の子供くらいのサイズをした緑色の小鬼。

用紙はとにかく不細工で、デブオタクだった彼がいかに愛嬌がある方だったか思い知らされる。
ただ、汗をかきやすいならハンドタオルを常備したり制汗剤はしっかり使えよと死んだ相手には意味のない忠告が頭を過る。


「──シッ!」
「グギャァァァ!!!」
「ギギィ!?」


まず一体目のゴブリンは装備の隙間──首の裏をダガーでかっ切る。
大型のモンスターには効果がないが、人形以下のモンスターならこれで即死する。
最初は闇魔法しか使えなかったオレだが、こうやって闇に隠れてモンスターを殺しているうちに暗殺能力を習得してLvが上がっていった。
恐らくではあるが最初に得た魔法しか使えないという事はなく、確認できないが熟練度のような物が貯まれば新しい能力を得たり能力のレベルが上がるというのがオレ達の得た結論だ。

こんな事ばかりしていたら暗殺能力ばかり上がってオレ達がボス戦と呼んでる強力なモンスターとの戦闘に役に立たないな、と思うがこうして探索等をスムーズに行えるなら悪くない。


「炎の精霊!!!」
「グギィィィ!?」


ゴブリンを一体殺した事でシャドウシフトの効果が切れた。
突然現れたオレに仲間を殺され困惑したゴブリンに小鳥遊が精霊魔法で追い討ちをかける。

精霊魔法は闇魔法と違い、Lvで使用できる魔法の数が増えたりするのではなく精霊との会話能力の高さ等で数値として出るらしい。
そのためLvは上がりにくいが先程説明した通り低いLvでも汎用性が高い。
索敵と、威力や効果は低めだが炎、水、風、土の精霊の力を借りた魔法が使えるのだ。

威力は低めと言っても、モンスターの中でも弱い部類のゴブリンには十分。
ゴブリンを炎で丸焼きにし行動不能にする。
ゴブリンの厄介さは見た目に反して知能であり、身体能力は高くないが人間と同じく武器や罠を使用するのだ。
その罠に関しても、精霊がこの辺何かあるよとざっくり教えてくれるからオレと小鳥遊の探索ペアにはあまり驚異ではないが。


「グ、ギ……!」
「──シッ!」


仲間二人がやられ、途方に迷う残った最後のゴブリン。
そこに人間性のような物を感じるが容赦はしない。
今度は正面から喉をかっ切り、殺す。


最初はモンスターと言えど命を奪う事に躊躇いもした。
死んだクラスメートの中には命を奪う事に耐えられず、発狂したり楽しむようになったヤツもいた。
──ソイツ等も、死んでしまったが。

今残っているのはオレと同じように感情を殺す事に徹底するようになった奴等ばかりだ。
確認したワケではないが、おそらくそう。


こんな腐った地獄のような異世界でダンジョンを探索するのが今のオレ達の日常だ。
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