ディスペアー・ファンタジア

雅弌

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4話 開幕

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小鳥遊の車椅子を押して家に戻ると見慣れない連中の姿があった。
田舎村の、こんな素朴な木造の家に何のようだ。
村の人達なら急なモンスター退治を依頼してきたりするが、今家の前にいるのは──見慣れない冒険者のように見える。

客は二人で、両方とも女性。
軽鎧や鎖帷子を着こんでいるようだが、動きやすさを重視した兵士や騎士と比べると安っぽい服装。
これくらいなら、オレのトラウマも反応しない。


「お前ら、人の家の前で何してるんだ」
「あ、ソースケ。ここにも精霊さんいるよー」


小鳥遊の方は──客が視界に入っていない。
騒がれるよりはマシだから、申し訳ないが客人達には我慢してもらおう。
冒険者らしき二人の年齢は20才前後くらいか。
オレと小鳥遊より少し年上くらいの若さ。


「はじめまして、私はティナ。で、こっちがシャーリー」
「どーもー」
「……オレ達の自己紹介は必要か?」
「いや、ちゃんと前もって調べてある。──君の無愛想さも含めて色々と噂通りだな」



一人は軽鎧を着込み、腰に長剣の入った鞘を携えた赤髪のショートカットの女性ティナ。
赤と言っても茶髪に近いような濃いめの色だ。
もう一人は内側に鎖帷子があるけども防御力に期待できそうにないフード姿のシャーリー。
金髪を肩辺りまで伸ばしており、背中には弓と矢筒がある。

やはり冒険者にしか見えないが、この辺りでは見ない顔と名だ。
もっとも──小鳥遊を見て蔑むような目をした事が気に入らないので他はどうでも良いが。


「失礼、まじまじと見てしまった。不快な思いをさせてすまない」
「ごめんねー。けど噂通りなんだねー」
「シャーリー!」


──まぁ、悪気がなくて謝るなら良いか。
シャーリーの方も口は軽そうだが悪意のような物は感じない。
何様だと思われるかもしれないが、ちゃんと礼儀を弁えるなら入れてやる。


「話なら中で聞こう。茶くらいは出す」
「チャ?」
「……遠い国のマイナーな飲み物だ。行商人に商売に失敗した茶樹を安くで買って家の裏で栽培してる」


異世界でもお茶が飲めるとは思わなかった。
クラスメート達にも飲ませてやりたいと思うが──味はやっぱり分からん。
小鳥遊は美味しい美味しいと言って飲んでくれているけども。

元は、今の解説通り遠くから来た行商人が新たな商売として持ち込んだがお茶について広まってなかったから見事に商売に失敗したらしい。
何でか珈琲やら紅茶に似た飲み物は広まっているのに何でお茶だけが広まっていないのやら。


ともあれ、冒険者二人を家に上げた。
小鳥遊が車椅子生活をしているので広めの間取りで、無駄な物を床に置かないようにしている。
リビングに案内すると冒険者をテーブルに着かせ、お茶を用意する。


「小鳥遊に触れるなよ」
「分かってます。眉唾な噂ですが彼女に触れると貴方が文字通り獣になるとか何とか」
「……」


そんな噂を広めたのは何処のどいつなのやら。
嘘ではないが、悪意のなさそうなヤツが触れても不快な気持ちになるだけで獣になったりしない。
そもそも──そんな姿を見たようなヤツは皆『殺した』はずだが。


「それだけタタナ、タナナァー……」
「小鳥遊」
「ターナ!ターナちゃんをそれだけ大切にしてるって事だよねソースケは!」


異世界人とは何故か言葉が通じているようだが日本名は難しいらしい。
ソースケは言えるのに小鳥遊が言えない理由は分からんが。


「──美味しい」
「うん!癖があるけど美味しい!」
「そんなガツガツ飲むな。ゆっくりと味わって飲むのがお茶だ」
「成る程、嗜好品ですね」


そこまでオレが煎れたモノなので大袈裟な物じゃないが、出したお茶を美味しいと言って飲んでくれるのは嬉しかった。
味が分からないせいで、ちゃんと故郷の味になっているかも分からないが小鳥遊も満足してるから良いだろう。


「──さて、本題よろしいでしょうか?」
「聞くだけ聞こう。態度の悪さには目を瞑れ」
「大丈夫です。態度と口は悪いですが子供や老人には優しいって評判も聞いてますよ」
「……」


何だそれは。
困っている連中を見ていられなくて声をかけた事もあるかもしれないが、オレが優しいだって?
優しい人もいる、と理解はしているが基本的に異世界人は嫌いなので無愛想なはずだが都合の良い解釈をしてくれるもんだ。

シャーリーは照れてるーとか茶化してくるが、うるさい。


「実はタタナ……ターナさんに王都の神殿に足を運んでほし──」
「帰れ」


ダン!と机を力強く叩いて言葉を遮る
人の良さそうな連中だと思ってもてなしてやったが、最悪だ。

──しまった、冒険者二人はどうでも良いが小鳥遊を怯えさせてしまった。
ビックリした、怯えているような表情でこっちを見ている。


「──続けます。今、王都の神殿には上級精霊がおり、魔王亡くなっても被害収まらないが魔物の被害に関して助言を──」
「帰れ!!!」
「私達を追い返しても此方に来るのが使いっ走りの冒険者から、正式な騎士達による要請に変わるだけですよ?」
「……っ!」


なんでも上級精霊は気難しい事で有名なのだとか。
精霊魔法のレベルは戦闘能力ではなく、感知しコミュニケーションを取れる技能の高さを表しているらしい。
数少ない精霊魔法の使い手はレベルが上がりにくいが、一度中級精霊や上級精霊に気に入られると一気に上がるとか。

なので、上級精霊に気に入られるかもしれない精霊魔法の使い手を片っ端から集めているらしい。
今は最初の段階なのでティナの言う通り使いっ走りの冒険者が使われているが、後々国からの正式要請として騎士や兵士が派遣される可能性も高い。

だが、王都だけは嫌だ。
逃げる際はオレが人の言う獣化を半分していたのと、小鳥遊は発狂し意識を失っていたので顔を見られていなかったから指名手配もされなかっため危険は少ないかもしれないが──。

単純に、行きたくない。行きたくない……!


「くそっ!」


行きたくないという感情と、降りかかる危険を考えれば大事になる前に素直に従った方が吉だ。
そんな事は頭の悪いオレでも分かる。


「──小鳥遊が、体調を崩したりしたら取り止めるからな。王都には──仲間の思い出がたくさんあって辛い場所でな」
「成る程……お察しします」
「大丈夫、大丈夫!私達は無理強いしないから!」


何がお察ししますだ、何が大丈夫だ。
何も知らないくせに……!

オレと小鳥遊は、一年ぶりに。
悪意と憎悪が蠢く王都に戻る事になった。

──小鳥遊だけでなく、オレの獣とやらも暴走しないか心配だな。
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