ディスペアー・ファンタジア

雅弌

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3話 精霊達との戯れ

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小林達が死んで、一年が経過した。
世界ではオリハルコンによって作られた聖剣が魔王と倒したと情報が広まり、魔物の被害こそ収まらないが一応の平和を手にしていた。
魔物の被害も、統率者がいなくなった事でそのうち収まるはずだと楽観的な者もいる。

安全圏にはない騎士や兵士の駐屯しないただの村や街の人々は楽観的にいられないので、冒険者や傭兵を雇うなりして身を守っていたが。
かく言うオレも冒険者に席を置いて、田舎村で依頼を受けてはたまに魔物退治をしたりして生計を立てている。

──小鳥遊の世話があるので冒険はしない冒険者だどもな。


「ほら小鳥遊、外の空気吸いにいこうな。たまには他の精霊とも話した方が良い」
「うん。えへへー、どんな子と友達になれるかなー?」


小鳥遊は、歩けなくなった。
全く歩けない、というワケではないので家の中の生活はなんとかこなせるが外を自由に出歩けない。
そのため外を移動する時はもっぱら車椅子に頼る。

それに幼児退行、というヤツだろうか。
子供のように無邪気で。難しい事を考えて生活ができなくなっていた。
最初の全く話せない。目が虚ろを向いている。いつ衰弱してもおかしくない。
そんな状況よりはよっぽどマシだが痛々しいにも程がある。

小鳥遊の髪はたまにオレが切ってやっているが、雑なせいでボサボサだ。
綺麗に洗ってやったりケアしてるつもりだけども女の子の髪の事はよく分からない。どうしても枝毛とかができてしまう。
茶髪だった髪も、今ではしっかりと黒に戻ってる。
セミロングで維持するようにしてはいるが──どうなんだろうな?


「あっち!あっちいこ!」
「分かった分かった」


小鳥遊が指を指した方向には森しかない。
まぁ村の外れにある一軒家を借りているので側は森だらけだけども。
村外れではあるが森の奧は崖とか山とか、モンスターや動物の入り込みにくい地形になっているので結構安全だ。

それに今の小鳥遊でも精霊魔法による索敵なんかは優秀で、たまにモンスターや人を襲う動物が出ても教えてくれる。
服装は白のワンピースだけなので、風邪をひかさないためにカーディガンも忘れない。


「ソースケは精霊とお話ししないの?」
「オレは精霊が見えないしなぁ……」
「けど精霊はソースケ優しいから好きって言ってるよ!」


小鳥遊は、精霊とオレとしか会話しなくなった。
人間の大人が怖いようで、子供とは何とか話ができなくもないが精霊が精霊がというので気味悪がられてしまう。

村の人達には旅先で仲間を失い自己喪失してしまったと伝えたのだが……。
この御時世、多くはないが少なくもない出来事のようで「大変だね、力になるよ」と言って受け入れてくれた。

正直、一時はこの世界の人間を全員殺してやる!と自分が魔王になりそうなくらい無差別に怨んだが優しい声をかけてくれる人もいる。
まともに動けない小鳥遊の世話に関しても女の子相手という事で困惑していたオレに助言してくれるオバサンがいたり、味は問題ないが形の悪い野菜をタダでくれるオジサンがいたり──。
そんな人達のおかげで、なんとか絶望しきれずに生きている。


とはいえ、オレにも小林達の事件にトラウマがないとは言えない。
兵士や騎士達だけでなく、冒険者でもしっかりと鎧を着こんだ男達を見ると息切れや動悸が収まらなくなる。
あと料理の味が分からなくなった。
激辛料理を食べればようやっと刺激を感じる事ができるので好むようになったが、間違えて小鳥遊が口にすると大騒ぎになる。
味が分からないせいで素朴すぎる味付けの料理ばかりになると小鳥遊が拗ねるのも面倒な所だ。



「ねぇ、この子!特にこの子がソースケと仲良くなりたいって!」
「え~?」


森の中の、広くなった場所に着くと小鳥遊が満面の笑みで水を掬うように両手を形作り何もない空間を見せつけてくる。
──本当に、何もない。
精霊魔法を使えないオレには見る事ができない。
それに──疑いたいワケじゃないが今の小鳥遊に本当に精霊が見えてるかも分からないのだ。


村の人や冒険者曰く精霊魔法を習得している人はかなり珍しいらしい。
ある程度の魔法や技能は鍛練等で習得できる可能性があるが、精霊を見て会話するのは才能やら感受性が必要との事。
そういえばクラスメートの中に小鳥遊以外で精霊魔法使えたのはいなかったな。
それを言うならオレの暗殺もだったが、他の奴等は必要なかっただけだし。


「もぅ!見ようとしてないでしょ!ちゃんとここにいるんだから見て!」
「んな事言われても……」
「言い訳しないで見るのー!!!」


無茶苦茶だ。
けども確かに──今まで見ようとしていなかったかもしれない。
自分には見えない物だからと最初から諦めていたのは確かだ。

けれど小鳥遊はここにオレを好いてくれている精霊がいるという。
精霊を見る事ができないオレをどうして好いてくれるのかは分からないが、好意を無駄にするのは良くないよな。

見える見えないは別として、見る努力くらいはしてやらないと──。


「あ──」


ふわふわ。
赤い、綿毛のような丸い球体が小鳥遊の手の上で浮いているのが見えた。
顔もある。
子供でも書けるような単純な線だけの目だけだが、ニコニコと微笑んで佇んでいる。

──何だ。
その気になればこんなあっさりと見えるものなのか。

脳内に『精霊魔法Lv0.1』という言葉が浮かぶ。
新たな能力を得たようで、0.1という微妙すぎる数値に苦笑い。


「あれ……?」


苦笑いだけれど、久々に笑った気がした。
精霊の無垢な笑顔に釣られたのだろうか。
それに──何だ、この感情。
笑ってるはずなのに、胸が苦しくなってくる。
久々の楽しい?ような感情に懐かしさとかを感じているのか、いろんな想いが胸を締め付けてくる。


「うぐっ……!?なん、だこれ……!?急に苦しく……!」
「あー!他の精霊達も認識できるならオレ達も認識しろー!ってソースケに集まってるー!」
「な、に……!?」


急に物理的にまで苦しくなってきた。
先程までは感情を制御できない感じの苦しみだったが突然、空気を圧縮したような……。
息苦しいような、船酔いしてるような、気持ち悪い感覚が押し寄せる。

小鳥遊曰く、精霊がオレに集まっているらしい。
ふざけんな、この調子じゃ窒息するだろうが!と周囲への意識を高めると──。


「こ、こんなにいたのか!?」


赤、青、黄色、紫──。
他にも色んな顔のついた綿毛のような連中が纏わりついているのに気がついた。
この瞬間、能力が高くなったのか『精霊魔法Lv0.5』という言葉が思い浮かぶ。

だから、なんだよさっきからその微妙な上がり方は!
どうやら精霊魔法Lv0.1は一部の精霊を認識できるもの。
0.5は会話もできず魔法としても行使もできないが下級の精霊なら認識できるという物らしいけれど、この状況の最中は冷静に判断できなかった。


「私もー!」
「あ、おい!」


小鳥遊が車椅子から飛び降りて飛び付いてくる。
精霊と小鳥遊に飛び付かれて地面に倒れこんでしまう始末。


「……ははっ!」
「あははー!」


小林達が亡くなって一年。
何も事態は良くなっていないが、ようやっと自分の中の何かが動き出したような気がする。

──しかし、動き出したのはオレ、蔵石
宗助だけではなかった事は今のオレには知るよしもなかった。
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