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第2章 猫にかつおぶし
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屋外に出た瞬間、目に飛び込んだ光景に、足が止まった。
厄日って本当にあるんだ。
と言うか、清水さんが厄そのもの。
次から次へと、よくもまあ。
逸登君とショップの軒下に並ぶ禍いの横顔を睨み付ける。
「消防士さんてモテんでしょ。猫ちゃんじゃなくてよくない?」
急いで出たところで、信じられない問いかけが耳に入った。
「綺麗だけど、無表情で扱いにくい」
私に気付いているのかいないのか、清水さんは意地悪を続ける。
私に背を向けている逸登君の様子が分からなくて、不安が冷や汗になって背を伝う。
想いを告げる前に、他人との会話を通して振られる可能性だってある。
邪魔しないで! 逸る気持ちが一歩を踏み出させた。
「同意しかねるね。彼女、よく笑うし困った顔もする。友だち想いで優しい子だよ。上品なのは思慮深いからでしょ」
逸登君がそんな風に見てくれてるなんて思っていなかった。
泣かないって決めたそばから目頭が熱くなる。
「へぇ」
意外だとも言いた気な清水さんが、細めた横目で私を見た。
揶揄うのは私だけで十分でしょ。
逸登君を巻き込まないで。
「お待たせ。遅くなってごめんなさい」
後ろから逸登君の片腕に飛び付くようにして左肩に額を寄せた。
ありがとうの気持ちを眉間からビームで送る。
「詩乃さん?」
訝しむ逸登君の目をビームで打ち抜いてから、努めて無表情に清水さんを見た。
「早かったね。秀治のヤツ早漏かよ」
女好きのする整った顔で下品な発言をする。
清水さんの魅力だって従業員は言うけれど、私はそうは思わない。
「何かとお気遣い頂いたようでありがとうございました」
「うじうじしてるくせに、猫ちゃんが体調不良だって言ったら速攻で来るんだもんね」
世話が焼ける二人だと、芝居がかった手ぶりを見せられてカチンとくる。
「今後一切私のプライベートには立ち入らないでください」
「やだな。同僚として、友人として当然のことをしたまで」
「……ホント、当然です。当然、構わないでください。私、自分の飼い主は自分で決めるので」
嫌味を全面的に押し出した。
清水さんのねちっこい視線が絡み付く。
悪戯だろうが悪意だろうが、全部まとめて対峙する。
絶対に、清水さんなんかに負けない。
「捨て猫が、拾われるとは限らない」
「おい」
挑戦的に嘲笑う清水さんの言葉に、逸登君が反応した。私は慌てて逸登君の腕を引く。
清水さんの意地悪を買っていたらキリがない。
それに、私が自分で解決すべき問題だ。
私にだって譲れないものがある。
逸登君が心配そうに私を伺うのが分かったから、大丈夫の意味を込めて静かに目を伏せた。
それから、ゆっくり口角を引き上げた。
「だったら私は野良でいい」
野良にだってプライドがある。餌付けてくれるのならば、誰でもいいわけじゃない。
二度と人選を間違えたりしない。
この人って決めたなら、野良は野良らしく、しぶとくしたたかに生き抜いてやる。
「さようなら」
「お疲れ様」でなくて「さようなら」。
秀治に置いてきたのと同じ言葉で、天敵に爪を立てた。
厄日って本当にあるんだ。
と言うか、清水さんが厄そのもの。
次から次へと、よくもまあ。
逸登君とショップの軒下に並ぶ禍いの横顔を睨み付ける。
「消防士さんてモテんでしょ。猫ちゃんじゃなくてよくない?」
急いで出たところで、信じられない問いかけが耳に入った。
「綺麗だけど、無表情で扱いにくい」
私に気付いているのかいないのか、清水さんは意地悪を続ける。
私に背を向けている逸登君の様子が分からなくて、不安が冷や汗になって背を伝う。
想いを告げる前に、他人との会話を通して振られる可能性だってある。
邪魔しないで! 逸る気持ちが一歩を踏み出させた。
「同意しかねるね。彼女、よく笑うし困った顔もする。友だち想いで優しい子だよ。上品なのは思慮深いからでしょ」
逸登君がそんな風に見てくれてるなんて思っていなかった。
泣かないって決めたそばから目頭が熱くなる。
「へぇ」
意外だとも言いた気な清水さんが、細めた横目で私を見た。
揶揄うのは私だけで十分でしょ。
逸登君を巻き込まないで。
「お待たせ。遅くなってごめんなさい」
後ろから逸登君の片腕に飛び付くようにして左肩に額を寄せた。
ありがとうの気持ちを眉間からビームで送る。
「詩乃さん?」
訝しむ逸登君の目をビームで打ち抜いてから、努めて無表情に清水さんを見た。
「早かったね。秀治のヤツ早漏かよ」
女好きのする整った顔で下品な発言をする。
清水さんの魅力だって従業員は言うけれど、私はそうは思わない。
「何かとお気遣い頂いたようでありがとうございました」
「うじうじしてるくせに、猫ちゃんが体調不良だって言ったら速攻で来るんだもんね」
世話が焼ける二人だと、芝居がかった手ぶりを見せられてカチンとくる。
「今後一切私のプライベートには立ち入らないでください」
「やだな。同僚として、友人として当然のことをしたまで」
「……ホント、当然です。当然、構わないでください。私、自分の飼い主は自分で決めるので」
嫌味を全面的に押し出した。
清水さんのねちっこい視線が絡み付く。
悪戯だろうが悪意だろうが、全部まとめて対峙する。
絶対に、清水さんなんかに負けない。
「捨て猫が、拾われるとは限らない」
「おい」
挑戦的に嘲笑う清水さんの言葉に、逸登君が反応した。私は慌てて逸登君の腕を引く。
清水さんの意地悪を買っていたらキリがない。
それに、私が自分で解決すべき問題だ。
私にだって譲れないものがある。
逸登君が心配そうに私を伺うのが分かったから、大丈夫の意味を込めて静かに目を伏せた。
それから、ゆっくり口角を引き上げた。
「だったら私は野良でいい」
野良にだってプライドがある。餌付けてくれるのならば、誰でもいいわけじゃない。
二度と人選を間違えたりしない。
この人って決めたなら、野良は野良らしく、しぶとくしたたかに生き抜いてやる。
「さようなら」
「お疲れ様」でなくて「さようなら」。
秀治に置いてきたのと同じ言葉で、天敵に爪を立てた。
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