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おまけ
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消防官の俺は職務の特異性から一般的な会社員と比べて休みが多い。
俺自身、気に入ってるライフルーティーンではあるけれど、一般会社員の恋人とはズレが生じるのはちと残念。とはいえ、詩乃さんもシフト制勤務だからまだマシだけどね。
詩乃さんはなるべく俺のシフトに合わせようとしてくれる。
それはそれはありがたーい彼女で、真面目で、優しくて、落ち着きがあって、賢くて、美人で、スラっとしたモデル体型で、センスがよくて、家庭的なところもある。他にも、艶やかなロングの黒髪で、つるすべお肌の持ち主で、喉をころころ鳴らすようにして笑うとこだとか、たまにシャイな一面を見せるところだとか、それはもう最強にかわいくて、あれもこれもそれもどれもめちゃくちゃ魅力的。要するに世界一最高な彼女だったりする。
で、そんな詩乃さんとすれ違うこと早数か月。
俺は現在進行形で忍耐の日々を送っている。
理由は単純で、都合があわないだけ。
近頃の詩乃さんはアロマセラピスト資格取得のため、仕事の後はもちろん休憩時間や休日も勉強に費やしている。
本人の勤め先がアロマ関係のスクールだから、うまいこと組み合わせて受講しているらしい。詩乃さんが頑張っているのも、彼女の仕事に直結するからだ。一時は自身の方向性に悩んでいた彼女が目標を立てて真剣に取り組んでいる。
だから俺も全力で応援する。
けれど会えないのは不満。
正直、不満どころじゃない。
少しの空き時間をすり合わせようとすると「無理しないで休んで」って言われてしまう。確かに俺の仕事は体が資本だけれど、少しの時間を割いたからってどうにかなるほどヤワじゃない。
詩乃さんとの時間が削られる方が大問題。どうもそれがうまく伝わらない。
詩乃さんが目指す資格試験は複数あって、かなりタイトなスケジュールで挑んでいる。
なんでも「やる気になった内に全部終わらせたい」んだとか。わからんでもないけど、ごめん、こう会えない日が続くと「いうて民間資格なんだから」ってやさぐれちまう。
長期スパンでゆったり構えていいはず。一年に一個ずつだとか数年かけても構わないと思っている。実際、そうする人の方が多いって聞いた。
愚痴っぽくなるは、昨日ひとつ受験したところなのに、数日後また別の試験があるとか言われたもんだからっ。
しかも!
受験の日、俺は夜勤明けだから帰宅後ちゃんと休息を取った上で迎えに行けるというのにだ、
「夕方には終わるからひとりで平気だよ」
なーんて喉を鳴らして、電話口の笑い声が心地よくて、、、ってそうじゃない。
さすがに俺もちょっと強気で出た。
食い下がったら呆れられて終わった。
なんだかなー。
俺ばっか一緒に居たいみたいで、詩乃さんはそうでもないんだなーとか考えちゃう。
これでも邪魔にならないように意識して連絡してる。電話もメッセージも頻度を減らしてさ。それもつらさが増すけど、鬱陶しがられるのは絶対避けたいからしゃーなし。
勤務直前、こうしてスマホを確認しても詩乃さんからの連絡はなし。俺、これから丸一日はスマホ見られないんだわ。
ロッカーに向かって重い溜息をこぼす。
「うぇぃ。おつかれぃっ」
落とした肩をはじいたのは同期のムラで、その横には後輩の健二がいる。このタイミングでチャラ男とバカのコンビに出くわすだなんて最悪だ。
「穏やかキングな逸登が溜息とは珍しい」
「登場早々絡むな」
「いっくん先輩が落ち込むなんてしのりん絡み?」
バカ健次。お前がしのりん言うな。そう呼んでいいのはお前の姉ちゃんだけだ。
ムラは俺と詩乃さんが出会った合コンに居合わせたし、健次は幹事だったのだからタチが悪い。
ふたりの「はっは~ん」というしたり顔が超絶ムカつく。
「おい、健次。男爵様へ黒髪ロングスレンダー美女モノ」
「承知!」
ムラの指示で健が一瞬で送り付けてきたのは、指示に寸分も違わぬセクシー女優が主演の作品ページ。
「おい。出すの早くね?」
「や、やっだなー、いっくん先輩。俺レベルの動画ソムリエならこれぐらい当たり前っすよ」
健次の怪しすぎる挙動に、俺は作り笑いを向けた。
「あー、今日は平和な一日になりそうよな。自主トレはかどるなー。な?」
俺の予言は当ると署内で定評がある。
「おっ。今日は逸登が指導係か。こいつら気合入れ直してやって」
「ぅぁ最悪」
ムラは我関せずの姿勢を貫き、健二は露骨に顔を顰めた。というのも、チームは違えど訓練は合同である。有事はないに越したことはないが、若い連中は待機中の地味な訓練を嫌がる。
「有り余る自家発電エネルギーは有効活用しねぇとな」
「発散済みですって」
手加減してと拝まれても知ったこっちゃないね。
体作りは基本中の基本。後輩まとめて俺のストレス解消につき合わせることに決めた。
俺自身、気に入ってるライフルーティーンではあるけれど、一般会社員の恋人とはズレが生じるのはちと残念。とはいえ、詩乃さんもシフト制勤務だからまだマシだけどね。
詩乃さんはなるべく俺のシフトに合わせようとしてくれる。
それはそれはありがたーい彼女で、真面目で、優しくて、落ち着きがあって、賢くて、美人で、スラっとしたモデル体型で、センスがよくて、家庭的なところもある。他にも、艶やかなロングの黒髪で、つるすべお肌の持ち主で、喉をころころ鳴らすようにして笑うとこだとか、たまにシャイな一面を見せるところだとか、それはもう最強にかわいくて、あれもこれもそれもどれもめちゃくちゃ魅力的。要するに世界一最高な彼女だったりする。
で、そんな詩乃さんとすれ違うこと早数か月。
俺は現在進行形で忍耐の日々を送っている。
理由は単純で、都合があわないだけ。
近頃の詩乃さんはアロマセラピスト資格取得のため、仕事の後はもちろん休憩時間や休日も勉強に費やしている。
本人の勤め先がアロマ関係のスクールだから、うまいこと組み合わせて受講しているらしい。詩乃さんが頑張っているのも、彼女の仕事に直結するからだ。一時は自身の方向性に悩んでいた彼女が目標を立てて真剣に取り組んでいる。
だから俺も全力で応援する。
けれど会えないのは不満。
正直、不満どころじゃない。
少しの空き時間をすり合わせようとすると「無理しないで休んで」って言われてしまう。確かに俺の仕事は体が資本だけれど、少しの時間を割いたからってどうにかなるほどヤワじゃない。
詩乃さんとの時間が削られる方が大問題。どうもそれがうまく伝わらない。
詩乃さんが目指す資格試験は複数あって、かなりタイトなスケジュールで挑んでいる。
なんでも「やる気になった内に全部終わらせたい」んだとか。わからんでもないけど、ごめん、こう会えない日が続くと「いうて民間資格なんだから」ってやさぐれちまう。
長期スパンでゆったり構えていいはず。一年に一個ずつだとか数年かけても構わないと思っている。実際、そうする人の方が多いって聞いた。
愚痴っぽくなるは、昨日ひとつ受験したところなのに、数日後また別の試験があるとか言われたもんだからっ。
しかも!
受験の日、俺は夜勤明けだから帰宅後ちゃんと休息を取った上で迎えに行けるというのにだ、
「夕方には終わるからひとりで平気だよ」
なーんて喉を鳴らして、電話口の笑い声が心地よくて、、、ってそうじゃない。
さすがに俺もちょっと強気で出た。
食い下がったら呆れられて終わった。
なんだかなー。
俺ばっか一緒に居たいみたいで、詩乃さんはそうでもないんだなーとか考えちゃう。
これでも邪魔にならないように意識して連絡してる。電話もメッセージも頻度を減らしてさ。それもつらさが増すけど、鬱陶しがられるのは絶対避けたいからしゃーなし。
勤務直前、こうしてスマホを確認しても詩乃さんからの連絡はなし。俺、これから丸一日はスマホ見られないんだわ。
ロッカーに向かって重い溜息をこぼす。
「うぇぃ。おつかれぃっ」
落とした肩をはじいたのは同期のムラで、その横には後輩の健二がいる。このタイミングでチャラ男とバカのコンビに出くわすだなんて最悪だ。
「穏やかキングな逸登が溜息とは珍しい」
「登場早々絡むな」
「いっくん先輩が落ち込むなんてしのりん絡み?」
バカ健次。お前がしのりん言うな。そう呼んでいいのはお前の姉ちゃんだけだ。
ムラは俺と詩乃さんが出会った合コンに居合わせたし、健次は幹事だったのだからタチが悪い。
ふたりの「はっは~ん」というしたり顔が超絶ムカつく。
「おい、健次。男爵様へ黒髪ロングスレンダー美女モノ」
「承知!」
ムラの指示で健が一瞬で送り付けてきたのは、指示に寸分も違わぬセクシー女優が主演の作品ページ。
「おい。出すの早くね?」
「や、やっだなー、いっくん先輩。俺レベルの動画ソムリエならこれぐらい当たり前っすよ」
健次の怪しすぎる挙動に、俺は作り笑いを向けた。
「あー、今日は平和な一日になりそうよな。自主トレはかどるなー。な?」
俺の予言は当ると署内で定評がある。
「おっ。今日は逸登が指導係か。こいつら気合入れ直してやって」
「ぅぁ最悪」
ムラは我関せずの姿勢を貫き、健二は露骨に顔を顰めた。というのも、チームは違えど訓練は合同である。有事はないに越したことはないが、若い連中は待機中の地味な訓練を嫌がる。
「有り余る自家発電エネルギーは有効活用しねぇとな」
「発散済みですって」
手加減してと拝まれても知ったこっちゃないね。
体作りは基本中の基本。後輩まとめて俺のストレス解消につき合わせることに決めた。
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