22 / 31
おまけ
1-1
しおりを挟む
消防官の俺は職務の特異性から一般的な会社員と比べて休みが多い。
俺自身、気に入ってるライフルーティーンではあるけれど、一般会社員の恋人とはズレが生じるのはちと残念。とはいえ、詩乃さんもシフト制勤務だからまだマシだけどね。
詩乃さんはなるべく俺のシフトに合わせようとしてくれる。
それはそれはありがたーい彼女で、真面目で、優しくて、落ち着きがあって、賢くて、美人で、スラっとしたモデル体型で、センスがよくて、家庭的なところもある。他にも、艶やかなロングの黒髪で、つるすべお肌の持ち主で、喉をころころ鳴らすようにして笑うとこだとか、たまにシャイな一面を見せるところだとか、それはもう最強にかわいくて、あれもこれもそれもどれもめちゃくちゃ魅力的。要するに世界一最高な彼女だったりする。
で、そんな詩乃さんとすれ違うこと早数か月。
俺は現在進行形で忍耐の日々を送っている。
理由は単純で、都合があわないだけ。
近頃の詩乃さんはアロマセラピスト資格取得のため、仕事の後はもちろん休憩時間や休日も勉強に費やしている。
本人の勤め先がアロマ関係のスクールだから、うまいこと組み合わせて受講しているらしい。詩乃さんが頑張っているのも、彼女の仕事に直結するからだ。一時は自身の方向性に悩んでいた彼女が目標を立てて真剣に取り組んでいる。
だから俺も全力で応援する。
けれど会えないのは不満。
正直、不満どころじゃない。
少しの空き時間をすり合わせようとすると「無理しないで休んで」って言われてしまう。確かに俺の仕事は体が資本だけれど、少しの時間を割いたからってどうにかなるほどヤワじゃない。
詩乃さんとの時間が削られる方が大問題。どうもそれがうまく伝わらない。
詩乃さんが目指す資格試験は複数あって、かなりタイトなスケジュールで挑んでいる。
なんでも「やる気になった内に全部終わらせたい」んだとか。わからんでもないけど、ごめん、こう会えない日が続くと「いうて民間資格なんだから」ってやさぐれちまう。
長期スパンでゆったり構えていいはず。一年に一個ずつだとか数年かけても構わないと思っている。実際、そうする人の方が多いって聞いた。
愚痴っぽくなるは、昨日ひとつ受験したところなのに、数日後また別の試験があるとか言われたもんだからっ。
しかも!
受験の日、俺は夜勤明けだから帰宅後ちゃんと休息を取った上で迎えに行けるというのにだ、
「夕方には終わるからひとりで平気だよ」
なーんて喉を鳴らして、電話口の笑い声が心地よくて、、、ってそうじゃない。
さすがに俺もちょっと強気で出た。
食い下がったら呆れられて終わった。
なんだかなー。
俺ばっか一緒に居たいみたいで、詩乃さんはそうでもないんだなーとか考えちゃう。
これでも邪魔にならないように意識して連絡してる。電話もメッセージも頻度を減らしてさ。それもつらさが増すけど、鬱陶しがられるのは絶対避けたいからしゃーなし。
勤務直前、こうしてスマホを確認しても詩乃さんからの連絡はなし。俺、これから丸一日はスマホ見られないんだわ。
ロッカーに向かって重い溜息をこぼす。
「うぇぃ。おつかれぃっ」
落とした肩をはじいたのは同期のムラで、その横には後輩の健二がいる。このタイミングでチャラ男とバカのコンビに出くわすだなんて最悪だ。
「穏やかキングな逸登が溜息とは珍しい」
「登場早々絡むな」
「いっくん先輩が落ち込むなんてしのりん絡み?」
バカ健次。お前がしのりん言うな。そう呼んでいいのはお前の姉ちゃんだけだ。
ムラは俺と詩乃さんが出会った合コンに居合わせたし、健次は幹事だったのだからタチが悪い。
ふたりの「はっは~ん」というしたり顔が超絶ムカつく。
「おい、健次。男爵様へ黒髪ロングスレンダー美女モノ」
「承知!」
ムラの指示で健が一瞬で送り付けてきたのは、指示に寸分も違わぬセクシー女優が主演の作品ページ。
「おい。出すの早くね?」
「や、やっだなー、いっくん先輩。俺レベルの動画ソムリエならこれぐらい当たり前っすよ」
健次の怪しすぎる挙動に、俺は作り笑いを向けた。
「あー、今日は平和な一日になりそうよな。自主トレはかどるなー。な?」
俺の予言は当ると署内で定評がある。
「おっ。今日は逸登が指導係か。こいつら気合入れ直してやって」
「ぅぁ最悪」
ムラは我関せずの姿勢を貫き、健二は露骨に顔を顰めた。というのも、チームは違えど訓練は合同である。有事はないに越したことはないが、若い連中は待機中の地味な訓練を嫌がる。
「有り余る自家発電エネルギーは有効活用しねぇとな」
「発散済みですって」
手加減してと拝まれても知ったこっちゃないね。
体作りは基本中の基本。後輩まとめて俺のストレス解消につき合わせることに決めた。
俺自身、気に入ってるライフルーティーンではあるけれど、一般会社員の恋人とはズレが生じるのはちと残念。とはいえ、詩乃さんもシフト制勤務だからまだマシだけどね。
詩乃さんはなるべく俺のシフトに合わせようとしてくれる。
それはそれはありがたーい彼女で、真面目で、優しくて、落ち着きがあって、賢くて、美人で、スラっとしたモデル体型で、センスがよくて、家庭的なところもある。他にも、艶やかなロングの黒髪で、つるすべお肌の持ち主で、喉をころころ鳴らすようにして笑うとこだとか、たまにシャイな一面を見せるところだとか、それはもう最強にかわいくて、あれもこれもそれもどれもめちゃくちゃ魅力的。要するに世界一最高な彼女だったりする。
で、そんな詩乃さんとすれ違うこと早数か月。
俺は現在進行形で忍耐の日々を送っている。
理由は単純で、都合があわないだけ。
近頃の詩乃さんはアロマセラピスト資格取得のため、仕事の後はもちろん休憩時間や休日も勉強に費やしている。
本人の勤め先がアロマ関係のスクールだから、うまいこと組み合わせて受講しているらしい。詩乃さんが頑張っているのも、彼女の仕事に直結するからだ。一時は自身の方向性に悩んでいた彼女が目標を立てて真剣に取り組んでいる。
だから俺も全力で応援する。
けれど会えないのは不満。
正直、不満どころじゃない。
少しの空き時間をすり合わせようとすると「無理しないで休んで」って言われてしまう。確かに俺の仕事は体が資本だけれど、少しの時間を割いたからってどうにかなるほどヤワじゃない。
詩乃さんとの時間が削られる方が大問題。どうもそれがうまく伝わらない。
詩乃さんが目指す資格試験は複数あって、かなりタイトなスケジュールで挑んでいる。
なんでも「やる気になった内に全部終わらせたい」んだとか。わからんでもないけど、ごめん、こう会えない日が続くと「いうて民間資格なんだから」ってやさぐれちまう。
長期スパンでゆったり構えていいはず。一年に一個ずつだとか数年かけても構わないと思っている。実際、そうする人の方が多いって聞いた。
愚痴っぽくなるは、昨日ひとつ受験したところなのに、数日後また別の試験があるとか言われたもんだからっ。
しかも!
受験の日、俺は夜勤明けだから帰宅後ちゃんと休息を取った上で迎えに行けるというのにだ、
「夕方には終わるからひとりで平気だよ」
なーんて喉を鳴らして、電話口の笑い声が心地よくて、、、ってそうじゃない。
さすがに俺もちょっと強気で出た。
食い下がったら呆れられて終わった。
なんだかなー。
俺ばっか一緒に居たいみたいで、詩乃さんはそうでもないんだなーとか考えちゃう。
これでも邪魔にならないように意識して連絡してる。電話もメッセージも頻度を減らしてさ。それもつらさが増すけど、鬱陶しがられるのは絶対避けたいからしゃーなし。
勤務直前、こうしてスマホを確認しても詩乃さんからの連絡はなし。俺、これから丸一日はスマホ見られないんだわ。
ロッカーに向かって重い溜息をこぼす。
「うぇぃ。おつかれぃっ」
落とした肩をはじいたのは同期のムラで、その横には後輩の健二がいる。このタイミングでチャラ男とバカのコンビに出くわすだなんて最悪だ。
「穏やかキングな逸登が溜息とは珍しい」
「登場早々絡むな」
「いっくん先輩が落ち込むなんてしのりん絡み?」
バカ健次。お前がしのりん言うな。そう呼んでいいのはお前の姉ちゃんだけだ。
ムラは俺と詩乃さんが出会った合コンに居合わせたし、健次は幹事だったのだからタチが悪い。
ふたりの「はっは~ん」というしたり顔が超絶ムカつく。
「おい、健次。男爵様へ黒髪ロングスレンダー美女モノ」
「承知!」
ムラの指示で健が一瞬で送り付けてきたのは、指示に寸分も違わぬセクシー女優が主演の作品ページ。
「おい。出すの早くね?」
「や、やっだなー、いっくん先輩。俺レベルの動画ソムリエならこれぐらい当たり前っすよ」
健次の怪しすぎる挙動に、俺は作り笑いを向けた。
「あー、今日は平和な一日になりそうよな。自主トレはかどるなー。な?」
俺の予言は当ると署内で定評がある。
「おっ。今日は逸登が指導係か。こいつら気合入れ直してやって」
「ぅぁ最悪」
ムラは我関せずの姿勢を貫き、健二は露骨に顔を顰めた。というのも、チームは違えど訓練は合同である。有事はないに越したことはないが、若い連中は待機中の地味な訓練を嫌がる。
「有り余る自家発電エネルギーは有効活用しねぇとな」
「発散済みですって」
手加減してと拝まれても知ったこっちゃないね。
体作りは基本中の基本。後輩まとめて俺のストレス解消につき合わせることに決めた。
1
あなたにおすすめの小説
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
円山ひより
恋愛
湯沢蕗(ユザワ フキ) 28歳
スターブルー・ライト航空株式会社 グランドスタッフ
×
向琉生(ムカイ ルイ) 32歳
スターブルー航空株式会社 副操縦士
「ーーじゃあ、俺と結婚しようか」
さらりと言われた言葉。
躊躇いのないプロポーズが私の心を乱す。
「大切にすると約束する」
指先に落とされた、彼の薄い唇の感触に胸が詰まった。
私は祖母の遺言に則って実家のカフェを守るため、あなたは広報動画出演の影響による数々の迷惑行為対策と縁談よけに。
お互いの利益のための契約結婚。
『――もう十分がんばっているでしょう』
名前も知らない、三年前に偶然出会った男性。
孤独と不安、さみしさ、負の感情に押しつぶされそうになっていた私を救ってくれたーーきっと、訓練生。
あの男性があなたであるはずがないのに。
どうして、同じ言葉を口にするの?
名前を呼ぶ声に。
触れる指先に。
伝わる体温に。
心が壊れそうな音を立てる。
……この想いを、どう表現していいのかわからない。
☆★☆★☆★☆
こちらの作品は他サイト様でも投稿しております。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました
せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~
救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。
どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。
乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。
受け取ろうとすると邪魔だと言われる。
そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。
医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。
最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇
作品はフィクションです。
本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる