カナリアを食べた猫

端本 やこ

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おまけ

1-2

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 署員のムキムキ度が向上するとともに、俺に届けられる動画が増えた。大体が黒髪ロングスレンダー美女モノで、素人ものから家庭教師モノや秘書モノにまで広がりを見せる。
 健次からだけに限らずで、、、後輩たちに妙な流行りを感じるのが若干気になる。上納品だとか捧げものだとかって送り付けられてくるそれらを、まぁ一応? 俺もチェックするんだけど、これはこれってやつ。本物の詩乃さんが醸す色気に勝るものなし。
 詩乃さんの代わりになんてなるわけがない。

 試験の合間に押し切って、ようやく会えた詩乃さんは顔が青かった。根を詰めすぎなのと生理が重なってほとんど白かった。押し切った俺が悪かった。申し訳なさと心配で世話をせずにいられなかった。
 詩乃さんは「ごめんね」と「ありがとう」を繰り返して、痛くないから大丈夫だと言う。真っ白な顔で言われてもって感じだった。痛くなくても貧血なのは目に見えていて、それでも俺に気を使って。そう。反対に気を遣わせてしまった。
 今考えても正解がわからない。
 彼女の生理周期は正常とは言い難いけれど、以前に比べたら周期が確立されつつあるらしい。喜ばしい反面、手を出せない辛さが募る。
 行き場を失くした俺の欲がちょっとだけ可哀相だったりする。
 俺の隠した気持ちに気付いてか、詩乃さんは「逸登君のおかげだよ」って微笑む。女神のほほ笑み。「はぁ~綺麗」ってなる。会えっず抱かずだったんだから、俺のおかげなわけないのにさ。好き。めっちゃ好き。
 ああ。平常の詩乃さんに会いたい。
 こんなとき休みの多い仕事が仇に感ずるってもんだ。
 上納品の世話になりつつ日常を過ごす。

***

 夜勤明け、疲れをお供にロッカーを開ける。久しぶりに忙しい夜になってしまった。事案の数だけ報告書の類も増えた。
 こんな日は特に詩乃さんを欲するというもんだ。
 ロッカーを開けてすぐスマホのチェックがクセになってしまった。
 詩乃さんは始業した頃だ……というのにメッセージを期待してしまう。
 着信ランプ点滅してる!

〈今日もお仕事お疲れ様でした。私はこれから最終試験です〉

 は?
 うそ?
 もう最終試験?
 俺が聞いていた予定よりずっと早い。つーか、これ来たのいつよ。
 あああ。残業がなければ試験直前の詩乃さんに頑張れぐらい言えたはずなのに。くっそ。
 しかも「受験前倒しに伴い出勤シフトに変更あり」だと⁉
 明後日休みの予定が明日から4連勤に変わったの、ってありえん。
 俺を殺す気か。
 受験勉強の寝不足で顔も部屋も酷い状況みたいなことがやんわ~り書いてあるのは、我慢限界の俺が職場まで迎えに行こうと企んでいるのがバレている。だってこれ、要するに次の休みまで会いませんってことやろ。
 逸登君はゆっくり休んでね。じゃなくて!

「うぇぃ。おつかれぃっ」

 チャラバカコンビが出てくんじゃねぇわ。

「うおっ。いっくん先輩それどういう感情?」
「喜怒哀楽をいっぺんに噛みしめてますって感じやな」

 俺の顔を見たバカとチャラ男がドン引きした。
 鬱陶しいけどムラの表現ままの俺は返す言葉がない。無言で荷物をまとめて職場を出た。
 試験って何時に終わるんや?
 夕方電話してみよう。
 頭ん中を詩乃さんでいっぱいにして、帰宅して片付けを終わらせた。
 一本の電話にほとんど命がけって人生初だし童貞かって感じでダサい。ダサいけど待ち遠しくてたまらない。
 ふぅ。
 寝るか。
 夕方まで寝たほうがいいな、うん。
 ……と思いつつソムリエ健次からの上納品を開けてみる。けど、ダメだった。俺の健康体はそこそこ反応するものの、頭が、気分が、気持ちがダメだ。
 スマホを置いて、ビーズクッションに持ち替える。ネットショップで見つけた黒猫だ。ぬいぐるみでもクッション機能が兼ね備えられているから言い訳が立つような気がしてポチッた。

「おまえもっちもちでかわいいなー」

 買って正解だった。ベッドに転がって黒猫の両耳を揉む。手触りよし。
 アーモンド形の目が俺をみつめてくる。詩乃さんの目を思い出させる。詩乃さんの髪みたいな艶のある黒も気に入ってる。
 
「詩乃さんのほうがかわいいけどな!」

 詩乃さんがこいつを抱いた姿を想像してみる。やば。寝れんくなる。
 黒猫クッションを隠すように頭の下に置いて枕にした。
 これでよし。
 ビーズにむぎゅっと包み込まれてしばらく、ようやく眠気を覚えた。
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