カナリアを食べた猫

端本 やこ

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おまけ

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 夕方、俺のラブコールは彼女に届かなかった。
 夜、詩乃さんからの返信にはワンコールで出た。実際にはワンコールも待たせなかった。

『ぇ』

 引かれたっぽい。けど、詩乃さんは直ぐに喉をころころと鳴らす。
 あああああ。これ、これが聞きたかったの。俺は。

『電話遅くなってごめんね』
「うん。ダイジョウブ」

 なわけない。
 だけど「よかった」という詩乃さんの声がとんでもなく耳に気持ちがよくて拗ねた気持ちも萎える。ずっと聞いていたい。ラジオ配信してくんねーかな。俺専用で。わりとマジで。

『逸登君なんか元気ない? お疲れ? まさか体調崩してるとか』

 あああ。心配してくれてるー。声だけなのに気付いてくれるー。
 結婚しよ。

「しっかり寝て体調は万全」
『ならいいんだけど』
「けど詩乃さんに会えなくて重症」
『まぁたそういうこと言って』
「深刻。大問題。もう無理。瀕死」

 冗談にとる詩乃さんに本気で返す。詩乃さんが困惑した溜息を漏らした。

『ごめんね。ずっと私の予定に合わせてもらっちゃって』

 謝らせたいわけじゃない。詩乃さんの努力は知っているつもりで、応援する気持ちがあるのも本当。ただ、、、ただ、何と言えば正しく伝わるんかね。

「最終試験どうだった?」
『微妙。キャンセル空きが出たから受けないかって連絡もらって急遽だったから、全項目カバーしきれてなかった』

 社員特権というやつらしい。アロマセラピストにも色々あるらしく、詳しくわかんないけれど、詩乃さんはそこそこ上級資格に挑んだはずだ。

「無理しなくてもよかったんじゃないの?」

 思わず本音が。

「んー。そうなんだけど、のんびりしちゃうと勉強期間が伸びるでしょう。会えない期間が長びくのもやだなーって」

 んぐぅ。
 ごめんなさい。
 詩乃さんの仕事に入り込める隙間がないとか思っててごめん。俺ばっかり好きみたいとか思っててごめん。いや、たぶん俺の愛の方が大きいのは間違いないだろうけど。

「でも今日で終わりなんだよね?」
「合格してたらね」
「まだ次目指すの?」
「今のところは考えてないよ。私には専門性が高すぎる」

 一安心。
 そうだよ。必要性に応じてまた頑張ればいいんだよ。
 合格発表まで一か月ぐらいつっても、もうやることないじゃんね。

「だったら明日」
「それでね」

 それぞれが発した言葉が見事に重なった。「あっ」ってなって、互いに黙り込む。先を譲ったわけじゃないんだけど「ふふっ」って笑う詩乃さんの音を愛する俺が出遅れた。

「それで、次の私の休みの日、うちに来ませんか」
「行く。行きます。絶対行きます。死んでも行く!」

 即答。

「明日も行きます」
「明日はダメです。まだ準備できてない」

 ん? 準備なんていらんぞ。
 掃除してないって話なら、俺も手伝う。むしろ俺が掃除する。

「実家から魚貝の仕送りがくるの。せっかくだから逸登君に食べてもらいたくて」
「マジですか」
「マジです。あ、もし苦手だったら」
「苦手ない。全部好き。全部食べる」

 あまりに魅力的なお誘いに俺の語彙力がぶっ飛んだ。

「詩乃さん、それ、休みの前日ってのはダメ?」

 職場まで迎えに行きます。料理も手伝います。なんだってします。
 呆れられてかまわない。5日後ってのは遠すぎるので何卒。

「……わかった。頑張って用意するね」
「やった! あと、泊まっていい?」

 女子ばりにお泊りセット持ってくから~。
 お願い詩乃様。うんって言って。

「いいよ。用意しておくものある?」
「ないない!」

 はぁ~よかった。
 嬉しさで死にそうだけど、楽しみすぎて死んでられんっ。これであと4日間なんとか生きていける。
 職業柄、いちおう外泊時は申請必須なこともあって、いつもは詩乃さんがうちにきてくれる。詩乃さんの部屋でずっと過ごしたのは彼女の月経ん時ぐらい。
 我慢した甲斐があった。
 俺の我慢が報われる。
 4日後、詩乃さんと詩乃さんの手料理が待っている。
 最高かよ。
 うん最高だな。

 そこから後の会話はずっとにやけていた。
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